2025/07/13 のログ
■ティアフェル > 「結局人でなしなんかい……」
どう取り扱ったらいいのか若干迷う。取説希望。
でも、とりま現時点では安全パイだということはなんとなく把握。
じゃあまあ、過剰な警戒は無用であろう。なんだか上手くいえないが空気はやばくない。
「You脱水ってしってるかい……今のわたしのことだよ……」
まあ。これだけ喋ってる分、まだ確かに大丈夫なのだろうが。
しかし普通は汗と熱と暑さと流血。体液を失うことによって引き起こされる死もあるし、その症状は結構深刻ではある。
本業ヒーラー。脱水は舐めたらいかんのだよ…と世話になっておきながらそれは云わせておいていただく。
「なんせ強姦大国だからねぇ。油断してる女からやられまくっていくのだよね。故にわたしは油断などせんのだよ。
女子は総じておしゃべりな生き物よ……極限でも。……ん?なに?」
名乗った後、「……は?」と妙な反応を見せるその様子を怪訝そうに眺めて。
その上凝視する視線を受けて、なに?なんなの?とより一層不可解そうな表情で見返し。
「誰がゴリフェルよ!その通り過ぎて反論の余地がないわ!
あとお蔭様ですっかりお元気になりましたので心よりありがとうございますゼオン君!!
………ぅんん? 美女? まあ、君っていい子だねッ。高く評価したい」
ゴリラの単語に、取り敢えずは一度ムキーしたあと、この子わたしのなんか妙なというか当然の噂を聞き及んだことがある希少生物なのか?と首を傾げ。
美女の単語を聞きつけると図々しくもころりと上機嫌な顔に取って代わって。
「まーじか。えー…気合で対応できるかねえ……今日は暑いし体力消費やばいじゃん。
もしくはさっきの魔獣に食い殺されてたかだよねぇ。あはは……って笑えねえッ」
指さされた方を見やっては、まだギルドの出先機関からは遠いことを理解し。そして野垂れ死んでかたも知れない説には同意。
乾いた笑いを響かせた後頭を抱え。それから、顔を上げてそちらをまじまじと見つめると。
矢継ぎ早に詰め寄った。
「こうなったら乗りかかった船だよね? 一緒してくれるよね? ここで『見ー捨てた!』なんて云わないよね??」
■ゼオン > 「人の為とか言いながら日和って生きるだけで何もしない、そんなのが人徳なら意味なくね?
人でなし呼ばわりする奴等は人でなしの俺を止められないんじゃなくて、止める気ねーんだもの。」
要は自分らしく生きてるだけで他人の評価など知らないのだと。
それに、多分結果はどうあれ止めに来そうなやつなのだろうと、そこらのゴロツキ人でなしが漂わせる害意は微塵も感じられず。
どちらかと言えば、喪に服している者の静かな空気に近くて。
「脱水。……ああ、そか、この国の奴にゃこれで暑いんだっけか。
それにどこでも川流れてるもんな。ちょっとだけ飲んでみ。」
そう言うと治療に行使する手とは逆、馬手の指を伸ばしてくるりと回し手のひらを広げれば、
水の球が生み出されて、それを差し出して。
魔術操作権の譲渡。手を触れればそれは水球のまま貴女の手に渡って、口づければ水分の補給も出来る。
どうやら砂漠の民、水が貴重故に生成する魔術が発達している地域の出身らしく。
「あのティアフェルならヒーラーだべ? 単騎で依頼受けてんの油断しまくりじゃねーの……。
ゴリラ以外にも治療道具破壊者とか後衛から飛び出してくる奴とかごろつきキラーとか色々聞くぜ。
うん。噂ばっか聞いてる奴は俺とどっこいの筋肉女だって思ってる奴多いと思うよー?」
竜殺し、魔族狩りの反英雄が情報の大渋滞で美少女を前に困惑した顔で。
こう見ると屈強とはいえ年下の後輩感がどこか漂う。
「まー、さっきの人でなしじゃねーけど、黙ってねーような奴の噂は一応覚えてるのよ。
そう言う奴は生きてた方がきっと世の中面白くなるじゃん? だから尚更ティア姉とはヤんねーかな」
何故噂を耳にしていたのか。日和ったりしない相手に好感を持つのだと言外に言う。
ヤってしまって、ヤりすぎてしまって、潰れてしまっては面白くない相手なのだと。
「ヒーラーって一番倒れちゃいけねーじゃん。基礎体力つけたほーがいーよ……?
