2025/09/14 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にジ・アケローンさんが現れました。
ジ・アケローン > それは、運営にとっては予定外だった。
滞り無く進行した闘技場の対戦カードが、此の儘では
想定された時間よりも早く終わってしまうと言う問題に気付いたのは
残り三試合を残す頃となってだった。

手前の三試合で、一瞬の決着が続いたのが大きな原因だ
其れは其れで盛り上がった為、運営としては闘技者に文句は言えない所
だが、観客を早めに帰せば、当然ながら不満が続出するだろうと想像は容易い

故に、声が掛かった。 今回の条件はこうだ。

―――腕に自信の在る者よ、『ジ・アケローン』に挑め。

闘技者も観客も含む、この場に居合わせる全ての者に飛び入りの参戦を許可し
予定にはなかった、緊急の1本勝負を行うと言う物。
緊急であるが故に当然、事前告知はせず、最終試合が終わり、この後の時間は如何するんだと
観客たちが、ざわつき始めた、其の頃合いに。 ――銅鑼の音が、鳴り響く。

『これより、緊急突発試合を行います……!!』

『であえ、挑戦者!! この男を見事倒した者には、栄誉と賞金が贈られる!!』

『其の男とは!! アケローン闘技場が誇る真の漢!! 自らの肉体のみを信じ、どんな相手にも臆する事無く挑む、勇猛なる蛇の化身!!』

『ジ・アケローン!!!!』

―――――登場口に立ち上る、香草の煙。 其の煙中から新たれる、揺らめく影。
頭部に蛇を模した仮面を被り、武器を持たずして、ゆっくりと花道を歩いて行く、一人の男
鳴り響く笛の音に合わせて、時間をかけて舞台へ近付いては、其の手前で一度立ち止まり
観客の、怒号にも似た喧騒を、じっくりと堪能する様に見回してから。

―――勢いよく舞台の上へ飛び乗り、腕組みをして佇むのだ。

反対側の登場口か、或いは、客席か。 何処から響くかも判らぬ、参戦の声を待ち侘びる様に

仁王立ちで、構えた。

ジ・アケローン > 最悪、観客の側から挑戦者が名乗り出なくても良い
この時間を利用して、最終的な対戦相手を今、運営は裏で如何にか調整を付けて居るのだろう
今夜出番が無かった闘技者、或いは、既に出番は終わったが、殆ど消耗して居ない闘技者辺りへ
特別賞与辺りをちらつかせて参戦を促して居るに違いない

正直言って、其の辺りは此方が気にした所で如何にもならない事だ
誰の対戦でも受ける、と言う信条において、今回の依頼を了承したが
この後、対戦相手が全く以て決まらない、と言う可能性だって十分にあり得ること。
如何転ぶか判らない状況こそを観客は楽しむ物だが、何も起こらない、と言うのは
最も"ショー"において、有ってはならない事でも在ろう。

―――それ故に、だ。 対戦相手の気配が無い儘、暫くが過ぎようとした時。
腕組みして居た片腕を、ゆっくりと解いて、人差し指を立てる。
其の指を、頭上高くへと掲げ、天を示せば。 ――観客は、其の僅かな動きに呼応する。
この舞台の上に於いて唯一人、自らこそが、"イチバン"で在る事を誇示する動作。
其の儘、舞台の中央まで早足に歩いて行けば、何処かから放り込まれる、音の増幅魔道具を中空で掴み
自らの声を、会場へと大きく響かせ始めた。

ジ・アケローン > 「――――――――――……………、……ひとつ。」
ジ・アケローン > 「先日の話をしよう。 ……そう、私が、あの『鉄球野郎』と対戦した時の事だ。」
ジ・アケローン > 「奴の鉄球攻撃には苦しめられた、口は乱暴だし、性格もク〇な野郎だが、腕は確かな奴だ。
もしも奴が欲をかいて、消耗した私を鉄球ではなく、踏みつけに来なければ、さしもの私も危うかっただろう。」

