2025/09/21 のログ
ご案内:「無名遺跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「無名遺跡」にリーリアさんが現れました。
影時 > ――いい天気だ。ああ、とてもいい天気だ。

だが、これで見納めにならないようにしたい。
せめて死ぬならば青空の下でと悔いることが無いようにしたい。
そうならぬように用意するし、備えもする。どれだけし過ぎても困ることはない。

可能な限り備え備えて、あとは運次第――。それが冒険者だ。

「…………と、云うわけで。でもないが、準備は良いかね?」

王都から乗合馬車、街道の宿場町を経由して徒歩で移動して。
朝に集合して動き出し、目的地に向かえば昼。意外ときっと疲れていないのは適宜挟む休憩と氣の扱いのお陰だろう。
九頭龍山脈の麓に数多く存在する古代遺跡のひとつ、石組みの入口に一組の男女の姿がある。
冒険者ギルドの管理下にある遺跡なのだろう。入口の脇にひっそりと置かれた小さな石板に刻まれた番号を確認するのは背の高いほう。
柿渋色の羽織の下に鈍色の軽鎧と動き易そうな装束を着込み、腰に刀を差した男だ。
目的地であることを確かめれば、準備を整える。装備を確かめる。
首元に巻いた襟巻を引っ張ったり、締めたりしたら、ひょこっと出てくる茶黒の小動物二匹を左右の肩に乗せ、一緒に確かめる。
駆け出しを帯同させる際、だいたい小さめの革製の背嚢を担ぐ。
中身は携行食、水やポーション、毒消しといった至極基本的なもの。これが馬鹿にならない。この最低限を疎かにすることの恐ろしさよ。

「道中にも語ったが、基本一直線だ。
 地下に埋没した都市、ないし地底都市の入口……と思われる遺構。もっとも、奥は埋もれて塞がってるから先には進めんが。」
 
――魔物が巣にするんだよなァ、と嘯く。寝床を求めたものか、迷宮の端くれであるため“沸く”のか。
どちらでもいい。適宜間引きがてらの確認が要るため、こうしてギルドからの依頼として冒険者が遣わされる。
宝箱が若し在ったら、それは実行者の総取りで問題ない。その代わり、危機は自分でどうにかして報告することが条件。
分類としては初心者向けだが、何が出るか、或いは湧くかは分かったものではない。
己が荷物の用意が整えば、背嚢を背負って準備万端だ。あとは、同行者(パートナー)の方の準備完了を待つだけだ。

リーリア > 「は、はひっ、先生……っ、だ、大丈夫でさ……ですっ」

某日、昼。九頭竜山脈麓の遺跡にて。震える声で返事するのは背の低いほう。
ロイヤルブルーの外套に、白のニットワンピース。長い革ブーツに長杖という出で立ちは、術師らしい装いだ。
隣の男を"先生"と呼んだその姿は小柄な少女。緊張した面持ちに少し乱れた吐息、
杖を両手でぎゅっと握る仕草からは、隠し切れない不安や緊張が滲むどころか溢れ飼っている。

「えぇっと、地図、地図……あったっ。一直線……一直線?この、曲がりくねている場所は直線の圏内ですか?
 奥は埋もれて……という事は、入口の大きさに比べたら、中は浅めなんでしょうか魔物の巣っ!?」

喰い入るように男の横で地図を睨む少女にとって、今日は初めてとなる課外授業。
冒険者を目指す中で避けては通れない探索任務の初歩の初歩を師と共に熟さんと訪れたのだが――

「ま、ままま、魔物に対しては、あの、"コレ"があるので何とかそのっ、いけます……っ!」

男が『魔物が巣に』と呟いたのはしっかり耳に届いていたようで、
少女は目を回しながら、ブンブンと魔術用の杖を両手で振り回して見せるが、主に体幹周りがあまりにも頼りない。

「……せ、先生。も、もう行きますか?行くんですね?大丈夫です、準備は万端と言えます。行きましょう……っ」

ちゃっかりと男の後ろに陣取りながらも意気込む様に小さく跳ねながら
魔力を込め、長杖先端に嵌められた魔石を輝かせて見せる。更に一呼吸をすると――
青い魔石の色を、別の――男の瞳に似た暗赤色に、それから、煌々とした黄色に変じさせて見せ、

