2025/08/04 のログ
> 臨機応変。その都度状況は変わり続けるが故に、セオリーはあっても其れが全てではな言う。
手札の幅――即ち、術、武具、知識その他諸々、他者との縁などもそこに含まれるならば容易くないことは明白である。
今までに何度か聞いた言葉、己を知り、敵を知れとは、今こうして敵を観察していることも其れに当たるのか。
敵が何に反応し、どんな攻撃の手段を持つかを見極め弱点を探る。
確かに、暗殺以外、魔物や傀儡相手にも観察は有効であるとは、討伐したあとに改めて実感することだろう――。

分身を囮に備える時間を得ての特攻は、見事、敵の心臓とも呼ぶべき核を貫き屠る結果を示す。
重力と速度をもって堅い鎧へ突き立てた双牙は鋭く、それでも突き破れなければ刃先から火花を起こし、鎧とその内側、人であれば内臓を直接爆発させるつもりだったが、そこまでする必要は無く済んだ。
強固な鎧を穿つ術があることは、これで師に示せただろうか。

罅割れた鎧を貫き砕き、敵の動きが止まると同時にタンッと蹴りつけ離れれば、くるりと宙で回って地面へと降り立つ。
軋み、ガラガラと崩れ落ちる様子を見届けて、再び動き出さぬこと、爆発のないことを確認してからゆっくりと構えを解いた。
分身は役目を終えると同時に力を使い切り、像を揺らがせ、ふわりと消えて。

「……はぁっ。先生、これで、合格……――?」

入口から此方を見ている師へ振り返り、切れた息を整えながら尋ねるが、その声は疑問符で終わる。
不意に左の視界が遮られ、手で拭えばぬるりとした感触があり、改めれば赤いものがべっとりと付いていた。
先ほど額を掠めた礫で額を切っていたらしい。

「…………ん」

慌てずに、ただ一つ声を漏らして。
武器を鞘に収め、額の傷を手で押さえつつ、腰の荷を漁って包帯を探すが中々見つからず。
ようやく見つけたが取り出そうとして手を滑らせ、コロコロと訪台は地面を転がっていく。
首を傾げて手を見れば、両手は小刻みに震えており、次第に身体から力も抜けて。

娘が持つ氣の量は元よりそう多くはない。人並だ。
慣れない環境では休みもままならず、また普段ではしないような(身体の一部に集中させる)使い方をしたことも重なり、分身まで作れば尽きるのも早い。
あのまま力足りずに爆破を重ねていたならば、氣を使い果たし、そのまま意識を失っていたかもしれない。

受けた加護も保ちきれずに、尾に灯した火が揺らいで徐々に小さくなって行き、やがて、ふっと火は消え失せた。
この有様では、暫くはろくな術も使えないか。
包帯を追いかけていく気力もなく、その場に座り込んでしまった娘は、どうしたものかとぼんやりガラクタになった魔工騎士の欠片を見下ろす。

影時 > 玄室に立て籠る生物が人のカタチをしており、血が通う生物なら、割と容易い。
気配を減じ滅して背後を取り、死角から首を刎ねるなり心臓を穿って暗殺する遣り口は、師も弟子も得意とする処。
されども一方に尖れば、一方に対して脆くなるとはよく言ったもので。
遺跡迷宮に跋扈するものは、ただの人型の生き物のみではない。今回のような血肉が流れない機構もあり得る。

そんな時は、暗殺にこだわらず、素直に対峙せざるを得ない。
ただ安直に向かい合うわけではない。攻撃を躱し、避け、敵の動向、傾向、性質を見極め、隙を探る。弱点を見出す。
身軽さはこういう場合にも役立つ。故にかくして我が弟子は結果的に敵の心臓を穿ち、仕留め切れたではないか。

「……――だいぶ荒っぽいな。火遁、否、火薬術か。普通の剣だと、負荷に耐えきれず折れるか?」

響いた爆音の残響がまだ残っているのか。ぶわわと毛並みを膨らませた毛玉が耳をぺたりと伏せさせ、くいくいと顔を振る。
気遣うように見れば、ぷはっと息を吐いて首を振り、びっくりしたー……と宣いげな様に息を吐き、見たものを分析する。
とっておき、と呼べる類だろう。成る程、強烈だがかなりの負担がかかるように思える点も強い。
武器の強度、爆進力たる火薬、そして使い手の技量。その三位一体の結果は、納得がいくもの。

