2025/06/03 のログ
カロン > たった一体。それも、痩せて哀愁さえ漂うような飢えたコボルトである。
それを見て最初に抱く感想は、『可哀そう』だった。が、冒険者としては、そんな事を思ってはいけないのだ。安心して皆が暮らし、旅ができるように、街道を守らねばならないのだ。

「――!」

複雑な心境でいる少女の視線に、すっと横から割り込んできた黒いお顔に思わず仰け反り、なんとか声は上げずに飲み込んだ。
どうするかと問う声に、また少し考えるように視線をコボルトに向ける。
ここで仕留めればひとまず目標は達成できる。けれど、相手の言うようにまた森を歩いて他のコボルトを探す手間がある。また運良く見つけられれば良いが、広い森である、見つけられないと言う可能性もある。
目先の功績か。それとも――

「……いえ、ここは仕留めず泳がせましょう。
 このまま群れに戻るなら、その報告を持って帰るのが一番かと」

少女は駆け出しではあるが、ギルドで教えられた冒険者の在り方を守り、冒険者ならば目先の功績よりも街道を守ることを優先するべきだと結論を出した。
後を追い、住処を見つけてからまた考えるも良し。
もしもそこで交戦となっても、彼ならばなんとかしてくれると言う他力本願な甘い考えもあるが、それは信頼として受け取って……もらえないかな?
最悪、住処を魔法で襲撃すると言う手もあるが、そうすると尾の回収は絶望的で。報酬を失うことを覚悟しなければならない。

「ですが、巣に戻るまで後をつけるのも時間がかかりすぎます。なので、えっと、追い立てて、様子を見る……と、してみましょうか?
 必要なら、攻撃より先に追跡の魔法を掛けますが……」

どうでしょうか?と、先輩の意見を求め首を傾げる。
追い立てる役は、きっと少女より大きくて強そうな相手の方が適任だと思うので、そこはどうぞどうぞと譲る所存。

ヴェスタ > 俺に驚いてどうするんでぇ、と仰け反る様子に少し可笑しそうな顔をするのだが、そこはすぐ真面目な顔にもなろうと言うもの。
形はどうあれ、これから起こり得るのは戦闘であり。性根は事を荒立てずに済ませたいものであるこの男も、逃がしてやりたいような気持ちも無くはないのか、少女が自ら決意するまで暫し考えるような様子を、じっと静かに待っていて。

「うむ、では追う方向でやろうかね。
 ……おお、追跡用の魔法があるのだな、それは助かる。それを気づかれずにやれるようなら――脅かすのは俺が丁度良いぞ」

どうするか、の方針が固まったようであれば、それに素直に頷いて見せて。
追跡の手段はいくつかあるのだが、その為の魔法があるのであれば、そこは任せる方が役割分担としても良いだろう、と申し出る。

いつでも良いぞ、と囁いてから、樹の陰から向こうの気配を伺い。
魔法の細かい仕組みまではこの男には分からぬが、使った事が分かるようなものだろうか、或いは合図はくれるのだろうから、それを待ち。

上手く追跡の魔法がかかるのを確認すれば、丁度この男は獣人である。
斥候コボルト独りでは慌てて逃げるしかあるまい、猛獣が威嚇するような唸り声やら吠え声など――まさにそのものを聞かせてやることができるのだ。
……隣で少しまた、俺に驚いてどうする、と言わねばならん事にはなるかもしれないが。

カロン > だって急に目の前に来るから。と、言いたそうに頬を膨らませるのは少しの間で、すぐに真面目な顔をできるのは二人の良いところだ。
こちらの決断を聞き終え、頷きを返してくれれば少しほっとした。

「本来は違う目的で使われるものですが、そこは……応用と言いますか。
 はい、そちらはお任せします。タイミングは同時が良いでしょう。一瞬でも怯んだ瞬間は心の隙に、脅威が目の前に現れれば必然的に意識はそちらに向かいますので」

歯切れ悪く、えへへと苦笑しつつ。こちらは杖を右手で構え、その先を対象(コボルト)へ向ける。もう片方の手は合図の為に残し。
魔力を編んで紡ぎあげ、言の葉に乗せて術と成す。
ふわり、ふわり、と紡がれる魔力の糸が渦を巻く。

「……守りの糸。紡いで、編んで――“届け”」

その言葉と同時に左手を下ろし、追い立てる合図とした。
漂う糸は風に乗り、真っ直ぐな一つの線となり、コボルトの背へと伸びて行く。
それは攻撃ではなく、本来は他者の身を守る為の魔法であったが、途中で中断することで魔力の糸を巻き付ける追跡魔法へと変化する。その糸はアリアドネの糸の如く、我らを目的の地へと導いてくれることだろう。

