2025/12/04 のログ
■魔王ニルヴァローグ >
やがて凌辱の宴が凄惨極まる頃。
それを眺めるのも飽きたと視線を離して、黒肌の魔法はその場から闇に溶けるかに掻き消えた。
ご案内:「タナール砦」から魔王ニルヴァローグさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」に魔王ニルヴァローグさんが現れました。
■魔王ニルヴァローグ >
明け方に王国軍が敗走し、魔物や魔族に支配された砦。
しかしその様相は、軍が再度砦を攻めるよりも前に変貌しつつあった。
──再び現れた黒肌の魔王が、今度は魔物と魔族を蹂躙しはじめたために。
「ただデカいだけでは、やはりつまらんな」
小鳥が囀るかのような可愛げのある少女の声が、傲慢に満ちた言葉を奏でる。
一匹の、恐らく他の個体に比べ大柄なミノタウロス。
迷宮の奥などにもいる、屈強な体躯を持つ大型の魔獣である。
「言の葉を紡げぬ者がこれほど飽きが来るとは、な」
浮遊する魔王の足元。
その鈍器めいた肉槍をぐりぐりと足蹴にされている魔獣の四肢は無惨にねじ折られ、
肩や膝、肘といった関節部を魔王の魔法と思われる深紅の槍が貫き、石畳にその巨体を縫い止められていた。
■魔王ニルヴァローグ >
良く見れば辺りにはオークやオーガ、果てには大型のゴブリン戦士やトロルに至るまで。
多くの魔物や魔獣がそのミノタウロスと同じような状態にされ、その場に雄臭い据えた匂いが漂っている。
「やはり特殊個体でもない限りはこの程度か。…期待外れが過ぎる」
野太い陰茎の下に備わる、人間の頭ほどもあろう睾丸を踏み潰せばミノタウロスの断末魔めいた咆哮が響き渡る。
──ほんの十数分程まえまで、己の腹をひしゃげさせる程の巨大さで多少なり楽しめていたモノ。
そんなモノすら、興味が失せればただの不要な玩具。足蹴にし、蹂躙し、潰してしまう。
それが味方であれ、敵であれ、己の手駒であってすらも同じこと。
退屈の払拭、というこの魔王の最優先される行動指針には触れるべくもない。
「……しかし人間も砦を奪い返しに来る様子がないな?」
たった一人で砦を壊滅させた少女を警戒しているのか。
それとも、過去の文献にでも齧りつき、その正体を推測し対策を練っているのか──。
■魔王ニルヴァローグ >
魔王の腹を貫き穿ち、変形させるにいたった剛槍も無惨に折られ、
無尽に放たれた精も全て魔王の胎に喰われ、子種もすれべ喰らわれ。
無惨な雄の姿を晒す牛頭鬼には最早一瞥もくれず。
黒肌の魔王は砦の中を歩む──ではなく、地面から少し上を浮遊するようにして人間の国側の国境線へと向かう。
そこには、己の知る限り最も忌まわしきものが、まだ在る筈である。
──そこには一見して何も見えるものはない。しかし魔王が僅かにその眉を寄せ、手を伸ばせば。
ばちり。
弾かれるようにして魔力が霧散し、青白い閃光の如くに火花が散る。
「…既に去った神が。見窄らしい執着にも程がある」
螺旋光輝く瞳を細め、遥かな景色…王国の領土を睨む。
魔族や魔物の力を大きく抑制する旧神…アイオーンの加護。
それはマグメール王国の領土そのものに残され、今も尚王国を魔族や魔王の手から守護している。
■魔王ニルヴァローグ >
並の魔族程度であれば力を抑えられる程度で済むのだろう。
しかしその存在そのものが神の冒涜、その化身たるこの魔王にとってはその限りではない。
火花を散らした魔王の腕はやがて白炎と共に燃え上がり、その存在を浄化しようとする。
「しかしかつての時代よりは、弱ったか。
いずれその全てが潰えた時こそ、我がその土地すらをも侵略する時だ」
加護の影響する範囲から腕を戻し、浄化の焔を振り払う。
──今はまだ、内部へと草を放ち混沌を招かせるのみに留めよう。しかして、その加護は絶対ではなく、永劫でもない。
それに対して、その冒涜の化身たる魔王は、永劫を手にしていた。
───加護の健在を確認した黒肌の魔王は砦の中へと戻る。
砦の中は己の蹂躙した魔族や魔物達が未だその痕跡として残っている。
そんな中、意識のはっきりしていそうな一匹のオーガへと歩み寄る。
「…貴様は誰の指揮で動いている?」
