2025/09/07 のログ
ご案内:「無名遺跡」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ああ……お腹が空いた……

 ダンジョンと化している地下遺跡の奥を彷徨うヒーラーが……三日三晩真面に食事をできていない飢餓状態で半死半生、彷徨っていた。
 ふら、ふら…とふらつく足がとうとう止まり。
 どさ……と力なく投げ出すようにその場に頽れ。通路の途中壁を背にして足を投げ出して長座位になり。
 
「………おなかすいた……」

 掠れた消え入りそうな小さな声が無意識に漏れる。

 ――事の起こりは四日前。
 階層状になったその地下遺跡へ冒険者パーティの一人として潜った。
 その一団は剣士、盾持ち、斥候、弓士に魔術師、そして回復役に荷運びまで揃っていたので、調理器具や食料などはポーターに任せて他の面子は水や菓子程度しか持っておらず。

 万全を期していた筈なのだが、それでも不測の事態は起こる。
 階層を仕切る、俗にフロアボス…と呼ばれるマンティコアと対峙し討伐したまでは良かったが。その後現れた、他の冒険者パーティ……それは真面な連中ではなく、強敵から得られる貴重な品を狙い……同業者を襲う連中。
 マンティコアと苦闘し、ダメージを回復しきれていなかったところで襲撃に遭い、対応しきれずに前衛は斃され……戦闘には不向きな後衛は三々五々に散り。
 真っ先に狙われた回復役たるヒーラーは辛くも落ち延びたものの……ダンジョンに一人取り残されて救助も望めず丸三日三晩彷徨った。

 ――それから四日後の現在。
 清水が染み出る箇所がいくつかあったので、潤沢…という程ではないにしろ水には困りはしていなかったが……食用に足る素材は一切なく。
 ひとかけのビスケットや飴玉でほそぼそと食つなぐも、限界だった。

 空腹で霞む視界。通路で虚ろに視線を彷徨わせながらげっそりとやつれた顔。

 もう動けない……もう動きたくない……。

ご案内:「無名遺跡」にレグルス・ダンタリオさんが現れました。
レグルス・ダンタリオ > ザッ、ザッ、という足音が微かに聞こえる。
現時点でそのヒーラーがいる場所が浅いのか深いのかはわからないが。
ともあれ、こんな場所で聞こえてくる足音など、魔物かほかの冒険者か。
死神の可能性のほうがずっと高いのだが……。

「人影……」

人の言葉が、それも理解できる言葉がヒーラーの耳に微かに届くか。
やつれ、無気力なその状態で声が聞こえたとしても反応できるかは別の話ではあるが。
その声と、足音の主が近づいてくる。
彼女が顔を上げるなら、薄暗い遺跡の中で端正な顔立ちと、赤と緑のオッドアイが見えただろう。

「…………死…いや、微かに息があるか」

青年はそう彼女を見下ろすと、周囲を念のため見る。
罠や、魔物の類がいないのであることをしばらく観察した後。
改めて彼女へと近づいていき、片膝をつく。
その首元に指を置いて脈を確認した後、懐から袋を取り出す。

「口に入れたら水を一緒に入れるぞ」

聞こえてるかもわからない、死にかけの彼女にそう声をかけると。
その口に何かを入れると同時に、水を掬って口に入れる。
瞬間、口の中に感じるのは塩気。そして強い酸味。
彼女がまだ嗅覚の感覚が残ってるなら、それは柑橘類だとわかるだろう。
乾燥させたレモンだと感じれる。

「腹には溜まらないが、嚙めるものがあるだけマシになるはずだ」

ティアフェル > 「……………?」

 何か……聞こえる……。
 まるで周囲の壁が音を吸い取っているかのように深閑とした遺跡の奥では……遠くから近づいてきた足音であったとしてもよく響いた。

 けれど聴力も若干衰えている現状では近づいてくるまではなかなか気づかず。
 向こうからやってくる人影がこちらからもぼんやりと確認できたかどうかという時点で、ようやく反応し。

