2025/07/05 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」にさんが現れました。
> 夏の日差しが照り付ける森の中、時刻は午後を過ぎ日差しが真上に来たかと言う頃。
全身黒装束に身を包む小柄が一人、木陰の下で兎に似た魔物を捌いていた。
手慣れた手つきで皮を剥ぎ、頭を落し、骨を断って処理をする。

手軽に熟せる弱い魔物の討伐依頼は、単独で行動する冒険者にとってはデイリータスクのようなもの。
冒険者らしく働くようになって半月もすれば、他の依頼の片手間に行うようになり、学んだばかりの分身の術も使えば、より効率も上がって半日で片付いてしまう。
今は狩りも終え、分身の方は小手調べに森の奥深くへと向かわせ、本体はここで後処理を行っている。
自分の足で向かっても良かったのだが、戦利品を放置するわけにもいかないのと、怪我をして帰れば要らぬ詮索を受けることにもなりかねないと、結局残ることとなった。

毛皮や爪はギルドで買い取り。肉は食堂で買い取ってもらうか、自分で焼いて食うか……。

「……ん、食事は日に二度、それ以上は取りすぎ」

逡巡の後に緩く首を横に振り、これら全て金に換えようと布に包んで片付ける。
冒険者は自由業。時間の使い方も、食事の頻度も、全て自分で選んで考えなければならない。
暗殺者をしていた頃には無かった贅沢な悩みだ。

> 包みを鞄に片付け、木陰を作る大きな樹を見上げれば、一歩、二歩、と距離を開け。
ふっ、と小さく息を吐き、地を駆け幹を蹴り、物音ひとつさせずに樹の中腹まであっと言う間に登りきる。

――ガサリッ。
生い茂る枝葉の間から顔を覗かせ、見晴らしの良い樹の上から辺りを見渡し、周囲を見渡し耳を欹てる。
しかし、聞こえてくるのは微睡み誘うような木々のざわめきと小鳥の声くらいのもので。
この辺りは比較的安全な場所故、魔物も弱ければ数も少ない。身体を鍛える相手には不足である。
そうなると、柔軟や、的への打ち込み、持久力を上げるための走り込み、川での潜水。後は、座禅を組んでの精神修行などなど……。

「んなぁー……。
 的打ちか、走り込みが良い。座禅は……んー」

くるくる木の周りを回ったわけでもないのに、バターのように溶けそうな鳴き声を上げて。
やりたいことばかりに気が向くのは甘いだろうか。
命令でもあれば迷わず従うが、自由に選べと言われると楽な方、得意な方へと流されるのが人と言うものだ。――否、猫か。
こう言う精神的な脆弱さを直し自身を律するために精神修行が必要なのだが、そこの所が小柄は全くなっていない。

何処までも晴れ渡る青空を小鳥が飛ぶのを見送って、また眠そうに目を細めては。

「うん。やっぱり、もっと仕事を受けよう。実戦以上の鍛錬はない」

そう結論を出して、一人合点して頷くのだった。

> 決断してからの行動は早く、木に足を掛けぐるりと回り真っ逆さま。
地面にぶつかる手前で身を捻り、シタッと手足を付けて地面に降りる。
丁度、その時だった。

「――ッ!」

立ち上がろうと顔を上げる寸前、一瞬、小柄の動きが止まる。
わずか一秒にも満たない間に頭へと流れ込むのは、森の奥深くで消滅した分身の死の記憶。
魔物も滅多に入らないような鬱蒼と木々の茂る森の中、辺りに咲く珍しい薬草に目を向けた瞬間、暗がりから音もなく槍のようなものに背後から腹を貫かれ、血を吐く代わりに氣を零して揺らぎ消えるまでの一部始終。
それを追体験する形で受け取り、一呼吸おいて立ち上がる。

「……あの辺は、危険。近付く時は警戒が必要。ん、覚えた」

そっと鳩尾の辺りに手を添え、少し考えるように目を伏せた。
分身の進んだ道のりからだいたいの位置を把握して、頭の中の地図に記録する。
情報は金になるそうなので、これも何かの足しになるだろうか。
ギルドに向けて良い冒険者であると印象付けるために、無償で情報提供するのも一つの策か。

