2026/03/20 のログ
ご案内:「無名遺跡-古き遺跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「無名遺跡-古き遺跡」にフィリさんが現れました。
フィリ > 「――在り得すぎると思われまして…途端に怖さが失せると言ぃますか――
ぃぇ、それはそれで、違ぅ意味で。はぃ、努々油断出来なぃとぃぅ意味では。下手な魑魅魍魎より余程恐ろしぃのです――が」

かくんと力の抜けて落ちる肩。彼の言葉は良くも悪くも、想像の飛躍先を斜め上から、別方向の斜めへと移行させてしまったらしい。
件の彼女、正しく竜たる眷属としての力を存分に発揮出来る存在であり…それ以上に彼の直弟子として。隠密させれば右に出る者が居なさそうだ。
なので、下手な暗室や密室どころの話ではなく。正真正銘怪異的な何ぞの封印された、部屋だの家だの間取りだのであろうとも。するりと入り込んでいそうである。
…というか以前、長年封印されていた未発見の遺跡を調査中にも。まるで学校に持って行き忘れた弁当を届けに来るような按配で合流してきた実例が有るので、疑い様がない。
識る事の出来無い謎は恐ろしく。それと同時に――知られたくない事を覗かれ、暴かれるのも非常に危険。
この場合は前者よりも後者の方を、多いに怖れる必要が出て来てしまいそうである…これでも。この世に生を受けてから、数年とはいえあれこれ経てきている以上。
例え兄弟姉妹でも大っぴらに出来ない経験だとか思考だとか持ち物だとか。思春期的な意味も含めて存在しているのだし。

「はぃ。如何なる物でも――それこそ、形を持たなぃモノだとしても。
仕掛け、仕組み、組み合わせ、そぅぃった全てに。経年劣化とぃぅ概念は当て嵌まると思われまして―― …それこそ。
それこそ記憶と思考から組み上げられてきた、自我、とぃぅモノですら。 …それを記録した魂とぃぅ器さぇ。老ぃて掠れて劣化する、歪んでしまぅ…
笠木様と私とで、はぃ、以前遭遇したよぅな事も。御座ぃますか――と。

――と、まぁ、世の中須く。究極的に単一で存在する事は、叶わなぃと…  こほん。
申し訳ぁりません、これは長くなってしまぃそぅですし、今は置きまして――はぃ。是非是非ぉ願ぃ致します。
なるたけ頭に入れてぉくのも確かなのですがー…それこそ。記録媒体とぃぅ物も一つより、複数確保してぉく方が。安心出来るとぃぅもので」

時に。生物の肉体という物も、良く良く出来たシステムであると。カラクリであると。そんな風に例えられる事が有る。
細胞という極小の部品が数え切れない程寄り集まり、他種多様な形で織り成され、内臓やら四肢やら神経やら――様々な機構を形成しているのだと。
だから生き物も老いれば劣化する。もしくは逆に、無機物だって生き物と同じと例えるのもアリだろう。
或いはそれこそ、先程想像しかけていたような。人智を超えたモノや霊的なモノでさえ。
…死して尚生に縋ろうとした、生と死という循環システムを歪めんとした、そういう存在に出遭った事は。今も記憶に新しいのではないか。

何はともあれ、須く補修や保全という概念が必要になるのは、少女自身だって、その脳味噌だって同じ。
生まれてこの方、新しい経験が次から次に押し寄せているのだ。全てを子細に渡るまで覚えておくには、脳機能が追い付かないだろう。
寧ろニンゲン含む知的生命体という者達は、だからこそ、得た知を形有るモノとして保管し、補完するようになったのだ。
記録。言葉。伝聞。文字。それ等は紛れもなく大切な宝物。
どうやら今回迷宮で何が発見出来るかは未だ判らないものの。無事帰る事が出来れば、御褒美の財が待っていると。少女はそう認識した様子。


――さて。決して、そうして遠からぬ未来に想いを馳せていたから、目先や足元が疎かになった――訳では、決してない。
ないのだが、それでも。見ていても気が付けないから罠であり、嵌ってしまって理解するから落とし穴なのだ。
暗渠に等しい水面下へと沈んだその先が。決して上がる事の出来無い水底ではなく、息の出来る場所であった事だけは。不幸中の幸いなのではないか…
いや、それ以外を不幸と感じるのかどうかは、未だ判らない。一層下ったその先に何が待ち受けているのかは、誰も…そう、正しくこの世界の誰一人知らないのだから。

「果たして、意図された罠なのか――偶然そぅなってしまったのか… け、ほ、後者なら余計に誰も、想像つかなぃと言ぃますか…
ともぁれ、はぃ。…ぉ陰様で、身体的な被害は御座ぃませんので。当座の問題は――完全に、出口の見当がつかなぃ事、かと――」

陽光の存在など期待し様のない場所である。濡れ鼠の侭では流石のドラゴンだって風邪を拗らせそうだ。
…と思っていたらどうやら、彼の方に。然るべき用意が有ったらしい。
乾いた風が走り抜け、文字通り吹き曝されて水気も何も除けられていく。
真夏の砂浜に立ったかのような数瞬が過ぎれば、からりとなった装いで立ち上がる事が出来そうだ。
…続いて開かれる魔導書については、大丈夫、と首を振ろう。姉妹達程ではないが、こう見えて普通のニンゲンよりは頑丈な筈なので。

――という事で立ち上がったものの。多少の高低差では見える風景に変化は無さそうだ。
そもそも視界を遮っているのは壁であり曲がり角の多さなのだから、結局進まない限り、その先を見る事も知る事も出来無いのである。
迷ったら左の法則だとか、迷路は壁に手を着いてだとか、色々な事を想像しつつも――取り敢えず。
前後左右、どちらを”先”と見なし歩き出すのかは。彼に任せる事としよう。

影時 > 「ッ、くく。まァ、それはそれで、いいんじゃあないか。おっかなびっくりも場合によりけり、だ。

 その代わり、ああ。……ここじゃ油断はするな。
 訓練だからといって怠ける、手ぬかる気持ちは起こり得るにしても、だがここは――間違いなく危ない場所だ」
 
変にカチコチになる、恐れるよりは、いい。いたずらっ子が交じっている前提で気楽に体験できるならば、それでいい。
一から十まで忍者として躾けるのではなく、主眼はあくまで“体験してみる”ことにある。
もし気に入った等あれば、また都度考えればいい。この男にすら、一番弟子のいたずらっ娘ぶりは抑止のしようがない程。
何分、上空から俯瞰する竜の眼は万象を見通すとばかりに、空が開けた場所に届け物に風のように現れ・去った事例も印象深い。
若しかすると、という懸念は……語られたら、あー、と虚空を思いっきり仰ぎつつ思案すること疑いない。
だが、今は。今ここにいる場所にこそよく注意を配らなければならない。憂いよりも先に現実と向き合わざるを得ない。

