2025/11/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にセリニアスさんが現れました。
セリニアス > 簡単な依頼を出したり、冒険者の登録手続きについて聞いたり、と、最近出入りするようになったとある冒険者ギルド。
今日も今日とて顔を出し、職員とのやり取りを小一時間程して帰路を辿っていた――最中、何処からともなく向けられる視線に気付き、それを撒くべく細かく細路地を曲がり進み――

「――――――…………迷った。」

いつの間にやら見知らぬ場所へ。
日中でもどことなく薄暗い所為か、思い返してみても辿ってきた順路は似た景観ばかりが浮かぶものだから、戻りの道も曖昧だ。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」に娼館「プリプリ」さんが現れました。
娼館「プリプリ」 > 貧民地区と平民地区の境界に立つ娼館がある。店の前には大路に面する、それなりの広さの道があり、大路の先には平民地区につながる橋がある。
周りの人気は、娼館街にありがちで、妙にひっそりとしている。街灯はあるが、道の隅に蟠る闇は少し恐怖心を誘う。
店にふらっと入ってくる人間は皆客であるが、大体が平民のようで、稀に中産階級の小金持ちがいる。と思えば、顔をうっすらと隠した、貴族のお忍びといった少年さえ、いる。

ここは娼館。お代さえいただければ誰もが平等の、夜遊びの王様。
闇の中に暖かい光を灯すその姿は、うっすらといかがわしい。
しかしその建物自体は、それなりに時を経た屋敷で。ここが貧民街に侵食される前の面影をとどめていた。店の前には呼び込みと、灰色の服を着たメイドがいる。お客様を呼び込んでいるのだ。

セリニアス > 迷子の鉄則とは動かぬ事である。とは言うが、それは迎えがある時の話。
最悪の場合は、多少魔力の消費が激しかったり、目立ちはするものの飛行術を使えば良いだろう、なんて短絡的な思考で来た道を戻り出す。
――が、当然己の駆けてきた道など覚えている筈もないのだから、更に知らぬ景色が広がっていた。

恐らくは大通りなのだろうと分かる道幅と、等間隔に据えられた街灯。
それと、少ないながらもちらほらと見える人の往来に、建物の前に疎らに立つ姿。
ここが如何言った場所柄なのかも理解せぬ儘、これ幸いと己にとっては慣れ親しんだ服装――メイド姿の女へと歩み寄る。

「――――ねえ、君。ちょっと訊きたい事があるんだけど……。」

娼館「プリプリ」 > 呼び込む声。2階あたりの高さで店名を書いた看板が見える。

「いらっしゃいませ〜いらっしゃいませ〜。今日も元気に営業中です〜。
 冬場の温もりに、いかがでしょうか〜。」
金髪碧眼16歳くらい、そのメイド装束は灰色で、少年もその生まれから見たであろう素材…シルクであった。
背格好は少年よりも頭一つ高い、年相応。品の良さと愛嬌と、恭しさが同居する、まさにメイド、といった風情で、しかし安手の風俗嬢のようなコスプレ感のない、馴染んだ姿。

「はい。」
少年に呼び止められたメイドは、歩みくるその姿に目を止める。
お客様を店の方に誘導するために、流したその手つきをおろし、少し歩み寄る。
「…どうされました?」
お客様、にしては若いだろうか。きっと道案内をご所望だろうか。
およそ性風俗の人間特有の夜行性のいかがわしさがない、純然たる屋敷のメイドの気配で、彼女はいた。
「一夜をご所望ですか?それとも、ここからの道筋でも?」
客でなければ、迷子、そんな推量であった。
それになんだかこの少年は身なりがいい、一抹の豊かさを感じる。おぼっちゃまとは、まだ言わない。差し当たり一個独立の男性として遇す。

セリニアス > 区域を考えれば相手の身に纏っている衣服の質は多かれ少なかれ浮きそうな気もするが、背に構える建物もあってか妙に馴染んでいるような気すらする。
近付くにつれて聞こえる呼び込みの声に、食事処か何かなのだろう、と思っていたが、問うた声に返された応えで瞬く間に覆された。