何はともあれ、潜む相手の姿も見えなかった以上、情報としては安いし、うかつに近づくのも危険。
今日は手を引き、大人しく安全地帯で鍛錬がてら安値の薬草でも摘んで帰ろうか。
ホルダーから引き抜いた双剣を手に、小柄は一度だけ森の奥へと振り返ってから近隣の薬草採取へと向かった。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 野営地」にジーラさんが現れました。
ジーラ > ギルドより請けた、とある魔物の討伐依頼は、拍子抜けする程順調に終わった。
上手いことエンカウントが敵ったのと、
パーティを組んだ同行者が手練れであったのが大きいだろう。
予定していた日数より大幅短縮にて成果を得、今は夜。野営地である。

即席のパーティメンバーとは少し離れた木陰に火を熾し、女は一人で居た。
大樹に凭れるように座した身を寛がせ、休息を得ている。
焚き火に照らされるラベンダー色の髪、妙齢の落ち着きを帯びた横顔。
そしてたわわに実った重々しい乳房の膨らみととっぷりと負けじの重量級である臀部は
冒険地に於いて禁欲的且つ機動性に富んだ防具に身を包んでいても隠せぬ、
はちきれんばかりのボリュームを呈し、匂いたつような爛熟した魅力を放っていた。

「明日には帰還できそうだし、――…思ったよりもだいぶ早いな…」

行動を別にし、傭兵として戦地に赴く夫の帰りはあと数日ほど先だろう。
帰って家に彼が居ないのには馴れてはいるが、寂しさもあった。
彼の帰還日に合わせた依頼を受けたのに、目論見が外れてしまった。
――なんなら、もう一依頼くらい請けても良さそうだ。

女の、カップを握る左手の薬指には銀色のシンプルな指輪がある。
それは婚儀を交わした、既婚者であることの証で。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 野営地」にジャックさんが現れました。
ジャック > とある魔物の討伐依頼に荷物運びとして参加して都合7~10日分の野営道具に食料を一人でえっほえっほと軽々運んだ数日目――……
予定していた日数の半分以下で討伐が終了してしまったのは良い意味でも悪い意味でも予想外。
返品などするわけにもいかないから帰路の飯を豪勢にしたりもしたが中々減らず、
『さぁてどうすっかこれぇ……』と消費する筈だった資材に今夜も頭を捻って。

「うーーーん。うん。後にしよ」

明日からの飯の献立とか使わなかった道具の売払先などをしたためていたメモと羽ペンを放りだした。

「あ、ジーラさん、はいこれどーぞー」

乾燥させた果物を水で戻してから砕いたり潰したりした即席の果実水などを作って、パーティメンバーにくばっていく。
酒! 等とねだる者には、平地に帰ってからね! 何てお預けしながら、少し離れた場所で休息中の彼女にも杯を持ちに歩み寄り、
冒険者としての実力を十二分に備えながらも女としての色香もまるで匂い立つような彼女に対してにへら~っと緩~い笑みを浮かべた。
年若い男故に豊満な肢体には、まあ、目が行かない事はないが下心丸出しなんてのもみっともない。
下がりそうになる眼鏡も視線もぐいっと無理くり眼筋やら首筋に力を込めて持ち上げてから、
『はいどーぞー』と氷も果肉もたっぷりのそれを差し出した。

ジーラ > ぱちぱちと火の爆ぜる音に、香ばしい匂いが仄か。
女は晩飯として串に刺した干し肉を炙っている。通常ひと串なところ二串を刺しているのは、
青年の悩みと同じ理由。余った食糧の嵩減らしだ。

カップの中には、途中仕留めた獣骨と野草を煮て、塩で調味した簡素なスープ。
肉を炙っている間、両手に収めたカップを、ずず、と啜っているところに――。

「ぅん?」

顔をあげ、声を掛けてきた主に視線を向ける。
今回の同行者の中で一番若い、荷運びとして雇われた少年だ。
荷運びの割に随分機転が利き、ついでに中々動きが良いので目を惹いていた。
そんな彼の手には、杯がひとつ。受けとって杯の中を覗き込み――。

「へぇ、気が利くね。 何コレ。酒?」

杯を揺らし、からころと氷を鳴らしながら問いかけた。鼻先を寄せれば、仄かに甘酸っぱい匂い。

ジャック > 乾飯、乾パン、干し肉、干魚にドライフルーツ、等、等、等……
日持ちするものばかりだから持ち帰ってから家で食すというのもありといえばありな品々ではあるものの。
帰ってからも冒険中みたいな食生活というのは遠慮したいから何とか消費したいというのが人心というものだろう。