完全に崩れ落ち、静かに血液よろしく無垢の魔力を静かに放散する残骸を一瞥し、構えを解く姿に近づく。
消えゆく分身を認めつつ、見える赤いものに眉を顰める。声を放つより、先に動くものはひとつ。否、ふたつ。
とたた、と機敏な動きで飛び降りる二匹のシマリスとモモンガだ。
傷を押さえ、包帯か綿でも探そうとする動きを見れば、その身に攀じ登って直ぐに肩にたどり着こう。

「よ、っと。技は、合格――と言いたいがねえ。
 余力の使い方、配分の仕方は考え所がありそうだな……」
 
反動とも疲弊とも取れる、見える脱力を見れば、足早に踏み込んで正面から抱き支えるように受け止め、その場にしゃがみこもうか。
感じ、見える震えは無茶をしたと見える類のもの。全く、吐息を吐けば、毛玉の片割れが法被の下の毛並みをごそごそ漁る。
ぱぱらぱーと音が出そうな仕草で、モモンガの方がふかふか毛並みから小さな本と宝玉を取り出してみせる。
器用に前足で掴み、開くそれのページに宝玉をタップさせれば、術が発動する。治療魔法だ。それを以て傷を塞いでゆく。
てしてしと気遣うように弟子の頬を撫で叩くシマリスが、ふと転がった包帯が気になったのか。顔を向ければ、何かに気づく。

――宝箱だ。

包帯が転がった先の向こう、玄室の壁の窪みに一つ、大きな鍵付きの箱が安置されているのが見える。

「……鍵かかってるとちと面倒だが、まぁ、どうにかなる、か?」

毛玉が見る方角にあるものを認め、両手を構え、幾つかの印を組む。
走らせる氣が像を為し、ふっと凝って実体を得る。分身を一体形成する。それを探索がてら差し向ける。
同時にもう一つ気になるのは、この残骸の中に微かに残る――何かありそうな気配だ。

【判定(2d6+0)⇒1・2:武器 3・4:防具 5・6:装身具】
[2d6+0→2+3+(+0)=5]
影時 > 魔工騎士はどうやら、中に内蔵しているものが稼働の依り代になっているらしい。
捧げものよろしくセットされたものの記憶、ないし魔力に応じて、その性能、戦力が左右されるかのよう。
崩れ落ちた残骸の胴体部が、がらり、と崩れれば、何か見える。武器と思える何かが吐き出されたろう。

そして分身が箱に近づき、仔細に確かめる。
鍵は、かかっていないようだ。珍しいこともある。合図をすれば、直ぐに開けて見せることだろう。

> 真っ先に駆け寄る二匹を視界に捉え、力が抜けて崩れる前に寄った師に支えられ、その場に共にしゃがみ込む。
火薬を足元で爆ぜさせるのだ、如何に鍛え、力の逃し方を知るしなやかな猫の足でも、鎧を貫く手以上に負担は大きい。
額を切ったことにも気付いていなかったように、暫くすれば痛みも出るかもしれないが、緊張状態の余韻が強く残る今は上手く力が入らない程度で済んでいるのだろう。

「……おぉー、治っ……た? 感謝、する……。ありがとう……。

 ――合格、喜ばしいです。
 それについては、またご指導、願います。解決策も……考える」

肩へとよじ登った二匹を見やり、ヒテンは何やら探していたかと思うと宝玉を取り出し掲げ、開いた紙へ押し当てると魔力が溢れ、見る見る間に娘の傷を癒していく。
良く躾けられた。の一言では片付けきれない手厚い治療に目を白黒させながら、頬を小さな手でテシテシと叩くスクナを見やり。
二匹へ向けて会釈と感謝を返してから、身体を支える師を見上げる。

火遁の術へと繋ぐ前に敵は倒れ、とっておきと呼ぶべき花火を上げずに終わってしまったが故に単なる火薬術となったが、それでも合格を得ると言う目標は達成できた。
それは今日、何よりも喜ぶべき成果である。
手放しに喜べない所は残念ではあるが、それも致命的な失敗ではないなら、まだ見捨てられはしないと内心でホッと胸をなでおろした。

もし仮に同じ術を使う者が、その武器に刀を使っていたなら、また違う方法で鎧を砕いていたか。
少なくとも、突き立て穿つような方法ではないだろう。
内を壊し焼き尽くす火遁は、氣を流し込み破壊する行為に等しく、そういう技は拳法の使い手などが使うものに近い。
そう言った技は氣を使うことに長けた者、忍であれば、類似するものを持ってはいるやもしれない。

シマリスの柔らかな毛並みに額を擦りつけていると、不意に上がる声に顔を上げ。

「……? 何か、ありましたか?」

師の視線の先、作り出された分身が向かう方を見て首を傾げる。
壁の窪みに嵌め込まれた宝箱に気付けば、尾がゆらりと地を撫でて揺れた。
娘の方はもう一つの方には気付かなかったが、ガラリと音が立てば驚きピンと耳と尾を立てて振り返り。