「そのような装備を調度するのは、貴様程度の頭では到底足りまい。──吐け。」
──しかしそのオーガは人語を解さないのか、ただ唸り声をあげるのみ。
魔王は眉を顰め、容赦なくその頭を踏み潰した。
「……」
「やはり言葉も解せぬ矮小な脳では、文字通り話にもならんな」
■魔王ニルヴァローグ >
──この時代にも、この砦を人間と奪い合っている魔物、魔族の陣営はどうやらいるらしい。
それが何処ぞの魔王の軍勢か、人間を襲撃するために自然と生まれた集団かは解らないが。
「…まぁよいか」
「邪魔になるならば、魔王を名乗ろうが浪人であろうが、踏み潰すだけだ」
己以外の全ては、例え魔王を名乗ろうが魔神であろうが、ひれ伏すべき存在であるという自負心。
傍若無人なる黒肌の魔王は無惨な姿となり息絶えたオーガを尻目に、砦の中を闊歩する。
中には逃げ送れ、魔物によって凌辱を受けていた人間が、その魔王のおかげで魔物が逃げ出し助かったといったものもいたらしい。
こそこそと、ネズミのように逃げおおせる人影がいくつか見られた。
「………」
ああいった手合を追い回してやっても良いが、どうせ人間はすぐに壊れる。
己の刺激となれるような人間など、余程の名つきでもなければありえないだろう、故に──彼らは助かった。
■魔王ニルヴァローグ >
……しかしやはり幾らかの手駒は欲しい。
己の城とその領域には多少なりと、執着はある。
そしてこうして手ずから砦を落とすのも良いが、配下に襲わせその様子を眺めるのは、別種の愉しみがある。
「……魔王、魔軍、魔将。
まぁ、今の世にも幾らもおろうな」
一つ、一つ…。
侵略し、平服させ…我がものとしてしまうのも悪くはない。
そんな野望とも言えぬような展望を、戦場たる砦の中央で思案に耽る。
それも、目を見張る程に強力な者がいい。
反骨心があるならば尚のこと良し、強ければ強い程に良い。
ありもしない勝算を重ね、下剋上に息巻く者を指先で潰すことは何よりの娯楽だ。
戦力の増強、雑務の人材、それでいて少々の刺激にもなるだろう。
人間の国に相変わらず攻め込めないのであれば、魔族の国を蹂躙するまで──。
■魔王ニルヴァローグ >
そうなれば従魔、従僕の数もある程度欲しくなる。
──精も、種も、屈強な魔物のものを十分に喰らった。
それに己の魔力を混沌と共に混ぜ合わせ、産み落とせば従魔はいくらでも増やせる。
従僕については───。
「さて。向こうに渡った者が幾らかいた筈だが。……まぁ、慌てる必要もあるまい」
辺りを見回す。
手足が無事な魔物や魔族は殆どが逃げたか。
王国の方面から、軍が砦を取り戻しに来る様子は、まだない。
「………」
じっとしているのは性分に合わないのだろう。この魔王は、実に飽きっぽい。
ご案内:「タナール砦」にクレイさんが現れました。
■クレイ >
そんな魔王の歩く砦、1人の男が堂々と正面から入ってくる。接近を感知されていたか否か。どちらにしてもこちらは相手の存在を感知していた。
「うーわ、最低でも魔王級かよ」
最低でも。というだけあり魔王にだってランクはある。だからこそ最低でもという表現を用いた。とわいえ最悪の場合魔王の中でも特級の化け物がいる可能性があるわけだが。
とはいえ、周りの惨状を見るに低位の魔王ではないだろう。となると不意打ちなんて無駄でしかない。むしろ火に油を注ぐだけ。
「エンチャント」
自身に防御強化や速度強化、精神支配に対する防御などの複数のエンチャントを何重にも重ね、その上で彼は魔王のいる道の前へと進む。
男はある依頼を受けた。だが、その最中で依頼が変更になったがその貴族の心意気を買いその無謀ともいえる依頼を受けた。故に男はここにいる。
そして男は魔王の前に立つ。
「よう、この砦の今の支配者様……であってるか?」
前に立つ男は悪く言えば凡夫。魔力だってよくて中級魔族程度。筋力だって人間では下級の魔族にすら劣る可能性もある。
にもかかわらず恐れを持たない目で魔王の前に立っている。その姿を見てどんな印象を与えるだろうか。
■魔王ニルヴァローグ >
「……?」
現れたのは…王国の軍勢ですらない、一人の男だった、
余りにも、不可思議。
魔王を討ちに来た勇者…という風貌にも見えぬ男を前に、黒肌の少女然とした魔王は少しだけ首を傾げた。
