2026/03/11 のログ
ご案内:「布都の工房」に布都さんが現れました。
ご案内:「布都の工房」に影時さんが現れました。
■布都 >
マグメールの自然地帯の森の奥にある、島国風の建物。
手作りの垣根に、手作りの一軒家……其処に住まうのは、一人の鍛冶師だ。
自給自足で生活できるように、垣根で覆った庭には、小さいながらも様々な食料が育てられている。
水に関しては、川をまたぐように家が作られているのもあり、その場で補給ができる。
今日も今日とて。
―――ぎぃん―――
―――がいん―――
そんな音を立てて、鍛冶場で槌を振るう音がする。
金属が金属を打ち、鋼を純粋な刃金へと、変えていく儀式のように。
一心不乱、脇を見ることもなく、赫赫と燃える鋼鉄を叩いて、叩いて、叩いて。
その場所では、何時も良く在る事だ。
この場所では、何度でも行われている場所だ。
この場所に居る鍛冶師は独り。
ただ、ただ、槌を振るい、刀を生み出すために。
■影時 > ――時は、やや遡る。“万愛節”なる殉教者にちなむ日、その前後の期間の頃。
抜け忍と嘯く男は己が弟子、その関係者、知己等々に配るために多く手製の菓子を拵えた。
それを配り、渡しに行くために王都を離れることもある。あった。近場に居ないのならばそういうこともある。
元より、忍者の健脚でもそれなりに距離がある。思い立って向かうには少し考える距離である。
であればかこつけるのは、定期的に今回渡しに行く知己のために、物資を色々買い込んで運びに行くこと。
己が腰に差す得物の作り手であり、メンテナンスを任せられる人物であり、万一の際の始末も出来うる者となれば。
その手間をどうして惜しんでいられようか。
目的地に近づけば、遠く遠く、だが、強く。槌音が響く。鋼のウタが聞こえる。
それを勝手知った風情で聞きつつ、ゆらりとその建物――工房の扉をそっと開く。
「……邪魔するぞー」
掛ける声はそっと。今回の来訪に、道連れはいない。
見た目こそ手ぶらの風情で羽織の裾を揺らしつつ中に入り、土間の板の間に腰の刀を外しながら座そう。
■布都 >
「邪魔するなら帰れやジジィ。」
冗談だ。
どぎつい言い方ではあるが、冗談なのである。
ここに来るような酔狂は、ほとんど―――否、今の所一人のみ。
その一人の顧客が、この同郷の男だ。
槌を振るう腕、刃金を見る目は真剣そのものであり、掛けてきた声に返答するも、腕は止めない。
今は、一番大事な所だから―――だ。
其処からは、当たり前のように、休むために仕付けられた居間に腰を下ろす客。
あらかじめ囲炉裏に掛けてある鉄の薬缶の中にある茶が、彼の喉を潤す事だろう。
大事で、手が離せないからこそ、知己には許可を出してある、勝手に飲んで待ってろ、と。
そして、しばしの時が過ぎ去り、金属を打ち付けが終盤となり、刀の形ができて、刀の原形となる部分が出来上がる。
しかし、鍛冶師は止まることがないのだ。
刀身が完成し、鍔や柄、鞘までを、しっかりと作り上げていく。
一つの作品が完成して、初めて、視線をあげて三白眼は来客に視線を向ける。
「おぅ。ジジィ。」
たった今、出来上がったばかりの刀。
別に注文を彼に受けたわけでは無い、偶さか完成したところに彼が居たから。
出来たものを、見てみれと、言わんばかりに投げよこした。
それだけの話だった。
「―――なんだったか。こっちの菓子だったな。
礼を返すぜ。」
基本的に街には出ない鍛冶師だから、外の風習などには疎い。
さらに言えば、鍛冶師の故郷にはない類のイベントならなおさらだ。
とはいえ、贈り物をもらい、貰ったままにするという性質でもない。
贈り物をもらったから、と鍛冶の作業に変化を付ける性格でもない。
こはこれ、それはそれ、という事で。