……ん、あいつは、どうなんだろな。餌と観れば食うのか、人間の味覚えてたのか。
んおっ」
詰め寄られれば顔を少し引く。こういう美女は好みだし連れ込みたくもなるが、こう、調子が狂う。
終始押されてる。ゴリラに圧倒されていると言うのか。
「見捨てやしねーけどさ。……そういやティア姉ならあいつはどうする?」
視線の逃げる先を求めるように魔獣の亡骸を一瞥して。
「俺は討伐したってより楽にしただけ。ティア姉なら単騎じゃ無理。
でも、仕留めた以上は首は持って帰ったほうがいいのか。
多分あいつの首を持ち帰ってる間は血のにおいで他の魔物は襲ってこねーよ。
こねーんだけど、それとも」
すこし逡巡して、口を開いて。
「こいつを弔ってやったほうがいいのか」
強者への敬意。自然への敬意。それでも冒険者としての価値観であればそれに従うのだと。
■ティアフェル > 「おっと哲学かい……急に深いね。
まあ、一理あるし……普段の君は知らないけど、今の君は取り敢えず人でなしではないよ。むしろいい奴」
普段何しているか存じ上げず、自分で自分をひとでなしというからにはなにか自覚するところがあるのかと思ったが。
こうして接触して話している分には別にそうも思わず。
「対外的に見ても酷暑だと思ってたけど……み、ず……?
んっ……ぁー……お水!うま!」
ふっと生み出された水球。すん、と少し匂いを嗅いでみる。もちろん無臭。
透明で正常な液体と見れば差し出した掌に映る水の球。口を寄せて吸い付けばひやりと乾いた喉にはどこか甘くすら感じる清水で。ごくごくとゆっくり飲むべきなのに思わず一息に流し込んで、ぷはっと息を吐いた。
「あのってどのよ。ソロでいける範囲だったんだもん。いきり立った魔獣に追われるまでは順調で平和だったんですぅ。
――ひ!ひどい!あんまりよ! そこまで云う!? ていうか陰口えぐい、そこまで嫌われてたとは……かなしみ」
確かにそんな噂が流れているとしたらむきむきマッスル女しか想像できないであろう。
大きくため息を付いて、取り敢えずマッスル女というほどでもないから、とぼやき気味に告げ。
「よく分かんないけど。やり潰すまでやってやるなよ……自制しなよ、とティア姉思う。あとティア姉って呼び方超気にいった」
あかんわあ、ええこやわあ。となんか浪花節での感想がよぎる。
うちのクソザル…もとい弟たちとは豪い違い。ぶっきらぼうだけどいい子だな、と和む。
ヤリ潰しという点に関しては……一旦忘れておこう。
「それなりに体力はある方よ、こう見えて。今日の感じじゃ説得力皆無だろーけど。
どっかの冒険者にやられて人間にヘイトしかなかったみたいだから……とばっちりで食われてもおかしくなかったけど……どうして君にはあんな……」
魔獣さえ手懐ける、不思議な何かは持っているように、確かに見えるけれど。
それにしても……んおってなんだよ、とやや渋面。
「よし、安心、頼んだよゼオン君。ティア姉ここで見捨てられたら詰む……ん? え……あー……そう、ね……」
あいつ、と首を折られて事切れた魔獣へと視線を流して、しばし考え込むように放置したらただここで他の獣や魔物に食い荒らされて腐っていくだけになるだろう骸を眺め。
「んん……わたしがどうするか、なんてことよりも。
君の中でもう答えは出てるんじゃないの? 権利はゼオン君にあるんじゃん。わたしは敗者。決定権はない、から――従うよ?」
他の魔物なんていくら襲って来たところで彼の実力であれば物の数ではないだろう。
弔ってやった方がいいのかなんて選択肢が出てきた時点でもう肚は決まっているのではないかとそちらを見つめながら静かに告げる。
