2025/08/03 のログ
ご案内:「タナール砦」にナランさんが現れました。
■ナラン > 「っ!」
声もなく石段の上から転がり落ちてくる大柄な体を間一髪で避ける。
背後にある鬨の声は少し遠いが、わんわんと狭い回廊に満ちて砦の壁もびりびりと震える。どこかで(いつものように)火の手が上がっているようで、あたりの空気は焦げ臭く鼻腔を焼く。
それほど長い階段ではない、転がり落ちていった味方の態勢もおかしなものではなかった。きっと上手に受け身を取れるだろう。
そう信じて
女は勢いを殺さず階段を駆け上がっていく。上がり切った先は、砦の尖塔の部屋のはずだ。
女の得手は弓である。高所からの援護の方が役立つだろう。そう思って、塔へ向かう仲間のあとを追いかけたのだけど―――途中で一人、また一人と離れて、最後の一人が転がり落ちていって今はもう、前にも後ろにも味方はいない。
尖塔の部屋までもう少し。今やあちこちで乱戦になっていて、さらに狭い中で魔法の飛び道具は中々使われない―――おそらく。
部屋の中に敵がいるのは確実だ。飛びこむ手前で一矢、そのための矢をつがえながら、部屋まであと数歩
ここまでずっと駆けどおしだ。息も鼓動も跳ね上がっているはずなのに妙に女の思考と視界は冴える。前衛の仲間が転げ落ちていって矢をつがえるまで一呼吸もなかったはずだ。
もうとっくに日は落ちている。部屋から零れる明りは松明のものだろう、揺らぐ明りの中に影が落ちていて―――女はその大きさに目を見開く。
が、躊躇している暇はない。駆け足を止めないまま、相手が視界に入った瞬間につがえた矢を放つ―――――身の丈が己の2倍はありそうなリザードマンの、その黄緑に光る瞳目掛けて。
■ナラン > 狭い部屋への狭い入口だ。
女は駆け足の音を殺していたわけでもない。
当然のごとく襲ってきた斬撃はうなりを上げて、矢を放った姿勢から文字通り部屋に転がり込んでいった女の頭上をかすめていく。
すれ違いざま、弓をしならせてひっぱたいたリザードマンの脛には何の影響もあたえられなかったらしい。リザードマンは振り回した鉈のような大剣の勢いを殺すことなく、床を転がっていく女にその勢いをぶつけようとする、その空気を削く音が女の耳に迫る。
ガシャン!と派手な音と木片と石片とが飛び散る。大きすぎる剣が部屋に備えられた弩の土台に触れて砕かれたのだ。
お陰で対峙するように膝をつく余裕が出た女の視界に飛び込んできたのは、片方の目の『傍』に深々と矢を突き立てたリザードマン。
女がそれを目にしてぞくりと背を粟立てたのは、その相手の瞳が変わらず冷たい光を宿していたせい。せめて激高なりしていてくれれば、つけ入る隙が見つけられたかもしれないけれど―――
(… これは、難しそう ですね)
バラバラと木片と石片が散っていく、それを意に介さず近づいてくる相手の足取りは冷静そのものだ。
1対1の接近戦は不利でしかない。味方がこちらへ駆けつけてくる望みは薄いと思った方がいい。
斃せるか―――――逃げるか。
逃げるにしても、入ってきた階段へ向かうのは相手の思うつぼだろう。ならば、弩が設えられた窓から、外へと―――下へと逃れるか。
■ナラン > 外へと逃れるにしても、その窓の先を確認している余裕はない。
即ち、この場での死を免れてもただ塔から墜落して命を落とす可能性がある。
部屋の入口にある明りを背にして相手が近づいてくる。窓からの鬨の声の合間に破裂音が何度か響いてくる。大規模な魔法攻撃か何かが、外では展開されつつあるらしい。
これ以上の思考の時間はない。
女は逆光のなかでも光る黄緑の光を睨みながら帯に挟んだ短剣に手をかける。
果たして――――
ご案内:「タナール砦」からナランさんが去りました。