2025/11/21 のログ
ご案内:「タナール砦」にさんが現れました。
> ――新月の夜。
砦は勝利に酔いしれるマグメールの兵団によって賑わい明かりを灯す。
今は人間側に微笑んでいる勝利の女神がいつまで此方を向いていてくれるか、ふと気紛れに心変わりをしてしまうのが神と言うものだ。
それも女となれば秋の天気と例えられるくらいに気ままである。
この賑やかな宴がいつ阿鼻叫喚の地獄と化すかもわからない。それがタナール砦の常だ。

明かりの灯る其処から幾分と離れた闇の中、昼間の戦の痕が色濃く残る大地にて、蠢く黒い影が一つ。
その小柄な影は緋色の目を光らせて、辺りに注意を払いながら地に転がる亡骸をじっくりと観察していた。

此れは損傷が激しすぎる。
此方はお眼鏡には敵わない。
此れは、其れは……。
希望に沿う屍を求めて行ったり来たり。死体漁り。

「んー……、数が多すぎるのも困る。選別が大変」

思わず嘆息してしまう程度には死体揉み飽きてきたようで、独り言も吐いてしまう。

> 今宵ここへ忍び込んだのは戦の為ではない。手駒とする屍を調達するためだ。
魔族の屍は、錬金術師や魔術師などの物好きな連中が買い上げることもあるそうだが、実際どれ程の値が付くかは知らない。
売るにしても真っ当な市場で捌けるはずもなく、裏のルートになるだろう。
残念ながら、そう言う方面へ顔が利く相手は――……。
思い当たる者はいるが、進んで関わり合いにはなりたくないと言うのが本音だ。

あの立派な屋敷に居候させてもらう以上、今まで以上に働いて金を稼ぐ必要がある。
だが、もし急に大金を稼いで収めても、褒められるよりも先に何をしたのかと厳しい詮索を受ける気がする。
そして、怪訝な顔をされた挙句に呆れられるのだ。
真っ当な稼ぎ方と言うのは難しいものだと、最近は常々思う。

「――ん、此れは良さそう」

ふと足を止め、見下ろしたのは額に角のある鬼人の魔族。性別は女。これは重畳。
損傷も少なそうでなお良し。死因は外傷性のものではなさそうだ。毒か、魔法か……。
首筋に指を添え、脈が無いことを確認してから魔法の鞄を開き。

「よぃっ、しょ……っ」

持ち上げた頭から鞄の中へと押し込んでゆく。
この鞄に問題なく入ると言うことは、ちゃんと死んでいる証拠でもある。

> この不思議な鞄の便利な所は、重さを感じないところもそうだが、物の鮮度を保ったまま保管できると言う点にもある。
狩り溜めて置けば、美味しい新鮮な肉をいつでも用意できるし、このように防腐処理を済ませるまでの時間に余裕を持てると言うのが嬉しい所。
これから我が手足、分霊の傀儡となる人形へと作り変えるには何分時間と手間がかかる。
急ごしらえの使い捨てにするならば拘らないが、長く使うための物は吟味して、手間暇をかけてやらねば良い傀儡にはならない。
木製の木偶ではなく、屍を使うのは初めてだからきっと試行錯誤も必要だろう。
一つ仕上げるのに何日かかるやら……。
嗚呼、本当に、この鞄は保管に打ってつけだ。

「ふぅ……。んー……、これで3つ目。あと二つは欲しい……けど――」

鍛え上げられた肉体を持つ屍を見つけられるどうか。此ればかりは運次第か。
跡形もなく鬼女の屍を鞄に収め、次の屍を探し辺りを見渡す。

暗殺者は命令以外で故意に人の命は奪わない。身を守るためならば良いが、そうでもない限りは刃を人に向けてはならない。
そうでなければ、暗殺者では無くただの人殺しになってしまう。
今も昔も、その教えは間違っていないと思う。
だが、暗殺の仕事を禁じられてしまっている現状、このように死体漁りをして屍を調達している姿を同胞はどんな目で見ているだろうか……。
既に死んだ他人の屍には何の感情も湧かないが、先祖達への後ろめたさだけは多少持ってしまうのだった。

ご案内:「タナール砦」からさんが去りました。