2025/07/01 のログ
■ナラン > 昼間の陽気が去った雲の無い夜。
空には満天の星と三日月が煌々と輝いているが、その明りは山間部にある森の中までは届かない。
暗がりのなか、松明を灯してごとごとと重い音を立てながら進む大きな影が、ひとつ、ふたつ、みっつ。それぞれを曳くのは2頭の馬。御者もふくめてみな鎧兜を被って物々しい。
それもそのはず。これらはタナール砦への補給物資の運搬部隊で、馬たちも戦場で混乱しないように訓練を受けたものたちだ。
アスピダが占拠されて以来、はるばる王都からの補給は昼夜を徹しての道行にならざるを得ない時が発生していた。
頑丈な荷台の上にある荷物は食料から武器までさまざま。アスピダからの襲撃を恐れる声も当然あったが、魔族を相手にするタナール砦の戦況が悪化するのは彼らの意にもそぐわないのだろう。こうして明りを灯して進んでいても、見張るような気配は報告されど襲撃は滅多に起こらないようだった。
その馬車のひとつ、殿の荷台に乗る女がひとり。後ろに流れていく夜の森の景色を、鳶色の瞳でじっと見ている。
(…人、ではない ようだけれど)
物資に食料が混ざっているからだろうか、動物か…魔物か、追ってくるような気配がある。
■ナラン > 前を行く馬車に乗る仲間も気づいてはいるようで、振り返った視線は彼らと交わる。
(まだ、距離はありそうだから)
しばらく様子を見よう、声には出さず視線を奔らせた後に互いに頷きあう。ただ、各々獲物を―――女は弓を、前に乗る仲間はそれぞれ魔導士の杖と槍を、それぞれ手にして臨戦態勢を取った。
本番は、砦に物資を運び込む時だ。
今はまだその手前も手前。周辺で待っているはずの仲間の元までたどり着く前に、荷に何かあっては目も当てられない。
女は瞳を細めて闇を見通す。その先、馬車道に沿って立ち並ぶ木立の更に奥。松明の明りを弾いた獣の瞳がちらりと踊った。高さからすると――――狼程度の大きさだろうか。
■ナラン > 数がなければ、此方が押されることは早々なさそうだ。向こうだって、それは解っているはず。
さりとて気を緩められないのはこの女の性だろう。結局追跡してくる気配は夜通し、森を抜けるまで消えず
砦の傍まで辿りついたときはひとり、ほんの少し皆よりも回復に時間を要したのだった。
ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」 周辺の森」からナランさんが去りました。