微力ではあるが、手伝いもすると。
■ゼオン > 「えー。良い奴って結局良いように利用される奴ってことじゃん。
俺最初色々気まずいから助けに動いただけなのもあるよぅ……?」
少なくとも、この国における善人、良心がある者の末路を心得ているように、そちら側にはなりたくないと、
どちらかといえば食い物にしてる側は眉を下げて困り顔。
「地元がもっと暑いしかっさかさになるからねー。清水生成も地元じゃコストかかんだけどね。
水生成する為だけの奴隷もいたし。
こっちはその辺に水の気配がそこかしこにあるからいくらでも作れるよ。」
文字通り生き返ったかのように飲み干してる様に言葉を投げかけるが聞いてない、というよりそれどころじゃないよなと思いながら。
「嫌われてんじゃなくて良くも悪くも一目置かれ過ぎというか、二歩三歩前に踏み込む性格だからじゃね……?
ティア姉みたいな美女が嫌われてたら言わそうとしてる奴等が徒党組んで寄ってたかってあれこれすんでしょうよ。」
本当に嫌われてる俺なんかそういう異名ないよ? などと付け足して。
というかこの顔とスタイルが話に上がらないレベルのことしてるんだー、と自然に姉呼びしてる。
「小細工して他人食い物にして勝ち組気取りの魔族とか貴族とか、油断しちゃいけない奴が油断してたら食い潰すよー?
なんだっけ? 己が欲せざるもの人に施すことうんたらみたいな。
後は、やり潰される寸前で止まるって分かってるならそこまでやられたい奴って意外といるのよ。
こんな国だからしゃあないと思うよ。マジでこの国魔窟だわ。」
どうしよう。ティア姉相手だと今のところどういう色事傾向なのか見えない。
普段はそんなことないのに、と、なんというかエロい目で見る気配が出てこない。
「まー、あんだけドバドバ血が出てんのに喋れてたもんね。
ん? 獣なら絶対殺される相手とか会った瞬間に分かるっしょ。
それに人でなしはこういう時は便利なわけよ。獣にも人とみなされねーからさ。
守ってやるし面倒見てやるって伝われば従うじゃん。……面倒の見方は面白くなかったけど。」
同じ人という枠、常識と言う檻の外にいいる生物同士、残るのは上下関係と敬意のみで。
群れを成す生物ならそれは尚更で。
だからこそ、自然と姉と呼んだ相手に抱いた敬意の元に問うてみれば返ってくる答えに惚けた顔で見つめ返して。
仕留めた者に食らう権利がある。であれば、強者は、死にきれぬ者はどうなるか。
その問いかけに欲しい答えがもらえたのだと。
「あー、やっぱティア姉は簡単にヤッちゃいけねー相手だわ……。
……はっ。おもしれ―ねーちゃんだ。顔だ胸だより生き様が噂になるわそりゃ。」
おそらく彼女は英雄なのだと。力ではなく在り方がそうなのだと。
そして言葉を受けて頷いて、ちょっと待っててと告げてから、
倒れ伏した亡骸に近づき、仰向けにゆっくりと転がせば、掲げた手刀から淡い光と高音が伴って、
それを胸に突き立てて。
とぷりと、血の匂いが広がる。それから丁寧に、他の臓腑には傷をつけぬように肝を切り離して。
そして己のズボンが血にまみれるのもかまわず、取り出した清潔な布に包んで。
そして、犬歯を二本、頭を抑えて素手で抜き取ってそれも布に包んで。
最後に、ブロードソードを抜くと、地面に向けて切っ先を払うように奮えばそれだけで衝撃波が伴い地面を深く抉る。
剣を地面に突き立てれば、男の体からみしりと、肉が軋む音が響き、手にかけた魔獣の体を持ち上げて、
抉れた地面の穴へ横たえさせて。
それから再び剣を抜いて抉れた土砂を振り払うように孔へと落として埋葬を終えて。
