2026/03/07 のログ
影時 > 「ものの本や、おえらい学者様等が云うには、視覚とは人間の認識の五割か八割位は担ってンだったかね確か。
 ……俺のような手合いが跋扈するのは、どうしたって夜が多くなる。否応なく慣らされたものよ。
 
 ――ない、と何分言い切れないのが、恐ろしくもあり説明にも困る処だよなぁ。
 例えば、この遺跡、或いは迷宮が粘土細工のようなものなら、捏ね繰って形を変えるのは容易かろうが、な」
 
少なくとも、多人数を連れてぞろぞろと観光気分でなりうる場所ではない。実地演習にも危険が過ぎる。
人数と面子を厳選し、場所を選び、これ以上は深く潜らないと定めていなければ、無理がある。
いつぞやの未踏破遺跡とは違う、真の意味での死地、危険地帯と化した場所がここにある。
地下第二層とその下を厳密に隔てるものは、というのはこのような大きな環境、異常の変化にこそ他ならない。
様々な不条理を自ずと起こし、許容できる半開放的な自己完結性もある領域だからこそ、内部構造の変化すら起こすのだろう。

――足元を、防水された革を隔てて流れ、淀む水と泥の流動が、岩盤を隔てた下で溜まっているのかどうか等々。
考えるのも馬鹿らしい程すらある。斜め上の異常だって起こっていても、やはりおかしくないのだ。

「紛れてと云うよりは、誰かに召喚(よば)れてきたという説もあるが、な。
 ……全く。光に感応したか?それとも、俺たちが吐く息を嗅ぎつけたか。息を止めながら忍ぶのも試したいが、ちと難しいな」

こんな微光では生きるにも一苦労だろう。そんなセカイに生きる植物は、動物のような獰猛さも必要になる。……らしい。
食虫植物というのも知ってはいるが、そんなものも屁で笑うばかりの獰猛さ、貪欲さを今倒したものに感じた。
何に駆り立てられるか、と考えて、一番強く思うものに下手に忍ぶのも難しそうだと悟りつつ、苦無を戻す。
羽織の裾で付着物を拭えば、腰裏の雑嚢の隠しの鞘に納め、入れ替わるように、ずるり、と。取り出す一本の刀を腰に差す。
目鼻がある植物――というかバケモノもない訳ではない。そんな珍種とは別に熱、特定の気体に反応する。今の敵をそう見立てる。

であれば、己が一人で隠れるのは難しい。

明かりの番をしてくれている少女を囮にする選択は、響く声にぶるぶると肩上で首を振る二匹に噛みつかれそうだ。

「ははは、引火を心配する前に……昏倒しかねねェなあ。取り敢えず、迂闊に降りるなよ?お前ら。
 ……成る程。と、フィリお嬢様。気をつけた方が良い。
 底意地の悪い迷宮とかはな、濡れたくねェとか楽しようという心理を縫ってきやがる」
 
何分、足元が悪いどころではない。下手に地面に降りると溺れそうな有様に二匹に告げつつ、何やらごそごそやる様子を見遣ろう。
じっくり眺めてみたいのは山々だが、何か変な仕掛けが――なくて良かった。
まだこんなところに罠の類までは、仕掛けていないらしい。
しゃがみ込む姿が急に沈むようなギミック音がないことに微かに安堵しつつ、外気の分析状況にふむ、と考える。
火術、火薬、或いは油の類も状況次第では解禁しても、事故を起こすようなことは避けられそうだ。
併せて、地図を確かめ、早速の地形異常と照合しつつ分析を待つ。分析が終われば、前進を再開しよう。