いちや――一夜か。

理解した瞬間、思わず動揺に体が小さく跳ねてしまったのは、隠す事も出来ないだろう。
じわじわと耳の辺りが熱を持つのを誤魔化しつつ、

「いや、違――――違うけど、違わなくて……っ、そう、道を尋ねたいのだけど。」

年相応の、声変わりする前の高さのある声が動揺を孕んだ儘に続く。
草臥れた風に誂えられたフード付きの外套と、場にそぐわぬだろう物言いは彼女の感じた己の印象の裏付けとなるやもしれず。

娼館「プリプリ」 > 彼女のブロンドはブラウンみも帯びていた。光が透けてわずかに赤みがある。

「はい、ここは見ての通り、「春」という季節を売っている場所、なのですが…?」
屋敷妖精であるこのメイドは、少年のなりに目をとめた。
同じ共通語でも、アクセントが違う。
仕立ても、庶民的に見えて、そうではない。しかし自慢するふうでもない。
ということは…それなりにやんごとないお方。
そのように感じ取った。

「…少なくともお一人では、ちょっと大変かもしれませんね?談話室でお茶でもいかがですか?」

なんらかの上流階級を、一人にしては、あまり良くない。
貴族界から妙な追求も受けたくはない。

「店長には話を通しますので、よかったら後ほど馬車もお回しします。」

セリニアス > 「うん……? いちや、……はる、――春……を、売る……?」

閨事の教育を受けつつあるが、隠語にまで明るいかと言われるとそれこそ年相応。
重ねられた季節の単語は、却って思考を混乱させ、先まで仄かに熱を持たせていた顔に疑問の色が乗る。
己の思うた店――娼館と言うものでは無かったのだろうか――などと言った具合。
ぐるぐると思考を巡らせてはいたが、更にと重ねられた言葉で漸く混乱を落ち着かせては、少しばかり安堵したように表情を緩めた。

「――……そうしてくれると、助かるよ。 ありがとう。」

配慮されるのも、それを遠慮なく受け取るのも慣れた行為。
とは言え、助けられた際に返すべき礼節も理解している。
軽い調子ではあるものの、礼の言葉を告げては相手と建物とに視線を移ろわせる事で、中への案内を求めて。

娼館「プリプリ」 > お店の一階、お客様が出入りするところの後ろ、業務エリア。
店の裏口から入り、左側が業務エリアの入り口、右側が、ドア。その向こうに女と客の気配。つまり待合室と娼婦たちの部屋の区画への道。

「…あまり直接な物言いは好きでないのですが、要するに娼館なのです」と、案内しながら
「シルキィと申します」と名乗った。

談話室。
革張りの椅子4客。
しつらえのいい木製の長方形テーブル。
少年を待たせている間に、お茶を淹れるシルキィ。
お茶、軽い銘菓が準備される。一礼すると差し向かいにすわる。

「というわけで、改めて。ここから出る道筋であれば、あの橋を渡ればすぐです。ただ、あのままだと貧困な地域に踏み込んで危険かと思いました。差し出がましくて申し訳ありません。」
店の中を通る時、売り出し中のキャストのポスターも貼ってあった。肌も露わで扇情的。豊満な女性。マドレーヌ、と名前が書いてある。
「ご興味がありましたらお客様としておもてなししますけど、お早いです?」

セリニアス > 相手の後について進む最中は、行儀が悪いと理解していても、興味が勝って視線がちらちらと周囲を移ろう。
貼り出されているポスターには、その露出の多さにぎょっとしては、ここが娼館である事を思い出して落ち着かせて、なんて一幕もあっただろう。

案内された談話室の中、遠慮なしに革張りの椅子に腰掛け、ようやく一息を吐いた。
ギルドに行って帰るだけの予定だったのがとんだ目に遭ったものである。

「ああ……そうだったの? 思ったより離れてなかったのか。
 いや、気遣い感謝す――――ッげほ!」

カップを手に、一口啜って潤しては頭の中で地理を整理しつつ、次いだ予期せぬ台詞に思いっきり噎せた。
鼻の奥がつんとする。若干涙目になりつつ、何度か咳き込んでは恨めし気な視線を向け。

娼館「プリプリ」 > 「あっ」
自然とエプロンの内ポケットからリネンを出してサッサっと卓上を拭く。
「失礼します」
室内のチェストから清潔なリネンを取り出し、彼の頬や口元もサッサっと。
「離れてはいないのですが、治安はそれでもあまり良くありません。ですので。このような。」
拭き拭き。

