2025/09/19 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にフェブラリアさんが現れました。
フェブラリア >  
ゆらゆらと水色の尾を揺らし、何処か悩ましげな表情の少女がハイブラゼールの道を歩んでいた。
白きドレスを纏う幼い印象を受けるその少女は、この地に息抜きの為に訪れていた。

「……ふぅ、物珍しいものがあればいいのですけど」

とはいえ、この大歓楽街に遊ぶためだけに来たわけではない。
息抜きとは言いつつも、その実は気晴らしと情報収集こそがその目的。

賭博も売春も横行するこの歓楽街は、その性質上、多くの情報が飛び交う場所でもある。
彼女が探すモノの手掛かりを持つ人物や情報にツバを付けられればそれでよし。
それらが見つからずとも、自らの興味を惹くものや、"食料"があれば及第点なのだ。

竜の血を引く令嬢は、明確な目的地も無く歓楽街の道を進んでいく。

フェブラリア >  
程なく歩いて辿り着いた先、竜令嬢はふとその歩みを止めた。
彼女が見やる先にあるのは様々な薬やその素材が並ぶ店。

「……折角です、適当になにか良さげなものでも買っていきますか」

ただ時間を潰し、このまま有益な情報も無く一日を終えるよりは有益だろうと。
その店へと向かえばそれらしい魔術鉱石や非合法な薬と買い上げて。
何かを思案するような顔のまま、少女はハイブラゼールを後にするのであった。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からフェブラリアさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にゲクランさんが現れました。
ゲクラン > セキュリティのバイトももうすぐ終わる。紳士淑女の社交場に、明らかに浮く格好の男が闊歩していれば、その存在だけでも抑止に十分な程。
勿論、イカサマや酒絡みの喧嘩、ナンパが無いではなかったが、男が傍に赴くだけで大事にはならずに大体は収まった。

客やディーラーから、チップと称して投げられるカジノ内通貨。
換金するだけでももう何日分のバイト代になるだろうそれを、ポケットに押し込んで、
今はバーカウンターに寄りかかり馴染みのバーテンと飲み交わす。そんな仕事終わりのまったりとした時間。

「いや、感謝してるぜアンタにゃ。酒も飲める。小遣いも稼げる、一番質が悪けりゃ、店の外で好きに出来るってんだから、これほど良いバイトはねぇさ。」

たまに、山から出て立ち寄った人に人が居なければ頼まれる程度ではあったが、
飲んだくれた男へ提案し、上申してくれた彼には頭が上がらない。
だからチップを一枚彼へ投げて寄越して、一緒にテキーラのショットで乾杯を。

残るはほんの数刻、面倒な騒動に発展しないのを願うばかり。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」に枢樹雨さんが現れました。
枢樹雨 > 初めてハイブラゼールに訪れたのは先日のこと。
その際、図らずもカジノにてお金を増やした妖怪は、荷運びの仕事を終えた後、再び歓楽街へと赴いていた。
幸い、人の子の通貨は潤沢にある。
故に向かうは、己が舌を満足させる酒のある場所。
以前見つけたバーカウンター。其処で何度か酒を貰っては、気儘に歩くカジノの広い敷地内。
白木の下駄の足音を吸収する赤い絨毯。それをどれほど踏んだだろうか。
一度だけルーレットの席についたものの興が乗らず、酒ばかりが進む数刻。
気が付けば若干足元は覚束なくなり、その癖新たな酒を求め、バーカウンターへと戻ってきて。

「ねぇ、先ほど薦めてくれたものを―――、」

先客の存在を気に留めるでもなく、まだ距離のある状態からバーテンダーへと声をかける妖怪。
鬼角隠す白絹を揺らし乍ら、手に在るシャンパングラスを差し出すようにしてバーカウンターへと向かう。
…が、不意によたつく足元。
反射的に何かへ手をつこうとすれば、自ずとその手にあるグラスは落ちていく。
その落ちた先は、―――貴方。
ショットグラス傾ける手。其処から繋がる二の腕に真白の手を置いて身体支える代わり、貴方の脚元へと、中身の少々残るグラスが落ちて。