伴愛節の礼を、別にする、という話だ。
連絡を取ったとかでは無く、彼が来たから序と言うのは、鍛冶師の性格だった。
「で?そっちの用事は?」
[4d6+10→2+4+4+5+(+10)=25]
■影時 > 「ははは、そう云うなや。毎度おなじみのアレ、という奴よ。ついでの用件だが……な?」
毎度おなじみのこと、だ。向こうの口の悪さは慣れたもの。
気付けばそれなりにいい歳にもなってることを今更ながらに思い知らされながら、呵々と笑って受け流す。
このタイミングとなれば、羽織の下の腰裏に括り付けた魔法の雑嚢から、差し入れを出すのは後で良いだろう。
女だてら、とか頭に付ける必要もない。自給自足でもどうしようもないことは、幾つかある。
鉱石と燃料。馬匹は兎も角、狐狸魔性の類でも使役していない限り、単身で担ぎ歩くには大いに難がある。
しかし、それも己であれば馴染みの大商人を通じてまとめ買いし、魔法のカバンに収めて運ぶことで大いに楽が出来る。
そうして品を運び。そのついでに拵えたクッキーを丁寧に箱詰めして、手渡したのが此度の前の来訪の時であった。
さて。毎度ながらの呼ばわり方に返しつつ、得物を土間に放って草履を脱ぎ、居間に上がる。
文字通りの勝手知った風情で、まさに手前勝手に置かれた湯飲みを取り、茶を貰って一杯。
きょうは毛玉達はいない。新入りの家令シマリスに今日はドングリの選別方法を教える!とばかりに、息巻いてのお留守番だ。
くぴくぴちびちびと湯呑の中を干しつつ、ただ音だけを聞く。工程の変化、進行で音が変わる。
刀は基本、刀身に合わせて拵、つまりは外装を作るものだが、この知己はまるでその逆、手持ちの拵に併せて刀身を作るかのよう。
―――故に。
「おっとっ、と。ご挨拶だなァ。……――どーれ、と。」
投げ渡されるものを座した姿勢で振り上げる手でぱしりと受け取り、懐から出す手拭いを銜える。
余計な汚れ、錆びを生む息を吹きかけることなく、拝見するという心構えだ。
鯉口を切ってしげしげと刃紋と地肌、囲炉裏で燻る炎の照りで地肌に見える折り返し鍛錬が作る模様を見やり、そうっと刃を納め直して。
「有り難いが、こんなに大仰でなくていいんだぞ?ったく。稲籾、糠でも泣いて喜ぶくらいだってのによう。
ちと早いが動けるうちにいつもの差し入れと、な。包丁を何本かと、鍬と犂の刃を用立ててもらおうって思ってな?」
ささやかな手製のクッキーと比べると、この出来栄えは――逆に申し訳なさくらいたってしまう。それ程の出来栄えであった。
そっとその刀を傍に置きつつ、用向きを告げよう。いつもの補給、差し入れ。これはまあ後で荷ほどきすればいい。
まだまだ巷は寒い。燃料の補給はこまめにもすべきだろう。
あとは、大変全くの私事。台所で使うものと庭仕事で使うもの。安いもの、では満足できない。
■布都 >
「ふン。まあ、いいさ。」
いつもの事で何事も無く、気にするようなものでは無いやり取りだ。
お互い年齢もまたそれなりに高くなっている、其れさえ、些末という様子でもある。
それでも、何時ものように、此処で刀を作り、道具を作り、売りさばく。
そして得た金で、鋼や木炭、石炭を買いあさり、戻ってきて、刀を打つ。
それが、この鍛冶師の日常だった。
「あ?」
大仰という言葉に対し、何言ってんだこいつという様子で視線を向ける。
「何言ってンだ?出来上がったンだから見てみろってだけだ。」
視線だけでは無くて、そのまま、直球で言葉に出すのが、この鍛冶師。
気心を知れるとか、それ以前に唯々、口が悪いのだ。
その刀は、その辺にほっておいてくれ、と。
「あの菓子の礼は、これから作る。
少し待ってろ。」
それはそれ、これはこれ、だという事だ。
