2025/11/30 のログ
レグルス・ダンタリオ > 「カッコつける言い方を好むなティアフェルは」

零された言葉に顔を微かに振り返り、笑みを返して。
立ち上がった彼女の気配を感じると、剣を持つ手に力が入る。
万全の前衛と、ヒーラーの即席のコンビ。
即席といえどお互いの戦闘を邪魔するような関係でもない。
なら、問題はない。

「悪運か。そのたびに引き寄せられるのが俺なのは不思議な因果を感じるな。
 ……いや、そんな言い方をするのは少し剣吞だな。こういう場合は……」

彼女が位置について、いつでもいいと言ってくれた。駆け出す瞬間に。

「クサすぎるような気もするが……運命、なんてな」

ちょっぴり照れくさそうに言うと同時に駆け出して、一気に群がるゴブリンたちを切り伏せていく。
視界の外に飛び掛かって来るゴブリンを気配で読み剣で受け流し。
怪我を気にしなくていいと言われたのなら、致命傷以外は……などというバーサーカー染みた戦い方はしない。
別に彼女の負担になりたいわけでもない、むしろ彼女を助けるための戦いでもある。
なるべく傷を負わないようにしつつ、かすり傷などはそのままに。
次々とゴブリンたちを切り、薙ぎ払い、時には蹴り飛ばして。

最後の一匹を突き刺してゴブリンの死体の山を軽く作りながら、その爆心地ともいうべき場所で軽く息を切らしていた。

ティアフェル > 「え、あきらかフザけてるっしょ」

 どう考えても様にはなってないどころかおどけていたと自覚するが。
 しかしここでフザけてますと云うと……怒られるかしらと思い当たって。うふ。と誤魔化し笑っておくのである。
 ともかく体勢を立て直したのだからあとはやっちまうだけ。
 散々やってくれちゃって、覚悟しろよと私怨丸出しでゴブリンどもを睥睨していたが。
 不意に毒気を抜かれたのは彼の言で。

「あはぁ。そういう数奇?な巡り合わせもあるのが冒険者あるあるって感じ?
 ――って、あ……」

 運命。腐れ縁と云われるよりマシだが。
 意外な科白。騎士志願と云う事だからその辺りの感性か。
 
「っはは、じゃあ今はわたしの騎士様ってことでいっちょ頼むわ!」

 やや照れた感じが年相応でかわいいものだ。
 悪乗りしてそんな風にのたまえば、奮迅たる一騎当千の立ち回りに。おー、と感嘆符を洩らしつつ。

「っと、とととと…!」

 さすがに数が多い、剣戟を仲間を盾にしてすり抜けてきた小物を、それ回復に使うやつ…としょっちゅう突っ込まれるスタッフを打撃武器代わりに振りかぶって脳天をかちわり。
 彼の死角を狙うゴブリンへ足払いを仕掛けたり、落ちている瓦礫を拾って投擲したりと、必要なかったかも知れないが自己満足的に地味に援護して。

 そして、長いような短いような……ひとしきり鳴り渡って空間を支配した、剣戟と断末魔と血飛沫とヒキガエルを潰したような騒乱がやむと、水を打ったように静まり返り。
 深閑とした中に聞こえるのは青年の荒い呼気。
 念のため残党がいないか探り。周囲に生き残りや他の魔物の気配がないと確認すれば、死屍累々のど真ん中で肩で息をしているそちらへ駆け寄り。

「お疲れ様、さすがにきつかったでしょ……待ってて、今ヒールするね」

 疲弊しているであろう彼へスタッフを翳して詠唱を始め。

レグルス・ダンタリオ > 「ふ……」

誤魔化されて、笑われる。何を感じたかはわからないが、レグルスはそれを見てどこか困ったように笑う。
まぁ、彼女の感性を考えればこういうことを言えるのはいい事だ。
余裕が出来たことの証拠でもあり、そしてそれがこちらへの戦意につながる。

「あぁ、任せろ!」

彼女から受けた声援を背に、青年は立ち回る。
青年と少女とでどちらが年齢が上かはわからないが……。
そんなことはどうでもいい。お互いの性根が、この状況を切り抜けさせた。
彼女に時折肉薄されるゴブリンは、彼女自身の腕力でかちわっているのをみて。
ゴリラ染みた腕力だと内心で思いながら血の中を歩み続ける。
彼女にとっては自己満足気味だろうと、青年にとっては立派な援護だった。