「ぁ―――、」

ゲクラン > 「っと──、大丈夫かい嬢ちゃん」

暫くはバーテンダーとの談笑に耽っていた。そんな相手の顔が、だらしなく喋っていた顔から急に営業的な表情へと変わる。
その様子に視線を向けたや否や、バランスを崩しその手の中からグラスが落ちる。

反射的に彼女の腕を受け止めるように腕を伸ばし、姿勢は自ら何とかした様子に、落ちてゆくグラスへ、足を伸ばせば器用に足の甲でそのグラスを受け止める。

とはいえ、所詮はクッションになっただけ、微かに残った中身は足元を濡らして、グラスも地面へと落ちればその飲み口が欠けてしまう。

然しながら、破片が飛散し掃除に手間がかかる、という事はなくて一安心。
一先ずは、と自らのグラスをカウンターへと置いてから、そっと彼女の腕を取って解く。
察しの良いバーテンダーが直ぐにこちらへと片付けるための器具を用意してくれたから、受け取るとその場にしゃがみ込んで手早く回収をしてしまおう。

「ん、アンタも濡れてねぇし、怪我もねぇな……。」

そう、しゃがみ込んだまま彼女の足元、そして衣類の裾を眺めて頷く。ノールックでバーテンダーへとその一式を返せば、スツールを引いて座るように勧めよう。

「足がふらつく程飲むなんざ、余程負けたか、調子がいいかってとこかい、嬢ちゃん。」

己は己で立ったまま、そんな彼女を見下ろして豪快に居笑ってみせよう。
些細な失敗等気にしないように、と。

枢樹雨 > 自由気儘な妖怪も、やらかしたと思うことはある。
貴方に支えられ乍らに落ちた視線。それが確かに捉えた、落ち行くグラス。
人間離れした反射神経により大事は避けられたものの、残るロゼシャンパンが貴方の足元を濡らした事実は其処に在る。
酒精に揺らめく思考は一瞬では出来事を理解せず、貴方が手早く片づけを行う様を見守ることしか出来なくて。

「あ、…いや、……ぁ、」

青磁色の上質な絹の着物。その裾を貴方が確認する段階でハッとした様子を見せれば、長い前髪の下で視線を右往左往させる。
薄い唇も同様に、発する言葉を探して右往左往。
其処へスツールへと腰掛けること勧められれば、一瞬の間の後に腰を落ち着けて。

「いや、どちらどいうこともなく、…ただ好きで飲んで、初めてのものを見つけてまた飲んでの、繰り返しを、」

白木の下駄が、スツールの足掛けに当たってカツンと硬質な音を鳴らす。
つい先ほどは見下ろした、貴方の茶の瞳。
此度は少し見上げる形で見つめると、長い前髪の隙間から覗く仄暗い蒼の双眸をパチパチと瞬かせる。
豪快に笑う様に少し首を傾げ、ありのままを語り。

「で、は…なくて、…ごめんなさい。…君こそ、濡れなかった?」

流されそうになったところではたと気が付く。
持ち上げた右手。許されるなら右隣りに在る貴方の腿をぺちり、叩き、覗き込むようにして謝罪の言葉を。

ゲクラン > 流石に、上等な物を使っているそういう島故に、グラスにせよスツールにせよ備品はどれも上等な物ばかり。
勿論その原資は、ポケットの中のチップを吸い上げられている有象無象ではあるのだから、正しい還元方法ではあるが。

「安居酒屋だったら割れなかったのにな。 下手に上等だとこういう時に困る。」

困惑している相手へと、気にするまでもないというように首を横へ振った。
仕事でなかったら、その頭をワシワシとやっていそうな豪快さと共に、腕を組んで何でもない事のように。

「いい楽しみ方をしてんじゃねぇの。正しい遊び方だと思うぜ。」

得てして、こういう場では少額を掛けて程々に楽しみ、煌びやかな内装や、宿、街の雰囲気を楽しむのが正解だと。
勿論賭け事に勝てるだけの運や手技を持つのなら別だろうけれど。
きっと、目の前の彼女は其の類のものではないのだろうから……。