菓子の礼に、刀を出すという積りは無いと言い切って。
そう言って、鍛冶師は移動する。
移動先は、直ぐ近くにある台所。
竈に火を熾し、釜に米を洗い入れて、温め始める。
その間に作るのは、食事だ。
数刻の後に。
茶碗に山盛りの白米。新鮮な山菜の天ぷら、海魚の刺身、漬物各種、みそ汁。甘酒。
豆の和え物、佃煮。焼き魚。生卵に、醤油。デザート代わりに、枝豆を潰した餡を塗した餅
島国の食べ物だ、此方ではあまり見ないもの。
さらに言うならば、一汁三菜どころでは無く、膳と言って良いほどのしっかりとした食事だ。
お代わりとばかりに、御櫃に入った炊き立ての白米も。
「食え。
菓子の礼だ、菓子など作れンからな。
せめて、故郷の料理でも食え。」
割烹着を外して、顎でしゃくり、膳を示す。
「包丁と、鍬と犂の刃だな。」
それは作ってやる、と。
■影時 > お互いに実年齢言云々は――考えないでおこう。
長ずればいずれ妖怪の如く成りそうなのは、己の方かもしれないが。
だが、数少ない昔馴染みであり、自分が使う数々の武器の出元であり。気がける理由はある。
街に住めばあれこれ便利になりそうな筈が、ここにこうして世捨て人手前な生活をしている。
惜しい、とは思う反面、居を変えよと無理強いするつもりはない。
向こうの自給自足じみた生活で一部、己が差し入れの代価よろしくおこぼれ的に貰っているものもある。
街の生活は便利な反面、農作業の如く出来ないことも多々許容しなければならなくなるのだから。
「……そういうことかい。分かった分かった。こっちに置いとくぞ、と。」
違うのか、と。だが、折角の刀を無碍に放っておくわけにもいくまい。
直球の口の悪さがありあり見得る言葉に目を瞬かせ、少し考える。
そう言えばとばかりに土間に近い方に放り出したままの、己が愛刀を腰を上げて取りに行く。
事のついでに壁際に出来立てのものと二本、並べて立てかけておく。帰り際には間違る心配は――きっとない。
「マジか。おう、分かった。……待たせてもらうとするかね」
問題は、だ。今から作るという言の葉。
呆気にとられたような面持ちで囲炉裏端に座し直し、今暫し待つ。
聞こえだす物音、漂い出す匂いを感じつつ、合間に雑嚢から取り出す紙束を改めたり、目を通してるうちに時間が過ぎる。
待つのは苦ではない。冷たい泥水に塗れながら、石のように蹲り続けるより遥かに良い。
匂いが告げている。旨いものが出来つつある、と。男もそれなりに嗜むと自負しているが――。
「……こう、きた、かァ。……こういう処は、俺も敵わんな……」
運ばれ、並べられる諸々に思わず天井を仰ぐ。
王都は地勢、土地柄的に海が近く、海産物が手に入り易い。故に新鮮な魚介や干物を食卓に出すこともある。
だが、斯様に作れる、仕立てられるか――というと、男の料理ならではの粗さが隠せないと言わざるを得ない。
其れに米も。米はコメでも、搗いたりして白く精米してではなく、その手前の玄米で出すこともある始末である。
「そうとは思わんがねえ。やろうとすりゃあ、だろうに。……ともあれ、頂きます、だ」
牛乳や卵等を使うものではなく、餡子を使う類ならば、とは思うが、何はともあれ。
素直に手を合わせる。感謝の意を篭める。作り手に。ここに並ぶ食材たちに。
箸を取り、茶碗を取り上げて白米をかっこみ。天ぷら、刺身……少しずつ箸をつけ、味わいながら。
「……んっ、ぐ。
特に肉切に……刺身包丁が欲しい。それと、な。果物切りにも良さそうな包丁を一本と、陰陽のを一揃い、頼んでいいかね」
菜切りは……まあ、間に合っているか。包丁はどうしても酷使しがちな肉用と魚を繊細に捌く用途が欲しい。
果物切は住まわせてる弟子用にも兼ねて。