「人も魔も皆逃げ馳せた」
「このような砦を支配したところで意味はない、故に…」
「我はその"支配者様"とやらではない、な」
淡々とした言葉の羅列。
少女の声質で語られるそれは途方もない違和に満ちている。
「お前は逃げないのか」
最早人も魔も、動けぬもの以外はみな逃げたというのに。
宙空に座り込むような姿勢で男を見下ろす黒肌の魔王は、ただそう問いかける。
■クレイ >
「支配者どころかただの蹂躙者かよ。外れクジ引いたかなぁ」
話を聞く限り、魔すら逃げた。つまりは魔族の支配者すらぶっ倒している。
想定通り低級の魔王ではない。おそらくは最低でも上級。下手をすれば……頭の中でいくつか算段を立てていたが、それを放棄する。このレベル相手になると算段を弾く事すら無駄だ。その場その場で臨機応変に。自身の感覚と反射が追いつかなければ死ぬ。それだけの話だ。
「んー、逃げたいのは山々なんだけどよ。生憎、傭兵が一度受けた依頼を放棄するわけにいかねぇんだわ……砦の偵察、および避難民が逃げ出す為の時間稼ぎ。それが終わるまでは逃げられねぇんだ」
語るのは先ほど少女が見逃した者達の事。彼らが無事に安全圏まで逃げ出せるまでここを抑えろ。そう依頼を受けたと語っている。
やはりその目に恐怖はない。しかしヘラヘラと笑うその顔には油断もまた……無い。
「で、不意打ちして殺しきれないとワンパンで殺されかねないじゃん? だから話に来たってわけよ。俺の目的は時間稼ぎ、こうして殺し合いにならずに過ぎれば最適ってね」
とはいえ纏う魔力は明らかに補助魔法のそれ。つまりは口ではそう言いながらも即応で殺し合いに発展してもなんとかするという準備は整えているわけで。
そして少女を見上げる。
「それとも、道中に転がってた牛頭みたいにヤリ合いでもするか。それならまだ……まぁ、殺し合いよりはマシだなうん」
■魔王ニルヴァローグ >
「ただの蹂躙者……。それは"良い"な。そう名乗るのも趣がある」
そんな言葉とは裏腹に、その声色はどこまでも無感情に冷えたもの。
傭兵としての矜持とその目的を語る男に対しても、その魔王はずっと不可思議なものを見る視線を向けていた。
「知る限り……」
「人の持つ魂…生命、というものは」
「一個体に一つ…例外を除けば、唯一無二であった筈だが……」
仕事、つまりは報酬を受け取るための作業。
それを優先しようとする男の考えがいまいち理解できぬらしい魔王はわずか、その螺旋光輝く目を細める。
「人間と交わす話などない。
牛頭……? ふむ…ああなりたい、ということか……酔狂だな」
■クレイ >
「じゃ、上には蹂躙者が居たって報告しておく」
何か気に入ったような反応が返って来たのでとりあえずそう返す。声音は全くそうは感じないが。
しかしその不思議な視線と言動を聞けば男は肩をすくめる。
「そのたった一つの命だからこそだ。自分の使いたいように命の使い道を決められる。それが俺達傭兵だ。だから俺が受けるのはそれで死んでも構わない仕事ってだけだ」
相手の不思議そうな目線に答えるようにそう返す。
それから少しだけ笑って。
「つめてぇな。って別になりたいってわけじゃないぞ。手足ブチ折られる趣味はねぇし、完全に潰されてるし。まぁヤッて逃げれるなら有りな選択肢ってだけだ」
まぁそれは難しいだろうけどさと、ある意味で分かり切っている事を言っている。
それが出来るのならそもそも砦の中はこうはなっていないはずだ。
「で、ひとつ聞きたいんだが。そもそも避難民狙う気あんまりないんじゃないかって思ってたりするんだが。だってよ、あんたなら殺せたろたぶん」
■魔王ニルヴァローグ >
「追われて死ぬ者を見る分には有意義だ」
「が…手ずから追って殺す価値はない」
そう言うと、魔王は組んでいた脚を解き、石畳へと降り立つ。
自然、男を見上げる形になるが──。
「ただの人間に求めるものはない。
…些か頭が高いことは気になるがな……疾く、平伏せ」
グ……ン───。
言葉と共に発せられるものは、重圧。
言葉からのプレッシャー、などではなく現実に力場が男の足元へと発生する。
男の身体自体が、身につけている者全てが、地に縫い付けられるかのように重くなる──。