その心情が伺える食卓と、ひと手間加えた旨味のある匂いに一瞥と鼻をひくつかせてから、
終いにゃ全部鍋で煮込んでしまうのもありかなとは過るがそれはさて置き。

「ジャッキー特製トロピカルジュース。
 パイナップル、マンゴー、バナナとかそういう、
 南の国じゃあこういうの混ぜて飲むんだってさ」

たまにズレる眼鏡をくいと直してから金の瞳を、やや色合いの似た瞳にあわせて首を傾げる。
最近まで眼鏡がなかったものだから弱視の癖でたまに眉根がきつくなる時はあるものの、
『いや睨んでんじゃなくて目が弱くてね』云々事前に言い訳してある瞳は今は緩んでいる。
見目はそう太くもなく上背は目前の女よりもやや低い、経験不足なところも多々あるが……
全員分の荷物を苦も無く運ぶ健脚や時折『何かやべぇ匂いする~』等と危険な場所を察する力、
将来有望そうなところをちらほら見せる少年は今も野営地内ではあるからか気は抜いているが時々野営外に目を向ける時があった。

黄色の色合いにどろっとした見目から漂うのは、甘酸っぱい香りに、甘みの強い香り、乳の匂いもする。
南国から採れるようなものを組み合わせたそれはどこだかで聞き齧った知識を元に作った清涼飲料水だと嘯きつつ、

「酒欲しがる人もいるけど、ほら、一応まだ酔っぱらえる場所じゃないからね。ノンアルコール」

勿論いかがわしいものも入ってません、などと冗談めかしてからからと笑い声を上げる。

ジーラ > 少年の説明に、女は月色の双眸を興味深げに杯の中に向けた。
言われてみれば確かに、南の太陽が勢が強い地域で育つ果物の匂いがする。
試しに一口啜れば、ただのフルーツジュースとも違う、乳のまろやかさも感じられた。
市場の店先で飲んだジュースより旨いと思うのは食の乏しい野営地だからだろうか。

「アンタまた…、随分と手の込んだ、面倒なモノつくるね。
 野営地で口直しのドルチェまで出てくるとは思わなかった。」

呆れを嘯きながらも、褒めている。
そういえばこの探索中、食事は丁寧に拵えられていたし、どれも旨かったな、と思う。
討伐遂行中は少年の準備する食事を、パーティメンバーと共に食べていたが、
帰路、比較的安全が担保される地点の野営地に辿り付いたこともあり、
今宵、気晴らしに女は自前で夕食を拵えている。

「――ついでだ。座りなよ。
 どうせ食べ盛りだ。まだ胃袋は空いてるだろ?」

どうせ戻っても扱き使われるだけだし、と無造作に女が己の傍らの地面を手で示す。
丁度いい具合に脂が滲みだした香ばしい肉を、青年へ向け手渡しながら。

ジャック > しげしげと物珍しげに伺う視線も一口啜ってみてお気に召したらしい様子も、どやぁ! なんて今直ぐ言い出しそうな得意気顔。
後方でも、酒でないことに不満はありつつも味に不平不満の声が上がっていない様子を聞くとますますドヤ顔になってくる。

「なぁに、かな~り色々余ってるから使わにゃいかんし何よりこういう時は飯しか楽しみ無いじゃん?
 飯が不味いせいで元気出ません討伐失敗しました、とかなったら目も当てられん」

むっふっふ、とか若干気色悪い笑気まで零し始めているが褒められてご満悦とは顔に書いてある。

「うん? ああ、そりゃあご親切に、じゃあちょっとご相伴に預からせて貰おかな」

特製トロピカルジュースを渡したらまた男共の世話にでも戻るつもりで踵を返しかけ、たところ。
こき使われるのに気を遣ってくれた申し出に言葉でも、手を立てて仕草でも感謝を述べてから、
失礼しますときちんと断りを入れつつ隣にどっかりと尻を落としてから足を組んで胡座になる。
ぽたり、ぽたり、と滴る度炎を揺らめかせる脂が滲み出た干し肉も礼を言って受け取った。
ふと懐から取り出したのは小瓶であり口を開けて傾けると、ぱらぱらと振りかけて、齧り付く。

