2026/03/06 のログ
ご案内:「無名遺跡-古き遺跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「無名遺跡-古き遺跡」にフィリさんが現れました。
影時 > ――古き遺跡がある。

いつ、だれが、どのように作ったかは定かではない。
内部構造から造り方を類推することはできても、実際に出来るかどうかもまた定かではない。
大魔法、巨人のような魔物の超膂力、無法なる不条理等々。ただ一口では説明がつかない。
それが古代遺跡である。古えの何かが残した迷宮である。時にふっと湧いて出る魔窟である。
なお、そんなものが恐ろしいことに、初心者向けと分類されたものでさえ、同様――ということすらある有様だ。

駆逐しても。掃討しても。気付けば魔物が湧き。また気づけば取り尽くされた筈の宝箱すら湧く。
何も備えなく入れば恐ろしく。だが、放っておけば這い出てくる魔物たちは近隣の村、街道にも害を及ぼす。
であるならば、適宜掃討作業が必要だ。宝は全取り、とでもしておけばその分だけギルドが負担する報酬額も抑えられる――。

「……――とー、ゆー話があるらしいが、その実は知らんし、深掘りして要らん注意を引くのも面倒だ」

王都平民地区の乗り場から乗合馬車に乗って、向かうは九頭龍山脈の麓。
目的地最寄りの宿場町で馬車を降りた後は徒歩。丘陵地帯の一角でぽっかりと開いた洞穴の傍に立てられた看板を前に、宣う姿がひとつ、ふたつ。
一つは背が高い。異邦の仕立てに則った黒基調の装束の上に防具を付け、柿渋色の羽織を重ねた装いの男。
肩上にちまっと居るシマリスとモモンガにおやつ、とばかりにドライフルーツと喰わせ、手に溜めた水を呑ませつつ、目的の場について語る。

「現状、記録されている踏破情報は地下七層。……もっと深い、とも言われちゃアいるが、そこまで今回行くつもりは無い。
 まぁ地下二層位まではサクサク行けるだろうよ。
 三層目、行けたら四層目まで行って、その辺りの跋扈しているものを狩る。その傍ら、内部構造の改変の有無を確かめるため“まっぴんぐ”をする。よろし?」
 
魔物を掃討して頭数を減らすのと、同時に重視されることがある。陽光に照らされる看板の文言を見つつ言葉にする。
ここに迷宮がある。冒険者ギルドが設定した管理番号が付与された場であり、危険地帯である云々は伊達ではない。
魔物が湧き、宝も何故か沸く不条理領域は、内部構造が不定期に改変する、変化するという点にもある。
手に付いた水気を振って払い、装束の腰に付けた別の雑嚢を軽く叩く。ここに畳んだ紙と筆記用具も収めている。
一つは今までの探索者が記してきた地図、その最新版の写し。もう一つは何もまだ記されていないただの方眼紙。

己の方の準備はできた。既にできている。故に問う。
もう一人は、どうか。行く先は足場も悪く、水が溜まっている処もあるだろう。防水が効いた履物も上着も必要だ。
短剣もあればいい。咄嗟に抜けるものは一本あるだけで、心細さもそこはかとなく軽くなる。

フィリ > 「は――ぁ、はぃ、その……了解、なので――す」

魔物を一匹見たら、その数十倍は居ると思え。宝箱を見付けたら、これまた数倍は財が隠されている事と…それ以上の罠が待ち受けていると思え。
それが古より伝わる迷宮というものの鉄則である。
以前も一度、この師と共に。とある迷宮に赴いた事があるのだが――その時は。あくまでも調査が目的だった。
が、今回は。そんな調査や探索の妨害となるような、魔物の退治…それ自体が優先事項であるという。
実際の力や生物としての質は兎も角。フィリという少女自身はどう考えても戦闘向けではない。当人の訓練という目的が無かったら、どう考えても連れて来るべきではないだろう。
が――その訓練なのである。大人になったらか、それよりも先にか、自分で自分の為に、こういう事も出来るように。
或いは自分で自分をどうにか出来るように。全ては学びであり、そして学ぶ事は生きる上で必須なのだ。
前に立ちつつ、肩上の毛玉先輩達に構っている師…正確には先達の師匠即ち大師匠、とでもいうか。そんな彼から向けられた言葉に。
何処からどう見ても緊張した面持ちで、こくこくと遮二無二首を縦に揺すってみせた。
ぎゅぅと力の篭もった両手が肩掛け鞄の紐をこれでもかも握り締めている――少女の準備は全て此の中だ。
勿論、日帰り旅行めいて最最小限に纏めている、という訳ではない。容量以上を収める事の出来る魔法の代物だからである。
着替えや非常食といった必需品、灯りや筆記具等もう一つの仕事に必要な物、そして…未だ一度しか振るった事のない、武器。
そうした様々な物品の重さを感じずに済む代わり。どっしり肩や背中に重圧が掛かっている――と感じてしまうのは。きっと仕方ないだろう。
表情を見られると、容易に知れるその緊張ぶりに、何ぞ言われてしまいいそう…という事もあり。
やがて彼が歩を進めれば、決して前に出る事も、隣に並ぶ事もなく。何処か異国の男女観じみて、常に数歩後を着いていくに違いない。