「……見て下さいっ。早速、魔力に氣を込めて反応させてみたんですっ。
 この色であれば松明代わりの灯りとして便利ですし、魔力消費も殆ど無しですっ」

少し得意げに男を見上げる少女。脚の方と言えばガタガタ震えて小鹿の様なのだが、
少女なりに出来る限りの準備をして来た――という事ではあるようだった。

影時 > 「……あー。大丈夫なら良いンだが。……本当に大丈夫だろうな?水呑むか?」

昼下がり。遺跡の入口の前。よくよく見れば、魔物の足跡――にも見えなくもない痕跡が残る処で声が響く。
緊張しまくり震えまくりな声だ。声音の雰囲気と共に顔を見れば、得心もゆくだろう。
術師らしくも同時に上等に見える装いを着た声の主は、片割れと比べると背丈の差が著しい。
それはいい。術師の能力は体格によらない。もっとも決定的なのは初心者にありがちな雰囲気、緊張感か。
それを肩上のシマリスとモモンガと一緒に顔を見合わせ、頬を掻く。

「まァ落ち着け落ち着け。答えるから、息を整えつつ聞くように。
 元々は人工、人間の手が入った――と思われる遺構だ。大体は方眼紙にも書けそうな直線だ。
 地下二層、三層とかみてぇな奴じゃない。
 
 ……こっから進んで、その突き当りまでを確認し、魔物を掃討して戻るという仕事だ。シンプルだろう?」
 
拡げられる地図自体は出立前、冒険者ギルドの窓口から渡されたものだ。
簡素な書き込み振りは、この場所自体が至極単純な道のりであるから、に他ならない。
地上からスロープになった直線を進み、角を曲がり、道なりに奥を目指す――という単純明快振り。
それ故の初心者向けのクエストである。本来なら、男のようなベテランが帯同するのは過剰戦力かもしれないが。

「意気込みは大変宜しい。“それ”に頼るように立ち回るつもりだから、そのつもりでな。
 持ち物その他が整ったなら宜しい。俺とこいつら、ヒテンマルとスクナマルがリーリア、お前さんを守りつつ先を進む」
 
付いてくるように、と。ぶんぶか振り回される杖と振り回される体幹に苦笑しつつ、少女の方を見る。
一先ず用意が済んでいるならば其れでいい。上手く動けれれば、損耗は主に魔力と氣に絞られよう。
だが、それで済まないことも勿論ある。名を呼ばれた肩上のシマリスとモモンガが挨拶がてら前足を挙げ、ぺこん。

「――魔力と氣の、反応だって? 
 消耗なしってのは、地味に凄いな。それ、閃光のように輝かせられたりするのかね?」
 
そして、杖頭の魔石の色が輝き、変じる。青、己が目のような暗赤、煌々とした黄色――器用なものだ。
その力の源泉が氣と魔力と聞けば、こういう使い方があるのか、と素直に驚く。
魔術の知識はいくばくか持っていても、氣と魔力の併用までは思いも及ばぬことがある。
震えっぱなしの脚を見れば、とんとんと左肩を軽く叩いてやってから、先行しよう。
先に入口に進む落ち着き払った後ろ姿は、どこか気配が幽かながらも、注意深く警戒を払いながら奥を目指す。

リーリア > 「……ご、ごごご心配には及びませんっ。水筒を持ってきているのを忘れてました……ん、んっ、ん……っ、 ぷは……っ」

心配するような言葉をかけられると少女は瞳を見開き、はっとしてから
背負った少し大きめの鞄から水筒を取り出すと、一部口に含んで飲み下す。

「深呼吸……深呼吸……は、はい、先生。ご教示、お願い致します……っ。
 ……ある程度舗装がされつつも、亀裂や段差程度のある道程なんですね。
 確かにこれだけ道がシンプルなら、全体工程も簡素に思えます……。
 脇道が無ければ警戒するべき方角も限定出来ますし、これで二人なら……
 余程、予想外の事が起きない限りは問題無くこなせそうですっ。えへへ、少し気が楽になりました、先生」

地図を男の横から覗き込んで確認すると、大分震えが収まって来た。
少女は一寸目を細め、確認というものの重要さをひしひしと思い知る。
確かにこれなら初心者向けだ、と思える内容だ。当然油断は出来ないのだが。