「ん」

そしてその小瓶を彼女にも差し出す。
道中の美味い飯の立役者でもあるこの粉は、またまた“ジャッキー特製”の香辛料である。
塩、胡椒、香草が幾つかと動物の骨から取った出し汁を煮凝りにして乾かして砕いて……
旨味になるものを自分の経験と親の知識その他諸々で割り出した様々な混ぜものであった。

「そういえば、ジーラさん結婚されてるんだっけ? 羨ましいわ~。
 俺もお嫁さんとか欲しいんだけども何分まだまだ見習いの身分じゃねぇ」

彼女の身動ぎ一つでも柔らかそうに弾む肢体に、目が行き、眼筋にまた活を入れてから外した先で目についた指輪。
道中のちょっとした雑談でも旦那さんがどうとか言っていたことを思い出してはぽつりぽつりと雑談を零して。

ジーラ > 御満悦、と分かり易く顔に書いてあるドヤっぷりである。
表情に素直に表れるあたり可愛らしいものだ。
犬ッころを思わせる少年をパーティの男共がいいように
退屈凌ぎに扱き使っているのを知ってるが、気持ちが少し解った気がした。

「でもアンタの作る食事、ホントに旨いよ。ジャッキー。
 下手な傭兵部隊の食事係よりイイもん作る。むしろ食べ過ぎて動きに支障がでそうだ。」

軽く笑って、素直に傍らに座す少年へ串を渡せば、自分の分も手にして一口囓る。
囓ってから――ふと横を見れば、少年が何やら“ひと工夫”している最中。
女がその切れ長の双眸を丸くし。差し出された小瓶をしげしげと眺め、真似て振りかけ、また囓る。
そして、一言。

「…やば。旨。」

黙々と噛みつき、引き千切り、咀嚼する。
途中、肉から零れた脂つきの香辛料が、その弾力豊かな胸元の盛り上がりに落ちたか、
柔肉の谷間を僅かに指腹で掬って、舐め。

「私よりアンタの方がイイ嫁さんになれそうな気すらしてきたけどね。
 それにしても、この粉と料理の腕で女釣れるよ。――…マジ旨。」

女はぺろりと肉を平らげた。残りのスープで口に残った脂とスパイス粒を流し込み。
再度、特製ジュースを飲むことを再開し。

ジャック > 戦闘が本懐の討伐依頼で戦闘が主任務としないからには飯炊き洗濯野営設営、雑用諸々何でもござれ。
何頼まれても嫌な顔一つしないから働きっぷりは中々好評の様子。
褒められるとこうしてすんごいドヤっぷりになるからそこらあたりは若干うざったいかもしれないが。

「んふふ、んふふふふ、やだもうそんな褒めちゃっても~。止め……なくてもいいけどね、ふっは!」

そろそろ物理的に鼻が伸びてくるんじゃないかって勢いだが、こう盛大に笑っていても口から肉が飛び出しはしない。
“ひと工夫”した肉は、焼き加減が良かったおかげで歯応えは程々でそこに加わる旨味は肉汁と脂によく溶けて染みる。
塩胡椒のおかげで塩加減はよく香辛料各種で風味がある、動物の出汁が入っているからそも肉と相性が良い。

「良かったら一瓶差し上げる。作り方は、秘伝って事で勘弁ね?
 お気に召したら今度発注かけてくれりゃあ値段は勉強させてもらおかな~」

目を真ん丸にするぐらいに味付けへ驚愕も称賛もしてくれる様子にまたけたけたと笑いながら、
一瓶は試供品として提供してから二品目以降は割引云々とちょいと商売上手なところ見せたり。

「ん゛。んっ。失礼……」

ぽたり、と脂の一雫が胸元に落ちた時。くにゅ、と指で掬ったその指で柔らかぁく沈む弾力を、ついつい、ガン見してしまって慌てて目を反らしたり。詫び、ではないが、ポケットを漁れば綺麗に畳まれたハンカチを取り出してから彼女の方へと、はい、と渡して。

「んははは。そしたらジーラさんは今日からもっと良い嫁さんになるね、旦那さんたら果報者~。
 嫁さんの胃袋掴む自信はあるんだけども出会いとかほら、稼ぎ的な甲斐性がちょっとねー……
 もうちょい実力付けてから。あ、参考までに、ジーラさんはどうやって旦那さん捕まえたの?」