併せてもう一つ、頼みもする。陰陽手裏剣と名付けた白黒の飛苦無。それも揃えておきたい。
■布都 >
彼に語ったことがあっただろうか?何故を。
あったとして、無かったとして、それは今関係の無い事にもなろう。
こういうおめでたい席で言うような話でもない、それこそ、酒のつまみに軽くと言った際の話題だ。
ただ、現在として、利便を捨てて、鍛冶師は此処に鍛冶場を作り、庵を作り、住んでいる。
本当に、それだけの事なのだ。
「あぁ。屠龍の調整も、後でしといてやンよ。」
彼が来るという事は、そういう事だ。
そんなに簡単にどうにかなるような作りでは無いのだが、実際に姫武者から彼の手に渡る迄ずっと放置されいて。
それでも問題の無かった、刀。
そんな刀でも、時折時間を見つけては彼は調整に来る。
武器を武器として、その上で大事に使っているという事だ。
作った方としては、宜しい、と言いたい。
「酒は出さんぞ。そもそも無ぇからな。」
膳を出したが、酒はない。
酒を飲むような趣味は無く、酒に溺れるなら鍛冶に溺れる。
鍛冶師は、文句はなさそうだが、有ったらさらに喜んだだろう客に言い切る。
「―――ハ。泣いて喜べ。
故郷の味だ。ま……ジジィの趣味までは、考慮してねぇがね。」
そう、元々は近しい所に居た。
彼の里の近くで鍛冶の邑があり、その邑の鍛冶師。
だからこそ、彼の本当の武器を作る事ができる。
郷土料理と言う物だからこそ、今では食べることが難しい。
こちらでの再現ではない、いわば、本家本元の味という奴だ。
「白飯は―――まぁ、贈り過ぎか。」
普通であれば、麦飯や粟や稗などを入れて食べる。
白飯と言えば、大名とかそれこそ、支配階級の食い物だ。
ま、いいさ、と軽く肩を竦める。
「思う存分食ってな、その間に、包めるもンは包ンで置く。
陰陽は、後日取りに来い。」
鍛冶師、武器だけでは生計は立たぬ。
抑々、刀を使う存在が少なすぎる。こちらではレアリティの高い武器だから。
そして、此処に居る限り、足を運ぶのが居なければ、武器の修繕もできぬ。
販売だって、人を見て、使える奴にしか売らないから、買う者もおらぬ。
だから、包丁や農具を作り、それを、町に行って売ったり。
ギルドで依頼を受けたり、ギルドの依頼を受けたりしている。
特注品でなくていいのであれば、包む程度には作っている。
肉切り、刺身、三徳、果物包丁、ついでに、農具をそれぞれ、包み込む。
陰陽の手裏剣は、流石に今すぐとは言えない。
作っておくから、と言って置く。
■影時 > とやかくは聞かない。……敢えて聞かない方がいいことも、世の中にはある。
興味が無い、訳ではない。根掘り葉掘りせずにそうっとしているだけだ。
己が事情と同じ類――な訳でもあるまい。言いたくなる時があれば、他に然るべき故があれば、その時にでいい。
「いつも悪ぃな。その間に、こっちも荷下ろしを済ませとく。
まだ寒ぃから木炭は多めにしときたかったが、どうにもまだ頃合いが悪い。……暖を取るなら石炭の方と使い分けてくれ」
先程、壁に立てかけた愛刀をちらりと見る。研ぎが必要とか、曲がったとか、目立った損傷はない。
其れはまだ、刀としての限界を超える程の酷使、挑戦にまでは至っていない証左とも言える。
同時に刀の限界、性能をよく弁えて使っている証明でもある。
現状として己が全力に耐えられる利器としてもこれ以上のものと会っていないが、いつ覆るか分かったものではない。
故に理由を付けては都度、見てもらっている。調整を繰り返している。それを頼める者は他ならぬ一人だけだ。
出立前、トゥルネソル商会で受け取った目録の内容を思い返しつつ、述べる。
燃料はどうしても季節的にも、傾向的にも当たれはずれがある。仕方がないが。
「出せば、無くねェがよう。……呑むか?