「はぁ、はぁ……」

そうして、静寂の中で青年の荒い息が響く。
傷は多くはないが、血で汚れ、そもそも意外と多かったゴブリンの数に体力が素直に削れた。
まだ戦うことはできるが、休憩できるならしたいぐらいの体力。
そこを、彼女のヒーラーとしての腕が支えてくれるのが素直にうれしく。

「あぁ、まぁまぁキツかった。ありがとうティアフェル」

そう礼を言いながら、彼女の詠唱と治癒を聞き。
一応、周囲に目配せ。それなりの数は減らしたが、死んだふりをしている奴もいるかもしれないと考え。
死体のそばには近寄らず、少しその場から距離を置いてから治癒を受けて。

「…………ティアフェルは彼氏などはいるか?」

と、思い立ったように声を掛ける。
……もし、話題に困ったからこんなことを言い出したのであれば、かなりのバカと言わざるを得ない。

ティアフェル >  割とピンチでもうっかりチョケちゃうアレな女であったが。
 よくそれでドヤされるけど、今回怒られなかったァー。よかった。
 それはともかく。
 任せろと実に頼りになる小気味のいい返答が聴かれたら、無意識ににっと口角を上げ。

 ばっさばっさと剣舞のように型は美しいのに舞踏のような無駄も一切なく斬り捨てていく剣技に、改めてその実力を見た。
 まあぼーっと見学していられるほど呑気な状況ではなかったのだけど。

 魔物を殲滅させた青年の身体は浅く細かいがあちこち傷だらけだ。
 むしろこの程度の傷でよくこの数をこなしたものだと感心しながら。
 ともかく血だまりを踏み越えて近づき、骸の山から離れるに従う。
 改めて詠唱を紡ぎ淡い暖色の光をスタッフの先からまた生み出して軽く振るとほんのり暖かな治癒の光でその身体を包んで傷を塞ぎ痛みを取り除いてゆき。

「やー。ありがとうはこっちの科白。だいじょぶ? まだどっかいたいところとかない?」

 などと調子を確かめるように顔を覗き込んでおれば。

「…………は?」

 カレぴ?
 唐突な話題に目を点にしてから、ランナーズハイでちょっと変になってるの?などと推察しつつも。

「ぁー……立候補のご相談ならテレるし。
 お前に男っ気とかないよなって意味なら……ちょっとど突かして」

レグルス・ダンタリオ > 剣を布で拭い、その血が固まる前に軽く拭き取りながら。
傷口がふさがり、失ったスタミナと体力が彼女の手によって回復させられるのを感じる。
ゴブリンたちの骸に目をやり、ひとまずここを襲ってくるような魔物もほかにいなさそうだと感じれば剣を一度鞘に納めて。

「あぁ、問題ない。それより、どうなんだ?」

どういう情緒なのだろうか。こちらの調子を聞く言葉より、今の質問のほうが大事らしい。
彼女が固まったことに気づかず、覗き込んでくる彼女の点になった目を。
真っ直ぐに、邪心のない赤と緑の瞳が見つめ返していた。

「立候補ではないが、気になった。男っ気がないなどとそんなことを言うはずがないだろう。
 俺とティアフェルが会うのがいつもこんな場所で、ギルドなどで顔を合わせる事が今のところないからな。
 また会える気がするが、ろくに会話できない状況で会うかもしれないし……」

どこかもじもじと、照れくさそうな顔で話しながら、視線を一度彼女から逸らす。
考えなしに質問したことは認める。だが、彼女とは何度もあっているし。
こうやって必死に走って助けに行った自分の心を感じると、彼女のことは大事に思い始めているのかもしれない。

「……まぁ、言ってしまうとティアフェルについてよく知らない。
 だから、会えている今のうちにいろいろ知りたいと願ったんだ。
 その……迷惑というか、失礼、だったか?」

せめて場所を考えろと言いたくなるかもしれない。
困ったように、先生に怒られた生徒のような申し訳なさそうな顔をして、目の前のエメラルドグリーンを見つめた。

ティアフェル >  問題なく回復したらしい。それは良かった、と彼の返答にほっとして少し肩の力を抜き。
 一旦剣を収められるほど脅威は落ち着いて。
 なんだか脅威とは違うが……変な質問がきたなあ。
 アホ毛が疑問符を形どるように揺れた。