 魔物とは明らかに異なる規則的な足音とすらっとした細身のシルエット。
 相手もこちらに気付いてやってくると、ぼやけた視座を凝らして見上げ。

 生きてるかどうか、を懸念する声に思わず……ふ、と息を抜くようにして笑った。

「……あぁ……人がいる……四日ぶりに見た……」

 そう発した声は酷く小さく弱弱しく掠れていた。
 この四日間、闇雲に逃げ延びた場所が悪かったのか善人にも悪人にも出会わずに過ごして。
 今目の前にいる……まだ少年という風情も濃い青年になんだか感動に似た心地を覚え。
 幸運なことにその相手も危害を加えてくる側の者でもなく。
 逆に――助けてくれようというらしい。

「ぇ、あ……あ、ん…と……ん、んんっ……」

 口に含まされるのは水と塩とレモン……すっぱいとしょっぱいが同時に口に広がって。
 一瞬噎せそうになるが。
 どうにか堪えて、小さく呻きながら、酸っぱくて皮は苦くて少し渋い黄色い果実を奥歯で噛んで。
 ゆっくりと噎せないように水を嚥下すると大きく息を吐き出し。
 
「っは、はあ……ふぁ……
        ぁ……ありがと……」

 辛うじて先程よりマシな声でまだ力なく囁き。
 できればお砂糖が欲しい…と切ない顔をした。

レグルス・ダンタリオ > 「食べるのは問題なし、か」

彼女の様子を見て、しっかりと顎を動かすのを見て。
喋った言葉に答えることもしない。というより、彼女の状態を優先しているようであり。
嚥下するのを見送った後、もう一度懐から何かを取り出す。

「喋るな。まずは自分が助かることを今は考えていろ」

ぶっきらぼうにそう青年は言うと、清潔なタオルを取り出して近場の水場に入れると絞り。
その濡れタオルで彼女の顔を清拭し始めて、唇を湿らせる。
改めて見れば、なんとも汚い。当然、4日もここで過ごしていれば埃や土などが体についたまま。
髪の毛だって汚れている。その中で顔を拭かれれば、気分だけでもマシになるだろう。

もう一度濡れタオルを絞ると、彼女の指や腕も清拭していく。

「一旦少しでも清潔にする。食べるのはそれからだ」

そうきっぱりと言うと…無遠慮に彼女の上着をめくり、その背中や腹も拭く。
局部などや下着にはさすがに手を付けない。ものすごい無礼な行動だが。
本人はいたって真面目だし、救助活動であることに変わりはないが……。

「これでマシになったらいいが」

スカートをめくる真似はせず、その足も拭き終わった後。
背中に背負っていたポーチから取り出すのはかなり乾燥しているパン。
しっとりはせず、ぼそぼそとしたパンだが水はある。
そこにドライフルーツと、ブルーベリージャムの小瓶を置き。
スプーンでパンにジャムを塗り付けて、彼女の口に入れる。

「あまりいきなり食べようとするなよ。しっかり噛め、水はある」

そう言うと青年は彼女から離れて、自分も水場に近づき顔を洗う。
細見のように見えるが、装備は軽装備と剣を二本。それを考えたら彼は剣士だとはわかるか。
冒険用、というより、深くは潜らない程度の持ち物の数。
ソロであることを考えたら、そこまで長く滞在するつもりはなかった冒険者といったところか。

ティアフェル > 「………君が思うよりは……元気だよ……」

 空腹で死にそうな気がしているが……絶食で大抵一週間は持つそうだ。
 水分は摂れてたし、三日の間に菓子類を少しばかりは口にできたので……餓死寸前…まではいっていないけれど。
 確かにまあ、死にかけているように見えるし、ほんとマジで死ぬ。とは実感してはいた。
 けれどしゃべるな、と注意されたので一応口はつぐんでおこう…とは思ったのだけど。