フィリ > 「 ――です、はぃ、それ抜きで戦闘を完遂し得るとぃぅのは――矢張り。どれ程研鑽が必要なのか、私には見当着かなぃ訳でして。
ぁぁその。勿論、忍の本業は、夜の方が多ぃのだろぅなと。其処の所は存じてぃるのですがー…こほん。
は ぁ、どぅにも。どぅにも常識が当て嵌まらなぃ、とぃぅだけでなく。…法則の無ぃ、見当のたて様がなぃと…ぃぅのは。
物凄く、据わりが悪ぃと言ぃますか…ちなみに。ちなみに笠木様が、過去訪れた際には…どのよぅな場所が見られたのでしょぅか」

それこそ。少なくとも、夜の一つや二つで戦い辛くなるような素人が、どれだけ徒党を組んだ所で。決して踏破出来ない場所なのだろう。
いよいよそういった、正真正銘の危険な冒険へと、足を踏み入れたのだという納得は。
悪く言えば不安極まりないし、それ以外で言えるとしたら…一応は。そんな所まで同行を許された、認められたという点だろう。
まぁ勿論戦力に数えられている、と考えるのは烏滸がましいにしろ。絶対駄目、と止められる程ではなくなったという事だ。
…だとすると。やっぱり連れて来なきゃ良かった、等と。師をがっかりさせる訳にはいかないだろう。
彼が蔦の魔物に対処している間に。此方は此方で出来る事を心掛けておこう、そう思い至ったのは。多分にそういう思いきりが有ったからだろうか。
もしくは、下層については結局、どれだけ考えても無駄なのだろうと。
彼が過去にこの辺りを訪れた際の事を話してくれれば、直ぐに思い知ったから――かもしれないが。

「誰かでも何かでも。そぅした意思の介在が有るのでしたら――これまた恐ろしぃ話なので す。
…以前その、はぃ、ダンジョンマスターとでも言ぅ存在が居るとしたら…なんてぉ話ぃたしました、が。
正しく迷宮自体作り変ぇられる程の存在が、確固たる意思や意識を持った”誰か”だと…”何か”ではない”誰か”だと、ぃぅのは。ぞっとしなぃ訳でして。

と―― はぃ、やはり。少なくともこの辺りは、息をしても大丈夫、と。思われます。
一応は水も動ぃてぃるのでしょぅ、寄生虫や嫌気性菌等も、多ぃ訳ではなさそぅでしてー……む むむ ぅ。
それで安心して一息、などつぃてぉりましたら。それがまた何か惹き寄せる…大変に、意地悪ではなぃでしょぅか」

以前何処ぞで、薬湯であれば風呂の水をずっと替えずに使うべき――なぞという風説が存在したが。
どう考えても浴槽等という静止した水では菌の増殖が抑えられないだろう。眉唾な民間療法はこれだから恐ろしい。
…後は皮膚を食い破ってでも血を吸いに来る生き物だとか、傷口から這い込み血管を辿り、脳に到ってそれを喰らう微生物だとか。
直接ぶん殴って退治するような物は彼に任せ、此方は防疫という形で対処出来る物を。今の内に考えていた。
序でに、そうした微生物が確認されていたのなら、多分。必要となる薬も鞄から引っ張り出していた事だろう。

ともあれ幸い――直上で息を吸う事さえ躊躇うような水ではないらしく。
だが、安堵して思いきり息を吐こうとした所で、夏の蚊よろしくソレに寄ってくる魔物も居るかもしれないと脅されて。思わず掌で口元を覆い目を白黒。
恐る恐る視線を左右に巡らすものの…幸い。少なくとも灯りの届く範囲には、二人と二匹以外の動くモノは居なさそうだった。
途中で引っ込んだ息の残りを吐き出し、検査器機を仕舞い込んで立ち上がる。
…立ち上がってから、また。足元を確かめるように、盛り上がった土を爪先で一度、二度蹴ってみる辺り。彼の言葉が引き続き気になっているのだろう。

「――仕掛けを見破るのでしたら、先だっての、ぁのぉ屋敷で行ぃたくもぁるのです――が。
取り敢ぇず…その。この辺りをもぅ少し。調べるべきなのでょぅか。道順もまるで別物になってぃるのでしたら…
何処から下に潜れば良ぃのかも。位置から探さなければならなぃと思われます し」