この香辛料で料理力を上げて云々言ってはまた笑気を零してから自分の分のジュースを啜る。

ジーラ > パーティの男連中に可愛がられるのはこういうところだ。
多少のウザさは否めないが、少年の存在は緊張感の緩衝材というか、ムードメーカーとなっていたし
かといって空気を読めない訳じゃない。要するに器用であり有能だ。

「褒めといたら調子乗って、明日の朝食にまた旨いもん出してくるからね。

 ――何。ひと瓶くれるの? そりゃ嬉しい。」

だから、女もつい軽口で揶揄ってしまう。表情の変化もまぁコロコロとよく変わる。
秘伝のスパイスを提供してくれるらしい様子に「ほら、おだてた甲斐があった!」と女が破顔した。
そんな少年であるからこそ――分かり易く女の福与かな胸元に反応しただろう咳払いすら、愉快に感じてしまう。
差し出されたハンカチを受けとり、その弾力充ち満ちた、焚き火に照らされて白く映える膨らみを拭いふいて、…

「料理番なら大成すると思うけど、――そういえばアンタは剣士だったか。
 ん?旦那をどう捕まえたかって? そりゃあ――……」

女は思案する。まさか魔族に日がなさんざに犯された挙げ句の出逢いだなんて
そんなロマンの欠片も無いなれ初めをうら若く希望に満ちた少年に言える筈も無い。
だったら、答えるべきはその「次」だ。女は少年の鋭角な顎の輪郭に、指先を伸ばしてみせる。
つぃ、と顎先を指腹で掬い、喉元を擽り、その切れ長の双眼で少年の眼差しを射貫いたなら。

「好き。愛してる。アンタの子が産みたい。」

囁いて――…

「って、 朝から晩まで口説いたの。」

少年の口端に付着した肉の残滓を、借りたハンカチで拭ってやった。

ジャック >  
「明日の朝は、野営地(ここ)来る途中に鳥の巣から拝借した卵と蜂の巣つついて採った蜂蜜に乾パン使ってフレンチトースト。
 ジーラさんには余った卵使ってプリン作ったげる」

褒めたら調子乗って、食後のデザートがついた。
おだてたら何か出るだなんて物言いに、
心外! みたいな顔しといてこれである。
“ジャッキー特製スパイス”の提供といい次から次へと出てくるのにはそりゃあ誂われるってもので、
心外!! みたいな顔を殊更に作って眉根は寄るわ目端が釣るわ口の端はへの字に曲がるわ……

しかしすぐ、そのわざとらしいぐらいの顔もやっぱりわざとだったようで緩んで彼女の破顔にあわせて笑い声を上げる。

「そうそう、この剣で成り上がってやろうって思って今こつこつと修行したり小さい依頼で実績積んだり……っん?」

市で投売りされていた安物であるがどうにも頑丈だから愛用している相棒は今も腰に下がっている。
柄をこつこつと叩いて示しつつも、彼女は気にしていないようだったがどうにもばつが悪くって逸れたままの視線が……
顎ごとひょいと指に促されてしまえば美麗と気丈をそのまま形にしたかのような彼女の瞳に射抜かれて目が逸らせず。
そこに、ド直球な愛の告白ともくれば目は真ん丸で口は真ん丸でぽかんとした表情になった。

「……」

何か言おうと唇を動かすも喉も声帯も機能せずにぱくぱくと口が開閉するばかり。
こんな感じで口説いたのだって言われて何とかかんとか首が僅かに動いて首肯が一つ、二つ。

「……俺だったら一晩保たんわ……一発だわ……ケヴィンさんだっけ尊敬するわ……」

耳が、目元が、鼻が、顔中にとどまらずに首まで一気に真赤に血が上ってしまって湯気まで出そうな有様。
空きすぎた口から垂れた涎やら肉汁やらを拭ってもらえば照れ隠しにはにかみつつ、目がまた逸れる。彼女の顔、落ち着くまでまともに見れそうになかった。

ジーラ > 褒めそやしておだててプリンとスパイスが付いたなら、
ッシャ。なんて品の無い小さな喝采が女の唇からつい零れた。
少年が心外そうな愛嬌ある表情を浮かべるけども、そんな顔も直ぐに破顔一笑するのだから――成る程、構いたくもなる。

