2025/12/27 のログ
■イグナス > まあ、でもいいか。
考えても仕方ないので、またぐびりと酒を飲む。うまい。
しばらくその死屍累々状況で酒を楽しんで――あとはどうなったか、去ったとのことだから知らないって、無責任さだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」に篝さんが現れました。
■篝 > 真夜中。小汚い廃屋と相違ない、貧民地区の長屋の一角にて。
闇に包まれた部屋を照らすのは一本の蝋燭の灯のみ。
浮かび上がるは、寝台に横たわる人影と、其れを見下ろす影一つ。
見下ろす影――少女が顔を上げると、後ろでひとまとめにした白髪が揺れた。
魔術も忍術もその歴史は旧い。正しく人の為になるものもあれば、外法、邪法の類も多く混在する。
取り分け、暗殺者の家系に伝わる術とくれば、当然のようにその比率は後者へと大きく傾く。
人を謀り殺める為に、人の躰、躯を利用することも厭わぬ所業は邪法と呼ばれても致し方ない。
タナール砦から持ち帰った躯は5体。その内3つは魔族、2つは人間のもの。
それらを傀儡へと作り変える作業もようやっと一段落ついた。
初めての試みだっただけに、一つ骸を損なってしまったことが悔やまれるが、何とか残りは仕上がった。
鮮度を保てる便利な鞄が無ければ、冬の寒さがあると言っても、とっくに腐ってしまっていただろう。
つくづく良い道具をくださったものだ。師には感謝しなくてはならない。
――ふと、寝台の脇に置いた鞄に目を向けて思い出すのは、未だ封を開けてすらいない闇ギルドからの手紙。
「…………」
口元を覆うストールをずらし、一つ息を吐いて傍の椅子へと腰を下ろす。
寝台からダイニングテーブルへ燭台を移動させれば、揺れる灯は小柄の影を何倍にも大きくして壁に映し出した。
三角の耳と長い尾が揺れる。まるで化け猫の影のようだった。
■篝 > 手紙の正体は、例の闇ギルドへ加入するための挑戦権だと知人は言っていた。
ギルドに貢献できるかどうか、ターゲットを消すことで己が力を証明する。
実にシンプルでわかりやすい査定方法だと思う。
問題は、そのターゲットが難敵だと言うことと、ギルドを怪しみ、また己が暗殺者に戻ることに否定的な師を満足させるだけの説明をなんとするかと言うこと。
「同胞……か……」
聖騎士と呼ばれる男が言い残したその単語が、そのまま例のギルドの名前だと分かったのはここ数日のこと。
盗賊ギルド経由で得た情報であり、裏取りもできているので間違いない。
曰く、その闇ギルド――もとい暗殺ギルドは我らが盗賊ギルド“STRAY FOOL’S”とも多少なり関りがあるらしく、時折使者を寄こすらしい。
その使者も己と同じような認識阻害の術を使用しているようで、姿は曖昧であり、毎度異なる者を使っているのではないかとも聞いた。
最後に彼方から接触があったのは情報漏洩が露見する少し前まで……。今では音沙汰が無いらしい。
はっきりとした拠点も不明。おそらくは、盗賊ギルドのように複数の拠点を持つか、定期的に移動しているのだろう。
情報漏洩への見せしめがあったとしても、其れだけで人の口に戸は立てられない。
暗殺ギルドが徹底した情報統制が敷ける裏には、絶対的な権力をメンバーに行使できるからだろうか?
それが、以前知人が言っていた“制約”か。
確証は無いが想像は出来る。
普通は外に出回らない暗殺依頼の詳細が一体どこから漏れたのか。
暗殺ギルドから盗賊ギルドへ伝文するための使者――そこが一番漏洩の可能性が高い。
残念ながら、同胞の方は既にケジメを付けた後。情報源になりそうな手直の所はもう手が届かないだろう。
残る手掛かりは二つ。一つは暗殺ギルドに籍を置くと言う知人。そして、知人が口にしていた同胞メンバーの字名。
手軽なのは間違いなく知人を訪ねることだが、制約の問題と、相手への信頼と情報の裏取りはまた別の問題と言う点である。なので、そこは不用意に頼れない。
残すは“忍者”と“竜殺し”その字名を持つ者の正体を探り、調べるのが良いだろう。
■篝 > ――そこまでして暗殺者に戻りたいのか。
そう問われれば、答えは“応”だ。
今の生活に不満は無い。
拾ってくれた人がいる。教えを共にする者がいる。
食べるものに苦労もなければ、安心して眠れる寝床もある。
仕事も……暗殺者の仕事ではないけれど、生きていくための金を稼ぐには十分な仕事がある。
不満は無い。……が、不安はある。
この生活に身を置いて、少しずつ暗殺者には不要なもの、不純物が増えていく自覚がある。
まだ己は暗殺者として、正しく機能しているだろうか……。
刃に感情を乗せずに振るえているか。
欲、執着、命。それらを迷心を持たず、命じられるまま捨てられるか。