「………?」

 彼が水でタオルを濡らしてくると疑問符を浮かべてぼんやりした視座を向けていたが。

「むぐ……」

 有無を云わさず顔を拭かれる。
 綺麗に拭われて確かにさっぱりするけれども……途中でちょっとは自分でもやってたよ……。
 さすがにもうその気力もなかったから、確かにきちゃなかったかも知れないけども。

「っ…ちょ、…とぉ…いい、いいって、そ、こまで……自分でや、る……ぎゃあっ」

 手や腕…そこから上着をめくって背中まで拭かれた。お腹とかやめて!痴漢!!って危うく叫びかけた。
 ほんとそれ以上やったら蹴っちゃう、と思っていたが……そこまでで勘弁してくれた。

 コイツ、どうやらわたしを乙女だと認識してねえな。

 まるで機械的にある程度清拭してくれる彼を見て、思わず微妙な表情にもなる。
 怒っていいのか感謝していいのか大変これまた難しい。

「……はいはい…どうも……」

 礼だかなんだか不明なその微妙な科白を告げるのがやっとで。
 けれど、一通り拭き終わってから取り出した乾燥パンにジャムを塗って口に入れてもらえば自分でもはしたないこと極まりないが――目の色が変わってしまう。

「……!! ……っ……! ん…んン゛」

 甘さとほんのりした酸っぱさが口に広がって思わず夢中で貪ろうとしてしまうのを自制するのに苦心する。
 だけどゆっくり食べようとしてもどうしても貪欲に身体がそれを欲してしまい。抑え切ろうにも切れなくって。
 ん、ぐ…と早食いになりそうなのを抑えてしっかりと噛み締め。
 奥歯で、ぐっと硬いパンを噛むと……噛みながら……。

「ん……んぅ……お…いしい……おいしぃ~……」

 じわ、と何故か少し泣けてきた。五臓六腑に沁みるとはこのことか。
 目を潤ませながらはむ、はぐっと噛み締めて、どうしてもすぐに食べ終わって。
 はあぁぁ~…と大きく息を吐き出した。
 目尻に浮いた雫を拭いながら、ようやく少し人心地ついて。

「っはあ、生き返った~……」

 ようやく人間らしい顔をして、実感の籠った一言。

レグルス・ダンタリオ > まだ水分があるとはいえ、青年から見たら彼女がどれぐらい放置されていたかもわからない。
ほとんど死にかけ、と判断するのも仕方ない話である。
だからといって、この青年の機械的な行動は擁護できるかといえばそうでもない。
普通にノンデリの塊。これがこの青年だった。

「元気そうには見えないからこうしている。
 とはいえ、ここまで喋れるなら実際に元気なのだろうが」

そう青年は言うと、彼女の抗議の声を無視して体を拭いていく。
その間、彼女の肌を強く見つめるようなセクハラはしない。
いやこの行動自体がセクハラとして訴えられても誰も文句は言わないだろうが。
彼女をちゃんとした女として認識していない。という彼女の考えは100%その通りだった。

「……………………」

彼女がパンを食べていくのを顔を拭きながら見て。
青年は無言で周囲をもう一度見渡した後。
自分も少し余っているパンを水を軽く蒔いて湿らせたあとに食べる。

「気力のほうも問題はなさそうだな」

食べた後の発された声を聴いて、そう声をかける。
青年はもそもそとパンを食べて片膝をついて、水を飲む。
彼女と違って味のない、塩だけをかけたパンを飲み込み。

「何があった?こんなところで、戦闘職でもなさそうなのに。
 はぐれたか?裏切られたか?おいて行かれたか?」

矢継ぎ早にそう問いただす。興味があるだけなのか。
まぁ、話題がないから、という可能性のほうが高いが。

「…いや、そんな質問をする前にまずは素性を話したほうがいいか。
 レグルスだ。お前は?」

ティアフェル >  微妙に腹立つな。

 無感情に身体を拭かれる19歳死にかけヒーラー(自称乙女)。
 ここまで無頓着に扱われると……おい、その態度はかなろう、と文句のひとつも云いたくなる。
 その行為が善意からだろうから、ぐっと飲み込むくらいの社会性は備えているから我慢しているが。