「なぁに、アンタは客だ。俺も後ちょいとはいえ、まだここのスタッフだからな。本当に気にしなくていい。
ほら、少しやりなよ。折角遊びに来て、そんな顔したんじゃ勿体無い。」

そう、彼が叩く足、硬い岩のような感覚をその手に伝え所々見え隠れする肌には切り傷の痕、その類が見えようか。
そんな覗き込む彼女へ、バーテンダーから受け取ったのは丈の長いグラスに注がれた発泡性のもの……。

それを彼女の目の前、カウンターへと置いてやれば……。
まるで酒のような振る舞いではあるが、発泡性のただの、水。
所謂チェイサーとして……。

「酔っぱらって千鳥足、ってんじゃ折角の可愛い顔と、綺麗な着物が台無しだぞ。 っと……もう、時間か。」

そんな会話をしながら、バーテンから刺された時計は、魔法の解ける時間を意味した。
だから、男もそこでスツールに腰を下ろすと、もう一杯、テキーラを頼んで。
それは仕事の終わりだと彼女にも伝わるだろうか。

枢樹雨 > 何かと上質な――否、華美で高価なものを置いているように見えるカジノという場所。
その中に置いて、異質とも言える見目、身なり、そして所作を見せる貴方。
それは妖怪にとってマイナスに働くものではなく、ただ視線を引きつけられるばかり。
アルコールにより揺れるままの思考はゆっくりと貴方の言葉を拾い上げ、華奢で繊細なシャンパングラスを指してのそれにこくりとひとつ頷きを。
その拍子にも、頭上の白絹が小さく揺れて。

「そう?…以前来た時は色々と遊ばせてもらって、遊び方を教えてもらって、ゆっくりと眺めるには至らなかったから。」

正しさを求めているわけでもないが、そういうものと語られればそういうものなのかと納得した様子を見せる妖怪。
酔っていながらも真っ直ぐに背筋を伸ばし、それが当然のように対話相手たる貴方に視線注ぎ。

「君、此処で働いているの?てっきり、私と同じお客だとばかり思っていた。卓に居る人達は皆、同系統の服を着ているから…。」

僅かに見開かれる蒼の双眸。
貴方へ向かっていた視線がカジノ内の様々な卓へと向けられれば、其処では正装のディーラーがつつがなく業務をこなしている。
次いでカウンター向こうのバーテンダーを見てみても、同じくきっちりとした正装。
同じスタッフとはとても思えない。その様子を隠すことなく貴方へ戻る視線は、まじまじと貴方の姿を観察して。

「…お仕事、終わり?……お酒、一杯ご馳走する。お礼。」

視界の端に在るバーテンダーの仕草。傍らに腰掛ける貴方。
その様子に仕事の終わりを察すれば、用意されたテキーラを指差し、これを奢らせてくれと。
そして指差した手で、己の前に置かれたグラスを引き寄せる。
それを薄い唇に寄せ、傾け、コクリ、喉鳴らす。
ほぼ同時。仄暗い蒼はぱちぱちと瞬き。

「……これ、なに?」

ゲクラン > 「ま、あんまり大きな声じゃぁ……っても公然の事実だよなぁ。
ギャンブルなんざ、基本胴元が儲けるように出来てんだもん。のめり込むのはご法度だぜ?」

所詮一時のバイトであるし、ギャンブルの真理。勿論そうでないものもあるにはあるが、ごく一部に限られる。
対店、でなく対人ならば或いは、と。

「ああ、本当は同じ格好の方が良いんだろうけどな、何分、サイズがな。
それに、問題を起した奴を相手にする汚れ仕事要員なら、目立つ方がいいだろ?」

腕も足も太く、胸板も厚い。その身体が着られるようなサイズは中々ないために、正規でない男のために調達というわけにもいかないのだろう。
それに、仕事の都合上、目立つという意味では抑止もあるからそれはそれと認められたようで。