「ティア姉埋めるのちょっと手伝ってくんね? 土踏むだけでいいからさ」
全部見てもらうだけというのは、埋葬の作法に反するだろうと言うように貴女に助力を頼んで、
墓標の無い墓を造りあげていく。
「あの肝と牙はティア姉が持って帰ってくんない? 治療道具ぶっ壊すなら先立つものいるっしょ?」
そういうと、岩の上に置いた包みを二つ視線で促して。
■ティアフェル > 「そうね、誰か他人にとって都合がいい奴をいい奴ってことはあると思う。
だから、今の君はわたしにはいい奴で間違ってない」
気まずいから助けた、とか理由はどうあれ理屈の上では別に間違ってない。
本心から悪人だとか善人だとかそういう問題は一旦措いて。
「ふぃー。それってもはや人の生きていける環境じゃないね。
あー……潤ったァ」
ごっくんごっくん、喉を存分に鳴らしてすっかり喉が潤ってつやっといい面になった女は、一応は聞いてた。少しだけ聞き流したが。
「………まあうん。ちょーっとばかり短気なのは否めない。一目於かれているというより……煙たがられるようなことしちゃった自覚もあるさ。
あなたはいいタイミングで美女というパワーワード入れ込んでくるね。好きだわそのスタンス」
ぐ、とサムズアップ。美女の一言でへこんだところで浮上する。そのくらい美辞麗句の効果は絶大。お世辞であろうがテンション上がっちゃう。
具体的に誰からどう嫌わててんのよ?と補足された言葉には腕組みして首を傾げ。
「いい奴か、マジでただのいい奴か。そんな小悪党は遅かれ早かれ誰かに食いつぶされるだろうねえ。
やり潰していい相手かどうか見極めてるってこと? 見かけによらず器用だなあ。
いいんじゃない、魔境。そんくらいじゃないと面白くない、でしょ?」
ぬるい環境よりも人外魔境程度が彼には合っている気はするからに、と口角を上げた笑みを向け。
――そんな感じなので、隙もなければ色気もなかろう。ゴリラと呼ばれる所以をそろそろ彼も理解した頃か。
「ですよ、結構頑丈なんよ。
とはいえあれは魔物だったしな……君は人としか見做せないくらいに人だよ。
漢気か。むしろ漢気なのか。それは……わたしでも従っちゃうやつだわ」
魔獣相手にひるむどころか守るときたし、死に水を取ってくれるときた。
お、漢らしい。どこか朴訥そうにも思えるけど、なんとも生き方が真っ直ぐだ。
人でなしの面を今のところ微塵もお目にかかってない。マジいい奴、誰だ人でなしとか云ってるアホは。蹴飛ばしてやる。
そう考えながら惚けた表情を向けられると、なんだかそういう顔は素直で年相応の少年と云った感じで思わず少し笑ってしまう。
「簡単にはやらせないタイプなの、見て分かるっしょ。誰かを相手に性欲処理ってあんま感じないんだ。
あら、ありがと。ゼオン君の生き方もなかなかよ、おもしれえわたしからの感想」
肩を揺らしからりと笑いながら。英雄気質なのは目の前の彼の方だけども。
大人しくその場で眺めながら待っていると。剣やナイフよりもよほど鮮やかに手際よく光刃で魔獣の遺骸を切り裂き解体していく様子をただじっとつぶさに見つめた。
どういう身体構造なのか良く把握していると感心する。
魔物によっては思う所に思った臓腑がない場合もあるけれど、間違いなく淀みなく、血みどろになりながらも正確に切り取るさまに感嘆符を零し。
あーやっぱ、やべーやつ。
なんていい意味で思いながら頬杖をついてみているとやがて速やかに解体は終了し大剣で地表を抉り衝撃の余波を受けては「おぉっとぉ…」とがくん、上下に揺れ。
そして墓穴へと遺骸を埋葬していっているところで立ち上がり肯いて。
