2025/11/27 のログ
■影時 > 場所と状況を考えれば、要の護衛――守護者といった所であろうか。
この鳥女を無視して要らしい石碑を破壊する、というのは考えるもない。大変難しいことである。
火薬玉を置いた処で、どうなるかというのは考える必要もない。吹き飛ばされるのは火を見るより明瞭。
それよりも敵には利がある。地の利がある。ここまでの経路よりは確かに広いのだが、手摺や柵が周囲を囲っているわけでもない。
足の大きく鋭い鉤爪で蹴っ飛ばすまでもなく、精霊力の運用に長けた特異個体ならば吹っ飛ばしてしまえばいい。
遺跡の創造者、と呼ぶべき者が居るなら、そんな合理を踏まえて使命と方針を擦り込んでいよう。
「闇雲に……は、良手以前の問題だなァ。風の隙間を縫って斬り込むにもちぃと詠みが足りん」
さて、どうするか。気配を消して暗殺できればいいのだが、それにはまだ足りない。何かが足りない。
翼を振り上げ、叩くように振る有様から風の乱れを予兆として感じ、大きく躱しながら回り込む。様子を観る。
羽毛に篭る精霊、魔力の守りこそあれ、己が剣は斬れるだろう。鋼を斬るよりも易いことだ。
とはいえ、悠長にしていられるようなことでもない。疲れ果てるのを待つなんて美味い展開は望めまい。
この大遺跡の探索は、花形と呼べるような者たちにでも任せればいいが、己が使命を果たすことで実績と褒賞が入る。
血眼になる程でもないが、金はどれだけあっても困ることはない。
手にしたばかりの私邸の代価の足しになる。少しでもあれば、弟子の一人が気を揉むのも多少は軽くなるだろう。
(斬れはするだろう。この程度、斬れなきゃあどやされる以前の問題だ。
同時に見ておくべき、思慮すべきは……さァて、と)
龍殺しの刃を龍以外に使うというのは最早今更。よく斬れるのが悪い。
これで斬れなければ拵えた鍛冶師にどやされる以前の問題だろう。己が技量を疑われること間違いなし。
さりとて、真っ直ぐに打ち込みに行くのは早計、浅慮が過ぎる。相手は自身を中心に吹き飛ばす程の大風を繰り出そう。
手裏剣はどうか。風を読んで見切らなければ、氣を練り込んだ手裏剣とてあっさり吹き飛ばされよう。
それほどのものか。それほどのモノでなければ、守護者にする以前の問題だ。
「……風に風、というのもちと芸がないなあ。では、これは、どうだ?」
ふむと考え、羽刃の群れを飛ばしてくるのをまた身を回し、躱しつつ雑嚢を探る。目的の品はすぐに出る。
素焼きの器を二つ張り合わせ、導火線を出して固く縛った造りの投げもの。焙烙玉とも呼ばれるもの。
男が自作したそれは魔術鉱石の粉末を導火線含めて配合し、効果を増すとともに氣への感応性を付加している。
詰まりは念じるだけで火種なく点火できる。そのように火を灯したものを投じるというよりは、鳥女の足元に転がすように放る。
――点火から爆発までのタイムラグは、数秒。
封入された爆薬が、濛々たる黒煙と共に封入された釘や鉄片をまき散らす。
散乱物が投げ手の服や肌を裂くが、標的はこの体験は初体験であったのだろう。目に見える手傷はなくとも。
「――期!」
大音声を叩きつけられるのは初めてか。耳を押さえようもない躰で、不可思議に浮きながら竦む。
明らかな隙を逃さない。深く身を沈めながら踏み込み、飛び上がりながら抜き打つ刃は鋭く。氣を注ぐ刃は冷ややかに。
水を斬るような、と云わんばかりの抵抗、手応えと共に鳥女の首を刎ねた瞬間。
その頭より上に浮いていた正八面体がばきりと砕け、弾けるようにその総身が砕けて霧散する。
精霊を視認出来るものならば、最初から全身が肉ではなく仮初の肉体を精霊力で編み上げたと察せよう。
存在を確立させるの依り代が、砕けた結晶であったのだろう。霧散した後に残る光を失った結晶を見遣りつつ、血糊も付かぬ刃を収め息を吐く。
■影時 > 「あとは、……と。据え物斬り、固物斬りか。零れさせたら此れもどやされンなぁ――」
守護者を為していた風のチカラが放出されたことで、石碑を中心に渦巻く風の勢いが弱くなる。
いつまで続くかどうかは分からないが、目的を果たすならば今のうちだろう。
まるで何かの回路、術式を表すかの如く、表面に光を走らせる碑に向き直り、一瞥する。
文字らしい書き込みもシンボルの刻印もない。如何に刃を走らせるかを見定めるように目を細め、刀を握り直す。
――こう、斬ればいいか。右上から左下まで抜ける袈裟懸けに、刃を繰り出す。斬り徹す。
人を斬るにはそれに応じた、鋼を斬るにはそれに応じたやり方がある。その感覚を鍛錬と経験により男はよく知る。
斬線が抜けた後をなぞるように、どう、と。石碑が切り倒されて、風が止む。
虎視眈々と獲物を狙う、隙を伺うような魔物達が、水から引き出された魚のように虚空を藻掻く。
永くこの環境に適応したものは、生きるに必須だったものが無ければ死ぬ、とばかりに奈落に沈んでいく。
否。やがて適応したならばまた高く飛べよう。其れよりも要たる石碑が修復されるかどうかが早いかもしれないが。
――と。切り倒した石碑の影に、何かあることに気づく。
【発見物判定(1d6)⇒1・2:良品/普通 3・4:高級品/業物 5:最高級品/大業物 6:マジックアイテムor魔導機械】 [1d6+0→3+(+0)=3]
■影時 > 【形状判定(1d6)⇒1:剣/刀 2:短剣/短刀 3:槍/斧 4:打撃 5:射撃 6:棒/杖】 [1d6+0→6+(+0)=6]
■影時 > 「……ふむ?」
石碑の影、というよりは、石碑に埋め込まれていた、塗り込められていたものかもしれない。
一本の棒が転がっていることに気づく。そっけない細い黒塗りの棒杖である。
腰の鞘に刀を収め、注意深く転がっている品の前にしゃがみ込み、見回す。危なげはないと思えば注意深く拾い上げる。
魔術を先行する学院の生徒がこういう品を持っていることを思い出す。
個々人、物にこそよるけれども、杖ほど長く仰々しくなく、いわゆる魔術の発動体としては小振りな部類のもの。
飾りがついた長い杖を主に使い、脇差よろしくいざという時に抜くような帯び方をしている同輩の姿をふと思い出す。
「雇い主殿のお嬢様方にも恐らく無用だよなァ。ギルドに提出して、売れるならそのまま売っちまうか」
こういう品を知己でだれか使うか、と思って……出番は恐らくなさそう、ということに思い至る。
練習用にするにしても、もうすでに練習するまでもない域に到達済み、開眼済みと思えば、死蔵品となることは必至。
若しかしたら往時は強い魔力を帯びていたかもしれないにしても、売る方がまだ己が為になることだろう。
魔封じの模様を刺繍した風呂敷を取り出し、転がった結晶と一緒に包み、雑嚢に叩き込む。
――恐らく、此れで任務達成だろう。
何か、変化、進捗等があるかどうか含め、確認するために地上へ帰途に就くことにしよう……。
ご案内:「無名遺跡」から影時さんが去りました。