「武器、でしょうか? ……こう言うものは、戦利品……として、良いのですか?」

魔工騎士と宝箱、それぞれから見つかった物は勝手に持ち帰って良いものかわからず。戦利品の分配に関してもまた同じ。
視線を一度逸らし、許しを乞うようにおずおずと暗赤を見上げた。

影時 > この状況は進むか戻るか、悩むところである。行こうと思えば行ける――というのが、厄介で。
それもこれも、試験とは言え弟子に無茶をさせ過ぎたということが一番の要因である。
爆進――なんと呼ぼうか。既に名があるのならそれを優先するが、名が無き技なら其れは其れで惜しい。
同時に粗削りでもある。行使後の負荷、影響は軽視できない。何せ――。

「突破力がある、と言う点については、だ。
 ……だが、そうだな。課題も見える技だった。
 行きはよいよい帰りは――なんとやら、になりかねン処は、よぉく考えなきゃならねぇなあ」
 
感謝の声と仕草を見れば、二匹のうち治癒役を務めるスクナマルが“どういたしましてー”とばかりに前足を上げて、ウィンク一つ。
回復役の類は完備していても、一番即効性が早いのは何と言っても魔法だ。
闘いの愉悦が過ぎると傷をこさえかねない飼い主にして親分の薬箱、応急処置手段でもある。
元通りに魔導書と宝玉を魅惑のふかふか毛並みの中に押し込み隠すモモンガが、ぺたぺたと娘の頬を再度叩いて飼い主の頭に飛び移る。

この戦い、自分ならばどうするかは、幾つかの手が浮かぶ。
鋼鉄の鎧を相手にする際、人を斬るように斬っても意味がない。鉄を斬るように為さねばならない。
斬鉄を為せてなんぼでなければ、腰に差した刀の打ち手からどやされるだけでは済まない。

そう思考を巡らせつつ、弟子を労うもう一匹の姿を横目にしながら、見つける諸々に意識を向けて。

「宝箱と、さっきの奴から……出てきたな。
 発見物はもともと戦利品として、持ち帰って問題ない。そういう取り決めだ。
 売るにしても何にしても鑑定しなきゃなんねぇが、と……」
 
残骸と宝箱。弟子を支えてやりながら声をかけ、取り敢えず己は残骸の方にすり足で近づく。
爪先で有象無象の鉄くずを退け、払って。転がり出てきたものを確かめる。
同時に頭の中で意識を向ける。おずおずと言わんばかりの眼差しに、気にする理由なぞ何もない、とばかりに見返し、分身に宝箱を探らせよう。

影時 > 【形状判定(1d3+0)⇒1:剣/刀 2:短剣/短刀 3:大剣】 [1d3+0→3+(+0)=3]
影時 > 【品質判定(マジックアイテム確定)(1d5+0)⇒1・2:高級品(業物)3・4:最高級品(大業物) 5:特殊】 [1d5+0→2+(+0)=2]
影時 > 【形状判定(1d3+0)⇒1:服型 2:鎧型 3:盾】 [1d3+0→2+(+0)=2]
影時 > 【品質判定(1d6+0)⇒1:良品(普通) 2・3:高級品(業物)4・5:最高級品(大業物) 6:マジックアイテム】 [1d6+0→3+(+0)=3]
NPC > 残骸の中から出てきたものは、――片刃の大剣。さながら、先程まで魔工騎士が振るっていた大振りの剣とよく似る。
年季が入っていると見える様相は、鍛えられて相当の年月を経て長く使われていたのだろう。
魔力や氣を走らせれば熱風と共に炎熱を湛え、触れたものを溶断しうる。
最高級品ではなくとも、低位、中級を超えて上級と呼べる代物。もしこれが質が劣るなら、機械仕掛けの騎士の強さは無かった。

そして、箱の中身は鎧であった。
板金ではなく、鎖帷子。持ち上げてもじゃらり、と音もしないのは思った以上に精緻な造りであろう。
鎧下や外套など、表裏を布で覆うか挟んでいれば、消音効果も恐らくは高い。
使う気が無ければ、売っても相当の良い値段になることは疑いなく。

> 片目を閉じて可愛らしい仕草で返すスクナを見返しつつ、また頬を撫でる手にくすぐったそうに肩を竦めて、親分の下へと帰って行くのをを見送った。

先へ進むか、それとも戻るかは師の気分次第。弟子であり、所有物でもある己が口を挟むことではないと割り切っている。
ただ、行くも戻るも足は動かさねばならないわけで。
すぐに治療を受けられたお陰で、痛みで動けなくなると言うことは無いだろうが、悟られずにいるのもまた難しい。