「……――成る程。後は、そこに魔法やら魔術がやらが絡んで、さらにどうなるか、といった具合かね、
 いつぞやのあれは、ありゃぁ、なあ。事例とするには、かなり尖ってねぇか?
 年月の経過を耐えようとするには、肉体はあやふやであり、石に……宝石に魂を篭める、宿らすとか考える手合いをどこかで聞いたことがある。
 とはいえ、沢山そういうのを用意するのも、それはそれで大変そうだ」
 
魔術も魔法も万能ではない。物質の限界を何処まで補いうるかどうか。……そこはもっと詳しいものにでも任せたい。
魂すら老い、掠れ、劣化して歪む自我。その一例を男と少女はかつて相対し、滅したことがある。
ただ、あれもまた前提条件が特殊な例であり、実証例と認めるには大いに難がある。
永劫不滅という夢のような四文字を果たすためには、さて。大小含めどれほどの問題をクリアーせねばならないのだろうか。
例えば、魂を石のような何かに刻んで依り代とし、肉体を代替可能なものに置き換える云々なる記憶は、さて、何処で聞いたやら。
忍びの術の中にも、あるや、否や。在ってもまだ、言えず。伏せず。結局のところ、易く成し得ないことだけは明瞭明白。

――今はどうしたって。ここからさて、どう帰るやら。戻るやら。そもそもの問題に向き合わされるわけである。

「……大事ないなら、よかった。多分後者、だろうなァこりゃ。……結果として前の地図が参考程度にしかならんことが確定した訳だ。
 第三層も第四層もあんまり差がない筈だったが、こりゃまた様変わりしたなあ。
 白亜の神殿……といった具合か、と……――早速お出まし、とは歓迎に手抜かりはないらしい、と……――」
 
精霊を見る目があれば、握り込まれる水晶飾りを中心に舞い踊る風の精霊(シルフ)とも目が合うかもしれない。
直ぐに乾く、わけでもないが、風のある無しは違う。
多少は身が乾くことを喜ぶ毛玉達が虚空に前足を振るさまは、水晶飾りに住む精霊の存在を分かっていてのことだろうか。
そんな片割れのモモンガは少女の言葉に、こくっと頷いて魔導書を仕舞い、周囲を警戒すれば、直ぐに尻尾の毛を逆立てる。
もう片方も同様な一方で、宣いつつ周囲を見回す男も悠然に前に出る。肩上にシマリスを止まらせ、前を見よう。

――何か、居る。

さあああ、と――流れるような音。水、ではない。砂が流れる音。床以外は大理石造りのような中から、壁の隙間から沁み出るように其れが出る。
白砂が溢れ出て、凝るように人の形を作るのである。頭のように見える箇所にぼぉ、と宿るのは赤色。瞳のような二つの耀き。
それを認め、するりと音なく男が前に出て、その正体を眇め見る。
この手の形は安直に斬っても意味がない。氣のような、魔力のような力の流動、その様相は――、

(流れの、要を斬る――)

心の眼、心眼のような、第六感めいた感覚を以て為すべし。
吹き付ける砂風から身をかわしつつ、薄らと氣を乗せた白刃がた、た、と踏み込みの音と共に唸り、それを斬れば、ざぁ、と、魔物が崩れ落ちる。

フィリ > 「それは―― …はぃ。重々承知してぉりましてー…
帰った後の心配もさる事ながら。…前にも色々心配事が有るとぃぅのは。正しく見ての通りなのです、はぃ」

件の彼女であれば、もしかしたら此処まで来るのでは――と考えかけたが、まぁやめておこう。
勿論本当に出現してくれれば戦力として充分極まりないものの。あらゆる意味で不確定要素過ぎるので、計算に入れるべきではないのである。
従って確実に今この場で考えられる事。危険性やらそれに対し如何に振る舞うやら。頭の方向性は其方に持っていく事にしよう。
一先ず目に見える魔物と。目に見えない程小さな脅威。その二つに対処した所で、次へと進む…筈だったのが。
完全に視覚外兼意識外のトラップに嵌ってしまう。文字通り、どれだけ注意してもし足りないという事を。身を以て思い知る事になったのだった。
高い授業になるのか否か――少なくとも。生きて帰らない事には、後学に活かす事も出来無いので。

「勿論術式とぃぅ物もかと――そも、図式として印す物、刻む物、であれば。印字先が破壊される危険性は幾らでもぁりますし――
そぅぃった意味では確かに。書に印すとぃぅのは余りぉ進め出来なぃと申しますか――はぃ。
話を戻して、まぁ、その。何と言いますか、冒険者とぃぅのがこぅ…嵌った罠を踏み潰すとか、魔物の喚び出し先を踏み越ぇていそうとか…
この迷宮で長ぃこと、どれだけ破壊行為が繰り返されてきたかを想像すると―― なんだって。ガタが来てぃて然るべきなのでは、と思われまして…?」

かの不死者も、よもや事件が解決してから暫くした今になって。現代を生きる者達から駄目出しされているとは思うまい。
勿論古文書というのは決して悪くない記録媒体であり、羊皮紙や墨が幾百年単位で現存している事は確かだが…それは、然るべき保存が為されていてこそだ。
逆に破壊しようと思えば容易く破壊出来るという意味では。それこそ不死を追求する者達が、像やら珠やら箱やらを魂のデータベースとする例に大きく劣るだろう。
故に術式その物は恐ろしく、それを為した執念もまた脅威極まりない存在であった事は確かだが…後からこういう分析が出来る位には。少女の精神も育って来た、という事か。
それはそれとして、些かズレた思考が湧いてくる辺りは。見た目年齢にも精神年齢にも関係ない、それこそ魂に刻まれた個性であるらしい。
あの遺跡にも有った、壁や床に残された魔方陣。この迷宮にもまたそういった、構造自体に組み込まれた魔術的トラップは、星の数程有る事だろう。
そんな罠の数々と、それ等を踏破するなり破壊するなりが繰り返されてきたであろう歴史を思うなら。
末端の破壊が積み重なって中枢まで響いていそうだとか。そも、破壊を修繕する為にこそ、構造が改変されているのではだとか。
そんな可能性を想像してしまうと。何だか迂闊に大暴れしない方が良いのでは…と思えてしまう。
取り敢えず竜の姿になって火を噴くだのは絶対にやめておくべきだ――まぁ叔母達よりも更に血の薄い自分には。最初から出来ない事なのだけど。

「ぅ――む、…むぅ……一先ずそれでは。此処の歩ぃた範囲、記して参りましょぅ。それがお仕事のメインになると思われますし。
ちなみに前回はどのよぅな場所だったか、ぉ訊きしても宜しぃでしょぅか――ぁ、先程窺った腹の中風情だったのなら、遠慮させてぃただきますが。
 ――  ――、て…と…?」