幸い――先んじて告げられた通り、地上から潜って直ぐの第一層も。続く第二層辺り迄も。何事もなく進む事が出来そうだ。
特に一層目等は、割れた天井から僅かとはいえ陽光が差し込んでくる事もあり。良からぬ生き物が屯している事も無いらしい。
という事で……問題となってくるのは矢張り。其処から下の階層という事か。
何故か折々内部構造まで変化するという噂の其処に、こうして再度マッピングの依頼が出て来たという事は…最近になってまたその変化が有ったという事だろう。
そして、作りが変わってしまえば、棲息する存在さえ変化してしまうのが常なのだ。
ランタンの明かりを頼りに細い階段を下って、下って―― ぴしゃ り。

「―― …… っ、ぅ、ぅ。早速その、ぁまり、良からぬ変化を感じられそう…なので、すが――」

思わず小さく声が漏れてしまった。いよいよ灯火が無ければ何も見えなくなってしまいそうな、その階層は。
危惧した可能性の一つというべきか、足元がじっとりと湿気に包まれ、其処等中水溜まりが点在しているらしい。
場合によってはある程度水に浸からなければいけない所も出て来るのでは、と考えれば。情けない声も仕方が無いというものだ。
……一応そんな危険も有る筈だから。少女の格好はこういう”課外授業”も視野に入れた学科指定の制服と防具に加え。
膝より上まできちんと足元を守ってくれる履き物で、意図せぬ絶対領域を演出していたりもするのだが。

影時 > 真にこの迷宮化した古き遺跡を踏破したいと思うなら、自分と同格の使い手があと四、五人位は必要かもしれない。
それでも足りないと思う、思えてしまう報告の深刻さが、この手の遺跡の危険性をまざまざと疑わせる。
馬鹿とハサミは使いようであり、危険性を弁えて使うなら、という思考法は理解できる一方で、万一はいつだって起こることも認識せざるをえない。
今までのやり方が、明日目を覚ましたらもう古くなっていることもまた、この世の中あり得る。
故に、事前の申請、依頼受諾の際にあれやこれやと確かめた。特に今回は、肩上の毛玉達意外に預かるものもあれば尚のこと。

「まぁ、この前の遺跡とはまた違った風情は感じられるだろうよ。
 フィリは一応、明かりを預かってくれ。地図は適宜俺が書く。興味がありゃあ見習うといい。
 ……俺自身に対しての鍛錬のつもりでもやるが、いつだって武器を抜ける、振り回せる感覚でも頼む」

さて、自分達の共通項として、大荷物が少ない。嵩張る品々が魔法の鞄に収まっているからだ。
咄嗟に必要なものがあるなら、背の高い男の腰回りのポーチ等で収めておけばいい。
そんな男の腰にも今のところ目に見える目立つ得物はない。普段、腰に差している刀もまた、鞄の中。
使わないわけではない。極まった忍者は手足で敵の首を刎ね、砕きうる。短刀の類でもあればより確実。
そうした境地に久方振りに立ち返るつもりだ、とばかりに無手の両手をひらひら揺らし、明かりの役を少女に任せよう。そして進む。

――先に告げた通り、宣った通り、苔むし茸も生えた第一層、第二層はそこまで至難でも面倒でもなかった。
地上に近い分だけ、内部構造の変動、改変の魔の手が及ぶまでには、現状至っていないらしい。
時折止まり、ランタンの火を頼りに要所を確認し、既存の地図との照合と方眼紙に今までの進路を書き記す。
此れが一番大事な作業と行ってもいい。実地に人をやらなければ、こうした記録を付けることが出来ない。
遭う魔物も、まだ弱い。ゴブリン、蝙蝠――大袈裟に魔槌を叩き付けるまでもない、男の手足、ないし、苦無で屠れるもの。