「ん。もちろん。やるよー」
作業を手伝う前に一度遺骸の前で手を組み合わせて静かに祈り。それから埋まった箇所から土を踏み固めながら。
「んぇ? でも……んー……そ、ね。じゃあ形見分けということでありがたく頂戴いたします」
牙を分けてくれるとの言葉に何も役に立ってないどころか世話をかけただけの立場は自覚していて。
一瞬逡巡するも、少し考えて思い直し。気持ちはありがたいし正直彼は金にはちっとも困ってはいないだろう。
何かで借りを返すことができるのか自信はなかったがいただくことにして。
それから立った二人の大きな魔獣の小さなお葬式。その亡骸がすっかり土の下に埋まればまた再び追悼の祈りをささげておく。
それと、近くに咲いていた野花を摘んで供え。
■ゼオン > 「ティア姉って絶対どっかでクソみたいな損しそうだなぁ……。」
性善説性悪説は所詮人の価値観に過ぎない。だというのに目の前の姉さんはそれに頼らず己の目で見るのだろうと。
「いや生きてるし。なんなら親父も実の兄もいるしさ。人間なんざどこでも蔓延るもんさ。
まだ縄張りから出ない魔獣のほうが弁えてるまであるよ。」
そりゃこっちの国はこれだけ潤ってたら栄えるよね、などと半ば独り言ちて、それでも姉さんが潤ったなら御の字なのだと。
「でも姉さんは止まれねーんだろ? ……今回みたいにやばい、ってならなかったらそれでいいんじゃねえかな。
だから次は怪我しねーでくれると俺は面白いかな。
つか、スタンスもタイミングも何も目の前にいる美女に美女っつって何が悪いんだよ」
真顔。何も考えてなかった。だがサムズアップにはサムズアップを返す。これぞ陽キャの共通言語。
「正直姉さんは一目置いてっからまともに相手するけどさ。
……口だけで何もしねー奴とか媚びる奴とか相手にしたくねーのよ。
この国で自分の意志ってさ、力がなかったら持っちゃいけねーの?
そういう、諦めてる奴等を相手にしなかったら人でなしになっちゃったってわけ。
あいつもそうでしょ。普通に生きてるのに”魔”獣なんだぜ?」
力があり過ぎる悪童故の逸脱。それでも弱者に迎合しようとは思わない。
そう、認めた相手の姉さんには遠慮なく愚痴の一つも零してみせて。
「良い奴じゃねえよ。俺は善意でやってるんじゃなくて、雑魚が強キャラ気取ってんのがクソ下らねえって思うだけよ。
戦場に出て散々殺して回ってる奴がいざ殺される側になって命乞いしたらムカつくっしょ?
それと同じよ。
……てか姉さんなんでそのスタンスでやられた噂も話もねーの」
意外と魔境楽しんでた。この姉さんやっぱ強い。在り方がゴリラだ。
「人間だよ? そりゃ人間さ。俺からすれば善だ悪だって自分の言葉に従わない奴のほうが
よっぽど人から離れてんだよ。
だから、あいつも、最期まで自分の足で歩いて帰ろうとしたあいつも獣なんだ。
魔物なんざ、所詮人の決めた分類じゃねーか。」
魔族は知恵を得た魔物。そして魔物は人に仇成す者。それは男にとって弱者が強者を非難する不当な言い訳にすぎないのだと。
ただ、気高い魔族には未だあえておらず、悉くが殺したほうがいい下衆ばかりで。
内心、姉さんとの邂逅は人でなしには救いがあって。
ただ、そんな救われるような相手にはこの国にも、故郷にも少なすぎる。
だから、人でなしと疑えない目の前の男は何の迷いもなく薬物を流通させて回るし
それで得た資金で気に入らない相手を潰して回る。
ずっとずっと、水は生み出せるのに乾いたままで。
「えー、姉さんさっき従うって言ったじゃん。姉さん相手なら性欲処理とかしねえしむしろ緊張すると思うけど?
