2025/07/21 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にナランさんが現れました。
■ナラン > 「はい… では確かに」
兵たちが引き揚げたばかりの王都軍の陣地。
ヒトと軍馬と他にも戦闘用に訓練された動物などが行きかう音と声を交わすのとが、あまり風のない空気のなかで独特の響きでテントの合間を満たす。
陽が落ちて足元がおぼつかなるほどまで続いた戦闘で、兵士たちは疲労よりも興奮で未だ満たされているようだった。
その、無数にも思えるテントの中でも比較的上質で大きなもののひとつ、将軍各に与えられた場所に正規兵ではない姿がひとつ。
女は携えてきた書状を、将軍の参謀と思しき相手に引き換えの割符と交換に渡す。
将軍本人は、今奥で支度中なのだろう。衣擦れと鎧がこすれあう音がしたが、女がいるテントの入り口から姿は見えない。
「では」
特に直接将軍と目通りせよということはない。仕事は終わった。
女は書簡を渡した相手に一礼すると、入り口の幕を下ろして踵を返す。
わざと同じように並べられたテントの合間は迷路のようで、果たして自分がやってきた方向はちょっと曖昧だ。
見渡す限り人が行きかっているが、だれもが興奮しているか急いているようにみえる。
(迂闊に、声はかけないほうがよさそうですね…)
そしてまた、このざわめきの合間に陣地を抜け出した方が良いだろう。
女はしばし逡巡したあと、来たと思しき方向を逆に辿るように歩き始めた。
泥も血も被っていない女の姿は少し目立ったが、怪しまれるほどのことは無かったようで行きかう兵士の波に紛れる。
■ナラン > 女は何度か、今日のような『おつかい』でここに来たことはあるが戦闘に加わったことは無い。
冒険者ギルドでこの戦場もタナール砦に次ぐ勢いで人員募集があるから、正規兵とは違う冒険者の姿も珍しくは無いだろう。
それでも、流石に将軍の寝所が構えられているあたりだろうか。今女がいる辺りは正規兵の姿ばかりに思える。
人の流れの方向もリズムも一定ではなくて、ぼうっとしているとすぐにぶつかりそうになる。
さりとて人を交わすことに集中していると方向を見失いそうだ。
こんなところで迷子など、笑い話にもならない、気がする。
ふと見上げた空に浮かぶ月を横切る雲の脚は早い。地上よりも強く風が吹いているようだ。
女は空見ではないから解らないが、明日は今日よりは雲が多いのではないかと、そんな気がする。ばちん!と近くの松明が爆ぜて女の意識は地上に戻る。
それよりも何よりも、月が雲に隠れる前に、ここから遠ざかるようにしなければ。
それからしばらくして
単騎、王都軍の陣地から遠ざかっていく姿は果たして陣地を彷徨っていた女のものだったろうか――――
ご案内:「ハテグの主戦場」からナランさんが去りました。