2025/11/20 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」に影時さんが現れました。
影時 > ――奴隷市場都市

何かと悪名高いそこは普段真っ当に生きているものならば近づかない――とは言えない。決して言い難い。
日常で思いもよらない処で奴隷の労力に接しているのなら、巡り巡って縁があるとは言えなくもない。
こじつけじみた論法だ。では、ある身分のものたちの一部でささやかれるもっと直接的な認識がひとつある。
墜ちに堕ちた貴族の行先の一つであるとも。
政争に負けた貴族の見眼麗しいご令嬢――の、成れの果てを探したいのならば、ここに行けばいいのだとも。

属する盗賊ギルドで、請けた依頼の仕事がここに関連するものであった。
人探しのようなものだ。この時点までは冒険者の仕事とは何ら変わりない。
だが、これが政争相手の子女が今どうなっているかを知りたい、と云うのだから嗤える。

今更徳に目覚めたのか? それとも物笑いにでも慰み者にでもしたいのか? いずれも興味はない。
ご自慢の手勢、手駒にでも探らせればいいのではないかとも思うが、さてさて。これも仕事だ。

夜を迎えるかの都市の一角、一見して豪華な劇場の如く見える大きな建物がある。
劇場には違いない。肌も露な女たちを踊らせ、女同士で公開凌辱なぞさせたりする等するのは、見ものではあろう。
観覧用の椅子は今は片付けられ、様々な美酒酒肴を並べ、奴隷商や顔を隠した貴族らしい者等が談笑し、行き交う。

「やぁやぁどうもどうも失敬ココトオリマスヨー、とな」

そんな中に混じるのは、成る程。確かに只者の胆力では勤まるまい。
素知らぬ顔で緩くタイを締めた白い上下の伊達男めいた姿が人の流れを縫い、闊歩する。
カクテルを運ぶウェイトレスの銀盆からグラスを拝借し、ぱち☆とウィンク決めつつ、出し物宜しく続くいかがわしい風景を聞く。
見ないのか? 見るまでもあるめぇ、という奴である。
手足を拘束された女が玩具で弄ばれるとどんな声を挙げるか、というのは見る以前の問題でもある。

影時 > (……さて)

普段着でもまあまあバレない気もしなくもない。とはいえ、悪目立ちもする。
今の姿も目立つ? 普段着よりはマシだろう。
また、居合わせる者らに対する認知の印象を落とす程度に隠形も利かせている。路傍の石の親戚のようなものだ。
しかし、生業の一端として人探しには慣れているとはいえ、雲を探すようなものでもある。
ギルド経由であるが故に本来の依頼人の仔細は知らない。依頼人、あるいは依頼人らからすれば、思い出した程度の事項かもしれない。
怨敵を屠ろうと思うなら、根こそぎがセオリーとは思うが、それが万人共通の価値観とは限らないことを一抹位は考えるべきだ。
取り潰した、苦界に流した、というだけで満足した。お腹いっぱいになったということも、あり得るだろう。
そのお陰で標的の情報は本当に“その当時”の程度でしかない。

(美人だったというからには、色々需要はあったろうがなぁ。……ただただ痛めつけるだけとは思い難いが……ン?)

「……――ひでぇ味だ」

見世物に出来るならば、ここらですぐに目が付けば良いのだが。何分依頼の質が悪い。着手されずに残っていた位のものだ。
少ない手がかりで動きを考えれば、奴隷商の店や、娼館にでも忍び込んで、帳簿や医者の診察記録でも漁る方がまだ有望だろう。
聞き耳を立てつつグラスに口を付ければ、口の中に広がる奇妙な香り、味わいに眉を顰める。
呑めなくはないが、如何せん呑みなれない味わい、薫り付けと云うのも珍しい。それとも己の舌が偏っているからか。

ついつい、足を止めながらぼやかずにはいられない。

影時 > 「……こういう味が昨今の流行りとは、ワタシが遅れてる証左なのかねぇいやははは」

とはいえ、取ったからには呑まなくてはならない。呑めなくはないだけマシだ。
後で何か舌直しでもと思いつつ、空にしたグラスを適当な卓の端に置いて、摘まめるものを幾つか拝借しておく。
司会者らしい仮面の男が宣う処には、次の題目は秘蔵の品のオークションだともいう。

手持ちの金で買えるか? もの次第にもよる。とはいえどうするか否かはやや判断に迷う。
買いに出されていた場合、それを万難を排して買い上げよ、という命令は依頼にない。現状確認のみだ。
仮に苦界から拾い上げられなどして、人生を謳歌しているとしたら? ……知ったことではない。

「――ああ、秘蔵は秘蔵でも、そっちの秘蔵かい。そりゃそうなんだがネ?」

舞台脇の楽団が曲目を変える。伴奏と共に檀上のものが片付けられ、細い鎖で引っ立てられるものが並ぶ。
如何にも見眼麗しい少年少女。種族は人間とは限らない。ミレー族に魔族、角や羽根があるのは竜種か、それともか。
そのどれもが肌も身体の特徴を薄く隠すだけのような衣を纏い、悄然と項垂れつつライトアップされる。

探し物は――ここにはない。そこにはない。
小さな吐息と共に卓のひとつから、ワインを一瓶、グラスもついでに拝借して手酌といこう。