2025/09/14 のログ
ケストレル > 『雨、止みそっすかー?』

不意に背後の窓が開き、出張ギルドの職員が顔を出した
元々は王都の市街地ギルドで働いていたが、やらかして出張所へと左遷された経歴のある男性職員である
市街ギルド勤めの時からケストレルとは顔馴染み、いわゆる腐れ縁だ

「いや、まだしばらく掛かりそうだな……夕方前には王都帰りたいとこだけど」
『あんま降り過ぎると馬車が泥濘に嵌ったりすっからなー
 あ、そうそうトリーさん ただ突っ立って雨宿りすんのも暇でしょう? 良かったら手伝ってくんない?』

男性職員の言葉に、あからさまに怪訝かつ厭そうな顔をするケストレル
この職員が頼みごとをする時は決まって碌でも無い事が多い
お前、どうして市街からこっちに来たのか忘れたんか、とケストレルの目が訴える
だが、職員はそんな事一切気にしない だからこの出張所に居るのだが

『この辺って地熱のスポットがあって、温泉が湧くんだけど
 ヒマな時にそこからお湯引っ張って来て、この出張所でも利用出来るようにしようと思って――』
「それを俺に? 温泉からここまでパイプ引けと?」
『いや、引っ張って来るのはもう済んでるんすけどね
 いまいち利用客がつかなくって……そこで一計案じたんですよ
 何でも、極東には三助っていう仕事があるらしいじゃないですか 九頭龍でもたまに居るって話』

大体察したケストレル、窓をそっ閉じする
早く雨止まねえかなあ、と視線は未だ暗い雲の覆う空へと向けられた
しかし、景気良く再び窓が開く

『酷いじゃないですかトリーさん! 最後まで聞いてくださいよ』
「や ら ね え よ 自分(テメェ)でやれ自分(テメェ)で」
『オレがやったところで余計に人来なくなるだけなの目に見えてるじゃないですかぁー
 トリーさんが背中流してくれるーってなったら、女性客増えると思―――』

再びそっ閉じされる窓 否、今度は割と勢いつけて閉められた
閉まった窓の向こうで、ぐぇ、と蛙をつぶしたような悲鳴が聞こえるがケストレル、全くの無視である

ケストレル > 『鼻……ガチで鼻ぶつけ……ッ』
「おう、窓硝子は無事か」

懲りずに三度開いた窓から、手で鼻を押さえた職員が顔を出す
しかし、そちらには一瞥もくれないケストレル、早く雨足が弱まらねえかなあ、と独り言ちる
酷いですよぅ、という職員の苦言もさっぱり無視してどんよりした空と睨めっこ

『一度で良いからやってみません? 報酬も出しますよ?』
「やらねえっつの そういうのは本職に頼めよ、九頭龍に居んだろ?」
『いやぁ、プロに頼めるほどの予算が下りなくってェ……
 トリーさんなら女湯入れたら給料チャラにしてくれるかなって思ってェ……』

鈍い音の直後、ギルド出張所内で人が倒れる様な音がした
裏拳を降り抜いた体勢のまま、これはもう多少濡れるのは覚悟で歩くか?と首を傾げるケストレル
そして後ろ手でそっと窓を閉じた

ケストレル > のぉぉぉぉず、という悲鳴とのたうつ音が窓の向こう、出張所の中から聞こえる
思えばあの職員、市街のギルドに居た時もこうだったな、と思い返すケストレル
思い付きで行動しては人を巻き込み、大抵上手く行かず負債だけ残す
……ギルドの職員に向いてないんじゃないか、と彼の過去の所業を思い返して胡乱な顔になった

「はぁ……俺に身体洗われてえ物好き、そうそう居るかよ」

全く居ない、とは言い切れなかった 少し期待してしまった部分も無くはない
けれど、どう考えても碌なオチにならない気配がしている
というか、女湯に入れるから無償で働けってどういう理屈だ

そんな事を考えながら、結局そのまま小一時間
復活と悶絶を繰り返しながらもケストレルを説得しようとする職員と戯れつつ雨宿りを続けたのだった――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 冒険者ギルド出張所」からケストレルさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 冒険者ギルド出張所」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「──うぃーっす。ヒューッ、ココは涼しいすなぁ」

日の高い時間帯の、とある冒険者ギルドの出張所。
そこに足を踏み入れた金髪の男は、建物内に漂う涼しい空気に汗ばんだ肌を撫でられ
心地よさげに声を上げた。
王都内のギルド公認の出張所であるここでは、熱中症対策として冷房用の魔導機械が設置されており、
暑い日でも快適に過ごせるようになっている。
周囲を見渡せば、パーティらしき一団が暑さにへたばったか椅子にぐでんともたれかかったり、
テーブルに突っ伏している姿なんかも見られる。

「ワハハ……おうお前ら、行きか帰りか知らんがちゃんと水分補給はしろよぶっ倒れるからな」

そんな一団に軽く声を掛けるが、返ってくるのは気の抜けた声。
軽く心配になるが、まあ今ここにいるぶんには無事は保証されている。
周囲に置かれている装備を見てもそれなりにちゃんとしたパーティであることはわかるので、
暑さにやられたらしい気力さえ取り戻せれば大丈夫だろう。
そう判断しつつ、受付カウンターへ向かうとこなした依頼の処理を済ませて報酬を受け取り。

「じゃあこれで完了、っと……お、サンキューだぜ。いただくます」

事務手続きを終えた所で、併設の酒場の給仕からサービスのジュースが差し出される。
これも熱中症対策の一つだろう。先の一団や他の冒険者たちも、同じグラスを手にしているのが見える。
嬉々としてグラスを受け取りぐびりと一口ジュースを呷ってから、ゆっくりと振り向き
改めて周囲を見渡しつつこれからの予定を考える。
掲示板で新たに依頼を探すか、あるいはめぼしい誰かに声でも掛けてみるか──。