っは。泣いて喜んでるとも。心の中でな。
……昔の飯と比べたり、評じたりとかするものでもあるめぇよ。もう喰えそうにない味が、出た。それだけでお腹いっぱいよ」
向こうにはなくとも、こちらにはある。魔法の鞄は物置き同然に使っている。必然、ポータブル酒蔵にもなっている。
呑みなれた醸造酒かこの国で仕入れた焼酎めいた蒸留酒か。家主が欲するなら、ついでに瓶か樽ごとだそう。
だが、まだ今暫くは素直に酒を交えずに黙々と、よく噛んで食べる。
固い玄米ではなく、手間をかけて精米した白米を出すのもまた、旨いと思わせてくれるのに拍車をかける。
知った味、慣れた味にさらにもう一手をかける塩梅となればなおさらに。だから、今は神経をよく傾けて好く味わう。
「心得た。まぁ、手裏剣は急がねえよう。
弟子に試し打ちさせてみるのもあるが、ちと念を入れておきたいことが昨今多くてなァ」
刀鍛冶に農具、包丁を頼むのは何事か、と言う論もあるが、刀のみで立ち行かないのはどの国、土地でも同じらしい。
剣鍛冶でも鎧鍛冶でも、平時となれば技を絶やさぬ、生計を立てる意味でも、農具を打ち、蹄鉄等を打ったりもする。
代金が差し入れでは足らぬとなれば、然るべき代金を払うこともする。
正しい仕事には正しく代価を。それが礼儀であり、其れに足る信頼をこの女鍛冶に抱いている。
手裏剣の類もまた然り。乱用する、使い捨てるものなら、まだいい。まだ自分で打つか、拵えるかで足りる。
手裏剣の質を求めなければならない敵、獲物……というのも、居る。そればかりは、己が鍛冶の腕ばかりでは余りに心許ない。
■布都 >
「石炭ねぇ……使いたかねぇンだよなぁ」
暖を取るにはという意味だ。
寒いのはあるのだが、石炭の方は鍛冶に使いたい。
最近は、コークスを持ってきてくれるし、その方が火力が強いのだけども。
それでも、暖を取るだけに使うというのは、鍛冶師として使いたくないという気分。
まあ、最悪。
「薪は自分でもなんとかすらぁ。しかし、助かる。」
体が資本と言うのはどこも同じだ、場所も場所だし、川が家の中を通るので冷えも有る。
なので、厚意は素直に受け取って、謝礼は伝える。
その代りと言っては何だが、仕事には、気合を入れ続ける、半端はしない。
それが礼だ、と。
食事している客を見やりながら、屠龍を手にし、鞘から引き抜き、点検はじめる。
どこも問題はない、特に刀身は大丈夫だろう。
逆に柄や鍔など、刀身では無い所に無理が掛かっていないだろうか、目貫や目釘などを調整しなおす。
何度も何度も、行っている事だが、手を抜ける場所では無いのだ。
「あ?
手元狂って良いなら呑むが?」
酒は、酔う。
大事な事だ、精密な作業などを行うに、酔った状態でどれだけできるのか、と。
それこそ目が当てられないぐらいに、程度の下がったもンを持って、帰りたいか?なんて聞き返す。
飲むなら止めないが、鍛冶師自身は飲む気は一切ない。
痛み止めとか、そっちの利用に位だ。
「ふぅン?