水中を抜けたと判断して顔を出してきた毛玉先輩達と。彼等とも何かしら繋がっているらしい精霊と。
その両方に、多少大袈裟に見えそうな位頭を下げる…体温を奪われる濡れ鼠のままでおらずに済むのが、こんな場所ではどれだけ大事な事か。
冒険以前に校外学習、野外研修の基本として。既に習っている事だから。
そしてどうやら。基本的な学習を越えた、彼との遠出だからこその要領――実際に何かと戦う事も。直ぐに待ち受けているのだった。
視線の先でモモンガの、次いで栗鼠の尻尾も、宙を舞う時にように大きく毛を拡げ立ち上がる。完全に警戒の証。
彼等の向く先を追い振り返った所に、何時の間にやら人影が立っている…否。ヒトの形を雑に模った砂の像が動いている。
生きた物でない事は明らかで、それこそ散々論った罠の一種、魔力によって集められ動いている代物なのだ。頭の中で其処等辺まで分析し――

「 ――は、っぅ、 ぁわ…!? ぃぇ近過ぎると言ぃ、ますかっ何時の間――ぁ、ぁぃぇ、もしかすると、この辺り全部に潜んでぃても、ぉかしくっ――」

その辺でやっと頭以外。口が動いてくれた更に一拍後に、ずざざと後方に対比する。
ぼんやり眺めていた――のではなくその真逆。完全に観察と分析に脳機能が偏って、運動神経が働かずに居たのだった。
…本当に。本当に彼が居なければどうなっているのやら。
やっとこさ少女の身体が動いたその頃には、既に前へ、砂人形の懐に彼は滑り込んでおり――そして、踏み込んでいる、という事実を視認した次の瞬間には。
きっと斬るべき所が斬られ、断つべき物を断ったという事なのだろう。砂塊は結びつきを失い、ざらざらと崩れていくのだった。

…熟々。余程大挙した敵が押し寄せでもしない限り、自分の出番は無さそうというか。
いや数で圧されても彼であれば、分身その他でどうにかしてしまいそうである。げに忍者恐るべし。
お陰で、武器を構える所まで行って落ち着きを取り戻すのではなく。息を吐いて気を取り直したその後で、鞄から武器を引っ張り出す事になる少女ではあるものの…
決して。無駄な用心になる事はない筈だ。何故ならば――

「ぇぇ、と、はぃ。 …観させてぃただぃてたので、こぅ…何となく見ぇまして。
今出て来た所とか、同じく出てきそぅな所が、まだ続ぃてぉりまして―― ……彼方の方へ、ずーっと」

魔力に強く反応する鎚のお陰もあり、流れが見えた。
但し此方は、形を成して現れたモノの魔力ではなく、そのトラップが未だ複数の壁面に秘められている事と――
罠を稼働させる、或いは制御する魔力の”流れ”が。壁を走って何処かに続いているという事だ。

影時 > 「今は確かに、全く以てその通り、だ。……無理矢理帰れなくもないだけ、まーだ救いじゃああるが……」

呼べば来るかもしれない――とはいえ、そういう風に扱うべきではあるまい。苦笑と共に現実と向き合う。
最終手段と言うと大仰だが、帰る手段はある。自分の魔法の雑嚢(カバン)に与えられたポータル能力。
それを使えば、この場から脱すること自体は容易だが、こじつけやら事後処理的等、諸処の色々な問題が生じてしまう。
何を以てするのが、最善か、最良か。無理くり進むのは得策、正しい選択とは言えない。
往復路ならぬ復路を記録(マッピング)しつつ、下層ならぬ上層への階段を探す。これに尽きよう。

「そうなんだよなァ。――長い年月を耐えうるのは、紙、よりも、石、とは聞くがね。
 紙にも色々あるが物体的な安心感だけを言うなら、石だが……あー、いや、これも此れで一長一短か。
 
 ははは、その辺りはフィリ。俺も含めて割とあるある、だぞぅ?ガタやら歪みやらきて……生き埋めは流石に勘弁蒙りたいが」
 
不変を突き詰めると硬く重い媒体になる――というのも、それはそれで時代を逆行している気もしなくもない。
王国に至るまでの間、各地を見てきた。紙による記録だけではなく、粘土板を引っかいての記述、というのもまた記憶にある。
砕いたタイルで色彩豊かな壁画という例も確かにあるが、自在な書き込み、書き換えとするには程遠い。
読み書き、書き換えの問題を考えると、此れはもう永遠の探求にすら繋がるだろう。
さて、この遺跡はそんな書き換え――改変に耐えうる施設であるや否や?
それを追求するには道具も何もかもが足りない。ただ、想定され得る最悪のケース、崩落による生き埋めだけは避けたい。

「そうだな。何にしろここを起点にしてから、とするか。
 上をちょっとマシにした具合だな。水が沁み出てる処は在ったが、自然の洞窟に手を加えたような塩梅だった、とは聞く……と」
 
会釈する少女のさまを見ていれば、二匹も頷くように返し、それを見ながら水晶飾りを雑嚢の中に仕舞う。
ふっと風が消えれば、肌に触れるのは乾いている――といった遺跡内部の大気、環境の変化。
清潔的過ぎるまでにからりと乾くようなそれは、砂塵の国もかくや、と思う程。喉も乾いてくるかのような印象がある。
正にそれを告げる、証明するかの如く、砂像じみた敵が壁面の石組みの隙間から沁み出す。
その有様は成る程――確かに厄介。毛玉の目と鼻も借りたくなる程、全周の警戒を怠れなくなる。

だが。良いこともある。……斬れば滅ぼせる。其れが為せてこそ、上級にも踏み込みうる冒険者と言えるもので。

「……生き物斬ってるような感じじゃァないな。精霊、ってぇよりは、霊魂の類でも滅したような感じだな……。
 
 あー、さっきの湧き方考えたらあり得るよなぁ。……と。フィリ。
 ……俺から見て前方。5歩程進んだ先の、右手の壁。そいつをな。魔槌で思いっきりブッ叩いて、魔力を吸ってみろ」
 
大挙したらどうなるかはさておき、斬った具合は矢張り生き物ではない。
砂を依り代にした精霊体か、或いは霊魂か。そんな実態があやふやなものであった。
右手に提げる刀を軽く振って鞘に収めつつ、響く少女の声に頷きながら、両肩に乗ってくる毛玉と一緒に首を捻る。考える。
そうして右手を近くの壁に慎重に触れ、氣を――流す。微妙な流動と反発具合を確かめながら、奇妙にその反応が失せる処を見出せる。
それを口頭で示しつつ、少女にちょっとしたお願い、仕事を頼んでみようか。
魔力仕掛けで作動している仕掛けがあれば、件の槌はそれを破壊できる。

実行すればどかどかと、前方で壁に埋め込まれた仕掛け弓のトラップ、落とし天井といったものが暴発し、その先の壁面が、ごかっ、と。
倒れ込むようにぽっかりと侵入口を作りだす。

フィリ > 「――取り敢ぇず。帰る手段が未だ残ってぃる――とぃぅ点につきましては。
油断はぃたしませんが、少しだけ安心出来る…と、思われまして。……はぃ、間違ぃなく使ぇますかと。
この階層だけ一切の魔術が遮断されるだとか、そぅぃぅ意地悪は無ぃよぅですし――」