隣で響き渡る咆哮は、最初から来るとわかっていても怖いもので、思わず。

「ひぇぇ……」

と、吠えられてもいない少女もつられて、弱弱しく怯え声を震わせるのだった。
脱兎のごとく逃げ出すコボルトの気持ちが良くよく理解できるので、何となく同情の念が禁じえない。

ヴェスタ > おお、ちゃんとした魔法だ、などと隣で起こる詠唱を……意識は対象の方へ向けつつも、急になんだか立派に見えるな、などと口にしたら少々怒られそうでもある感想を浮かべながら。
自らも実のところ多少の術は使うのだが、それはあくまで魔物としての生態の延長のようなものであり、きちんとした人間の……魔法らしい魔法、とはとても言えないものであり。

「やはり、ちと怖いか?
 ――ま、いざ戦いになったらもっと怖い思いをするだろうから、慣れておけと言う面では丁度いいのかもしれん」

ひぇぇ、などと傍で震えているのを、可愛らしいなどと思いながら見ているのは、今しがた目にしたばかりの――追跡効果、になっている魔法の腕を信頼しているからでもあろうか。
微笑ましく見るような視線を向けつつも、一瞬ほんのり寂しそうな気配が目に浮かぶのは、その時が来ればもっと怖い姿を見せねばならん、と思う不安がやはりあるのだろう。冒険者たれば、そういう事にもなるのは至極当然ではあるのだが。

「……さぁて、上手いこと必死で逃げてくれてるわな。
 軽く方向を教えながら動いてくれ。流石に、魔法の行った先は俺には見えんからな……なに、いつでも対処できるように横に居るから、そういう面では心配するな」

追跡の方向は任せる、と。
仮に途中で待ち伏せでもされたにせよ、隣の一人ぐらいはしっかり守るぞ、と頷いて。
逃げる獣は、途中で突然方向を変えるような生きる知恵を見せるものも居るが、コボルトでは逆にそんな知恵は働くまい。
住処に着けばよし、途中で数体迎え撃ってくる奴らが居ればそれを討伐の証としてもよし。今追う方向が正しかろう、と踏んでいる。

カロン > 「すみません、正直に申しますと……その、やっぱり、ちょっと怖いです。
 あ、えっと、ヴェスタさんが怖いと言うより、大きな音とか、威嚇する時の声と言うか、まだ慣れなくて……」

戸惑い、視線を下げて答えるのは正直な気持ち。情けないとは思いつつ、嘘をつくのも、意地を張るのも良くないのでありのままに答えた。
けれど、相手が獣人だから、恐怖を煽るものだったからと言うわけではないのだと、そこは首を横に振り。結局は、自分の臆病さが問題であると、また苦笑で言葉を締めくくる。
冒険者なら、それを勇ましいと褒めたり、負けてられるかと力に変えるべきなのに。まだ少女にはそれが難しいらしい。

「はい。追跡の方はお任せを。ちゃんとしっかり繋げましたから、そこは問題なくご案内できると思います」

杖の先に視線を向け、くいっと軽く引くような動作をして見せる。
糸が見えない相手にはわからないけれど、確かに細い糸は森の奥へと伸び、カラカラと紡がれ続いていく。

「……えへへっ、そうですよね。ヴェスタさんは、今は頼りになる仲間ですもんね」

横にいる。そう言って隣に立ち、守ると頷き示す顔を見上げて、少女は楽し気に笑い、少しだけ内心で安堵して頬を綻ばせた。
大きな声も、威嚇するのも怖くはあるけれど、そんな怖くて、強くて、頼れる人が仲間にいてくれることが嬉しくて、守ると言う言葉に現金にも安心した。

――どれだけ仲間に嫌煙され追い出された魔物でも、逃げる先はやはり巣しかない。
同じく追い出された者と徒党を組むならば、そこに逃げることはあるかもしれないが、結局は弱者の寄せ集めである。より強いものへ助けを求めることになるだろう。

糸を辿り、暫く森を進んだ後、今度は少女の方が足を止める。
逃げていたはずのコボルトが動きを止めたのだ。
五感の鋭い彼のこと、その先にある気配が二つ増えたことにもすぐに気づくだろう。

カロン > (PL:一時中断致します。後の方はご自由にお使いください。)
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からヴェスタさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 森林」からカロンさんが去りました。