影時 > 「……興味があるなら、そうだな。お屋敷の庭で目隠しして手の鳴る方に歩いてみるといい。それが万事の一歩よ。
 
 俺が見た場合か。ここじゃァ無かったが、一つの例で言うとな。
 こうした石壁とか水溜まりじゃあなく、生き物の臓腑の中みてぇな処に遭ったことがある」
 
月明かりすらも無い夜、独りで戦う――なんて過酷な状況を都度都度求める必要はない。
こんな死地に独りで赴くこと自体が、本来は正気の沙汰を疑われる。
様々な危険を排するためにパーティを組む。徒党を組む。そうすることで生存率を上げ、勝利を確定的にするのである。
とは言え、そうした連携を阻むような場所も、地勢も生じうるのが迷宮の理不尽さ。
何も知らずに壁に寄り掛かったら、ずぶりと取り込んでくる内部構造の場所もあった。
壁面が幻影の魔術ですべて覆われており、その被覆を剥がすと、その実生物の消化器官めいた壁面であった、と。

「全く、だな。それも今この場を遠くから眺めているとかだったら、実にぞっとしない。
 人のような誰かだろうが、物のような何か、としても、間違いなく意思と意図が絡むだろう。でなけりゃトンチキな塩梅にはならん。
 
 ……だ、そうだ。良かったな。でなけりゃ下手に進まずに三十六計逃げるに如かずに限る。
 地上に戻ったら真っ先に清めた水で手や足を洗った方が良いな。
 趣味は悪いが、一応は道理が通っている、と思うと、ああいや。どうしたって悪趣味か」
 
足元の泥水を啜るのは当然する気はないが、その成分がこの場の空気に含まれている、とか。
そんな不条理が無さそう、と言う点に真っ先に肩上の二匹が、ほっとしたかのように尻尾を垂れさせる。
特製の目の細かい布地の襟巻は、防毒マスク的な用途もあるがそれに潜っていても、やはり心配になるのも当然だろう。
いつぞや聞いたなあ、とダンジョンマスターに関する話題を思い返しつつ、ここに有り得るのは何か、と思い、直ぐに止める。
真相究明は程よく探求心を満たすが、それを遣るには身内で固めるにしても、あとニ、三人位は欲しくなる。
吐息の成分に反応する、と宣う己が言葉に口元を覆うさまに、くつくつと肩を揺らし、心配には及ぶまい、と少女の肩を軽く叩く。
呼気よりも燃える火の方が、文字通りの誘蛾灯としては強烈だ。それに……。

「ふーむ、そこまで派手派手しい仕掛けはしてねぇぞう?
 だが、ここにあるとなると保全も含めて面倒、だ。――最低でも下の四層目への階段が見つかれば御の字だが。
 念には念を入れる。フィリ、俺が良いといった所以外は下手に壁に触れるな。何か仕掛けがあるとすれば壁だろう。
 
 見た目の感じだと、前方は左右の分かれ道になる。挟撃に警戒しつつ進むぞ」
 
トラップを見破る講習会、罠に関する座談会でもそのうち考えるか。
そう思いつつ地図を開く。見える風景と既存の地図との大きな差異を確かめ、脳裏に予想進路を描きつつ静かに進む。
じゃぶ、ちゃぷ、とも響きそうな足音が泥濘でも僅かなのは、培った体重配分の賜物。
程無く行き着くT字路で一度留まり、右方へ。また前方に遠く、何か這いずるような音を聞けば、避け得まいと身構えよう。

フィリ > 【継続させていただきます】
ご案内:「無名遺跡-古き遺跡」からフィリさんが去りました。
影時 > 【次回継続にて】
ご案内:「無名遺跡-古き遺跡」から影時さんが去りました。