2025/06/22 のログ
宿儺姫 >  
女鬼が湯浴みを愉しんでいるその場に現れたのは──人間であった。
無論、こんな場所に現れよう者が普通の人間である筈はないが。

湯気からヌッと現れた大仰な影は、聞き覚えのある声でこちらに語りかける。

「流石に人間の覗きなぞ訪れんじゃろうと思っておれば…貴様か」

沸き立つ湯に身を沈めたるままに、大男に向けて一瞥。怪訝そうな表情を浮かべていた。

「久しい、は久しいが。 こんな場所に何ゆえ…?」

まさかそのような遠方から気配を辿ったなぞ思いせず、思わずただの疑問なぞを投げつけてしまうのだったが。

シアン >  
シェンヤンの地で語り継がれる悪鬼の姫と素手でぶん殴り合いかました馬鹿。
自称人間。
湯気からヌッと現れた大柄な男の、その正体は……
さて、本人にもよく知らぬのだが。

「そう、俺。いや良かった良かった、いや何、
 誰だ貴様は! 何て言われてたらどうしようかと思ったわ。あ、これ、土産な。酒。」

もくもくと昇る湯気と熱気とぼこぼこと沸く湯、そこに浮かんだ柔そうな肉鞠、
顔を見てから視線があっちにこっちに色々と目移りしたが顔にまた視線を戻す。
土産。
と、どんっと瓢箪を近場に置きつつ、あの湯じゃご一緒出来そうにないのでその場で屈み込みつつ。

「ん? ああ。こんなとこにまぁ用事は無かったが近くに友達が居るから顔見にさ。
 したら、すーちゃんの気配ぽいもん感じたから、もしそうだったらすーちゃんの顔も見とこかと」

あっこからさ。そう言って麓のほうを指差して、そんな遠いところから気配を辿ってきたのだとからからと喉を鳴らして笑う。

「元気そうで何よりだ。いや、最初は妙に気配が小さかったから、気の所為じゃねぇなら怪我でもしたんじゃねぇかとも思ったが、要らん心配だったな」

宿儺姫 >  
「無礼な奴め。そこまでアタマが悪いつもりもないぞ」

土産、と見るからに酒の詰まった重そうな瓢箪を置く様子を見ればくつと笑い、浅黒肌から湯を引きながら立ち上がる。
裸体を人間に見られることなど瑣末事、なんとも思わぬ様に引き締まったその肢体を晒し、歩み寄る。

「えー、あー……と。えー……」

そして無礼な奴めといいつつ、顔と声と気配はしっかり覚えているものの名前が出てこない女鬼であった、

「…麓の? 妖仙でもそんなところから気配を辿っては来ぬぞ。…土産はありがたく戴いておこう」

指差す先を見て、やや呆れたような色をその評定に浮かべる。
相変わらず変な人間であると口にしつつ、岩場にどっかりと腰を降ろし、どれどれと瓢箪を手に。

「呵々。怪我もすれば弱りもするぞ。
 この地では随分な怪物が山程出会えるからな」

不覚をとったことを隠しもせずそう答えを返すが声色はどこか嬉しげなもの。
己よりも強き者はいればいるほど良い。雪辱を晴らすことにも燃ゆる。勝利に調子に乗った者を蹂躙するもまた良し。
力を求める付ける鬼姫にとっては敗北もまたより力を得るための糧なのだった。

シアン >  
「ふはは、悪い悪い」

たっぷりとした乳房のみならず負けず劣らずに豊かな尻肉と、そしてそこ以外は剛の一文字がよく似合う鋼の体躯。
ぶん殴り合った時にも襤褸からちらちらと見えてはいてたものの一糸纏わぬとなればよくよく顕なその肢体に、
『ぉ~』とか感心の声を上げてはあちらも気にしないようだからまじまじと見遣っては二度三度と声が上がる。

「ふはははは! そこだけ忘れてんのむしろ面白いわ。シアンだ、シアン・デイエン」

あー。とか。えー。とか言葉に詰まっているから何ぞと怪訝な顔をしたのも束の間。
名前が出てこないらしい様子に大口開けてげら笑いを一頻りしてから改め、名乗り。

「その妖仙が未熟なんだろ」

普通普通、等と普通じゃあ到底ない気配読みの技をさらっと披露しながらも瓢箪を取りやすいよう軽く押し遣る。

酒、人間の里で作られた人間用のそれなので彼女にとっては度数はかなり物足りないものであろうが、
口にしてみれば匂いは鼻から抜けるようなそれであり味は辛口でぴりっとした舌触りに喉越しは良い。
土産に持ってくるなりにそれなりの一品であるようだ。

