2025/09/07 のログ
ケストレル > ぷかぷかと、浮き輪に乗って流されていく
流され始めた時に危惧した通り、大変に心地良く
眩しさを遮断する偏光眼鏡もある所為か、日頃の疲れもあって瞼が重くなってくる

「……くぅー……」

気が付けば舟を漕ぎ出し、転寝を始めるのも無理もないか
すやすやと気持ちよさそうな寝息を立てつつ、そのまま流水プールを何周も漂ったそうな

ご案内:「ル・リエーの水遊場」からケストレルさんが去りました。
ご案内:「ル・リエーの水遊場」に夜宵さんが現れました。
夜宵 > 【ほんの少しだけ失礼します】
夜宵 > ル・リエーの水遊場にて。
反射する水面に映る光をぼんやりと見つめながら、女は小さく首を傾げた。

「水着で……適当に過ごせって……ふふ、何それ」

依頼の内容はあまりにも曖昧で、
まるで夏の日の幻のように頼りない。けれど、紙に記された報酬は悪くないし、
何より「被写体として在るだけでいい」との一文に、夜宵は微かな興味を抱いた。

「なあに、それ。依頼主さんたら、
 私の水着姿――見たいだけなんじゃないの……? ふふ。」

少年めいた軽口を溢しながら、彼女は渡された薄い包みの袋へ視線を向けた。
包みを解いて、手指を差し入れ確かめるように中を探れば、布の感触が伝う。
肌着よりもずっと軽く、それは指に絡むような柔らかさ。
そのまま更衣室へ向かい、扉を閉じた時には、
つい先ほどまで、陽光が戸の隙間から差し込んでいたのに
空はいつしか夜の帳が落とされ、天には煌々と月が浮かび上がっていた。
魔導機械や魔術による"そういう仕掛け"らしい。

夜宵 > 女は静かに着物を解いた。
帯がふわりとほどけ、着物が滑るように肩から落ちる。

ただ、今こうして。
水着という名の衣を身に纏うことには――何故だか、不思議な緊張があった。

「……こんな小さな布切れに、
 守られてる気分には…ならないかなぁ、私は」

呟きながら、彼女はゆっくりと水着を身に着けていく。
首の後ろと背中で結ぶ紐。腰のくびれにぴたりと沿うライン。
布と肌の間に、ほんの僅かな空気が入り込み、妙な感覚に陥った。

して、くるりとその場で少女の様に舞ってみれば、
備え付けの姿見の中のの自分と、目が合っただろう。

「……うわぁ、私、本当にこれ着て出るの?」

少年のような口調で呟きながらも、
その声には照れと、それ以上に――
少しだけ嬉しさが混じっていた。

――けれど、流石にこの姿は聊か煽情的過ぎやしないか。
肌を晒すには抵抗こそない物の、こんな衆人環視に対しての馴染みは薄い。

夜宵 > 「……よし、いっか」

迷った挙句、結局は包みの中に、
一緒に入っていたサマードレスを上に着用する事にした。
泳ぎたくなったら、着替えれば良いだけの事。

夜宵は装飾品を付け終わると、腰紐へ佩刀した太刀を携えて、
更衣室から姿を現した。

ナイトプール、と聞いていたけれど、
煌めく色取り取りの明かりも、大きな飛び込み台も、
内心しっくりは来なかった。
それもその筈、女は浮世離れし過ぎていて、
あまりにも文化に馴染みは無い。

結局のところ、対して知り合いも居ないのだ。
マグメールに来て間もないとなれば、
ただ只管、きょとんとした様子で目まぐるしく変わる光景を、
お上りさんの様に首を右往左往するだけ。

夜宵 > そして、水面から立ち昇る光の粒の根源へと誘われるまま赴いた。

蒼く照らされた水面。
眩くライトアップされた噴水が、星屑みたいに水を跳ね上げる。
周囲を囲む木々の隙間からは、薄い靄が立ちこめ、
空には、夜の帳と人工の光が絡み合って――
まるで、幻想の中に足を踏み入れたようだった。

「これが、ナイトプール……?」

少年のような声のトーンには、かすかな驚きが混じる。
ああ。こういうのも、嫌いじゃないな、と。

肌にまとわりつく湿った空気。
夜の闇が肌を隠すと同時に、光が強く浮き彫りになる。
照明に照らされた自分の姿は、まるで舞台の上に立たされたようだった。

「ふふ……照らされちゃって、ちょっと恥ずかしいかな」

けれど夜宵は、逃げるように隅に寄ったりしない。
むしろ、そっとプールサイドに歩み寄り、
水に指を触れさせた。

ぱしゃり、と――ー肌を撫でる水音が、妙に艶っぽく響く。

夜宵 > 「ん……冷た……でも、気持ちいいかも」

その動きひとつが、水面を乱し、
光の粒が肌に踊るようにきらめいた。

ふと気配を感じて、夜宵は後ろを振り返る。
視線があった。




誰かが、見ていた。
いや、見られていたのは最初からわかっていた。
この依頼が、"ただの水遊び"ではないことも。

「……ちゃんと見てくれてるんだ。依頼主さん」

夜宵 > ――どんっ。



空を割る音に、水面が一瞬だけ揺らぐ。
見上げた先、夜の深い藍に一瞬、遅れて咲いたのは、
紅と金の花。己が瞳の奥にも、その光がふわりと映り込む。

「すごい……」

つい、声が漏れた。
普段なら、渦中にあるような紅色なんて、
肌の上に落ちるだけで苦しくなるものなのに――
今はただ、空に咲いたその華が――何より美しかった。
反響する音が、自身の鼓動と重なるのを、静かに感じていた。
夜空に咲いた一輪の花――それは柔らかく、艶やかで、手の届かない夢のよう。



「ねえ……見てる?」

誰にともなく囁いてみる。
水の中に、空に、あるいは、その視線の向こうにいる誰かへ。

問いは軽い。少年のような調子で。
けれど、その奥には確かな意図があった。
この姿を、記憶に残したいという――深く静かな願い。

夜の光と音に包まれて、夜宵はふと、こう思った。




――"わたし"という存在を、誰かの目に映しておくこと。
そんな事を感じた、不可思議な、夜の出来事――

ご案内:「ル・リエーの水遊場」から夜宵さんが去りました。