場合によっては、そんな迷宮も有るという。一切の魔力が流れず通らず、用いられず。探索するなら腕っぷしを求められる場所。
件の背嚢や鞄は大変に便利な代物であるものの、その利便性に頼ってんじゃねぇされてしまえばどうしようもない。
それこそ何時ぞや考えた通り――魔力を遮断されたポータル自体が、罠より危険な事態を招きかねないのである。
さてさて、幸いこの階層には。そんな術者の天敵じみた仕掛けは施されていないようである。
寧ろ砂の魔物を構築してくる、目に見えない魔術的トラップが多数存在しているので。その為にも魔力は潤沢に存在しているに違いない。
となると逐一手書きで迷路の地図を記していくよりは。紙面上に足跡を記憶してくれる術具を起動してしまおうか。
その間にもまた次の魔物が現れる可能性はあるものの――順繰りの出現でしかないのなら、彼一人でどうとでもなるのだろうし。

「元来生き物となると、焼き加減次第で骨すら残らないものなのですがー…それも時に。
石になった大昔の骨とぃぅのが、ちょくちょく掘り出されるモノでして、はぃ。
実をぃぃますと学術的な価値もさる事ながら、古の骨――化石とぃぅのですが、生物によっては魔具の素材にも成り得ますので。
こぅした所で見付けられるよぅでしたら、ぅちのぉ店の方にも持ち込んでぃただければと―― ん、っぐ、んんっ。流石にこんな人工的な層には、無さそぅ…なのです。

で、それがその…得てして。古ぃ地層に長ぃ事埋もれてぃる内に変質する物でして。
我々も埋まって、ニンゲンの化石として遠ぃ未来に掘り出されるとぃぅのは――確かに。ぞっとしませんし、遠慮したぃ物…かと思われます」

何なら昔々は他にも色々、例えば貨幣だって石で出来ていたのである。
まぁ金額とサイズが比例して、最終的には巨大なソレをゴロゴロ転がしていた…とまでいくと。流石に後世の作り話臭いのだが。
生き物だって年月とその状態によっては。魔眼に見つめられたりせずとも石になる。
それが魔物や、自分達竜であれば特別な代物となるし。普通に石化した物も、油以上の燃料となったりするという。
とはいえ漬物のようにお手軽な代物ではなく。偶然の積み重ねと、何千年、何万年…それだけ長い事埋めた侭にしておく必要があるのだが。
もし今回此処で崩落を起こしてしまったら、自分達がそうなるのか。はたまた構造改変に巻き込まれ、存在毎無かった事になりかねないのか。
真っ当な大往生とは到底言えぬ最後を一つでも想像してしまうと――出来ればそうはなりたくないなぁ、と誰しも思う。
小市民的で常識的な。だがこれも立派な生存本能だろう。

「――…どぅやら。…じっくり体験談を静聴させてぃただく暇は、無さそうでして―― 残念至極なのですが。
ともぁれそのぉ話とは似ても似付かなぃとぃぅのは、確かとぃぃますか…これはこれで。ぁまりイメージが宜しくなぃとぃぃますか…
何だか。何だかその、小耳に挟んだ事のぁる――南の方の墳墓めぃてぃるようで」

ざら、ざら、と。形を失った砂が崩れていくだけでなく。少しずつ少しずつ砂その物が増えつつある…そんな気がする。
水に溺れるのも勘弁願いたいものの。砂に埋もれるのも同じ位苦しそうだし、同じ位遠慮したい。
何となく彼と同じように、遠い熱砂の国を、その地に伝わる遺跡を。…其処に付き纏う曰くやら怪談やら、を。思い浮かべてしまおうか。
実際何処かのお偉いさんが埋葬されているのだろうか。だとしたらそのヒトは、何処からこの遺跡に湧いてくるのだろうか。
太古の墓が迷宮内に作り上げられたのを起点として、葬られたという歴史が、嘗て存在していたという事実が、逆転的に現実を歪め発生するのだろうか。
なかなかに突拍子もない想像が湧いてくるのだが――それと同時にいつ次の魔物が湧いてもおかしくない事を考えたなら。
先ずは速やかに移動を開始してしまった方が良いのだろう。
次の階層は此処よりマシなのか、更に危険なのか、どちらかは判らないものの――取り敢えず。また劇的な変化を見せるのだろうから。

斯くしてちょちょいと元魔物であった砂の塊を回避して大回りしつつ、引き続き彼の後方へ。
今し方起動した筆記(魔導)具が手元に浮いて、拡げた紙面に二人の第一歩を書き記し――ものの数歩も行かぬ内に急停止。
どうやら何かを発見したらしく。出来るだけ触れない方が良い、と言っていた壁面に彼の方から触れていたかと思いきや。

「っぁ、ー…ぉー。其処まで詳しく看られてしまぅと。私がますます、やる事なくなってしまぅのです、がー…はぃ、これは。
これは改めて氣の概念と魔力の共通性を、深く感じられる訳でして―― …っと。此方を、それでは――」

半竜の瞳がとっぷり観察して見出した魔力の道筋を。彼も彼でばっちり把握してみせる様子に。大いに自信が失せそうである。
とはいえ元からボーダーラインの低い自己肯定感が下がり続けるよりも、学術的な興味と関心の盛り上がる方が先。
似て非なる氣と魔力との間で、エコーの如く反発が生じるという現象に目を見張り。次いで、言われてみると氣の塊である分身に、魔鎚は有効だったものな、という納得。
――そう。少女の得物。誰が何処からどう見ても不釣り合いな、仰々しい細工の施された戦鎚は。魔力の天敵なのである。
言われた通りの場所に対して、とぉぅ、と気の抜けそうなかけ声と共にぶつけられた鎚の竜頭は、さながら血流を奪いその先の器官を壊死させるかの如く…
魔力によって準備されていた仕掛けがそれを失い、弓を引いておく力や天井を吊っておく力が失せて、ぐだぐだに自壊する。
序でに動く壁を押さえておく力も抜けてしまったのだろう。視覚的には壁面にしか見えなかった一角が崩れ、薄暗い入口が剥き出しになる。
ぉぉー、と自分で自分のやった行為の結果に、感歎めいた声を挙げつつ彼の方へと振り返り。

「これは、その…もしかして。もしかすると、はぃ、見付けてしまったのでしょぅか。
手順通りに迷路を辿るのではなくて、ズルの近道とぃぅ物を」

影時 > 「はっはっは。言い訳は出来なくもないが……そうだな。
 トゥルネソル商会で購入した緊急帰還用の転移の巻物(スクロール)を使った、事前設定された行先はトゥルネソル家のお屋敷、とか。
 そこまで詰められねェとは思うが、せめてもう少し成果は上げておきてぇところではある。
 
