2025/10/02 のログ
ご案内:「タナール砦」にベルクさんが現れました。
ベルク > それはこの砦においてはいつもの事だっただろう。
どちらが先に攻め込んだ、どちらが先に占拠した、それは些末な事であり、ここで起きるのは殺しと凌辱のみと言えよう。
今日も今日とて、人間と魔族のプライドがぶつかり合いながら血と四肢が撒き散らされ、零れ落ちた目玉が踏み潰されるような地獄。
ただ違うのは、その血肉の宴が既に幕を閉じたということか。
魔族の領地側、人間の領地側、それぞれの門の方角には死屍累々と横たわる姿が無数。
その中央で剣を肩に担ぎながらしゃがみ込む自身は、ゆらりと立ち上がると夜空を見上げながら退屈そうに欠伸を噛み殺す

「お前らよぉ……人様に喧嘩売っておいてそれで終わりかよ」

はんと鼻で笑いながら剣を鞘へと収めていく。
事の発端はこうだ。
人間側からみても、魔族側からみても浮浪者にしか見えない怪しい人物が砦の傍をうろついていた。
当人としてはここらでふらついていれば、兵員として戦ってくれと声をかけられ、金を得られるだろうと思ったのである。
ところがどうだ、人間側が近づいてきたと思えば即座に抜刀。
開口一番に出たのは、”貴様、魔族のモノだな!”だ。
否定もできないが、別にどちらに付くわけでもないので、魔族ではあるがあれとは別だと答えたがそれが通じるわけもない。
なし崩しに戦闘になり、そいつらを叩きのめした後に魔族側の方をふらついたら今度はその逆。
”お前、人間側の偵察だな”だ。
頭にきた結果、それを叩き伏せて、乱戦会場である砦に乗り込んでこの結果というわけだ。
喧嘩両成敗、自分は悪くはない。

「どうせ、城でふんぞり返ってる王様だ魔王様だに忠誠誓ってここに突っ込んできたんだろ? 惨めだよなぁ、敵でもない奴の憂さ晴らしにボコられて死ぬんだぜ?」

くつくつと愉悦に塗れた下卑た笑い声をこぼしながら夜空を仰ぎ、わざと仰々しく両腕を広げた。
そのままぐるりとその場で一回転する頃には、悪役ごっこも飽きてしまう。
深い溜息とともに項垂れれば、腰に手を当てて周囲を見渡すも起き上がる輩は見当たらない。
せめて屈辱に憤慨して残り火を燃え盛らせる奴ぐらいいるのではないかと思ったが、そうでもないらしい。
或いは……今はそれを噛み殺して死体のふりをして耐えているのか。
どちらでもいいとなると、一応と近くの屍につま先を引っ掛けていく。
河原の岩をひっくり返すように蹴り転がすと、仰向けになった魔族の得物を確かめる。
手に握っていた剣はなまくら、腰に下げていたダガーを抜いてみるが、やはりろくでもない。
飽きた玩具のように後ろに放り捨てて、また他の屍へと近づいていく。

ベルク > やはり碌なものはなく、憂さ晴らししか報酬は無しかと嘆息を零したところで重なり合う爪音が王国側の方から響く。
後方からの伝令かなにかであろう軽装の兵士が3人ほど門をくぐると、一人立つこちらに目を見開いた。
敵と即座の判断に鞘走りめいた抜刀に濁る瞳をにたりと細め、傍らに転がっていた剣を爪先に乗せて上へ弾いた。
兵士たちを見据えたまま浮かび上がる剣の柄を掴むと、身を低くして一気に滑り込む。
振り下ろしたくなるような立ち位置、兜割りの一閃を誘うと、曲げた膝のバネを活かして一気に浮き上がりながら受け太刀をする。
耳障りな甲高い音が鳴り響くと、ならば脇をと剣を引こうとした敵に合わせ僅かに刀身を傾けていく。
刃同士が噛み合った結果、互いの刀身に食いついた剣はその一点を元に梃子が働いて、兵士の剣は離れるどころか傾けた方に引っ張られる。
瞳を見開くより先に無遠慮な前蹴りを腹にぶち込めば、胃液をぶちまけながら体は後ろへと転がっていった。
支えを失った剣がからりと地面に転がると、残りの二人が斬りかかる。

「はっ……」

一人は敢えての正面、もう一人は側面へ回り込みながらの刺突狙い。
敢えて剣を手放し、相手の袈裟斬りに対して自ら踏み込めば腕の合間にこちらの腕を通すように、顎目掛けた掌底。
反対の手で肘を掴みながら体をひねると、掌底の指先を衝撃に開かれた口の中へ突っ込んで下顎を捕まえる。
腰を捻り、囮の兵士を盾にするように側面から来た本命に対して投げつければ、流石に味方を貫くことは出来ない。
ブレーキと共に咄嗟に受け止めた兵士ごと飛び込んでの後ろ回し蹴りを見舞って、二人まとめて転がしていった。
落とした剣を拾い上げる最中、苦悶の表情で起き上がる兵士達は、切っ先を向けながらじりじりと後退。
退屈げに吐息を零すと、獣でも脅かすように両腕を広げて、がぁっ!! と唸り声を上げて威嚇ポーズを取ってみせると、残った使命感も砕け散る。
堰を切って溢れる畏怖に押されてたたらを踏みながら馬の方へと逃げ込むと、乗り込むのすらお没数に引きずられ気味に逃げ帰っていく。

「……下っ端じゃそんなもんか」

なまくら剣を放り捨てると地面に突き刺さる。
幾度もぶつかりあった刀身には無数の刃毀れと共に、曇った銀色に横たわる輩の姿を映し出した。