「お、んじゃそれでさっきまでの話はチャラな。もう、謝るなよ?」

にっこりと、笑みを浮かべて言葉に甘え受け取ったグラスを軽く彼女へと向けて、乾杯の真似事を。
そしてそれを豪快に逆さになる勢いで傾ければ一気に嚥下した。

「ッ──くぅ……。可愛い嬢ちゃんから奢られた酒ってだけでも、3倍はうめぇ。」

そう、上機嫌に笑いながら彼女が口を付けたそれ、刺激は発泡以外何もないだろうそれ、何と問われればそのままに。

「ただの発泡する水だよ。酒の合間に飲んだり、酒を飲んでる風に見せかけるために飲んだり。
これ以上ふらふらになられちまったら、抱えて外に追い出す事になっちまうからな。ま、それでもいいなら好きなの呑んで貰って構わねぇけど。」

もう、そんな時間は過ぎてしまったから、退店というよりもお持ち帰りのようなニュアンスになってしまったかもしれないが。
何れにせよ。そういう仕事であることは事実だから。

枢樹雨 > 「そうなのか…。ああでも、借金をしない勇気を持つようにと、先日案内してくれた者が教えてくれた。」

人の世を過ごし始め、かれこれ1年強。
それでも賭け事に触れるは先日が初めてのことであり、公然の事実もまだまだ妖怪にとっては知らぬ事実。
淡々と抑揚のない声音は一貫して変わらぬも、興味深いとばかりにひとつ、ふたつとゆっくり頷きを。

「確かに…、君ほど上背がある者も、四肢が太い者も、此処には居ないね。
 同様の大きさだと、シャツのボタンがはちきれそう…。」

まじまじと貴方を見つめる蒼が貴方の胸元へと辿り着けば、その熱い胸板を注視し、シャツがはちきれる様を自然と想像する。
続く言葉に「用心棒?」と貴方の役割を察すれば、なるほどと、此度は納得の頷きを見せる。
カジノスタッフと言えど、その役割は随分と特異なもの。であればその格好や体格もそぐうと。

「…ん、わかった。…私が奢ると言うだけでそれほど美味しくなるのなら、何よりだよ。
 私もそれくらいお酒が美味しくなる理由がほしい。」

謝るなと。言い方はともかくとして、それは貴方の優しさであろう。
そう認識すれば、妖怪は素直に従う様子を見せる。
そうして一度視線を外すのだが、これでもかと言うほど美味しそうに貴方が酒を飲むから、羨ましさからすぐさま視線は戻り。

「発砲する、水。…通りでパチパチするのに味が無い。」

ただの水は口にしたことがあれど、発砲水は初めてだった妖怪。
そのんなものがあるのかと、細かな泡昇らせるグラスの中身を見つめては、もうひと口飲んでみる。
やはり喉にぱちぱちとした感触はあれど、明確な味は存在しない。

結果、発砲水の残るグラスはテーブルへと置かれ、妖怪は再び貴方の茶の双眸を覗き込む。
酒好きの妖怪の戯言を、伝える為に。

「………お酒は満足するまで呑んでこそだよ。」

ゲクラン > 「そりゃ、正解だ。いい相手に出会ってるじゃねぇの。
良く考えりゃわかるだろ、金配る場所だったら、こんな豪華な作りにゃならねぇさ。」

気分よく金を使わせる場所。使った事を後悔させないための仕組みは数あれど、それはまた別の話。
彼女が想像したのはきっと、とても間抜けな光景だったろうことは想像に難くない。
実際そんな恰好をしたことも無いではないから。

「はは、まぁだから俺が近くを通れば騒ぐ奴は黙るし、手癖の悪い奴は引っ込める。
俺を近くに置いとけば安心だからチップも弾むわ、お互いいい関係なわけよ。」

用心棒、その言葉は一番しっくりくるのだろう。頷きながら彼女からの酒を飲み干してカウンターへ置き。それから、同じものを二つ、頼めば──。

「ったく、敵わねぇなぁ嬢ちゃんにゃ……。 ならまぁ、宿と名前だけ教えておいてくれ、潰れたら送るくらいはしてやっから。テキーラのお礼に、な。」

俺は、ゲクランだ。と名を告げてから差し出されるショットグラスと、添えられたレモンの串切り。
彼女へとグラスを持たせた後に、そのグラスを軽く当ててから一気に嚥下する。喉を焼くその酒精を洗うようレモンへ齧りつけば喉を強い刺激が一気に焼いて──。