「……――いやぁ、全く。進む前に水が溜まってるかも、とかは云ったが、思ってた以上にシミ出してねェかなこりゃ……と?」

さて、細い階段を折りて至は第三層。構造が脆弱になってる箇所があるのか、地下水が沁み出していると噂される層である。
すわ落盤でも起きうるのか?とは思えば、流石は遺跡。そんなことは起こらないかわりに別の異常が起こる。
新陳代謝でも図るかのような、内部構造の改変である。情けない声を背に受けつつ摺り足に前に進み、前方左右を注意深く確かめる。
普段なら、意識しなくとも見えそうで見えない有様を嗜むのだろうが、男の顔が緊の一文字に少しずつ引き締まる。

水耕栽培、或いは水田――といった句がふと、脳裏に浮かぶ。

その場程にまだ水も泥も深くないが、なるほど。植物系の魔物が生い茂りだすには、丁度いいか。
這いずるように、あるいは掻き分けるように、ばちゃ、ばちゃ、と。何かが迫ってくる。人間一人程もある蔦の塊のようなモノが。

フィリ > 「笠木様には、はぃ、基本両手を空けてぉぃて頂く方が――心得てぃるのです。
とはぃぇ、ぃざとぃぅ場合……ぅぅん。頑張って、夜目も慣らしてぉぃて下さると。私としては幸ぃなのですが――」

一層目はまだ明るかった。二層目も……まぁ、薄暗い、の範疇に収まると言って良かっただろう。
とはいえその途中辺りから。どうしても灯火に頼らざるを得なくなってくる。
日の光という当たり前の物が無くなると。人間どうしても不安になるのだ、という事を。こんな時だから実感出来る…という所。
促された通り、当座の記録は彼に任せ。記入する際はその手元、移動中はなるたけ前方、を照らすよう心掛ける事にした。
幸い二層目から三層目に下りる階段へと到着するまでは。事前に渡された地図と、それ程大きな差異は無かったらしい。
それこそ精々、幾つか地図に書き足す位で済む代物に留まっているのだろう。
おまけに魔物に出会す事も殆ど無かったので。灯りを置いて持ち替えざるを得なくなる――といったアクシデントも起こらなかった。
まぁ余程のバケモノが出て来ない限り。少女が手を出すどころか、まず脳が危機を理解した辺りで、とっくに彼の手で片付いている…というのが実態である。
おまけに刀さえ抜く事なく、宙を舞っている物等でさえ無ければ、大概素手で千切っては投げしてしまうのだから。唯々目を見張るしかない、という所。

斯くして。どうやら此処からが本格的な仕事となるであろう三層目。
歩き始めて暫くすれば、髪や肌にいやという程湿度が纏わり付いてくるのだが――澱んだ古い水特有の臭いは無く。
また同時に、上層の日陰等に蟠っていたような、黴臭ささえ、殆ど感じる事がない。
それ即ち、この変化は極最近生じた物であるという事と。短期間でこれだけ溜まる程の湧出が有ったという事か。
巨大な生き物の腹の中だって、これ程劇的な環境の変化は起こり得まい。つくづく話に聞けば聞く程、そして百聞以上に一見して、奇妙な場所だと思い知らされつつ――

「…後から、乾かす暇がぁると良ぃのです が。…とぃぃますか、下層が水没してしまって、先に進めなぃ――とぃぅ可能性は…」

ひた。少女からすれば当然初めてで、変化度合いからすると、師に取っても初見に等しいであろう場所。
自然とひそひそ声になりながらの歩みが目の前で止まり。自然とそれに倣って此方も足を止める事になった。
…止めた。そう、止まったのだ。にも関わらず……ひたり。ひたり。足音にも似た一定の音。
湿気た壁で反響し分かり辛いものの、それが前方からの物である事を察して、頭より上にランタンを掲げ。その分照らし出された先に――

のたくるアレは何だろう。最初は苔生した彫像にも見えたソレは、だがどちらかというと。濡れてぬめって、まるで海草の塊のようだ。
いや、翠色で濡れているからそう見えただけで。どちらかと言うと細く長くうねった塊が、何かしらの形状を作り上げつつ這いずり寄っててくるのである。
完全に不定形なスライム等よりも。ある程度判別出来る物体が集まり凝り固まっている、集合体恐怖症であれば卒倒してしまいそうなモノ。
ひぁ、と思わず声を上げてしまうのだが――さて。果たしてソレに、人間の悲鳴を聞き分ける聴覚が有るのかどうか。それすらも判らない。
解らないが、だが、此方に近付いて来るのである。何かしらの感覚と――唯一解る、明確な敵意を持って。