「………いや、まあ……てゆうかそっちはどうなのよ。
 人にばっか訊くとかズルくない? 彼女は何人いるのよ。何股中よ。キリキリ吐きなさい」

 何の根拠もないが、見てくれはいいし性格もちょっと変わってるが悪くはない。
 云い寄ってくる女の子もいるんだろう。
 その内何人食っちゃってんだ、と取り敢えず切り返しておいた。
 曇りのない真っ直ぐなまなこなので……そこまで遊びまくってる風には見えないが……まあ、風紀の乱れた土地柄なので何人もの女の子と付き合ってるなんて普通っちゃ普通。

「いやぁ……お前オトコとかいねえだろ、とかちょいちょいディスられるからさあ。
 ゆっくり話できる状況でまず訊くことがソレなの? それなら他にもっと訊くことあるだろと思わなくもないんだわたしも」

 立候補表明ではなかったらしい。まあ、そりゃあそうかぁ。
 わたしはモテる女じゃない自覚はある。
 でも彼氏いる?とか急に訊かれると結構な確率で誤解されると思うけどな、と首を捻り。

「わたしも君のことはほとんど存じ上げないね。でも彼女いるの?ってこのタイミングで問わないぞ……まあ、聞くまでもなくいるんだろうからっていうのもあるけど。
 あーうん。知りたいって思ってくれるのは嬉しいよ? そういう意味なら迷惑でも失礼でもないし……今はいない、かな……」

 あんまりこういうことも訊かれないのでちょっと照れくさい。
 なんだか居心地悪そうにしている彼に、はにかんだように笑いかけると。別にそんな顔しなくていーし、と申し訳なさそうな困り顔の頬を人差し指で軽くつつこうか。

レグルス・ダンタリオ > 「彼女はいない。婚約者もまだ決まっていない。
 付き合った女性は今のところ一人もいない。告白を受けたことはある」

彼女に要求されるままにキリキリとそう吐いて。
彼女の思惑通り、いちおう童貞ではないが、こちらはその思惑を見抜けるような男ではない。
こちらが質問したのだ。質問を返されるのは当然として応えていく。
下半身が緩々というわけではないとは思うが、実際のところはいったいどうなんだろう。
自分のことを質問されて、改めて自分はどういうものかを一度考えたほうがいいかもしれないと考え直し。

「ゆっくり話が出来るから、今一番気になることを聞いた。
 ……そんな風に言われるのか。ティアフェルは普通に慕っている異性は多いんじゃないかと思ったが」

首をひねる彼女に、それとは別の理由で青年もまた首を捻る。
実際、ヒーラーとしての腕があり、肝っ玉母さん気質な女性。
魔物を必要とあれば殴り殺せるだけの護身ができる。
貴族社会においては重要視されないが、騎士志望の自分としては非常に素晴らしい女性だと思う。
いや、騎士志望だからというより。単純に自分が強い女性が好きだというのもあるが。

「だから俺には彼女はいない。意中の相手が自分にいるのに、相手にいないか訪ねるような真似はしないぞ。
 ……そうか。いないのか。……」

どこか、すっきりしたような顔を浮かべて、少し視線を天に向けて。
一言、こうつぶやく「よかった」と。

「むぐ、なにをする」

頬をつつかれて指に頬が押され、ジト目でそんな行動をする彼女に視線を向ける。
照れているのはこちらも同様だ。頬を突いたその指は、熱を感じるか。

「場所を考えろ、か。その通りだな。一度遺跡を出てからお互いのパーソナリティについて語るとしないか?」

ティアフェル > 「えー。意外オブ意外ー。もっと遊べよー。今のうちだぞー?
 ってか、そのコクられた時、付き合おうってなんなかったの?
 絶好の機会なのに?」

 そのコクられた相手とは付き合わなかったらしいのは何故だ。
 正直に白状する彼にさらに畳みかけた。
 訊かれるのは得意じゃないが、訊くのは面白い。
 ちょっと乗り出し気味に突っ込んだ。大変身勝手である。重々承知。

「なんでそれが一番気になるのか……分かんないけど、そういうお年頃なのかな……
 わたしなんて別に女らしくもないし、ズケズケ物云うし、ゴリラだしさ。慕ってる異性とやらがいるなら連れてこいって話よ」

 取り敢えず慕ってくれてありがとう、ってめっちゃお礼云わな。……そんな幻想生物いないだろうけど。
 凶暴な女なんて、大抵は嫌煙される。
 ガンガン無駄に突っ込んでいくのをドヤされこそすれ評価されることもない。