 ……魔術禁止、空間封鎖領域、とか当たった日には最悪だなー……」
 
あるところにはある。魔術の出力、行使を封じる危険地帯。更には空間を飛び越える術式に干渉する特殊エリア。
知っていれば準備もするし心掛けもする。マジックアイテムの利便性にかまけていたら、命取りになるなんて目も当てられない。
とは言え、今回の突発事態はそこまで致命的ではない。比較的まだマシ、の方だ。
詰まりはあれこれとした言い訳をも已む無しと脱出ポータルを使う必要もない、というわけだ。
何か面白いものを起動する様相に、頼む、と腰のポーチから地図の束を託そう。自動で書き込んでくれるなら其方の方が楽でいい。

「あ、聞いた事があるな。……只の骨じゃあなく、魔獣幻獣、ないし知的な生き物の遺骸に宿る想念が云々のそれだろう?
 心得た、と云いたい処だが、なっかなかお目に掛からんのが実情なんだよなァ。はたまた俺の運が悪いのか。
 
 ――万一俺達が埋もれて誰かが掘りだすなら、……止めだ止めだ。こればっかりは考えてもいまいちロクなのが浮かばん」
 
確か、と思い出すことはある。冒険者ギルドでもたまに見かける。化石を魔術的価値のあるモノとして買い上げる旨の貼り紙。
小遣い稼ぎ的に竜の化石――風化し切った石屑めいたものを納めて、小金を得ている例も時たま見た。
それが何が意味があるのか?と思えば、聖人の遺骨、遺骸の断片に例えると理解は容易。有難がるワケである。
仮に自分がそうして死んだ後の遺骸には、価値でも付くのか否か。想像すると……色々と面倒臭いことになりそうだ。
真っ当に死ねる気がしないのもさることながら、同じ死ぬならせめて義務を果たしてからだ、だ。
家庭教師としての義務を。それと飼い主としての義務を。ちら、ちら、と。少女と肩上の二匹を交互に見やり、改めて思う。

「……だな。そこらの話はまぁ、改めて、として、だ。
 ――砂という手合いを思えばそんな気がするな。生憎、噂に聞く金字塔(ぴらみっど)とやらはお目にかかったこたぁないが。
 さっき斬った奴の在り方は、遺灰に宿る悪霊のそれにも近かった。霊は霊でも精霊寄りかもしれん。
 
 改めて言うまでもないが、上を目指すぞ。こうなっている以上……長居は避けたい」

これは此れで厄介だ……とも。ぽつと零しつつ、先刻斬り滅ぼしたものを思う。
魔法や特殊技能等なしに、普通に戦うのは無理だろう。魔術魔法もかかってない刃を、砂の体躯は素通りさせることだろう。
遥か南方の墳墓のそれそのままか、あるいは模した、インスパイアした云々、といった所か。
或いはそのまま墳墓の一層を持ってきたのかもしれない。かくも変遷、改変を経ていると更なる深部もどうなることだか分かったものではない。
砂の塊のサンプルは、取るのは止めておこう。宿ったものを倒した以上は“ただのすな”でしかないのだろう。
ひと固まりの砂をよけつつ、肩上と二匹と後ろの一人と伴って注意深く前に。深く踏み出す前に、先に軽く壁に触れて念を凝らす。

「そうでもねぇぞう? 偶々氣の通りと返りが良かっただけだ。
 此の程度で暴発する罠なら何かと手間が省けるし、二重で確認が出来るなら確度も上がる。悪いことじゃあない。
 ――ああ。遠慮なしに、な?こればっかりは、間違いなくフィリにしか出来ねぇコトだ」
 
この手の探索、触診でも先を行く。偶々うまく行った方だ。
地中の龍脈、深いチカラの流れを探るのと同じことではあるが、地表に近いかどうかにも左右される。その点、ここはまだ素直な方だ。
内部構造の改変に魔力的な作用、ギミックが介在している可能性も、ありうる。
それならば、少女のエモノが役に立つ。どう見ても不釣り合いでしかない白銀の魔槌は、男が有する魔力喰らいの短刀の上位互換、その最上級である。
最上級の所以こそが、気の抜けた掛け声で繰り出される殴打によって証明される。
ずごごごご……と恐ろしい音の連打、連発、暴発。迂闊に其処に居れば矢で針鼠になり、落ちる天井で床のシミになっていたこと請け合い。
おみごとおみごと。「!」と尻尾を立てる肩上の毛玉を横目にしつつ、ぱちぱちと拍手を鳴らして。

「そういうこともありうる、だなァ。
 ……魔術で隠蔽、封印された扉をぶち破るなら、フィリ。お前さんの鎚は何よりもおあつらえ向きだ。
 迷路の近道を作るにも、ヒミツの小部屋を暴くにも、だ。……さて」
 
これは間違いない。自分には出来ないことである。仕掛けを見抜くことが出来ても、解除できないなら意味が無い。
だが、それが魔力魔術に依存するものなら、少女の魔槌こそがその天敵となりうる。
飼い主の気配を感じてか、もふっと襟巻の中に潜る毛玉達を確かめ、改めてそろそろと進む。
開けた入口の向こうは――隠し部屋。その向こうに横たわる静寂を感じつつ、慎重に侵入を果たす。
造りはまさに、かの墳墓にありそうな石造の部屋。棺桶を置くのにおあつらえ向きな、風呂じみた区切りと。宝箱と。

フィリ > 「逆方面の最悪が有るとしましたら――転移先まで、割り出されて、割り込まれる事等でしょぅか。
……っぁー……まぁその場合は寧ろ。先方にとっての方が余程不幸とぃぅ気もする――のですが。はぃ。
ともぁれ何れも今は大丈夫です、かと。序でに多少の取得物は放り込める、と考ぇますと。それもそれで気が楽になりましてー…願わくば。
願わくばマッピング以外にも何かしら。発見出来ると、私的には胸も空くとぃぅものなのですが」

先程えらい目に遭った分。せめてマジックアイテムだとか、古の某だとか。一つ二つは迷宮らしく配置しておいて欲しいものである。
引き摺っても運べないような代物だって、自分達の身柄同様、お屋敷の倉庫に飛ばす事が出来る筈だから。
…ふと考えたのが、魔物達によって追い詰められて転移した際に。捌ききれず魔物達まで転移してきてしまうという、ホラー物パニック物のお約束だが。
トゥルネソルのお屋敷、それ即ち正真正銘竜の巣、である。家人に被害が及びかねないだとかではなく、王都内で怪獣大戦争が勃発するのでは――と心配するべきだろう。
どうかどうか。迷宮の魔物諸氏も、我が身が惜しければ。特攻めいた真似はしないで欲しいものである。

「はぃ。元の在り方を記憶してぉり――形や動きをギミックとして、武器に組み込まれる事も有れば。
文字通りの念や魔力が今も残っているのなら。優秀な法具の触媒等にもなりまして…多分。此方にも、用ぃられてぉりますかと。
…実際滅多な事ではぉ目に掛からなぃと言ぃますか。基本地の底に埋没してぃる物ですから、山崩れ等の痕からに掘り当てられるとか…
それこそ、こうして迷宮の深い所まで下ってくるなどの必要がぁると。思われるのです。

……はぃ。サンドイッチのハムも勘弁ですし、ましてや地面と地面の隙間等となりますと…とてもではぁりませんが。
重たくて埃っぽくて土臭くて、長ぃ事耐ぇられるとは思ぇません」