「…それに気付いた時点で貴様も逃げれば良かったものを」
改めて、そんな言葉を頭上から降らせるのだろう。
■クレイ > 「ん、死んでもいいと死ぬ気は近いようで意味は全く違うぜ、現に俺は生き残れる自信があってここにいる」
おそらくは勝ちはない。浮いていたという時点で魔法を使える事は確定しているからだ。
それを加味しても死ぬ可能性はない。故に即時逃走ではなく時間稼ぎを選んだのだから。
上から凄まじい重圧がかかる。
「自分から地上に降りておいてよく言うぜ、見下ろされたくねぇならずっと浮いてな」
直後、相手の力を利用する。上からの圧力、それを利用して一気に自身の身を下へ、そのまま相手の圧力を利用するように後ろへ滑るようにしてその重圧の範囲外へと逃れる。
「じゃ、戦闘開始って事か。別にこっちでも良いぜ俺は」
剣を抜き放つと柱を切り倒す。その破片を身体強化をした足で蹴り飛ばし遠距離からの瓦礫による攻撃を狙う。
■魔王ニルヴァローグ >
「戦闘? …思い違いも甚だしい。
これから始まるのは…いや、この砦に赴いた時点で──」
「蹂躙以外にはないぞ」
重力場から逃れ、腰に携えた剣を抜き放ち柱を切り倒す。
実に鮮やかな芸当。肉体に無駄な力が籠もっていては、簡単に出来ることではない。
しかし、それも所詮は人間技。
黒肌の魔王は表情一つ変えはしない。
発生していた力場の向きが変わる。
宙空でなにかに囚われたように停止した無数の瓦礫。
それらは再加速し、方向を変えて男に向かい、飛散する───。
魔王自体は、動かない。
一歩すら踏み出さずとも人間一人程度を蹂躙できるという自負心か。
■クレイ >
「おいおい、戦闘って言っておいた方がいいぜ。アンタほどじゃないけど一応、魔王殺しの1人だしよ」
瓦礫に対してこちらは前へと進む、後ろへ離れては逆に不利になる。それに自身の作戦も失敗する。それはギリギリまで補足されてはいけない。
男の狙い。それは柱を破壊する事による部屋の破壊。当たり前のように眼前の存在をそれで殺せるとは思っていない。だが砂ぼこりで1秒でも意識を逸らせればそれだけで撤退の時間を稼げる。
故にそれを悟らせないように前に。
「ま、そっちがその気なら無理やりでも戦闘する気にしてやるだけだけどな」
反転してきた瓦礫を切り落とし弾き飛ばす。その弾き飛ばした瓦礫のいくつかは他の柱へと激突し柱を崩す。
だが無傷じゃない。全部を弾くなど無理だし、弾き飛ばす過程で自身も何か所か瓦礫で切り裂かれる。それでも前へ。そして切っ先が届く領域に届けばそれを振るう。喉元に向かって振るわれる魔剣。魔力が籠った横一閃の斬撃を放った。
■魔王ニルヴァローグ >
──魔王殺し。
その言葉に、黒肌の魔王はぴくりと反応を示した。
同時、喉元を狙い放たれた人造魔剣による一閃は──まるで停滞した時間に囚われたかのように減速する。
詰めたはずの空間が引き伸ばされる、そんな妙な感覚と共に互いの距離は──前へ出る、その以前の立ち位置へと戻されていた。
「……それは、興味深いな。
気が変わった……貴様が殺した魔王とは、誰のことだ」
変わらず、言葉に抑揚はなく表情も変わらない。
柱を失い、軋むような音を立て始めた砦の広間で、男はどうやら魔王の興味を惹いたらしい。
■クレイ >
「空間操作までしてくるかきっちぃな……あん?」
なんかのワードが引っかかったらしい。
クルンと剣を軽く回す。
「何年か前にここを攻撃した時にここを抑えてたやつだよ。魔王って言っててデカい剣振ってた青肌の巨人だ。名前は知るわけねぇだろ。今の状況を思い返せよ」
そのまま切っ先を突き付ける。とはいえ物理的に距離が離されたので遠くから向けているだけだが。
「アンタ達みたいな強者は一見弱い相手の名前も聞かず、平伏せって言ってくる。それに対して弱い俺達は悠長に名乗って会話する余裕なんてねぇんだ。ダチになってくれた魔王の名前なら言えるが。俺が殺した相手は名乗り合う前に首を落としたからな。知りたきゃ地獄で聞くしかねぇぜ?」
とだけ言ってからあぁと言葉を濁す。
そんな強気な言動と行動から一転して肩を落とした。
「たぶんお前は無理だけどな。そいつは近接特化だったから出来た。でも空間操作までしてくるゴリゴリに魔法使ってくるタイプとか。俺の苦手なタイプだし。全力で生存に振り切るぜ俺は」