「いや、何股かかけるつもりだったら彼女いたって訊くかなって……でも同時進行はしないタイプなのかな。えらいね。
 いませんよ、悪かったね。これでも気にしてるんだからッ。それに次に会う時はいるかもじゃん!彼ぴ出来ましたって云ってるかもじゃん……!」

 云っておいて……それはないだろうな、と自覚するのがなんだか虚しい。
 男っ気も女っ気も……あんまないタイプ。けれど、良かった、と呟く言葉に、ちょっと目を瞬いて。

「ふんだ、そうやって思わせぶりな態度取るのが悪いんだからね。わたしが自意識過剰な女だったら大変なことになってるんだから。誤解して明日から彼女面カマしてくるんだからね。わたしが客観的視点を持った冷静な女であることを感謝するがいい」

 場合に寄っちゃぁ、大変危険な素振りであった、と彼を責めておくのだ。
 半眼を向けられてもノーダメでつついた後で軽くつねって。

「えー。口説いてるならそう云ってくんない? なんてねー。女ってすぐ調子づいちゃうから注意した方がいいよ?
 でも、まあ。たまにはゆっくり茶でもシバくのも悪くないかな」

 パーソナリティか……我ながら語るに落ちることしかないな、と半生を思い起こして苦笑気味だが。
 たまには茶飲み話も悪くないと肯いた。

レグルス・ダンタリオ > 「遊ぶことより強くなることが俺の目標だからな。無論、遊ばないわけじゃないが。
 …………なぜ、か。単純にそのころは色恋沙汰は必要ないと思っていたから、かな。
 思えばあの頃は真面目過ぎた。今も愚直に目標の為に動いているが、時には寄り道もなと思った」

身勝手ともいえるその質問に、青年は真面目に真摯に答える。
こういう話題をする相手がそもそも自分にはいなかった。
だから、こういう場であろうとついつい応えていく。

「そういう年頃なのかもしれない。俺にはよくわからないが。
 ……わかった」

何かに納得したのか。彼女のその返答を聞いて頷く。
次々と彼女が自分自身の状況にいろいろ思うところがあるのだろう。
出て来る愚痴のような言葉を聞いて、そうかそうかと心ないような言葉を返し。

「一夫多妻は推奨されているが、そこまで俺は器用な真似は出来ないし、やりたくもない。
 家がそういうのを頼むのならばそれに従うが、そうじゃないなら今は何股もかけるつもりもないな」

逆に言えば、家がそれを命令したらそのとおりに従うのだが。

「ひゃからほっぺたをひっぱるにゃ。話しにくいだろーが」

責められながら、しかし相手に引っ張られた頬っぺたはそのままに歩き出して。
苦笑する彼女を隣に、出口に向かいながら口を開く。

「わかった、俺はティアフェルを口説いている。それに彼女としてキミが振舞ってくれるのならば俺は嬉しいと思う。
 そう思うからキミのことを知ろうとした。これが迷惑なら素直に今後は普通に冒険者として過ごそう」

コツコツと、ブーツの音を乱すことなくそう返した。

ティアフェル > 「騎士道貫き過ぎかー。まあ、後悔しないようにやればいいと思うよ。
 恋は!不要必要とかそういう考えでするもんじゃ!ない!まったくぅ……その女の子も気の毒に……。
 真面目ってかなんていうか……もう、恋愛って寄り道でするもんじゃないとは思うよ」

 これが自分の弟なら『バカなの?』くらい云ってやったが……さすがによその子にはとても云えない。
 はー、と何となく溜息を吐きだして肩を竦め。

「わたしにもなんだかよく分からんよ……
 ちょっとぉー、なんなのそのおざなりなリアクションは!あんたがさっき慕ってる異性が多いのではなんて持ち上げたんでしょっ!?」
 