「ヒテンマルと、スクナマル……?そ、その子達にも役割があるんですか……っ!?
 そ、そうなんですね……何だか賢そうなお顔をして居ます。宜しくお願いします、お二方」

紹介されたシマリスとモモンガを見つめる。少女の眼には何の変哲も無い野生動物にしか見えないが、
挨拶めいた挙動をとる二匹を見れば感嘆の声を漏らし、釣られる様に会釈を返した。

「えへへ……早速、色々試してみたんですっ。どうですか?
 ただ、私自身の氣とは反応させられなくて、こういう色には出来ませんでした。
 暗所での灯りとして最も有効な色を調合するのには、私の中に残る先生の氣を使ったんです。
 
 もちろん!先生の氣には……矢張り命の力なんですね。先生の気質が込められているようで、
 もっと強く光らせる事で、獣をひるませられる事を既に確認済みです。
 目くらましだけでなく……怯えさせる?様にさせる事が出来るみたい、です。
 この効果も、私自身の氣では起こす事が出来ませんでした。……私に気迫が無いから、やもしれません。あはは……」

閃光のように、と問われれば。小柄に似合わぬ立派な胸を張って見せながら
先程よりも自信に満ちた声色で説明し、けれども最後は苦笑いに変わる。
効果的な発色も、効果も、その殆どが嘗て注がれた"男の氣"によるものであるからか。

「…………はぁー…………」

男に続いて遺跡へと足を踏み入れた少女は、観察好きの研究好きだ。
先ず最初に瞳に飛び込んできたのは男の"脚運び"だった。それに感嘆の息を漏らす。

(こ、こう……うん? こう、かな……あ、あれれ……全然出来ない……。
 余計な音が聴こえない、いつもみたいにゆらゆら歩きなのに、多分押しても動じない、そんな歩き方……。
 咄嗟の事に対処出来る準備が常に出来てる、って事なんだ……すごい……。
 ぅ、う~ん……やっぱり全然真似できない……)

男の後ろを、灯りをともしながら脚運びを真似つつ付いて行く。
少しずつ奥へと入って行けば、振り返ると入口からの日差しが遠のいて不安を感じる。
が、再び前を向けば頼もしい背中があり、ほっと安堵。少女が脚を止めるような事は無いようだ。

影時 > 「そうそう、……心乱すのも躍るのも是非も無いが、先ずは落ち着け、だ。
 術師も、射手もそうだな。一歩離れて俯瞰することも重要になる立ち位置でもある」
 
説教臭いのは流儀ではないが、ありありと初心者振りを目の当たりにすると助言も必要だろう。
不意の事態に喉が枯れて詠唱に差し障りが在ってはいけない。水筒から水を含む様子に頷き。

「凡そその認識で間違いない。ここ最近で崩落も確認されていない、堅固な石壁振りよ。
 とは言え、進行する際は適宜確認する。ここは遺跡であり、まかりなりにも迷宮の端くれでもある。
 罠の類が生じていないとも限らンから、だ。
 リーリアと同じ位の駆け出しで斥候が居たらその仕事になるが、その辺りはひっくるめて俺がやる」
 
昔は瀝青(アスファルト)を塗り込んで舗装されていたのかもしれないが、今は経年劣化などで消え失せている箇所もある。
だが、最奥部を覗いて落盤、崩落が生じていないのは、基本的には堅固に作られている構造物なのだろう。
構造改変の心配、可能性も少ないが故に、初心者の腕試し用としてカテゴライズされている。
とはいえ、住み着く、ないし、現れる魔物はそうもいかない。罠もまた然り。何か出ている可能性もある。
気が楽になったという言葉に、だと良いが、と小さく笑えば、肩上の二匹が頬を叩いてくる。

「嗚呼、俺の子分で賑やかしで、ちょっとばかり魔術が使える。呼ぶならヒテンとスクナで大丈夫だからな。ちゃんと聞き分ける」

――どこでこんな子引っかけたでやんすか、と言わんばかりに、つぶらな眼でぢぃと飼い主を見てくる。
云わせてぇのかよ、とばかりに肩を竦めれば、会釈を返す少女の声に気をよくしたように尻尾を振る。
喋れないが人間の言葉を聞き分ける時点で、ただの毛玉ではない。紹介の言葉に白い法被の下のふかふか胸毛の胸を張って見せて。