「か、さぎ、さ――ま、… ぁ――れは、その、 ……何なの でしょぅ…?」

影時 > 「まァ、な。その認識は割と正しい。
 せめて片手は空けておきたい。もう片方は例えば盾、或いは松明を握られるようにな。
 目については心配するな。書き物は止むを得んが……俺みてぇな類なら、目ぇ瞑っててでも戦える」
 
こうした場での活動の際、明かりが欲しくなるという認識は正しい。明かりに頼ららざるを得なくなる。
灯火が不要、無くとも事足りると宣うものは、常から闇の中に居るものか、訓練された者だろう。
先頭に立つ男はその後者だ。視覚情報に頼らない場合、頼むのは聴覚触覚嗅覚、それと氣を察する感覚。
今までの進み方に置いて、少女が差し向けるカンテラの光の向け方は正しい。
その上で気配の感覚を拡げつつ、注視するように感覚を研ぎ澄ます際、都度立ち止まっては――安全を確かめ、また進む。
なお、一番の危険を感じた際、襟巻の中に潜って顔と尾っぽの先を出す毛玉二匹が騒ぐが、今はそうではない。

騒ぐより前に苦無を投じ、或いはわざと大いに近寄らせたうえで、手刀や苦無の一振り、鉤にした指先で敵の急所を毟って。
魔物に悲鳴を上げさせる前より先に、積極的に急所を突いて最小限の労力で倒してゆく。
手慣れた以前に作業的とも呼ぶのは経験則、という程でもなくとも、この辺りの階層はろくな宝がないことも大きい。

――そして問題の三層目。

天井に薄らと光コケが点在することもあり、全くの暗闇とは遠い。その代わりに淀んだ臭いが矢張り強い。

「地上に戻ったら真夜中だったというオチは避けたいがは、時間経過ばかりは何とも云えねぇやな。
 ……水没、なんて生易しいコトはあるまいよ。それに合わせて変遷してそうなこともあるが、それよりも……」
 
水脈が川のように流れる洞窟、というのもあるが、神秘的すら感じるよりも前に悪臭がどうしても先立つ。
注意深くなるのは、降りる前に確かめた地図の図形と目にする光景が真っ先に合わない点にこそある。
確か、真っ直ぐ長い回廊だったらしいはずなのだが、その上で早速洗礼とばかりに魔物が寄ってくる。
うぞぞぞ、と這い寄ってくる塊。ぬれそぼった蔦の集合体に見えるそれは、走光性めいた性質すら持っているのだろう。

「見ての通り、という奴だろうさ。
 もう少し深い処で食人植物なんぞ生えてるとか聞いたが、ここまで版図を伸ばしてきた――と、言う具合だろう、よッ……!」
 
強靭な蔦で標的を締め上げ、絞殺した後は体中の孔という孔に蔦を伸ばし、根付いて体液を啜る。
それが基本。恐ろしいのはその状態で溶解液を分泌し、生き物を皮袋に変えてしまう云々という食性であったか。
そんな蘊蓄を思い出しつつ、蔦の塊が、鋭く二本、三本と槍衾よろしく鋭く蔦を伸ばしてくる。
それを右手に抜く黒檀色の苦無で切り払いつつ、敵の急所を測る。
この手の敵の恐ろしさはもう一つ。痛覚の欠如。であれば、可能な限り速やかに蔦刈りと行こう。
勢いを失って垂れる蔦を左手で握り、血を吸われる前に氣を掌に這って皮膚の侵入を妨げ、見定めた急所に苦無の切先を差し込み、抉る。
蔦と根が絡まってこぶ状になった箇所だ。結び目宜しくなっている箇所を崩せば、途端に動きが止まる。

「……こういう時、魔術で焼くのも手だが、外気にも注意が要る。引火性の毒気が満ちている時とか、な?」

フィリ > 「は――ぁ……視覚とぃぅのは、やはり一番大きな感覚だと思われるのですが。
それ抜きで、どぅにかなってしまぅと…ぃぅのは。矢張り流石としか、言ぃ様が無いと。感じざるを得ませんで――
…にしても、其処まで。其処まで大きく変わってしまぅとぃぅのは、果たして本当に在り得るのでしょぅか」