埋もれた骨に、何かしら念が残るのか否かは――寧ろ逆に。モノに宿せるのなら、況やオリジナルの肉体ならば、という物だ。
而して怨念でも何でも、早ければ四十九日で昇天して気化するし、長い年月残っていても、元の侭では居られない――摩耗し劣化していく物だ。
例え生前には聖人として崇められた筈のものですら、怨念と執念しか残さなければ、どれだけ変質してしまうか…先程思い出したのが良い例だろう。
だからこそ、消えてもおかしくないそれを、遺骨の形状と同じくはっきり残している物であればある程…希少価値が見出される。
強靱な竜の骨等が、そっくりその侭得物を形作るだとか。謂わば術式の刻まれた媒体として、琥珀のように魔具の装飾となったりだとか。

実際――自分達が埋もれたら、云々。間違い無く即死に違い無い筈なのに、埋もれた後を憂えて溜息を着く辺り。
想念だか怨念だかになって残るつもりが満々であるらしいのは、意外な図太さ――なのかもしれない。
一方でサンドイッチ云々は俗に言う、トラップに押し潰される事へのお約束めいた皮肉だが。幸い自分達はハムの如く平べったくなる心配はなさそうだ。
役目を果たすまで待つ事が出来ず、虚しく力尽きて落下した吊り天井達。
それを為した魔鎚の竜頭に宿るのも、きっと。何かしら古代の大魔に属する遺物ではなかったか。

「はぃ。私も大変興味の有る遺構なのですが。流石に其処まで遠く旅するとぃぃますのは……ぇぇと。大変に憚られる物が御座ぃまして。
それに実物の危険度とぃぅ物も、きっと。今の此処と同じかそれ以上かもしれなぃ――と。思われますし。
――砂…でぁる事は確かですし、内在的な怨念めぃた物も残ってぉりませんし…一先ず先程の存在は。はぃ、砂霊とでも表せば宜しぃのかと。
土や泥が俗に言ぅゴーレムだとかになりますし、砂や岩でも往々にして、そぅした依り代は作りぇると――わ、ゎ、はぃ。そのはぃ…っ」

引き籠もり脱却後、ようやく口と手と脚とを全部同時に動かせるようになってきた少女である。
それでもうっかり会話に熱が入り過ぎると、運動に必要な熱エネルギーが、大半首から上で消費されがちになるだろうから。
適度な所で先へ進む事を促されるのは、この場の安全を考えたなら必須事項という奴なのだった。
少女の方も話題を変える契機に恵まれたというか。託された役割が上手い事行った事に、差程顔に出さないようでいて、その実結構満足いっている為に。
今はその成果として、無効化されたトラップの先。新たに生じた抜け道に待つ物へ。意識の移っていくのが幸いだろう。
無駄に消費されてしまった罠達の隙間を通り抜けていく合間。足元に絡み付くように、幾つかの砂の塊も。壁の隙間から流れ出してくる。
きっと本来であれば悪意有る精霊達の器となって、またぞろヒトガタを無し襲い掛かってくる筈の物…だったに違い無い。
前回彼の使い魔たる第三の毛玉が魔鎚に触れたら、どんな事になってしまうのか。あれこれ警戒し用心すると決めたものだが。
実際こうして、魔力の載らなくなった砂の有り様を見ていれば…改めて。その危険さも実感して貰える筈である。

さて。よいしょ、と鎚を持ち上げる声音の方も随分軽く…だが実際、所有者たる少女にとってだけは。そんな風に軽く感じてしまう代物なので仕方ない。
引き摺って歩いてもおかしくない物を、バスケットに載せた花束かワインボトルか、といった軽々として手付きで両手にぶら下げ扉を潜れば――

「 ………近道――ではなぃよぅで。…ぇぇと、物件の権利者等が待ってぉられる等ですと、怒られそぅに思われますが…
これは。これは、どうやら、……ぅーん…? それらしぃ方の姿はなぃと思われ――」

暗室。いや、玄室という方なのではないか。お互い話でしかしらない、ぴらみっど、という施設に存在する…そう聞かされているような。
とはいえ実際に玄室だというのなら、その為に必須となる要素――埋葬された御仁の姿は何処にもない。
棺桶が在って然るべきスペースこそあるものの、其処はこれから置かれる物を待つかのように真っ新な空間でしかなく。
少なくとも古く朽ち果てた怨念の残滓…のような物も感じないのだった。

とはいえ。もう一つお約束の付き物として王の財宝が在るというのなら。
ひょっとすればひょっとして、これがそうなのではないかしらん、と想起させるように。
棺桶無き空間に程近く、宝箱がぽつねんと置かれているのだった。
そろりと彼の方に目を向けてみせる。…宝箱が在るのなら、開けてみるべきだと言わんばかり。
勿論これだけ厳重に隠されている場所だから、罠についても多いに警戒し。彼でなければ開けるべきではない…とも言わんばかり。

影時 > 「おおこわい。有り得るとすりゃあ、余程の厄ネタの具現者だろうなぁ。……行き先があのお屋敷でなけりゃあ、だが。
 普段通りにいけるならそれが一番だ。諸々縛られる域ってのは、余程のことだぞ?ン?
 こうも面倒が過ぎると、せめて何かとか在ってほしいもんだ。後は……否、俺よりもフィリとこいつらの運に賭けるか」
 
改変、変遷が起こるなら、一つだけマシと云えることもなくもない。
宝箱の再配置がほぼ間違いなく生じているであろう、という経験則に基づく想定が出来る。
もし宝箱に押し込められているものが、易く持ち帰れないデカブツであったとしても、自分達なら魔法の倉庫に放り込める。
少女が口にする想定が有り得ないとは言い切れないが、存外――と思う程のものが、かのお屋敷にはある。
万一が起こった日には、とは、うん。考えないでおこう!そう思いつつ、襟巻の中と少女の方を見よう。
良いものがあれば、いい。己が欲張ってしまうとろくなことにならない。運的な恃みもちょっとだけ願いつつ。

「……魔槌ならば間違いなく、というかその物を鍛えたと云っても過言じゃあない代物だからなあ。
 仕掛け(ぎみっく)頼みはちと性に合わんが、合うべくして遭った使い手にあるなら、まさに脅威となろうよ。
 迷宮遺跡の成り立ちにもよる、な。深い地層をぶち抜くように出来て、地上じゃ見ねぇものが蔓延っているなら……あるかも、な。
 