「大したもんだ。幾つかの術には覚えがあるが、この国の魔術とは毛色が違うからなァ。
 リーリアの氣とは反応しなかったってのは気になるが、そこはもう少し研究が要るかもしれん。
 ……眩惑ってよりは、威圧、威竦める類の感じかねぇ。
 なに、魔術は気迫云々ばっかりじゃあるまいよ。――少なくとも、俺は期待している」
 
成る程成る程、と。ついつい立派な胸の方を一瞥しながら、告げる内容を吟味する、
効用を聞けば無用な戦いを避けるため等、用途と使用場面を脳裏に想定できる。
苦笑いする様にふるりと首を横に振り、後ろ姿越しに進行しながら、期待している、と告げる。
少なくとも、今回は駆け出しにありがちなように振る舞い、歩くつもりだ。後は己の采配次第でもある。

(……ふむ。)

明かりを後ろに背負いつつ、ついてくる気配を確かめながらスロープ状になった進入路を進む。
進むうちに太陽の日差しは途絶え、天井に僅かに自生したヒカリゴケと少女が灯す明かりのみとなる。
時折歩調を落とし、踏み込み足から感じる微振動、氣を篭める反力から、進行方向に罠の有無を探る。

――罠はない。

そのまま直線のスロープを下り切り、直角に進むと最初の開けたホール状の玄室に入る――前に少女を制する。
真横に出す腕は、制止の合図。何故か。奥に『ギャギャッ、ギャギャギャ』等、あからさまな声が響く。
魔物が居るのだ。覗き込んでも良いし覗き込まなくともよい。
二体、ないし三体のゴブリンが、地上から運ばれる明かりの気配にざわめき、待ち構えている。

リーリア > 「ぃ、一歩離れて……ですかっ!? ぅ、わ、わかりました……」

距離を離す事の、何とも不安な事だろうか。
男と距離が1cm離れる毎に自分の寿命が縮まって行く様な感覚すら覚える。
が、地図と口頭で確認した道中に複雑さは無い。次があるなら、その時はもっと過酷で複雑な道中かもしれない。
であれば、試すには今しかない。機会を失う訳にはいかない。自分に言い聞かせ、杖を握って一歩離れる。

「罠の類、ですか……。城塞跡等であればわかりますが、
 この様な場所に罠を掛けるとすれば、どの様な理由があるんでしょうか……。
 元の用途とは関係なく、知性のある魔物や魔族が仕掛けたりするのであれば……うぅ、脅威ですね……。
 
 ……子分っ!む、ぅ……ちょっぴり羨ましいポジションですね……。
 魔術が……使える……!?む、むぅぅぅぅ~っ!わ、私の方が、お役に立って見せますから……っ!」

道程に関する話は、罠に関して疑問が浮かんだ。
経年劣化によって自然と生まれた亀裂や陥没であれば少女にも納得出来るが、
人工的な罠があると仮定した場合、仕掛ける目的がてんでわからなかった。

愛らしくも頼もしい二匹に関して説明されれば、少女は少し頬を膨らませた。
魔術を使える、と押し得られれば更に頬は膨らみ、小さな二匹をライバルの様に思えてしまう。
更に悔しくも、少女の目に映る二匹はあまりにも愛らしい。その点においては
完敗を感じて肩を竦め、胸を張るその姿を羨まし気に見つめていたのだった。

(…………っ! これって…………)

時折歩調を落とす男を不思議そうに背後から覗き込めば、感じられる事がある。
男が踏みしめた足元から、波紋の様に広がっている氣の微弱な奔流を"視る"事が出来た。
まるでソナーの様に広がる氣が床だけでなく壁や天井をなぞる様を見上げて、

(そ、っか……網みたいに拡げるより、波紋の方が無駄が無いんだ……。
 まるで水を一滴垂らすみたいな……脚の先、から……?う、うぅ……
 わ、私には、まだ……コントロール出来そうにない、かも……)