 だからちょっと調子づいてみただけじゃないか。というか単にチョケたのは否めないのだが。
 でも、そんなリアクション取られると、キイキイ文句は云ってしまうのだ。

「そうなんだ。推奨されてるなら是非ともそうしたいのが男心だと認識していたよ。
 えーと、長男なの? だったら後継ぎ問題があるだろうからなかなか泥沼だろうけど」

 そう云えば名家の子か。ど平民の癖に我ながらどうかというような接し方ではあるが。
 今のところ怒られないので是正しない。

「あはは、だってぇ。面白いんだもん」

 ひっぱるにゃはないなーとふにふに緩く横に引っ張りながら笑って。
 けど途中で手を離すと。面食らったように立ち止まってしまい。

「…………え……? や……ほんとに……? 迷惑……とかじゃないけど……うん…と……びっくり、してる」

 あと大分どきっとしてる。顔が赤くなってきた。
 本気なのか。揶揄ってるだけだったり?と歩調を乱さない彼から遅れてしまい。
 途中ではっとして足を速め。

レグルス・ダンタリオ > 「騎士道ならばむしろ貴婦人の好意を無碍にしてはならないのだがな。
 ……まぁ、確かにその通りだな。全面的にティアフェルのいう通りだ。
 もしまたあの子に会うことがあれば謝りたいと思う。……自己満足に過ぎないが」

ため息をつく彼女の様子に、ますます申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「それはそうだが、ずっとそうじゃないそうじゃないと自分で言ってるからな。
 まぁ素直に受け止められないぐらい周囲からそうみられ続けていたということなんだろう。
 言いたいことがあるなら俺ぐらいに言っておけ」

出て来る文句は全て受け止める、そして耳から流す。
だが誰も受け止めないよりはマシだろう、などというひっどい慈悲の心。
だが、調子づこうとした彼女の様子は面白かった、とだけ言っておく。

「単純に管理しきれない。などという言葉で言い表すとひどいな。
 あー、いや。俺は長男ではない。むしろ末っ子に近いのだが。
 家が軍人系の家系でな。強くなって、戦争で戦い、最後まで死ねと言う感じの」

困ったように自分の家をそう表現する。
詳しく言うとひどくアレな家な面もあるため、こういう場所で話すのは憚られた。
家族のことは尊敬して素直に慕っているのだが、家柄は……うん。と言う感じだ。

「面白いのか。だったらいくらでもイジってくれてもいいが……ん?」

立ち止まって、少し歩いた後、彼女を振り返る。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべて、ほんのりと朱色の顔を浮かべる彼女を、青年は真っ直ぐに見て。

「俺のことをキミは知らないだろうが。俺は嘘は苦手だし、気遣いも丁寧じゃない。
 素直に、本心のつもりで話す男だ。腹芸や駆け引きは苦手でな。我ながら貴族の人間としては不器用だと思っている」

そう苦笑しながら、追いついた彼女とまた歩調を合わせて歩き出して。

「慕っている異性を連れてこいと言ったな。じゃあ俺のことを指すかもしれない。
 今はまだキミのことを深く知らないが、これから知って、慕って行きたいと思っているよ」

ティアフェル > 「だけど、好きという訳でもないとしたらそれを軽々に受けるのもまた騎士道じゃないのでは?
 そうですよ、恋とは落ちるものですよ。分かればよろしい。
 まあ、謝られてもって気もするから……普通にしてればいいと思うよ。案外その子ももう、次を見つけて幸せにやってるかもだし」

 知らんけど、なんだか上から目線が過ぎる女であった。申し訳なさそうな顔に気付くと、ちょっと云い過ぎかも、と自覚してバツが悪そうに目線を反らした。

「……そもそもモテる!って自分で云ってる女ってどうなの。ネタで云ってるならともかく。わたしはそんな女に成り下がりたくはない……もうすでに他が致命的にやばいという点に関しては……敢えて見ない」

 受け止められない現実もある。むしろそんなんばっか。
 しかし、この人に云えば云っただけ虚しさが相乗されそうな気がする。
 面白がるなよ…と脱力気味に苦情。

「うんまあ、そうね……人の心を持っていないかのような発言になるね。
 ふーん、末っ子……じゃあそこまで後継ぎ作れともせっつかれないんじゃない。軍門であればその限りではなかったりするのかもだけど」

 戦場で散れと云う家訓なのであれば、長子が後継ぎを残す前に儚んでしまうこともなきにしもあらずだろう。
 なんにせよど平民。細かい事情は良く分からないけれど。

「うん……また折を見てイジらせていただく……今はちょっとそれどころではない……」

 イジってもいいらしい、何故許可する?とは思うがそんなことよりもだ。
 徹頭徹尾率直な発言に我ながら非常に動揺したしそれを隠しようもなくて。色違いな眼差しが真っ直ぐ向けられると直視するのも大変で。