 しかし全く、肉挟みパンの具扱いになるのも願い下げだ。……騒ぐな騒ぐな、きっちしかっちり無事に帰るまでが冒険だろう?」
 
魔槌もまた、その手の系統そのものか延長上にある。
死した魔王の骸――魔王に変業した大地の精霊体が討たれ、砕かれた動く鉱物同然の骸を精製加工し、鍛えた代物。
精製過程で怨念めいた想念は絞り出されているものの、魔力を吸い上げ、蓄える生態が色濃く残った。その作用を活用しているのだから。
全く同類か親戚めいた代物を変わりもの武器として携える手合いも偶に見るが、そこまで尖った代物は扱い辛い。
自分にはこれで十二分過ぎる、と。意識すればかちゃりと揺れるような腰の得物の重さを感じつつ、少女の話に改めて心に留める。
偶にはその手のものを意識しつつ、探してみるのも一興。その為にも先ずは、無事に帰らなければなるまい。
落盤はまだしも、釣り天井の下敷きになるような死に方ばかりはごめんだ。毛玉達もそんなのはやっぱり願い下げらしい。
じったばったと波打ち跳ねる襟巻の中身を宥めつつ、そうならないように無効化した罠の群れを見遣り。

「ふむ。――纏めて休みを取れる時でもありゃあ、考えてみるかねェ。……難度はここよりも厳しそうだが、な。
 ぁぁ、フィリもそう感じたか。怨の気配はほぼ感じない。それであれなら、成る程砂霊。言い得て妙だ。
 
 霊を乗せて、篭めた砂塵を操る。水に霊を乗せて操るとかにも似る、か?
 土遁の応用で砂弄りってぇのも、なくはないが、此れは此れでより上手く使える奴にこそ研究を託したくなるなぁ……」
 
口手足がちゃんと同期するようになっても、思考が先立つのは仕方がない。それもまた個性である。
自分達の在り方はそうした思考、熟慮を以て成るのなら、無理くり弄り回すよりも程々に茶々を入れる位が程よい。
いずれ南方の現物でも見られれば、とも思うが、それは先の先、いつかやってみたいことの夢想に置きつつ見たものを吟味する。
忍術で再現できるかどうか、手持ちで近似のものがないかどうかを過らせ、吐息を以て振り払う。
先ずは先行して、脅威の確認、判定、同時に排除だ。発見した空間に侵入しかけたところで爪先が重いのは、滑らかな砂の堆積による。
下手に進行していたら、此れがまた扉の隙間から滲み出ていた、と思うとぞっとしない。

「……残念だが、……地図だか案内板でもありゃぁ、とは思うが――流石に無理な相談かねェ。
 怒ろうが怒るまいが、俺達を侵入させた以上でご生憎様って奴よ。
 とりあえず、御開帳と行くか。ヒテンとスクナは悪いがフィリの処で待っていろ。な?」
 
隠し扉の向こうは――玄室。広間のように広くない。どちらかと云えば個室、という云い方がしっくりくる。
衛兵の待機室、自室、という見立て方もできなくもないが、どうしたって殺風景が過ぎる。
案内板でもあれば、とは思うがそんな気の利いたものはなく、砂霊の依り代の残骸たる砂に埋もれた宝箱ばかりは大き目で其処に在る。
魔術的な監視もあるかもしれないが、それも先程の魔槌の一発で破壊されてよう。であれば、今のうちに開けるべきだろう。
飼い主の声に、ひょこと顔を出す二匹の毛玉が、少女の肩と頭上に飛び移る。
守りは完璧!とばかりに頭にモモンガ、肩にシマリスが陣取って前足を見せる中、男は頷き宝箱の前に屈む――。

【判定:1d100+0⇒100が出れば発見物指定可能】
[1d100+0→74+(+0)=74]
影時 > 【形状判定(2d8+0)⇒1:剣/刀 2:短剣/短刀 3:槍/斧 4:打撃 5:射撃 6:棒/杖 7:本 8:アクセサリ類】 [2d8+0→1+6+(+0)=7]
影時 > 【品質判定(2d6+0)⇒1:良品(普通) 2・4:高級品(業物)3・5:最高級品(大業物) 6:マジックアイテム/魔導機械】 [2d6+0→4+6+(+0)=10]
影時 > 装束の隠しから鍵開け道具をまとめた布束を出し、慣れた手つきで広げる。
鍵穴と宝箱――長持めいた大きさの全体をよくよく見まわし、外観的な違和感の有無を改めた上で鍵を外しにかかる。
この手のオブジェクトの常で、大体罠がある、仕込まれているのは必至。
ピックを突っ込んだ先に感じる微かな違和感は、何か厄介な何かを引き起こすものに繋がっているかもしれない。
そう思いながら、……かちり。響いた音は無事に罠を解除し、蓋の鍵を解放できたことを示す手応え。

「……どーれ、と…………ん、ん?」

開けば、見えてくるのは、大物が二つ。後、古い金銀貨が幾つか。
だが、武器らしい何かが靄がかって見えるのは気のせいだろうか。剣か刀か、そして棒か杖と云えるもの。
多分片方は、奇妙なチカラか何かが宿っている。或いは魔導機械の類であろうか。

フィリ > 「はぃ、物理的にねじ込んでくるにしろ、術式に介入してくるにしろ――そぅ出来るだけの、怖い魔物とぃぅ事になりますが。
だからこそ戦ぃがとぃぅか、大喧嘩が成立してしまぅのかもしれなぃ、と考ぇますと……ぅぅ、ぬぬ、ご近所に、どれだけご迷惑が掛かるのかと。
一先ずリスクはぁれこれ了解ぃたしましたので、はぃ、そろそろリターンの方にも期待したくなる――と言ぃますか。
私も別に運が良ぃ訳ではなぃと思ぅますが――先程、文字通り底まで落ちた訳ですし。上がってくれても良ぃんじゃないかなぁ、とはー――」

そう、罠も魔物も生えてくるのだ。宝物だってきっと生えてくる筈だ。
勿論木にぶら下がっている等という訳ではないが、さも「古から此処に在りましたが?」と言わんばかりの宝箱が、日々迷宮の何処かに現れているのだと思う。
先程から、叶って欲しくないマイナス方面の思考ばかりに偏っている気もする事だし、これだけ地の底水の底砂の底まできた訳だし。
好い加減あらゆる意味で上方修正が来ないと、世の中の不公平をひしひしと感じてしまうではないか。
なので寧ろこちらの運に関しては高さではなく。低きに失した故の逆転にこそ期待して欲しいと。果たして自信と言って良いのかどうか。

――さて先ずは第一段階として。踏み込んだその室内に、未だ起動している罠は存在しなかった。
恐らく本来なら先程のような動く砂の魔物が、大挙してひしめき合っていたのだろうが。
魔鎚の効果は壁面を通して室内にも及び…どっぷり膝下まで埋もれる位の砂に戻り、体積しているのみだった。
次に――宝でございと主張する、立派な容れ物。探索の醍醐味の一つに違い無い宝箱が、その部屋には安置されていた。
つい先日から、この階層自体が趣の変わったばかりである事からしても。自分達が最初の侵入者で間違い無いのだろう。
これで、後は心配があるとすれば、それは――中身を確かめるには、鍵を開けた先駆者の居ないその箱を。無事解錠出来るか否か、という事だ。