なので。ついからかいたくなったのだって女に罪は無い。
しっとりを干し肉炙った炎の如き熱情を双眼に侍らせて、少年の眼差し射貫いてのド直球。
暫し逢えず御無沙汰な旦那への劣情もそっくり込めて囁いてやれば――予想以上の表情の変化がみるみると。
そのまま真摯に見詰めている予定が、――ふ、はっ。堪えきれず此方が噴きだしてしまった。

「くっ… あはは! ふふ…っ…あーー… イイ反応ありがと!
 旦那はねー 口説き落とすまでだいぶ時間掛かったよねぇ。あは、ククッ… アンタ可愛い。いいねぇ。」

ぺち、と気付け宜敷く少年の頬を一度軽く叩き、ハンカチ返して解放してからも。
その初心な反応に思わず声を出して笑う女は、暫し表情を戻すに時間が掛かった。
少年ときたらはにかむ表情もぎこちなく、直ぐに視線が逃げてしまう。その首筋までが真っ赤っかときたら、
失礼にも女はまた、くくく、と笑いを噛み殺し、トロピカルジュースを呷り。

「一発抜いてはあげられないけど、イイよ。
 王都に帰ったら剣の稽古くらいはつけてあげるよ。―――てか、大丈夫?勃っちゃった?」

此処迄可愛い反応をされてしまうと遊び甲斐を見出してしまうってなもので。
思わず上乗せで揶揄を投げてしまう。残念乍ら口の悪さは傭兵稼業である。

ジャック > 彼女ときたら、胸といい腰回りといい太腿といいどこもかしこも目が吸い寄せられてしまう肉体だが、ぐっと持ち上げたところで今度はどきっとくる美貌である。
殊、瞳は、形にしろ色合いにしろが美しいというのに、間近な炎よりも熱くて、焼き加減のいい干し肉よりもしっとりとして、溶けるような劣情込みで……
旦那は一晩耐えたなどという話が信じられないぐらいの口説きっぷりを間近に受けたとあってはそりゃあ顔も真っ赤っ赤にもなるというもの。

「む゛ぁ゛ーっ! ジーラさん! もう! もーっ!」

からかい成分たっっっぷりに溢れた笑いっぷりに、こっちは何とも言えない奇声をあげながら抗議の意を示すのが精一杯。

「かわぃ……っ!? うれし、くない事は無いけど! もーっ!」

気付けに軽く叩かれた頬も、彼女の掌にはそれはもう随分な熱と、年若いとはいえ生えていそうな髭もない肌の感触を返しつつ。
ハンカチを受け取ったら腰に提げてある小道具から水筒を取り出して栓開けて飲水を滴らせてハンカチを濡らし頬に当てて、冷却。
しきり、しきり、しきりに聞こえる含み笑いに文句は出るわ出るわ。
目が弱いのとは関係なしに眉根を寄らせつつもじろりと睨み付ける事も出来ず、恥ずかしいやら照れ臭いやらで逸れっぱなしの瞳。

「人妻ぁ!? 一発抜くとか言わないの! 剣の稽古は嬉しいけどもさぁ! ……人妻ぁぁぁっ!? 勃ったとか言わないのぉ!」

遊ばれている自覚はある。遊ばれてちょっと楽しい気持ちもないではない、友達と軽口叩き合ってるみたいなコミュニケーションも正直心地良い。が。悔しいやら何やらもしっかりあるので本気で怒っちゃいないものの多少の怒りは込めてぎゃーぎゃー騒いで、抜くの勃つののくだりで声のボリュームは更に上がる。
胡座を解いて体育座りになって、さあて、勃っているやらいないやら兎角その股ぐらを隠してから、

「しまいにゃ襲うぞー! ご自分の魅力理解してねーわけねーな!? ねーよなその物言い! しまいにゃ襲って孕ますぞ!」

がおー! だなんて迫力の欠片もない唸り声を上げては、
本人的には脅かしているつもりで豊満な乳房に手を伸ばして掴む、ふり。

ジーラ > 少年の抗議の声が夜の森に谺する。
なんだ?なんか小僧吼えてねえか?なんて背後で野営するパーティ連中が振り向いたかもしれないが、
女は漸くに笑いを引っ込め、茹で蛸の如きに真っ赤な少年の剣幕にニヤニヤするばかりである。
態とらしく耳かっ穿る仕草を添えてからに。