■魔王ニルヴァローグ >
「魔王を名乗るものが己が名も知られず人間如きに首を落とされる、か」
「名も安くなったものだ。
魔王とは人間に怯えと、死と、破滅を齎す者」
「──その名一つで町一つ、国一つを恐怖に竦めなければ何とする」
慇懃無礼、切っ先をこちらに向ける男へと、黒肌の魔王は漸く、その視線を動かし見据えることにした。
「では貴様には生き残り、名を王都に運んでもらうとしよう。
成功報酬は後にくれてやろう…そうだな、何が良い? 死か、破滅か…そのようなものしかないが」
抑揚も何もない淡々とした声。
可憐な少女の声で奏でられようその言葉には一つ一つに底冷えのするような冷気が宿る。
「魔王ニルヴァローグ…この名を持ち帰れ。
古典に連なる者がいれば、面白い話が聞けるやもしれぬぞ」
ニルヴァローグはそんな言葉を投げかけるだけ。
崩れそうになっている空間は意にも介さず、男を見逃すというかのように。
■クレイ >
「なるほど、傭兵に依頼をするか。良いぜ」
剣を腰へと仕舞い直す。そして小さな瓦礫をひとつだけ握る。
そして重さを確かめるようにポンポンと弄ぶ。
「俺はクレイ。銀鷲って名前を貰ってるただの傭兵だ。一応、一部の場所じゃ賞金付きらしいし。魔族にも知ってる奴はいるかもな。報酬はどっかでちゃんと試合しようぜ。結果破滅したり、死んだらそれまで。勝ったらそうだな。逆に1発俺にやらせてくれよ」
なんて冗談めかして笑う。そしてその瓦礫を持ったまま構える。
そしてニヤリと笑う。
「勝てるわけがない。そう思われるのも癪だし。少しだけ手札見せておくからさ、興味が沸いたらまた戦場で会おうかっ!」
その小さな瓦礫は矢もかくやという速度で飛来する。そんなもの掠ったところで少女にダメージがない事は100も承知。だが、それに込められた魔術は魔法対消滅。空間を伸ばし、遅くした所でこの石は一切ぶれる事なく突き進む。つまりはこれを自身や剣に乗せれば相手の空間操作を破れるという事。まぁ魔力をかなり食うから常に発動しておくなどできないし、そもそも同量の魔力がいるので仕えて数回だが。
しかしたしかに牙は喉元に食らいつけるという意思表示。
同時、天井が崩れ始める。
「じゃ、そういうことで。またなニルヴァローグ」
こっちが傷を負い、逃がされた構図。だが目的は果たした。だからこそ男は逃げる事に一切の躊躇などない。
瓦礫と砂ぼこりが充満するほんの一瞬その間に男は脚力強化でもって全力で砦から逃走していた。
■魔王ニルヴァローグ >
魔王を前に笑顔を見せ、そして無礼にも瓦礫を投げつける──。
そんなものが当たったところどういう意味があるというのか。
そんな無意味な行動をする人間でないことは、既に百も承知。
人間は、魔王にとってみれば歯牙にもかけぬ存在である。
故に傲慢であり、慢心する──そう見られることも自然だろう。…しかし。
こと、この魔王に関してはそれは正しくはない。
瓦礫が空間の歪みの影響を受けずに進む。
その事象を感じ取れば即座に、それを空間ごと削り取り魔術も何もかもを虚無へと返す。
こういった芸当ができる人間──それを並の人間と同等に扱うわけがない。
ただそれが、数値の上で表すならば1が1.1になる…といった程度の認識であっても。
「勝ったら…ヤらせる……」
崩落寸前の部屋から逃げ去った男の言葉を反芻する。
人間にとって脅威となる魔王を下したのならばそのまま封じるか、消滅させるか。
懸命な人間であればそれらを選択するだろうに。
「…不可思議。狂人の類か」
しかし魔王を討伐に至る人間とは往々にしてそういった者であるのかもしれないと。
「クレイといったな」
崩壊しはじめたその場から、影にとぷりと沈み落ちるようにして、黒肌の魔王もまたその姿を消す。
汎ゆるものに対して飽きっぽいこの魔王が果たしてその名をちゃんと覚えているかどうかは兎も角。
人も魔もいなくなった砦は一部の施設が崩落するといった程度の被害で痛み分けとなったのだった。
ご案内:「タナール砦」からクレイさんが去りました。
ご案内:「タナール砦」から魔王ニルヴァローグさんが去りました。