「あ……まあ……うん……嘘はつかないのかな……っていうのは分かるよ……ふざけてこういうこと云ったりもしないだろうし……」

 だからこそ狼狽えるのである。冗談めかしていたりからかわれているのであればいくらでも云い返して笑い話にできるのだけど。
 こうなるとどうしたらいいのか処理落ち気味で。
 機械的に足を動かしてついていきながら。

「そ、それは…ありが、とう。滅茶苦茶ありがとう。こんなわたしにもったいない。
 え、っと……わたしで良ければ慕ってくれると……嬉しい。かな。
 だからわたしにももっと教えてね、君のこと」

 マジレスは……本当に気恥ずかしい。でもここでふざける訳にはいかないから真面目に伝えて、やはり赤くなってしまったのだけど。
 

レグルス・ダンタリオ > 「ふむ、確かにその通りだな。真摯に受け止めてこそだと俺も思う。
 恋とは……落ちるもの……そうか。そういうもの、か」

女性の意見だ。自分よりもずっと色恋沙汰に慣れているのだろう。
絶対そんなことはないが、女性であるからそういうもの、という彼の価値観ではそこから動くことはない。
だから、彼女がそう言う経験はないのだという発想には全くいかなかった。
いや、ないわけではないのかもしれないが。

「まぁ、自分でモテていると思っている女であれば相応に男もいるだろうからな。
 俺がわざわざ相手する必要もないだろう。……必要ある無しで、女に近づかないということはしないが」

脱力する彼女など我関せずという態度。むしろこの方が今の彼女にはちょうどいいのだろうとでも。

「跡継ぎの必要はないが……いろいろあって、俺は期待されている身でな。
 成果と、強さが必要なんだ。……などという話をしても困るな。ははは」

そう笑いながら、目を逸らして、照れているのであろう彼女へと顔を向けながら。

「自分に勿体ないと卑下するのはよくない。キミだって俺が卑下すればそれを指摘するだろう?
 男を立てる女が世の中は好まれる。それは貴族社会でも一緒だけど。
 この場は違うし、言い合うほうがお互いにはいい関係になれると俺は信じている。
 だから、そう自分を下に見るな。その分だけ俺も下になるしな」

顔を赤くする彼女の頬に、今度は自分が手を伸ばして。
そっと、その顎と頬を手のひらで撫でる。

「あぁ、じゃあ、お互いを知るために、まずは茶屋でも行くとするか」

そう笑いながら、足を進めるのだった。

ティアフェル > 「そうそ、良く知らないけど騎士道って誠実なのも重要なファクターな気はする。
 ふふ。徐々に理解していけばいいよ、青少年」

 年上風をここぞと吹かせておく。
 実際彼より年上なのだから経験値ゼロ!という訳でもそりゃあない。
 海千山千経験豊富……とはとても云えないけど。

「まったくだ。切れ目がなさそうだよ。自称モテ子さんは。
 うんまあ……さっきも云ったように恋はいつの間にか落ちるもの……」

 この子モテない女が好きなのか?と薄っすら思った。
 でなければ特殊性癖だ。その特殊に自分が収まるかと云えばうん、って云えちゃうのが悲しい。

「へー……じゃあ素質があるってことなんじゃないの。期待はされ過ぎても大変だけどされないと淋しいものよね。
 別に困んないよ。もっと教えてって云ってるじゃない。そういう話もしてくれた方がいい」

 目を反らす横顔を見やり。首を傾けるようにしていたが。
 卑下か、と悩まし気にうーんと唸りながら。

「わたしは自分の価値をそんなに大きいもんだとはあまり思ってないんだ。実際一山いくらな冒険者の一人だし。
 別に男を立てるって訳じゃないけど。
 まあ……わたしも悩めるお年頃、なのよ」

 面の皮は厚いし図太く生きてはいるけど、そんなに自信満々な訳でもない。
 だから少し苦笑いしていた顔を触れる手指に、そちらを見上げて。
 顔のラインをなぞるように撫でる手に擽った気に笑って。

「そうね。その前にお互いこの血みどろのナリを何とかしないといけない訳だけども」

 さらにその前にはこの遺跡を無事に出ること。歩き出しながら、取り留めない話を続け。
 時折魔物に出くわしては蹴散らしつつ、遺跡を後にするのであった――

ご案内:「無名遺跡」からレグルス・ダンタリオさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からティアフェルさんが去りました。