「かぁ……ッ はぁ……あっつ……。」

強い酸味が不思議と酒の甘さを引き出して、喉を焼く程の強い余韻を甘い物へと転換する。
同じ度数の別の酒でも、こんな乱暴な飲み方は中々しない、だからこそ手っ取り早く酔えるし、なによりも飲む勢い、リズムは盛り上がりを生み出す。
熱い吐息は焼いた喉だけでなく、酒精によって上がる体温からくるもので、覗き込んだ蒼へ、ほれ、と促す様に。

枢樹雨 > 「………確かに。儲けが無ければ、慈善事業になってしまう。君も、君も、無償の働きだ。」

長い前髪から覗く双眸が、丸々と見開かれる。正に、目から鱗といった様子。
君と言ってバーテンダーを見遣り、次いで貴方を見遣り、「とんだ善人だね」と真顔で呟く。
間抜けであり、ある種感嘆に値するでもある想像の光景はそっと記憶の片隅にしまっておくとし、
存外上質な生地で身を包む妖怪は、馴染んだ様子でこの場に在って。

「見目で随分と得をしていると言うわけだ。
 …ああでも、それは努力の末に得たものだから、稼ぎの種とするのも当然だね。」

正装をしないこともそれはそれで意味のあることと思えてくる。
しかし見目での得となると降って湧いた儲けのように感じてか、思い直すように言葉を継ぎ足す。
"それ"と言って指で示すのは、貴方の胸元や腕の筋肉。
己とは比べるべくもなく、カジノ内の他の男性と比べても随分と発達した筋肉。
「随分と立派だ」と、示した指で二の腕を軽くつつき。

「名前は枢(くるる)。宿は……、基本的に取っていないのだけれど…、
 まぁ、強いて言えば九頭龍の水浴び場、かな。其処なら引き取ってくれると思う。」

名を告げるに躊躇いはないものの、宿を問われると返答に迷う節を見せる。
差し出されたグラスを受け取り、貴方の其れと軽く合わせ乍らに答えれば、グラスに口をつけず貴方を見つめ。

「そうやって、飲むものなの?米酒と同じように、いつも少しずつ味わうように飲んでいた…」

ショットグラスにて出されるストレートの蒸留酒。
それは貴方が見せてくれる乱暴な飲み方も、確かに存在する系統のもの。
とはいえ周りに同じように飲む者が居なければ、妖怪にとっては物珍しい光景。
じぃ…と見つめた後に促されるなら、迷うことなく薄い唇へグラスを寄せ、頭を傾けグラスの中身を一気に空に。

「っ――――、はぁ、」

カッと、一気に体温が上昇するような感覚。
元よりアルコールに浸っていた身体に、より一層強い其れが喉焼きながらに雪崩れ込む。
一瞬動き止まるも、貴方がそうしていたようにカットされたレモンに齧りつけば、強い酸味と仄かな甘みが混じり合い、酒の味わいを変えていく。

酒精が、仄暗い蒼の瞳を濡らす。
そして濡れた瞳が焼かれるような感覚に細められた後、レモンを空になったグラスに落とすと共に伏せられる。
最初に唇から零れたのは、湿った吐息。
数秒の後に貴方を見る蒼は、どこか上機嫌で。

「驚いた。……けど、これは良いね。ゆっくり味わうも好きだけれど、この飲み方も面白い。」

ゲクラン > 「ま、だから善人でもねぇのさ、勿論悪人でもねぇけどな、特にそっちは。」

こんなやり取りにも、基本的に出しゃばりもせず、酒を淡々と提供している彼に、ポケットから摘まんだチップを弾いて投げてやりながら。

二の腕を突く、その様子に、ふん、と力を籠めればその指先が肉へと沈みこむ事も無く弾かれて、その細い腕に並べる様に腕を伸ばせば、女性の細腕の何倍もあろうかというそれ、覗く手首だけ見てもその違いは明白で。