 とにかく、拭き終えられるとほっとした。やはり無遠慮にあちこち拭かれるのは余りいい気分はしない。
 多少身体はさっぱりしたにしても。特に見知らぬ異性なのだから余計。
 やめて、と怒鳴ったりはしなかったけど、厭そうな顔になるのは仕方ない。

 けれども、その後ジャムパンをもらって……さっきまでのことはころっと忘れる。
 もうそれどころじゃない。
 はぐはぐ、と硬いパンをジャムと一緒に噛み締めて。
 人生一、うまい!となんだか感涙気味。だばだば泣いたりするほど情緒不安定でもなかったが。
 空腹が満たされていくのに心底から安堵して。
 最後のひとかけまでしっかり味わって、指についたジャムもきれいに舐め取ってから。
 ぱん、と顔の前で手を合わせて。

「っごちそうさまでした!! あー……しあわせ……」

 彼が塩味だけのパンを齧るのを小首を傾げてみやりつつ。
 どうもありがとうと丁寧に頭を下げ。

「ぁー……え、っと……」

 事情を話すに差支えはないが。
 にしても、ずけずけした子だよ、と自分より年下らしい少年に抱く感想。
 その前に名乗りを聞いて。

「レグルス? わたしはティアフェル。ヒーラーで冒険者…で冒険中に……」

 名乗り返した後、一応これまでの経緯を伝えておく。
 パーティでマンティコア討伐戦に潜っていたが、討伐した直後にハイエナ集団に襲撃されて、散り散りに逃走して今に至る――とここに至るまでの経緯をかくかくしかじかと語り。

レグルス・ダンタリオ > 随分と元気のいい声だ。
そう思いながら彼女が食べ終わるのを見つめる。
まぁ元気になるように助けたのはこちらだから文句を言うつもりもない。

自分に対して彼女が文句を言おうと思っていたなんて青年は一切考えていないようだった。
少なくとも青年の中では徹頭徹尾これが正しい事となっているのだろう。
それに、施しを与えている側なのだから。

「なるほど、目的は達成したがその直後にやられたと。
 ほかのメンバーは見た覚えはない。やられたか脱出したか…。
 俺が見たほかの冒険者は今はティアフェルだけだ」

その話を最後まで聞いた後、自分の記憶を辿りそれらしき仲間は見ていないと青年は話す。

「俺は軽い武者修行のつもりで来た。
 深いところまで向かうつもりはなく、たまたまお前を見つけただけだ。
 いちおう、ティアフェルは仲間を探したいというのなら手伝うし。
 ここから離脱したいというのなら付き添うがどうする?」

ティアフェル >  これで一食の恩義がなければ……まあまあ険悪だったかも知れないが。
 人間お腹が満たされるところっと機嫌が良くなるというもので。
 しかも三日も碌に食べてなかったのだからそれはもう。

 お腹いっぱい、とまではいかないがともかく落ち着きはした。
 はふ~としばらく余韻に浸ってからのお礼からの名乗りからの諸事情説明。
 
「そそ、そういうこと。虎視眈々と隙を狙ってたのね……まったく……してやられたわ。
 そっか……まあ、もうあれから四日は経ってるしね……だと思うわ」

 期待はしていなかったが、そうだろうな、と他にそれらしきものとは出くわしていないと聞いて肯いて。
 少し肩を落とすが、武者修行…と聴いてほうと相槌を打ち。

「そうなんだ、へえ。ソロでねえ……。
 え、あー…と、そうね……もうそこら辺にはいないだろうし……探すとなると結構ホネよ。もう離脱してる可能性も高いうえ……別にそんなに親しい連中でもなかったし。
 離脱かな。付き合ってくれるなら超助かる!
 ほんとにいいの? あ、怪我とかは任せといてね! 回復魔法は全然いけるから!」

 ここはひとつ、頼ってしまおうとご厚意に甘えてよろしく!と頭を下げた。