「おっかねぇとこだわ、今更ながら。そんなんとかち合いたくねぇなぁ……。
 喧嘩楽しむどころの騒ぎじゃねぇし命の遣り取りあんま楽しくねぇんだよ。
 しっかし、相変わらずだな、きっちり本調子になったらまたやり合おうぜ?」

彼女を相手取って不覚を取らせる化け物だの怪物だのがこの山の中にはちらほら居るらしい。
話を聞いてみれば、あーやだやだ、と嘆息を漏らしつつ、血湧き肉躍るといった様相には喉を鳴らしてまた笑う。

宿儺姫 >  
 視線は気にする様子もない。
 まあ、気にするのであれば裸体をこうも晒したままではいないだろう。
 湯露に濡れた亜麻色の髪をばさばさを振って水滴を飛ばせば、いつも通りの跳ね髪に。

「そおお、れじゃ『シアン』。
 顔と腕っぷしは覚えておったぞ。十分じゃろうが」

馬鹿笑いする様子には不満げに眉根を顰め、手繰るように瓢箪を手に、蓋を外す。早速飲むつもりらしい。

「いいや、お前がおかしい。
 よほどの神格がなければ──まぁ良いか。」

実際のところ女鬼も連中のことはよくは知らない。
ヘンな連中ばかりというのは間違いないのだが。

瓢箪を持ち上げ天を仰ぐようにぐぶりと酒精を呷り、程よい辛味に満足気な吐息を零す、

「うむ、美味。…命のやり取りであるからこそ愉快なんじゃろうが。
 そうさな、その暁には貴様を生死のやり取りに追い込んでやるのも悪くはない」

そう言うと、もう一度酒を豪快に呷るのだった。

シアン >  
女体の柔らかさと戦闘種族の威容が同居した肉体は、劣情もないではないが、見事の一言に尽きる。
癖毛らしく水気を飛ばせばすぐにぴんぴんと跳ね始める毛先はちょっと面白い。
気にされないとはいえどもずう~~~っと凝視しているのも悪い気がして程々で視線を反らしてから、

「おうとも。でも、次は名前も覚えといてくれよ、また笑っちまうから」

馬鹿笑いは収まったもののその言葉も笑気でやや震え気味。
ツボったらしく時々、んふ、とか、ぅふ、とか偶に漏れてる。
妖仙の話には、そうかねぇ、等と適当に相槌を打ちつつの、
酒が気に入ったらしい様相には満足そうに首肯を一つ。

「俺ぁ戦闘狂なとこあんのは間違いねーけど活人拳か殺人拳かっつーなら前者の人なんよ。
 まぁ倫理がどうのっつーより生かしといたほうが喧嘩何度も楽しめるかもって理由だけどな?」

物騒な事言い始めた彼女に、飄々とした笑みは崩さないまま、今度は首と頭とを横に振って。

「まあ、すーちゃんなら、殺す気で掛かったとこで死にゃしねーだろうからそれ用の技使ってもいいかもな。
 病み上がりじゃ危ねーからやらんけど楽しみにしといてくれよ。ほれ、こーゆーの使うんだけどもさ」

こーゆーのと指差すのは、登山の杖代わりにも使ったせいで柄尻が土汚れしている鉄杖である。
今は腰の留め具に括ってあって背中側に回してあるが凡そ男の胸の丈まである、長めではあるが長すぎない傍目はただの鉄の杖。
指先で叩けば、かんかん、爪や指先が硬いからというのもあるが妙に高い音がする。何か秘密がありそうだ。

宿儺姫 >  
覚えておいてくれ、という軽口には善処しよう、とかで返し、再び酒である。
この女鬼、相手が強いか弱いか以外は然程興味がないようにも見えるその実、理外の存在よりはまだ話が出来る。
人里に住まわぬ人外故にいまいち倫理観は心許ないが。

「そうか。まぁ人の生は短いと聞くからな」

そういう理由があるのかないのかは兎も角、
別にシアンの持つ信条を否定するつもりもないらしい。
顎先に伝う酒精を手首で拭い、改めてその翠の鋭い瞳を向け直す。

「貴様が普段使いせぬのであれば何かしらの秘密もありそうじゃな」

見てくれはただの鉄の杖であるが、さて。
それは次に殴り合う時の楽しみにでもしておこう。

シアン >  
以前、殴り合いを楽しんだあとには酒盛りもした、飲み比べしようとか言い出して早々に酔い潰されたわけだが。
あの折にも思ったのだが存外話が通じるものだから此度も顔を見るだけとは言いつつついつい長話。