「おいおい……流石に今からくるるを担いで王都なんざ、それこそ何日かかるんだ?」

彼女の紡ぐその名は、確か王都にあった旅籠の名。それこそ酔いが醒めるとか、送り届けるとかの類ではなく、旅になってしまうと少しぎょっとした表情を浮かべて。
ポケットに突っ込んだチップ、それはまだまだたんまりある。最悪の場合はまぁ、そこからなんて思案をしながらも、上機嫌に酒を嚥下した。

普通の酒のみであっても場合によっては忌避する類の酒ですら、満足げに飲み干し、堪能しただろう吐息を零す様子に双眸を細めれば、
視線はまたバーテンダーへ

「ま、元から飲み比べだの、パーティの余興でやるような飲み方だからな──。 こうやって、よ。」

バーテンダーがまた、二人の前にグラスを置く。
トン、とグラスの置かれた音が鳴り終わった瞬間、手に取り、
クッ、と一気に飲み干して、
チュ、とレモンを搾り取る……。

自らの飲むペースを乱し、酔いを加速させる。あまり賢い飲み方とは言えないけれど。
大きく揺れる頭の動きも相まってより、酔いは深くその意識を混濁させる類の物へ……。

「米の酒にも、似たような飲み方をする酒器がある、ってのは聞いた事があるが……。
まぁ……程々にしねぇと……。本当に、取り返しがつかねぇぞ?」

はぁ、と熱っぽい吐息は酒のせいだけでなく、美しい女性と酒を傾けるのだからその盛り上がりもあってだろう。
その後も、彼女が求めるのならば、レモンの入ったからのグラスは増えるのだろうし、そうでなくとも既に酔っていた相手の事、長くは持つまいと、たかをくくっても居て。

枢樹雨 > 貴方の指が弾き、バーテンダーの手元に収まるチップ。
其れを何気なく目線で追う様は、蝶を追う幼子の様にも見えるか。
しかし身体つきは間違いなく成人のそれ。
華奢でありながらもするりと伸びた腕。其処に貴方の腕が並べられるなら、着物の袖を引いて前腕を露わにし、色味も太さもまったく違う様を比べて遊ぶ。
「倍…以上、あるね。」と、声音に抑揚なくとも、蒼の双眸は丸く見開かれて。

「あ…、そうか…、つい王都の気分で。…いざとなったら君の寝所を貸して。
 一泊の宿代くらいなら、たぶん払えるから。」

顔色はあまり変化なく、スツールに落ち着いたが故に酔っ払いらしい振る舞いは目に見えてなかったが、思考はしっかりとアルコールに犯されているのだろう。
加えて宿を取る必要性がない故の、弊害。
当たり前に王都の旅籠の名を挙げてしまえば、貴方の言葉に色々と話が通らぬ事実を思い出す。
その結果、図々しくも貴方の部屋を借りようとすれば、親指に残るレモンの果汁を舐め取り。

「飲み比べか。それなら私の生まれた国でもやっているのを見たことがあるよ。
 米酒でも、焼酎でも、杯で飲んでいたはずがいつしか徳利や、下手をすれば丸かめから柄杓で飲み始める者もいた。」

思い出すのは呑兵衛たちのはちゃめちゃな飲み比べ。
それと比べればショットグラスでの飲み合いは随分と品の良いものに移る。
それでも喉焼く酒精の強さはきっと此方が上。
そして香ばしい香りと舌に乗る苦みが柑橘の香りと味わいに交わる瞬間は初めてのもの。
再びテキーラが置かれるなら、真白の指先はそれへと伸びて。

「取り返しがつかないとは、どんなもの?
 新たな味わいと、美味しい酒と、心地良い酩酊感を捨てて尚、忌避するもの?」

思い頭をこてんと傾げれば、こめかみの方へとさらさら流れていく長い前髪。
覗く仄暗い蒼には好奇が滲み、何よりも優先すべきは己が欲と、当たり前に語ってグラスを持ち上げる。
再び傾けられたグラスの中身は、一気に妖怪の口の中へと注がれる。
二度目はスムーズにレモンを齧り、けれど齧られたレモンはグラスに落ちず、グラスの少し横に落とされる。
定めた狙いが外れるも、果汁の残る指はレモン拾うことなくペタリとテーブルに置かれ。

