2026/03/10 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” /バー」にディレッタさんが現れました。
■ディレッタ > ――ハイブラゼール、とあるバーにて。
不夜城。眠らずの街。
此処は、陽が落ちてからからこそ、本当の顔を見せる場所――。
手擦れした木扉を押し開けば、酒精と強めの香辛料の混ざった濃い空気が鼻腔を駆け抜ける。
内装、垂れさがる灯りが、程よい仄暗さを演出し、
雲った硝子杯や磨きこまれたカウンターを乱反射していた。
絶え間なく上がる笑い声、密やかな商談、一夜限りの甘い、男と女の駆け引き――。
此処は酒を飲むだけの場所ではない。欲望と秘密が、同じデーブルで酌み交わされる場所。
そんな喧騒の只中で、黄金の瞳が静かに瞬く。
カウンターの端の目立たぬ位置にて、腰かけた姿は
場の空気に溶け込みながらも、何処か異質めいて。
指先で杯を揺らし、琥珀色をゆっくりと転がす。
この場においては、酔う者と酔った振りをする者の二種類しかいない。
――そして、金色の女は、その何方でもない。
ただ観ているだけ。観劇しているだけ。
この街が吐き出す、人の欲と、弱さ。その全てを。
カウンター越しに店主がちらりと視線を寄越す。
女は常連でもなければ、完全な新顔でもない。
何処か伺う様子なら双眸を向けやって、愛嬌たっぷりに――。
「……お代わり頂戴♡」
頬杖ついて、行儀が良いとは言えない艶然たる調子で。
■ディレッタ > 「……さて。」
酒精を唇へ運びながら黄金の瞳がゆるりと細められる。
この街では、退屈だけが最もあり得ない出来事なのだから。
さりとて、今宵は未だ何が起こるとも知れない、唯の夜。
飲み終わる杯を置こうかとした矢先、
店主から差し出されるのは新しい硝子杯。指先で軽く受け取って、
仄暗い灯が液体の幕に淡い波紋を映し出し、静かに揺れた。
「……アリガト。いいタイミングじゃない。」
軽口の様に呟けば、店主は肩を竦めるだけで余計な言葉は返さない。
この街の酒場ではそれが一番良いとされる距離感だからだ。
絶え間なく続く喧騒、奥まった所では賭け事に興じ、悲喜こもごもな様子、
惚れた腫れたの男女のやり取り。
このどれもが酒精の予感と共に漂ってくる。
「(………まあ、幾ら飲んでも酔えないんだけど――。)」
それら全てを、すいと視線を投げやって。
女は意に介せずとばかりに退屈しない夜を待つでもなく。
求めるでもなく。ありのままを受け入れているだけだった。
影と眼差しが、余韻を淡く掬い取って――流れてゆく。
そして新しい硝子杯に唇を寄せて、一口酒を含んだ。
■ディレッタ > 「……ふぅん。」
興味があるような、ないような声をひとつ溢し。
――この街の夜は長い。
そして、何かが起こるときは決まって、退屈を忘れた頃。
屯しているだけでは事足りなかったか。
代金を置く硬質な音が、カウンターに響く。
気が付いた店主がふと、振り向く頃には――。
もうそこに女の姿は無かった。
まるで最初から存在しなかったように。
硝子杯に浮いた水滴が、テーブルに吸い込まれる様に。
忽然と喧騒の最中へと掻き消えて――。
店主は肩を竦め、置かれた硬貨を掌に掬い上げた。
この街では、そう珍しいことでもない。
来るものも、去るものも、名も理由も残さず夜へ紛れて行く。
石畳の通りに、湿った夜風が流れていた。
街灯の灯りが長い影を落とし、人の往来がまだ絶えない通りの端。
その影の一つが揺れる瞬間、建物の壁際からすっと一歩伸びる脚。
黄金瞳が、暗がりの中でごく静かに瞬いた。
「……やれやれ。」
小さく息を吐く。酒精なんて何処かに立ち消えてしまった様子で、
つい先ほどの事ももう興味の外だった。
今宵はまだ長い。何も起こらない日が無いように、この街は単純ではないのだから。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” /バー」からディレッタさんが去りました。