男の氣を身体に注入された影響か、男が何をしているかが理解出来る。
言葉を発する事なく瞬時に伝わるとなれば、これだけでも有効活用出来そうだ。
そんな事を思いつつ脚を進めた先。腕によって制止され、その先には開いた空間。

「(先生、先生……聴こえますか……っ?私の聴いた事のない声、です……。
  あの先に居るのは、獣ではなく魔物の類、なのではありませんか……っ?)」

少女は念じてチャンネルを開くと、男へ念話めいた魔術を飛ばす。
少女の耳にも伝わって来る歪な声は、聴き馴染みのないものだった。
うっすらと眉尻を下げ、心の中の声色も少し不安気に伺い立てる。

影時 > 「…………あー、そのリーリアお嬢様。
 一歩引いて云々とは、物事を見る方についてだからな? 魔術師は一対多の要を担う役でもあるから、だ」

そんなに心細げに云うようなこと、だったろうか。う~むと肩上の二匹と一緒に首を傾げ、嗚呼、と息を吐く。
離れるという字面の方に意識が向いてしまった、といった具合か。動きの気配に頬を掻く。
緊張を抜くついでに胸を揉んだ方がまだ良かったろうか。
ふと、思わなくもない。もっともそれを遣ると毛玉達に思いっきり噛まれるであろう諸刃の選択でもあるわけだが。
 
「さて、な。寧ろ俺が知りたい。もっとも罠を仕掛けるにしても、此処じゃああからさまだろうがな。
 泥や血等で足跡が残っている場合、落とし穴なら一番看破し易い。
 
 ははは、良いだろう良いだろう。
 ……魔術と言っても、あくまで“使える”だけだ。ちっちゃな魔導書に記してもらった術を使える、というだけの。
 それに攻撃的な術は与えられていない。与えるつもりもない。そこはリーリアにお任せ、という訳だ」
 
内部構造の改変が生じる大迷宮の末端だから、といった所だろう恐らくは。
この辺りの遺跡は、巨大な迷宮都市ではないか――といった与太話が偶に囁かれる。故に、時折思い出したように罠もある。
その予兆を探るに辺り、足跡の有無は見立てに役立つ。そう言い足しながら、頬を膨らます様に顔を向け、くつくつと笑う。
ただ、マスコットにはなり得ても完全にライバルにはなりえない。
二匹が使える魔術にも制限も限度もある。攻撃する者になれば、攻撃を受ける側になり得てしまう。
そうでないからこそ、飼い主にして親分たる己は子分を守る理由がある。そして、今なら加えて生徒を守る義務もある。

――……さて、どう攻めるか。

進行方向の玄室に巣食う魔物たちの気配を探る。数は多くない。己一人ならどうとでも出来うる。
だが、それではだめだ。それでは修行にならない。自分ではなく少女にとっても学び足りえない。
何か相談しているかの如く、騒々しく響く鳴き声が煩わしいのか、毛玉達は飼い主の襟巻きの中に潜って退避の構えをすると。

「(……ぉ、――こっちで尋ねてくれたか。良いぞ、実に良い。
  見るまでもなく、ゴブリンが……三体位だろうなァ。俺が先に出る。彼奴らを盾にするように動くから、魔法を射かけてくれ)」
  
念話――思念が通じ、脳裏で男も慣れた素振りで声なき声を返す。
反響する騒々しい声は、いよいよ誰が見に行くかの相談が付いた、という処だろう。
此方に寄る前に打って出よう。そう心に決めつつ、左手を真横に伸べる。
三本指を立てるのは3つ数えたら踏み込む、の意。頷きの気配を感じれば一本折る。ついで二本、一本とさらに曲げて――。

「――疾ッ!」

鋭い息吹と共に、男が玄室に踊り込む。真っ先に捉えるのは近づきつつある半裸同然の小鬼。
粗雑な石斧を持ったみすぼらしい姿の横手を、風が駆け抜けて――ごとり、と落ちるものがある。
小鬼の首。それを為したのは、男の左腰に収まった刀の抜き打ちと気づけたかどうか。
気付かせるよりも速く、男が残る二体を認める。奥の扉の前に陣取った似たような姿の小鬼。
宣言通りにその頭上を飛び越え、男は背後に回る。魔術の射線を開け、前後に敵を挟撃させる立ち回りだ。