「ん……、熱い、」

真っ直ぐに伸びていた背が、ゆらゆらと左右に揺れる。
それは背中から続く頭が揺れる故。
元より覚束なかった足取り。それが上肢も犯し始めれば、零れる吐息も酒精香り。

ゲクラン > 「仕方ねぇなぁ……。ったく。」

抑揚が無い、淡々とした喋り方にそぐわないのは幼さを感じる言動と、それでいて旺盛な好奇心による遠慮の無さ。
それ故にか、どこか保護者然とした感覚に陥るのは、その様子を危なっかしく思うからなのだろう。

目の前で指を舐めとり、部屋に泊まる。その言葉が素面なら或いは、だったのだろうが。

「もうそこまで来ると味云々じゃねぇだろうなぁ。
はぁ──、まぁ言いてぇ事はわかるが。それで酒に飲まれて前後不覚、他人に迷惑を掛けるなんざぁ、酒飲みとしたら三流も良いところだ。
くるるも蟒蛇の真似事してたら、首をもってかれちまうぞ。」

潰れたい。そんな日もあるだろうし、咎める意図も無い。
ただ、既に手元も怪しくなっている彼女の様子を放る程、持ち帰る程悪人でなかったのはバーテンの目もあったからかもしれない。

「ったく、言わんこっちゃねぇ。 ほれ、もう出るぞ、それこそ吐かれたらたまんねぇや。」

そう、椅子から腰を浮かせると、酩酊状態の彼女へと腕を伸ばして、多少抵抗があったとて、太い腕が問答無用で彼女を抱え担ぎ上げた。
姫抱きのよう、最悪吐いても床を汚さぬようにするのは仕事柄。

「次は、酔う前に会いてぇもんだな……。 酔っても良い場所でよ。」

そんな風に笑いながら、抜けてゆく街中。
ひょっとしたら彼女が腕の中で暴れたり逃げるのかもしれないが、そうでないならその身をどこかの安宿に預けてゆく。

今宵の事が夢でない事は彼女の袖に一枚忍ばせたチップが示して。
大男もまた自らの宿へと帰ってゆく。慣れぬ紳士ぶりに、もう一杯と酒を買ってから──。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からゲクランさんが去りました。
枢樹雨 > 「私は酒飲みではなくて、お酒が好きなだけだよ。」

それは貴方からしてみれば屁理屈の様なものだろう。
他者に頼るが常の行いと言っても過言ではない妖怪は、グラスを落とすと言う阻喪の件は既に記憶の彼方へ消え去った様子。
心地良い酩酊感に浸り乍ら貴方の言葉を聞けば、次いで出てくる様子のない酒の代わりと、先に置いた発砲水のグラスへ手を伸ばす。

アルコールに焼けた喉には存外心地良い発砲水。
しかし摂取したアルコールを和らげるには至らず、揺らめく頭が重いのは変わらない。
最終的にグラスを置き、頬杖をつくようにして頭支えれば、傍らから伸びる腕にあっさりと抱えられていて。

「…吐いたことは、ないから、…大丈夫、」

じわりと朱に染まる目許。
顔色が悪くなる様子はなく、ただ眠たげな気配が増していく。
抱え上げる腕に自然と身を預け、熱い筋肉の感触に頬寄せれば、ちょうど良いベッドかのように目を閉じる。
何処か遠くに聞こえる貴方の声。
「そうだね」と、寝言のような不明瞭な声音で答える頃にはカジノの外だろうか。
心地良い夜風が頬を撫でるのを感じながら、次に気が付いた時は知らぬベッドの上。
美味しい酒と貴方の香りを思い出す朝は、幸い二日酔いに悩まされることのない静かな目覚めだった――…。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」から枢樹雨さんが去りました。