そう自問自答を繰り返す。
きっと、この在り方を見透かした上で、師は『呪いのようだ』と口にしたのだろう。
■篝 > 駒では無く、一人の人間として生きることを求められ努力をしてきたが、それが暗殺者の道を諦めると言うことには終ぞ繋がらなかった。
師に認められ、拾われるきっかけとなったこの技術は、火守の暗殺術だ。どれだけ忍の術に似ていても、その目的は命を奪うためのもの。
平和な世では役に立たない、むしろ災いの元にしかならないと言うのなら、何故――。
「…………。」
今思えば、火守になるための必須である神火降しの術の贄を、父が正しく教えぬまま逝ったのも故意だったのかもしれない。
父が居なくなった後、娘がどう生きるか案じて……火守になるか、それ以外の道か、選ばせようとしていたのなら……。
否。それに気づいたとしても、きっと己は同じ道を選んでいたと断言できる。
父が死んだと聞いた時にはもう決めていたのだ。父の後を継ぎ火守になると。
いつか火守になって黄泉戸を開けば、また父に会える。そう信じていたから、主に出会うまであの世界で生きてこられた。
師に拾われて、助言を受けてやっと火守になった。父や他の火守にも会えた。
願いが叶った今、火守の一人として恥じることなく暗殺者として正しく生きて死なねばならない。
いずれ彼岸のあの末席へと加わるその日の為に……。
娘の緋色が見つめる先は、今も昔も現世ではなく黄泉戸の向こうにあった。
■篝 > 迷走の果てに立っても答えは出ず、師を説き伏せ安心させるための言葉も浮かばない。
緩く頭を振っても、溜息を零しても、今できることは一つだけ。
同胞へ繋がる情報源を探し出すこと。
「ん……」
寝台に横たえた鬼女の傀儡へ手を伸ばし、そっと人差し指と中指を首へ宛がい氣を流し込んで。
分霊術――己の魂を分けて埋め込むための呪印を刻む。
人の躯を材料に傀儡を作る。それは邪法と呼ばれる類である。
だが、効率を優先すれば必然的に此処に行きつくのもまた道理。
暗殺者なれば、人の道など最初から外れているも同義。
命が途切れ魂魄が剥がれた骸はただの血肉と骨に過ぎず、死人は密偵として送り込むには最適と言える。
傀儡につけた呪印が首輪のように一周し、全ての準備は整った。
時間を掛けてゆっくりと深く息を吐き出し、またじっくりと取り込みながら丹田で氣を練り膨らませていく。
これを数度繰り返し、十分に溜まれば、次は己の魂魄の輪郭を知覚し火に見立て、手で山を作るように指先を合わせ生まれた空洞へと当てはめる。
やがてぼんやりと浮かび上がった小さな灯火を一つ、二つ、三つ、四つと分けて。
寝台の上、額に角の生えた鬼女の魔族をベースに造った傀儡。
ダイニングチェアに腰かけさせた虎の半獣半人で出来た傀儡。
その向かいに座る、一見幼い少女にしか見えない魔鳥の傀儡と、明るい栗色の髪をした人間の女の傀儡。
それぞれの上に、ぼんやりと浮かび上がった青白い小さな灯が、その身体に吸い込まれていった。
――そうして、傀儡は目を覚ます。
■篝 > 最初に目を開けたのは寝台の鬼女。
上体を起こすと、手足の感覚を確かめながら此方に振り返る。
「身体に不備は?」
『……ぁ゛、ぁー……あー……。
ん、問題ない。少し体を動かして慣らせば、動き方も思い出せそう』
「記憶の混濁は?」
『今の所は平気。異常があれば再調整を』
「ん」
軽い問診をしつつ、頬に手を添え眼球の動きや細かなチェックを加えていく。
精気の無い顔も、元より赤い褐色の肌ならそれほど目立たなさそうで、ひと先ずは安心した。
己の魂を分けると言うことは、人格もコピーすると言うこと。
体に残る生前の記憶と混じり混乱することもあるため、この点は注意が必要だ。
続いて、残りの三体も目を覚ます。
ニ足歩行の虎と言う例えが一番ぴったりくる半獣半人の傀儡は、本来は鋭い眼光だろう目を眠たげに瞬かせ。
魔鳥の少女傀儡は軽く足を伸ばしてから、遅れて目覚めた女の傀儡へ手翼を見せるように揺らし、女の傀儡もそれを見下ろし首を傾げる。
女の傀儡はともかく、虎は背丈が己より一回り大きく、少女は逆に小さい。
どちらも己とは身体のサイズも細部も違う点が多く、馴染むまで少し時間が掛かりそうだった。
だが、皆やることは理解しているようで、いちいち命令をせずとも体を慣らし歩けるようになれば、魔族はその特徴を用意された外套で覆い隠し、女の傀儡もまた街娘らしい服に着替えるなりバラバラに廃屋から立ち去る。
一人残った術者は、連日の夜更かしで眠たい眼を擦りながら、彼らと時間をずらした夜明けを前に廃屋を出て、帰るべき屋敷がある富裕地区へと足を向けるのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」から篝さんが去りました。