んでもねー、姉さん口説き落とすなら力づくはしたくねーかな」
年相応に、へらへらと笑えたのはいつぶりだろうかと思う。
女を犯すにしろ、イイ女相手なら尚のことイイ男としての格を維持する必要がある。
淫紋も洗脳も無粋。己の手管と看破と篭絡で女を満たす。それが犯すに値する女への作法。
けれど、それは目の前のティア姉さんには無作法が過ぎるのだと。
作法を弁えているのは魔獣の解体でも伺えるだろうか。臓物の位置を理解しているが、
それ以上に、必要以上に亡骸を辱める真似はしない。
男は見下した相手はとことんけなし貶め辱めるが、面白いと、良いと思った相手には礼儀を尽くす。
そして、受け継ぐに、受け取るに値する人に託すべきものは尚のこと丁重に扱うべきなのだと。
そして埋葬と腑分け、形見分けが終われば逡巡する様に首を振って。
「あいつは討伐されるだけの、脅威に思われるだけの奴だったんだ。
だからあいつが死んだ意味も結果も表に残さないといけない。
俺は、持って行って残すには色々やり過ぎてるから、姉さんが持って行って納品なり売ってくれた方が
あいつのいた意味が人の世に残るんだよ。」
姉さんが花を添える様を見届ける。石も置かずただ踏みしめただけの、獣の世界にはない墓。
そこに、人の敬意が添えられる様を見つめて。
「んじゃ、送るよ。つっても街道手前までだけどな。
俺と歩いてるところ誰かに見られたら姉さんも俺の肉オナホ呼ばわりされて評判が堕ちちまうからさ。」
最後の最後にまあまあの爆弾を投げつけながら、こっちだと連れ立って帰路へ着いて。
元より本来の目的だった、もう護り手のいなくなった深部の薬草採取を、そして
強者たる魔獣の一生を辱めた半端な弱者達を蹂躙する為に、姉さんにはそのことを伝えず、
無事に駐屯所へたどり着いたのを遠めに見届けてから、また、男は森の奥へ消えていくのだろう。
■ティアフェル > 「君もねー」
それはお互いさまっぽいな、と微苦笑気味に肩を揺らす。今まさに損を被ってるのは君の方だとも思う。
「今のところは、でしょ? その最期を見てから云いなよ。
そりゃあ……魔獣にも人にもいろいろいるでしょ、一概には云えないわよ。何見て来たかは知らないけど」
治療もしてもらったしお水も貰った。その上魔獣の牙のおすそ分けまでいただいた。やばい、年下にいただいてばかりだ。これはまずいぞ。
年上としての矜持が。何かお返しせねばなあとひと心地つくと悩みも生まれる。
「まあうん、バカなんで。暴走しがちよね。ただブレーキはもっとうまく踏むこと覚えるべきだとは思う。
今回みたいなのはさ……生きて伸びただけでもわたしスゲーんだよ。
悪くないよ!むしろハラショー過ぎるよ! もっと云って!!」
二人のサムが嚙み合った。いい瞬間である。一方真顔だが。
「稀に見る真っ直ぐな子だな。一目置いてくれちゃう? やったね。
力がなくても意志を持つ権利はあるよ。ただ、力がないと往々にして尊重されにくいよね。
そういう理屈で人でなしならわたしもおんなじ人でなしかもなー。
まあ、あのこの場合は属性が魔だったというのもあるのかなと思うよ」
ぼやく様な言葉には肯きながらも。彼が人でなしと類されるなら。彼をそう分類する連中の方がよほど人でなしだなと肩を竦めた。
愚痴っぽくなるのはなんだかちょっとカワイイ気もする姉属性ってか、姉。