ジ・アケローン > 「―――だが、私は勝った。 何故か? それは、ただひとつ、私が諦めなかったからだ!」
ジ・アケローン > 「その点、奴は勝利を確信して驕った。 自らの優位に胡坐をかいて、慢心した!」
ジ・アケローン > 「それが! ―――――奴と、私との決定的な違いだ。」
ジ・アケローン > 「先日の試合前、奴は私にこう言った。 『飛んで跳ねるだけの蛇野郎』と。

……遠くからチクチク鉄球で殴りつけて来るだけの奴が、良く言えた物だ。

其の上で、素手で殴り合うだけの度胸が在ったならば、私も貴様を認めただろう

其の鉄球の、砕けて散ったトゲの、ひとかけら程度はな。」

ジ・アケローン > 「おっと、だが私は奴に敬意を払っても居る。

其の小賢しくて、女々しくて、臆病者らしい技の腕前は、確かだからだ。

―――だが、所詮其れは小手先の技術だ。 "本物"じゃあない。

本物とは、どんな苦境にも臆さず、動じず、慢心せず! 如何なる時も全身全霊を以て迎え撃つ戦士の事だ!!」

ジ・アケローン > 「観客の眼は確かだ! どちらが本物かは良く判って居る! 私か! 奴か!

……それに私は聞いて居るぞ鉄球野郎(チャド)、貴様が、舞台袖に未申告の凶器を仕込んで居たのもな。

そうまでして勝利を得たい、その執念だけは認めてやる、だが、其れで得た勝利に、ク〇程の価値が在ると思って居るのか?」

ジ・アケローン > 「計画通りには行かなかったな、チャド! 勝ったのは私だ!

次に挑むなら、その右曲がりな根性を叩き伸ばしてからにすると良い!!」

ジ・アケローン > ――――それは、観客の熱を煽る。
激しく、挑発的な言葉で以て、対戦相手をこき下ろしながらも
そこで生まれた因縁が、再び次の対戦へと繋がる"縁(ストーリーライン)"を生む様に
観客は、この言葉を忘れないだろう。 何時か再び、奴(チャド)との対戦が組まれた時。
観客は、奴が復讐を果たすのか、それとも己が再び跳ね退けるのかを
各々想像し、騒ぎ合い、熱に変えて応援の渦を巻き起こす

――闘技者として、観客を愉しませ、満足させてしかるべきだ。
こう言った、想定外の事態でこそ、真の意味で己の様な存在の意義が試される。

魔道具を、再び舞台の外に投げ返せば、両腕を掲げて観客へのアピールをする。
両脚を肩幅に開き、其の儘、観客席の四方を指差して、素の声量で吠えれば
歓声が最高潮に盛り上がった其の瞬間に、さも、これで用は終わりだとばかり、闘技場を後にしようと、花道に戻って行こうとする、が―――

きっと、其れが頃合いだ。 飛び入りの乱入者がいても、或いは裏での調整が済んだ場合でも。
其の瞬間こそが、新たな対戦相手を投入させる、最も最高な一瞬なのだから。

ジ・アケローン > 『―――――――待てや蛇野郎!!』

――――来た。 この声は…己の知る闘技者の其れだ。
今夜は奴が来たのかと、花道に向き掛けた歩みを止め、ゆっくりと振り返る。
反対側、けたたましい音楽とともに姿を現す、其の姿を認めれば
マスクの下、人知れず、ふ、と表情を笑みに変えて。

「―――――今夜は貴様か、エリオット。」

舞台へと、戻って行く。 己と然程変わらない、巨躯の男と向き合う。
視線を交差させ、静かに睨み合い、審判が大まかなルールを告知するのを、頷いて了承すれば

――互いに、相手の胸元へ拳を一つ、押し付け合って。

「―――――来い、勝負だ!!」

―――鳴らされる銅鑼の音。 其れを皮切りに、予定外の最終戦が始まる。
その試合が、素晴らしい物であったかどうかは、観客の声が教えてくれるのだろう
今日、この場に居合わせた衆目に、叶うならば
冷めやらぬ熱を植え付けて、去る事が出来れば良い――

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からジ・アケローンさんが去りました。