「ハイハイ、煩いねぇ。ガキみたいに喚かない。
 だって其処迄照れてくれちゃうと、オッ、人妻に欲情しちゃったか?とか思うじゃない。」

極めて適当にいなすものの、宥める気は更々ないあたり基本的に大雑把である。
わざわざ体育座りに姿勢を正すあたり、そういうところが可愛らしいのだなんて指摘は
流石に少年の沽券にかかわるだろうのでやめておくが、それにしても。
 
周りに可愛がられる資質というのがあるなら、この少年はそれを備えている。
こういうタイプは大抵腕を上げるから、少年が荷物運びから脱する日も遠くないだろう。
こんな初々しいのだってきっと、期間限定だ。そう思えば微笑ましいような惜しいような。
中身を飲み干した杯を、己の胸元に伸びたがって珍妙な威嚇を為している彼の手にずいと押しつけて。

「ハイ。御馳走さま。――…さぁ、戻った戻った!
 襲う元気があるなら明日に取っときな。明日は日が暮れる前に街道に出るから、道中キツいよ。
 抜くんなら、さっさと抜いてさっさと寝なよ。」

シッシ、とばかりに追い返しに掛かる。
もう暫くこの愛すべき少年で遊びたい気もあったが、あまりからかうのも可哀想だ。
少年だって体裁悪い表情を長く晒していたくないだろう、なんて気遣いも多少。

ジャック > 大人数の大荷物も苦もなく運ぶ健脚だけあってか肺活量もあるせいでまず、声量自体が結構あって、声質までよく通る。
喚き過ぎると後ろの仲間どころか周りの良くないものまで引き寄せそうな声が轟くから、言われて気付いて漸く止まった。

意地悪い笑い声は引っ込んだものの意地悪そうな顔付きに仕草まで添えてきた彼女を、
じっとぉ~~~……
と恨みがましげに睨み、

「しーてーねーえーしぃー。したとしてもジーラさんのせいなのによくもまあ……!」

ぶつくさと文句はさらに垂れるものの手に割り込んできた杯はしっかりと受け取る。
ふり、なので勿論あっさりと引き下がる。引っ掴みたい気持ちはあるがうっかり引っ掴んだ日には即土下座だ。
自分の分も飲み干してから洗い物二つを両手で持って、立ち上がる……
迄に若干の猶予と下気にする視線を投げてからようやく立ち上がった。

「はい、お粗末様、はいはい戻りますよ戻りますともぉーーー。
 おのーれ。今に見てろよぉー。もうちょい腕立つようになったらまーじで襲ってやーるーかーらーなー……!
 ……あ! あとで氷枕届けるから寝る時はそれ下に敷いて寝て、後は解ってるだろうけど寝る時はもっと寄ってね」

無理やり襲うのは気に食わん、云々、道中では男連中との猥談でそんなこと宣っていたとは思えないようなよこしまな発言かまして恨みつらみ吐き始める始末である。……最後のほうは、山が近い分気温は低いが季節はそれでも夏なので熱中症対策のこととか、夜警に関係ある話で一緒に寝ろとまでは言わないが近めに寄ってどうのと気を遣いはじめるから“襲う”だなんて到底無理そうではあったけれど。
じゃあまたあとで、と、杯と手を両方ひらりと一度振ったあとには洗い物含む雑用に踵を返すのであった。

ジーラ > 此方がひと声発せば、引き際も心得ているのだ。この少年。
中々に向けられ甲斐のある湿度の高い恨み視線を、適当にあしらいながら、
立ち上がる姿の若干の躊躇いに、笑―…い出すわけには流石にいかなくて、「ん゛ッ」と咳払い。

「はいはい。楽しみに待ってるよ。  ――――ん。了解。」

片手をひらりとあげて諸々了承の意を伝えた。
それにしても、此方が感心してしまうくらい、矢張り物凄く、気が回るというかなんというか。
己がまだ部隊を率いていたなら人材として実に欲しい手合いだなんて、
思ってしまう程度には将来有望なのを、恨みがましさの余韻につやつや額に皺刻む
少年に伝えることはしない代わり、ああそうだ、と呼び掛けるのは――

「明日も頼りにしてる。ジャッキー。」

彼が振り返ろうと振り返るまいと、ささやかな労いを背に投げれば、
女は眠り迄の暫くの静寂に身を委ねるのだろう。
少年が去った後。焚火の爆ぜる音、虫の鳴く声が、妙に大きく響く気がして――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 野営地」からジーラさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 野営地」からジャックさんが去りました。