2025/07/12 のログ
メイラ・ダンタリオ >  
 タナール砦 奪還戦

 王都の滞在を終え、タナールにて。
 メイラは正式な騎士団を持たない。
 大将を気取るよりも、膨大な力の一端としてそこに在り、斬りこみや遊撃
 場を引っ掻き回すことも良しとし、大手柄首と向かい合う等
 面倒事を引き受ける立場が多いだろうか。
 故にメイラが混ざる気のある団と共にあることが多く、メイラと共に轡を並べる勢
 その狂気が伝染し自らも、メイラと同じようにと捧げてしまった狂奔と呼べるそれ

 それが黒い矛先に続き、銀も鋼も、革も赤も水気色も全て全て全てが、槍となる。


   「―――■ ■■ ■ ■~~~~ッッ!!」


 始まりは、日照りではなく雨と曇りと日照りの遮りがある影の時間だった。
 鎧が熱く萎えてしまうような事態は道中だけでいい。
 現場の前で軽装から着替えて身に着ける者も多い中、メイラはその黒真銀の鎧は夏も冬の頼もしいことをよく知っている。

 美麗な女の貌が施された上部
 醜悪な外側に反り返った乱杭歯が立ち並ぶ口元が広がった下部。
 その下部の奥では、精巧に削り出しされたかのようなトラバサミのようなギザ歯。
 それが血を滴らせ、鎧の赤い血筋を奔らせている。

 大剣を振るいあげ、柔らかい腹肉を、革鎧を、それらごと力と硬度と切れ味を掛け合わせたことで生まれる
 斬撃力一本に頼ったメイラの振り抜きが、鎧を何度も血で濡らした。
 それは滴るのは少しの間だけだ。
 直にポタリと垂れる雫は薄れ、鎧の外側に吸われ、全身を巡っていく。
 イーヴィアがダメージを負ったメイラに顔を苦くして施した、一種の物理的なトリック。

 そのトリックは、血を浴びれば浴びるほど、メイラに有利の傾いていく。
 多少の矢や剣戟は滑り、切れ味が足りず、攻撃を与えた直後に間合いにいるそれらを
 メイラの大剣が腹を中心に二つに分かつ。

 上半身が、ブンブンブンとその視界を回し、地べたに這いつくばるころに絶命し暗転。
 下半身は蛙の脚の肉のように、片足をぴょんぴょんさせて空を蹴っている。
  
  
    「ゴ ロ ロ、ロ、ロロ、ロッ」


 声はまるで、大きな岩の塊を転がしたかのように低く唸るそれ。
 砦に引きこもれなかった敵者らは、一部を除いてまるで檻の中の人だ。

メイラ・ダンタリオ >  
 矛先で強引にこじ開けるような砦の前方を固める陣とのぶつかり合い。
 派手に暴れまわるのは、それだけ視界をメイラ達の勢で〆させるため。
 門は固く閉じられ、梯子をかけて昇る以外に手はない中をどう扱うか。

 たっぷり視界を奪い、たっぷり敵を奪い、目の前の物理的な妨害よりも頭上からの矢の妨害がうざったく感じ始めるころ。
 砦の上から妨害を始めた剣戟と声が多くなる。
 矢の数が薄れ、梯子を掛けて昇る勢が増える。

 敵の思考も、手も、足りなくなるようになってきたのなら、メイラだろうと
 同じような力を持つ者だろうと、イカれだろうと、同じように其処へ参戦し、門が開き始めるようになる。
 特別なのは、メイラだけではない。
 メイラと同じようなものは多くあり、尖り切った性能を持っていないメイラ自身、己を特別と思っていない。

 足りない ありとあらゆるものが 乾いて 捧げて 飢えて 捧げて 寂しくて 捧げて。

 だから増長も驕りもない。

 
   「門が閉じないよう楔を打ち込みなさいッ!!」


 門が開くころ、破壊できないのなら開閉の妨害に務めるまで。
 固い木材や鉄の切れ端。
 挟み込まれるだけで扉は、門は重く、びくともしない。
 其処から入り込み、中へとなだれ込む。
 陛下に褒めてほしい、労ってほしい。
 もうあの御方がいないこの飢えを満たせるのは、戦場での戦果で夢想することだけ。


   「アスピダのクシフォスの糞野郎をまだ殺せないのならッッッ!!!!

      オマエラを殺して陛下に褒めてもらいますわッッ!!」


 その目は真っすぐで澄んでいて、疑っていなくて、そしてどこまでもそうであると信じている。


  「だからさっさと―――死にやがれですわァッッ!!」


 血に塗れた鎧が、大剣を振り回して、二つか三つにしながら迫ってくる。
 後ろからは同じようになった剣と槍が迫る。
 術士と弩が、飛んでくる。

 これが人間なものか
 あれこそ―――魔族だろ。
 それが最後に思考に走った魔族の言葉で、目の前で大剣と自身の武器を合わせ、鍔競り合いながらその力
 人間とは違うそれがギシギシと管肉骨を軋ませる。
 その間に後ろと横から剣と槍が突き込んできた。
 目の前で止められて、横と後ろから突き刺されて、最後に首が大剣で斬り飛ばされた。
 念入りに 多少ではオマエラは絶対に死なないだろうというように。

ご案内:「タナール砦」からメイラ・ダンタリオさんが去りました。