「そういうこった、あと、そうさな、生きて50年ぐらいでまともに動けるのぁ30年ぐらいかな?
 数百年も時間ないもんだから今ある縁を大事にしよう的な」

彼女が、シアンあいつまだ生きてんのかな? とふと思った折には既に死んでるか老いさばらえているか。
そんな寿命故の考えだと頷き一つ。

「喧嘩はステゴロがいい。鉄杖(こいつ)は殺す用だ。滅多に使わねー」

だから、殺す気がなかった前回では常に腰に括りっぱなしであった鉄杖から指を離して。

「……あ、そういやさ、ああ、嫌ならもちろん良いんだけども、ちょっとその角触ってみても良いか?
 この前ほれバチバチ雷鳴ってたろ? 俺以外でそーゆーの見たことねーから興味がな」

その指が、ふいと彼女の額から天へと向いた角を指差してから首を傾げる。
喧嘩の最中に引っ掴むのも気が引けたし酒盛りの最中はあっという間に潰れてしまったから言い出せなかった、気になること。
勿論、角に触れられたくないというなら無理に触ろうとは思わないので断りは入れつつ、視線はそこにじいっと。

宿儺姫 >  
限られた時間の命。
何度も喧嘩できる相手の有無は、当然違うのだろう。
人間などより遥かに長く生きる鬼と価値観が違うのは当然のこと。
頭が悪いなりに察しは良い。

「構わんのではないか。
 殺意の有無で戦力が大きく増減するのであれば話は別じゃがな」

そんなタイプもいるだろうが、
逆に殺意を抑えたままのほうが強い人間もいるだろう。
殺せることと、力強さはまた別のものである故。
自分の命が削られる危機に、本能的な火事場の馬鹿力みたいなものこそは期待できるだろうが。

そして…角を、と言われれば見るからに嫌そうに眉根を顰める。

「断る。そうやすやすとは触れさせんからな」

羞恥一つなく裸身を晒す女鬼であるが、角に触れられるのは嫌であるらしい──。

「さて、こんな場所で長話でもあるまい。
 土産は気に入ったがその対価としてもダメじゃな」

また頼む。そう言って三度、豪快に瓢箪を煽ってみせる。
人の創る酒はやはり美味い。実に気に入ったようだった。

シアン >  
闘争に明け暮れる修羅のような生き方と弱肉強食の思考をしている彼女だが、多種への理解はある。
……結構、種族内でも変わり者なんかね? 等と思うぐらいには寛容で察しが良いのは今は助かる。
礼代わりに親指立てて。

「殺さない遣り方と殺す遣り方じゃあまあ違いはあれど戦力そのものは、そうだろうなぁ」

そんなタイプもいる、と同意にも頷き一つ、どう違いがあるかは後の楽しみに取っておくとして……

「ふはは、残念。じゃあそのうちにな? ……いやほんと残念だ、ついでに硬さとかも見ようとかもちょっと思ってたし」

いざ立ち会った時あの角は折れるような硬さなのかどうなのか調べようとした下心云々。
ちょいと小賢しい事を暴露しながら、からからと喉を鳴らしたが断られれば指を引っ込め。

「おっと、それもそうだな、それに湯治の最中だろ、邪魔して悪かった。
 そろそろお暇すっかね。
 ああ酒、気に入ったんならまた持ってきてやんよ、もうしばらくは麓の村に居るからさ」

よっこいしょ、なんて掛け声一つ、屈み込んでいたままの足を伸ばしてから年寄りくさい声まで上げて背伸び。
ぐぐぐ……と固く握った拳を上まで持ち上げれば上体の筋肉が膨らんで、みちみち、服に悲鳴を挙げさせている。
すっかり酒がお気に召した様子には、自分で作ったものでもないが嬉しそうに口角を持ち上げつつ、背伸びを終えた拳を解いて掌をゆらりと振った。

宿儺姫 >  
「そうさな。我も今暫くは身を休める。
 ──おう、そうと決まれば遠慮せず飲んで待つぞ」

手を振る様子にはもらった酒瓢箪を掲げて返す。

人間相手に言葉を交わすのは稀有か、はたまた。
相手が強き人間。それも一度殴り合った仲でなければ、あるいは。
ある程度その力を知っているからこそ襲いかからなかっただけかも知れず。

ともあれ月灯りのしたでの再会は再び白く烟る湯気に隠れ、帰路につく者をその視界から薄れさせてゆくのだった。

シアン >  
「ごゆっくり。おう、それじゃあまたな」

踵を返してがてら、暗い山道を見据えながらに投げ返されてきた瓢箪をしっかと掴んでから歩き始める。
足音は変わらず無音で大柄な体躯はすうっと湯気さえさして乱さず溶けるように消えていく。
獣も魔物もたまたまその姿を目にしなければ、彼女でなければ其処に居たかも怪しいほど、すらりと、すうっと。

再会はまた何れ、今度も白い湯気と熱気に炙られながらか、今度は血煙が吹き荒ぶなかかは、またその時に解るだろう――。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から宿儺姫さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からシアンさんが去りました。