「いい奴ってのはただのわたしの感想だよ。イヤなら云わないわ。ま、他に例えば虎の威を借る狐とかうざい!とはわたしも同意。
人殺すんなら殺される覚悟ぐらいしやがれ、とは思うよねぇ。
あぁ、わたしがやられてない理由? とっておきの裏技を持ってるからよ。じゃなきゃ余裕こいてられないよねぇ」
魔境に住むからには切り札の一枚や二枚必要。しかし詳細は臥せるし、これも一応内緒だよ?と人差し指を立てて。
「結構潔癖、なんだね。――そういう意志の強いのって折れちゃいそうだけど折れないで欲しいと思う。君はきっと心配しなくっても折れやしないんだろうけど。
ただ、意見は一つじゃないからね。正しさがそれぞれ違うだけというのもあると思う。ゼオン君にとって魔物じゃなくて獣だと思うならそれはその通りなんだよ」
善も悪も一方向だけでは語れないことも多いけれど。彼は一方向を大事にしてそこから目を離さないで筋を通す人のように思え。
どこか眩しいくらいのその気性はそのままでいて欲しいと勝手に願っておく。
ただ強い獣が魔物と忌み嫌われて討伐される、それに憤る裏で他人を食いつぶすことさえ平然と行っていることは今は知らない。
それに今後ゼオンという名の若者が裏社会でまさに人でなしの所業を為している、なんて噂を聞いたところで同姓同名だろうと鼻で笑う。
「そういう従うじゃないでしょどうかんがえても。……緊張するの? わあ、キャラじゃなくない?ちょっと見てみたい気はするなぁ。
ふふっ、もぉっといい男になって口説いてくれるぅ?」
軽口を叩いてけらけらと笑っておく。屈託なく笑う少し下の男子は弟みたいに気安い。
力づくなんて今更この段階でしないだろうと安心感もあるせいか。
見ていてもしっかりと敬意を感じる解体の所作。貴重な部位だけ切り取られた亡骸は。しかしどこか穏やかなようにすら見えた。
これが弔う、ということか。とまだ若い、少年とさえいえると仕事の彼に学ぶ。
礼儀正しく真っ直ぐ過ぎるからこそ、非道な行いもできるらしいが。それはいつか知ることがあるのだろうか。
「そうだね。それではわたしがその責任をきちんと追わせていただきます。
余所のとばっちりで死にかけたというご縁もありますし。
どういう最期だったのかも併せ伝えておくわ。
それからゼオン君がどう考えて何を云ったのかもわたしは覚えておく」
それが獣へ最大限敬意を払い尊重した彼へのせめてもの礼儀だと思うし。
獣への追悼にもなればいい。
小さな野花を捧げたあとは送るという声にありがとうとうと肯いて。
肝と牙の包みを大事そうに抱え。
「うぃ、充分だよ。よろしくー。
別に言いたい奴には云わせとく方だから構わんし、もともとろくな評判はないから気にしないけど」
そっちが気にするようだったらそうすると、爆弾を軽くかわしておく。
そして街道まで送ってもらうと、ほんとマジ大変お世話になりまくりました!と腰直角角度の体育会系なお辞儀をして丁寧にお礼を云い、街道を王都の方角へ歩いていくのだった。
途中、一度振り返って見ると――その背中はどこか気がかりなものに見えた。
その後に何をしたのか、その時点では分かるはずもなかったが――その後、森の奥で数人の冒険者がとある軽装の大剣士に蹂躙されたという噂を聞いて少し胸がざわめくのだが。
それはまた別の話。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からゼオンさんが去りました。