「……普通に歩く分には、少し休めば問題ありません。
 歩けずとも、ご命令くだされば守ります」

師が『歩け』と一言命じてくれれば良いが……。この男は変なところで甘いのが困りどころでもある。
少しでも氣が戻ってきたら足の補助へ回すべきかとも思うが、それでは結局氣が回復できない。
結局、これが氣の使い方、配分の課題へと行き着くのだろう。
此方を支えつつも戦利品を足で探る姿に気付けば、少しましになった足に力を入れて、よろけそうになりながら身体を離す。
大丈夫だと応える代わりに小さく首肯して。

「……そう、なのですね。承知しました。
 先生、鑑定も出来るのですね……。

 ――持ち帰るには、どちらも荷物にはなりそうです。
 鞄の方へ片付けますか?」

残骸の中から現れた武器は使い込まれた大きな大剣。此れがあの巨体を支え動かしていた物なのだろう。
使い手の手を離れても未だ僅かに漂う魔力には熱を感じる。

そして、分身が調べていた宝箱からは防具らしきものが出て来る。
鎖で編まれた服のようで、よく騎士が鎧の下に着こんでいる物に似ている。
此方にも魔法の類が掛かっているのか、不思議なことに音は殆どないと言っても過言ではなく。

どちらも良い品であることは、素人目にもわかるレベルのものだった。
だが、どちらも重量過多である。その場で装備しないのであれば、あの便利な鞄へ片付けた方が良いのではと。

影時 > 「……なら、そうだなァ。
 歩けるようになったら帰るか。それまで少し休め。
 少なくともこの層の変化の一端は知れた。視認出来る限りで地図が書き変えなきゃならンこともなさそうだ」
 
判断する。決断する。無理に前進する、急ぐべき理由はない。迷宮探索は着実に行うべきもの。
行きは順調でも戻りが難しい、ということも決してありえない訳ではない。
最低限とはいえ、先遣隊よろしく状況変化と認識できる要件の情報は最低限得て、戦果と呼べるものも手にした。
上級品と呼べるレベルの大剣とそれとほぼ同格と思える出来の上等な鎖帷子。
自分が使うには大仰過ぎるにしても、後者の方なら、消音が出来る造りの付与仕上げなら使い出もあるか?と。
弟子の頭をぽんぽんと数度撫で、身体を離してゆくさまに声をかける。

「目が肥えている、というのは自惚れだろうがなぁ。
 然るべき処に持ち込んで、きっちり鑑定してもらえれば、売値も定まるだろうよ。
 
 ああ、鞄に仕舞っておく。……なーに、今は休んでろ篝。帰りの戦いについては、骨を折らせた分俺が前を張ろう」
 
遺跡探索の経験も長ければ目も肥える。目利きと云う程ではないが、見立ては難しくない。
だが、最終的には雇い主である商会に持ち込むなどして鑑定し、値段換算をして貰う方がより確実。
死蔵するか、売り払うか、はたまたあるいは作り替える算段でも立てるか。

そう考えつつ、仕舞う先でもある雑嚢の中から一本、水の瓶を取り出し、弟子の方に差しだしておこう。
気息が整い、動けるようになるまで待ちつつ分身を差し向け、今回見つけたものを己が元に運ばせる。
魔法の雑嚢の中ににゅるりと吸い込むように仕舞い込めば、あとは警戒しつつ、急がず待とう。

――こういう時もある。また来ようと思えば来られるなら、無理をせずとも退くのも冒険者のやり方だ――。

> 「……んー。はい、承知……しました。休みます」

男の手が頭に来れば、ぺたりと耳を伏せて待ち、宥めるような軽い撫でを堪能して目を閉じる。
後は休めとの命令を忠実に守り、ゆっくりとその場に腰を落ち着け、脚を崩して座り。

「目利きも、経験……ですか。
 売るも、使うも、判断は先生にお任せします。私では、判断できません、ので……。

 お気遣い痛み入ります。ですが、必要とあらば指示を願います」

今回の目的は試験に受かること。戦利品のそれらはオマケのようなものだ。
一応だが合格が出たなら、これ以上に娘が望むものは無い。
良い品が手に入ったと師が喜ぶなら、それが何よりの褒美となる。

差し出された瓶を素直に受け取り、深く頭を下げてから封を開けて喉を潤し。
今は暫しの休息を享受して体を休めるに努めよう。
帰りも無理はせず、人の立ち回りを視て考えることもまた修練であると師もそう言うに違いないのだから――。

ご案内:「無名遺跡」からさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」から影時さんが去りました。