「ぁる意味。爪や牙を研ぃで加工した、とぃぅのでしたら。往々にして昔から存在してぃる物ですし――その、より進んだ形とも。言ぇるでしょぅか。
生物の特性は、硬さや鋭さだけでなく――存在するだけで魔術的機能を持つ物もぉりますし。自然への作用が死して尚残る物もぃる、と。伺ってぉりまして。
――実際なかなか難しく…逆に高ぃ山の方が。自然の地殻変動の影響がぁりますから、目撃例も存在してぃたり。
或いは、本当に。偶然や奇跡や――何かしらの意図が存在するのなら。この迷宮にこそ、可能性を見出せるのかもしれなぃ――のです、はぃ」

魔物。精霊。神獣。亜神。そういった存在は死して尚力を残す。その力だけでも大いなる威に繋がる。
火蜥蜴の鱗を活用すれば炎に強い防具が作れるだとか、霊鳥の羽を飾れば風に親しむ事が出来るだとか。
それこそこの魔鎚など代表例だし、他にも彼が今まで発見してきた数多の宝にも、古来の誰かがそうした力を残して作った武具が在った…かもしれない。
但し今も野生に見受けられる生物と違い。古く…否、旧くに存在した大物ともなれば。発見が容易でないのは明らかだ。
…もしかすれば。誰も識らない未知の発見を夢見て、迷宮に挑む者達の中には。そんな大いなるナニカが遺した物、存在した証、に。想いを馳せる者も居る…かもしれない。
商売目線の抜けきらない少女と違い、それこそ夢見る少年の心のその侭、大人になったかのような誰か等が。

「っわ、わ、此方で。 …此方でぉ預かりぃたしますので。精密作業になるかもしれませんし、振動厳禁と思われまして…っ。

――…むむ、ぅ…実際問題。それだけ遠くに赴くとなると、例えば…学院の夏休み一杯使っても、足りなぃのではとぃぅ問題も――
ぁぁぃぇ。ラファルちゃん様が変じて、空を飛んでぃだければ…ぃゃ、それでは旅の風情もへったくれもなくなってしまぃますし――これは悩ましぃ問題かと。
……そぅして足で移動しよぅと考えたら、やはり、砂漠の危険とぃぅのは。私に想像出来るよりもずっと――大きな物なのでしょぅか。
それこそ、先程のよぅな存在にも、存外ばったり出会すのかも、ですしー…  ぅぅ、ん?
笠木様でしたら別に、砂でどぅこぅする必要もなく。ご自身の力だけで作り上げられるのでは…?」

少女のあれこれ良くない想像が、二匹にも伝染したらしい…暴れ始めた彼等のせいで、襟巻が引っ張られ首の絞まるような事があっては一大事だ。
これから解錠に取り掛かる彼の作業を妨害しないよう。両腕を拡げてみせ、二匹に対してばっちこい、の構え。
それぞれ左右の肩へと乗り上げてくる重みに、軽く腰が沈みつつ…しゃがみ込む彼の背と。その向こうの宝箱を覗き込む。
必要な道具を取り出し揃える準備中は、まだ。言葉を交わしていても大丈夫だろう。
南方への見聞に焦がれてみたり、実際旅行するならどうして移動する事になるか、を考えてみたり。
後は砂を活用した忍術という取っ掛かりで、先程のように姿を模るのかと。そんな勘違いをしてみたり。
一応その間も。何かしら魔力の流れが新たに沸き上がる等の変化が生じる事は無いのか、と。察知だけは続けているものの――やはり鎚の影響が強いのだろう。
元来在るべき自然な力の流れに関しても。暫く戻って来る事はなさそうな…良くも悪くも、完全な空白状態が。室内に横たわっていた。

「箱の中身を検めましたら――その後にでも、もぅ少し部屋を見て回れば。何かしら記されているもの等が在る…かもしれませんので。
時間がぁれば、はぃ、調べさせてぃただきたぃのです。
少しでも解読出来そうな文字がぁりましたら、時代の考証も出来ますし。…まぁ迷宮に現れた紛い物、だとしても。何かしら元になった記憶だとか…気になるのです」

守るべき宝と守ろうとする罠が在った。葬られている者は最初から居ないのか、連れられて来なかったのか、何れにせよ。
調べて判る物が在るのなら、発見したくなるのが。偏執気質の性という奴である。
先ずはこの箱自体についても―― ぐ、と。彼の背に吐息が触れる程、少女の気配が近付いたのは。
興味深げに覗き込んだのもさる事ながら。合わせて二匹の先輩も肩の上と、片方が頭に登った上で同じく覗き込もうとする為に。
一人と二匹の重みによって体幹が崩れる寸前で、今にもつんのめりそうになっているから――だろう。

幸い前へと雪崩れて倒れるその前に。思っていたよりも素直に鍵の開いた音。
そもそもこの宝にとって最大の護りは、罠よりも。部屋自体が隠されていた事実だったのだろう。
果たして収められていた中身はどうやら。少女にも判る位に見事な、どこかぬらつくような黄金色の、異国の刀が一振りと――

「    にょぅあ っ !? 」

悲鳴が挙がった…正確には悲鳴と紛う位に素っ頓狂な声を挙げた。それこそ少女の頭に乗っかったモモンガが思わず飛び上がり、その侭滑空して本来の居場所、襟巻に戻る位。
それはもう一つ収められていた品物。武器と見なすには細く脆そうな短杖だが、先端に嵌った宝玉にこそ、少女の意識を取られる物が在った様子。

「これ、っ、先程ぉ話しました――こぅぃった物も正しく、太古の証とぃぅ代物でして――っ。
寧ろ完全に密閉され大気からも遮断される分保存状態も大変に宜しく従って本来の生態を窺ぇると言ぃますか…
ぃぇそれをこぅして配した制作者の意図を考ぇずには居られなぃのですひょっとしたらこの生物にも特筆すべき異能が一つや二つ――」

もし此処がもう少し明るかったら。普段伏しがちな少女の瞳が爛々と輝いて見えた事だろう。
彼を含む余程身近な者と位しかマトモに喋れないのだが、今は逆に息を挟む事さえ忘れ気味でしゃべくり倒す。
――それは、宝石として見れば決して価値が高い方ではない、琥珀でしかなかったが…忘れてはいけない。これもまた古の生物から形作られた物なのだ。
そして少女に火を点けたのは、その透き通った色合いの中に鋏脚に節足、毒の針――砂の国でなければ見られない、蠍が封じられていた事である。
その侭石になるよりも遙かに、それこそ生きた侭閉じ込められたまま――今だって生きているかもしれない、そんな錯覚させ抱かせる保存状態の良さは。
石自体に着くだろう希少価値もさる事ながら、それ以上に学術的価値も計り知れない物となりそうだ。

フィリ >  ―― …… ざ ら。

興奮しきった少女は、だから気が付かないだろう。それを手にした瞬間からまた、迷宮の魔力がざわめきだす事に。

…忘れてはいけない。王国ではなく、砂漠の地に於いて。蠍は単なる身近な危険生物に留まらず――
毒と癒しという相反する力を司り、砂漠の旅人を守る神の。そして死者の棺を守る、番人たる女神の化身でもあるのだと。