――疑問。浮かんだそれは、だが直ぐに。階段を下りきった辺りで撤回せざるを得なくなった。
極々浅い所位なら。学科の実地、校外学習、として。それこそ彼の様な教師を引率に訪れる場合も有るだろう。
だが、その辺だけでは実感出来た試しが無い――この迷宮の。本当の恐ろしさというものを。
故に、三層目まで来た所で実に、心底驚かざるを得なくなるのだった。
二層目までと全く違う環境と化している。唐突に余所の迷宮に飛ばされてきたのではないか、とさえ勘繰ってしまいたくなる程に。
目を瞑っていても、どうとでもなる。もしくはどうにかなる。そんな彼の自信や、それを裏付ける戦いぶりにも当然驚いているのだが。
此方に関しては、彼という人物なら、まぁそうなのだろうなと。そろそろ納得して受け容れる下地が出来ている為に。其処ら辺が驚き度合いの差となる訳で。

さて、その三層目。淀んだ水の臭いは確かに強く――とはいえ、それは紛れもなく水の臭い。
静止水に起こりがちな腐敗臭、細菌臭…でない事は幸いだ。そんな菌の温床であったなら、例えブーツ越しでも入りたいとは思えないので。
が、逆を言うと。水に動きが有るという事はそれ即ち、僅かずつでも流動しているか、湧出が続いているという事である。
だからこそ、滾々と湧き続けるそれが、果たしていつまで続くのか。何処まで溜まっているのか。
――必然上から下へと流れていくものだから、下層はどうなっているのかと。自然疑問が口を着くものの。
どうやらその辺は進んでみる以外に確かめる術はなく。そして…容易に進ませてはくれないらしい。

「――す、すっかり暗くなりましたが…それでも。嫌気性や嫌光性ではなく、普通の植物のよぅな…ぅぅ、む、確かに紛れ込んで来たとしか…っひゃぅ!?」

夜光虫めいた苔の光だけで、光合成などしている訳もないだろう。
その癖光の方を向いてくるこの植物は――さて。如何にして栄養を補っているのか。彼の言葉で嫌でも理解させられた。
世の中食虫植物という奴が有る。動物のように、呑み込んだ生き物を消化し、その養分で我が身を補っている植物だ。
サイズ的に必然虫を食べているそれ等が、此処まで大きくなってしまったら――それ以上の生き物を狙ってくるのも必然か。
近付いて来た所で、塊から伸び上がってくる鋭い蔦。どう考えても、アレに刺されるのは宜しくない。
孔という孔に入り込んでくるのだろうし、何なら直に突き刺し孔を増やされてしまいそうだし――何れにせよそんな孔から飲み食いされてしまうのだ。
彼等の食性を直ぐ様理解し、ひ、と声を上げ――た、その頃には。上層宜しく既に彼が動き出している。
伸びてくる物をばっさばっさと刈り取って懐に潜り込み、恐らく循環の中枢に在るのだろう部位を破壊して…それで。ソレは動きを止めた。
世の中、職人やら達人やらの技を、見て覚えるというのは立派な修行の一環らしいが。
薄暗さのせいもあるものの、熟々――ちゃんと見る事が出来ている、と思えない。正しく目にも留まらぬという早業ばかりなのだから。

「    はっ。 ……ぁっはぃ、ぇぇ…大丈夫。其処は大丈夫だと思われるの、です。
…世の中坑道等深く潜る際は、小動物を連れ、その反応からガス等の存在を検知する事も。有るそぅですが――」

ぶんぶんぶん。その言葉に首を振ったのは。戦闘中彼の襟に潜り込んでいたであろう二匹である。
勿論そんな事をするつもりはない、と此方も少々慌て気味に両手を振ってみせてから。

「私、はぃ、最近。薬の方も―― …魔法薬等、ぇぇ、勉強し始めてぉりまして。
其処等辺には気を使ぅと言ぃますか――先程から、一応、そぅした反応は見受けられませんので。はぃ」

一戦終えた彼が振り返る先。一応戦闘から距離を取って…というより。なるたけ水中に居たくないのだろう。若干凸凹した床の凸側。靴底を濡らす程度で済む所にしゃがみ込んでおり。
目の前にランタンを置いてごそごそと鞄の中身を引っ張り出していた。
例えば、無色の小さな水晶球に何やら金属性の部品がくっついた代物が。空気の澱みを計る品物であるらしい。
序でに――そんな低い所に置いた灯火が消えていないという事は。酸素を閉め出すような重い気体が、地面や水面に蟠ってもいないという事だ。