連れてこいよ、合った一式必要になンだろ?」
武器や防具は、本来はその体格や体の動かし方に合わせて作る必要がある。
数打ちを使い、そちらに体を合わせる方もあるが。
体に合わせて武器を作ったほうが、良いものができると言う物だ。
弟子が、というなら、一度くらいは連れてこい。
遠隔でやり取りは、面倒くさいことこの上がない。
「ほれ。調整は行って置いた。
後で、二・三度振って、感覚を見るンだな。」
元に戻した。
新品の状態に戻したから、馴染んだ分も戻ってるだろうよ。
ニィ、と口角上げて笑って見せる。
■影時 > 「キモチは少しは分からんでもないがなァ。……どうにも薪や木炭の方が馴染みがあり過ぎていけねぇや」
暖を取ると言う点に限れば、魔法の道具に頼る、と言う選択肢はこの国であればあり得る。
だが、どちらかと言えば何かを燃やして暖を得る方がしっくりくる。馴染み深い。
暫く前と違い、今の住処であれば薪を燃やすという手も出てはきたが、此れも此れで問題がある。
ひょいひょいと薪を得難い街特有の環境だ。薪を街で得るなら買う方が早いが、時勢に左右され易い。
木材は勿論種にもよるけれども建材でも工芸材にもなり、炭の原料となる。
燃料という効率であれば炭の方が勝るが、市井の燃料以外に工業用途――と言う点も生じてしまうと、さらに厄介になる。
冬場の需要、燃料的な癖、成分的な留意点等々。だが、暖を取らねば冬場はこの工房は一層冷えよう。
「礼には及ばんよ。
別にお前さんを侮るわけでも何でもないが、炭も石もやっぱり纏めて持ってくるに限るからなあ」
人が一人で運ぶには、限度がある。下手な金銭よりも現物をどんと纏めて運ぶ方が、色々捗ろう。
その手間分だけ、然るべきものを為してくれるなら、今後も続けようという気にだってなる。
愛刀が作り手の手に収まり、仔細に改められる。点検されてゆく。
基本的な手入れは使い手側でも勿論行うが、職人の手でなければ分からない、ということも多々ある。
鉄を斬れる技量を以っても尚硬い、頑丈なものに切り付け、切り通すような無茶をした際は、特に欠かさない。欠かせない。
「馬鹿言え。シゴトして貰ってる時に誰が呑ませるかい。出すなら全部終わった後だよ」
この程度で酔えるか、という分量が誰しも同じわけではない。
そうでなくとも冗句のようなものだ。酒が入ってないと仕事が出来ないと宣う手合いも居るが、相手はそうではない。
くつくつと笑いつつ宣いながら、一番のおかず、ごちそうと言える揚げ物と魚を喰い終えたことに気づく。
ごはんのおかわりをすれば卵をぶっかけて漬物、佃煮で少しずつ喰ってゆく。和え物も箸休めにつまみながら。
「そうは言うが、中々になァ。得物の面倒は出来たらとは思うが、色々と訳アリが過ぎてな。むつかしいもんだ」
弟子も弟子で都合がある。自分が出かけている時、家に居る――とも限らない。
ふと片目をつむって念を飛ばす。屋敷で先輩と共にいる家令シマリスの目と耳を借りる。
今暫し様子を眺め遣り、目を開きつつ息を吐き、武器絡みで弟子と話したアレコレを思い出す。
武技のレパートリーを増やすよりは、今持つものを磨く、というよりは強い思い入れがあると見え、その点気を使う。
弟子の得物が易く壊れる類ではないのは明瞭。調整も経ればまた変わるかどうかはとも思うが、メンテナンスだけでも連れていくべきか。
改めて時間取り含め、よく考えよう。そう心に決める。
「忝い。んじゃぁ、あとで腹ごなしに型慣らしといくか」
そして、組み上げ直される得物を見る。見える笑みに、いつもの馴らしが必要であろうと悟る。
見た目で変化は分からない。握れば恐らく、分かるだろう。僅かな重量配分、氣の流れ方の微細な違いに。
それらと向かいあい、己がずれ、崩れとも向き合う。武器と使い手は鏡のようなもの。よく映るように鳴らしが必要である。