この談話室にはいかがわしい掲示物などはないが、卓上にキャストの絵姿縮刷版を収めたファイルがある。開ければ読める。
地味にちょうど来客が座るあたりに、それとなく、それとなく置かれている。

「ごめんなさい、私もここに当てられてしまったようで。おぼっちゃまはそれらしくしなければいけませんよね。私、ここの屋敷妖精です。」

我が身を恥じる所作。名前もそのものずばりのシルキーであった。実はその名は解答そのもの。

「…やんごとない方ですと、屋敷のもののお気遣いで社会勉強で来られる方もおられます。ちょうどあなた様くらいのお年から。当店としては、”誠意”さえお示しいただければ結構ですよ?初学に心得たものも、おりますので。」

少し席を立ち、新しいポットとティーカップを持って戻ってくる。

一瞬、彼一人になった時、この館のマダム然とした50代の女性が、入ろうとして驚いたふうをして、「お気の済むまでどうぞ」と高級さのかおる所作にて会釈してさっていった。シルキィが最初に少年を待たせている間、店長と、娼婦たちの上にいるローズマリーに話が通されていたからである。
(コネクションの匂いを感じた店が動いた次第)

最上とはいかないが中等程度の紅茶と、上等なティーカップ。
その間に馬車の手配の下準備も済ませておいた。

「今、お帰りの馬車の手配もしました。個人用の心得た業者のものなので、ご安心ください。」
地味な黒塗りの馬車ながら、貴族御用達のエクスクルーシブなもの。

セリニアス > 唇の端から浮いた雫が落ちる前に拭われていく。
一度カップを置いては、礼にか制する為にか、やんわりと片手を持ち上げつつ。

「まあ、確かにこう言う所の近くなら――納得ではあるけれど。」

ちらと視線がファイルの表紙に落ちる。
知識に偏りはあれど、皆無と言う訳でもない。
故に、それとなく――分かりやすく置いてあるこの冊子の中身も想像に易い。手を伸ばして確認まではしないが。

「いや、だから違うって――……!」

この屋敷妖精、存外ひとの話を聞いていないのではなかろうか。
確かに、己はそろそろそう言った事の学びも受けねばならぬ頃合いではある。ではあるが。
茶の替えを取りに行ったのだろう後姿へ、半ば叫ぶようにも訴えたが、届いたのかどうかも分からぬ内に扉が閉まってしまった。
次に開いた時には、また違う者が顔を覗かせ――いやだからちがうって――そんな訴えを再度挟み、屋敷妖精が戻って来る頃には幾らかぐったりした様子。

「……それはどうも。」

律儀に礼は告げるのだけど。

娼館「プリプリ」 > 地味に店のものがモーションをかけてくる展開がひと段落す。
その後、少年についての雑談や、店についての雑談があったかもしれない。

ここにきた経緯や、本日の背景など、伺えることはきっとたくさんあった。が、未熟に過ぎたかもしれない。
可能であればその経緯や、簡素な身の上(当然、やんごとなきゆえに事実でなくても差し支えない)など、うかがえたかもしれない。

ぽくぽく、がらり、と、馬車の音が道の向こうからくる。

「そろそろ馬車が来たようです。裏口につけておりますので、ご案内します。」
少年を先に通してからシルキィはドアを閉める。先ほどの裏口の向こうに例の馬車が来る。
内装は上等、客車のクッションも万端。
恭しく首を垂れ、バシャが消えるまでお見送りをしていた、灰色のメイドであった。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」から娼館「プリプリ」さんが去りました。
セリニアス > 己の身の上は学院の生徒である事位は話しただろうが、それ以上は当たり障りなく。
ここに辿り着いた経緯については話しもしたが、結局の所、ただの迷子でしかないのだから多少しどろもどろになっていたやも。

――そうして暫し、紅茶を飲みながらぽつぽつと話していれば馬車の到着を知らせる声。

「ん、ありがとう。」

開けられる扉を潜り、再び案内を受けて裏口へ。
馬車に乗る前に、侍従へと伝書魔法で連絡を飛ばす。
きっと、今頃は抜け出している事が完全にバレているだろうから、盛大な雷コースを迎える事に違いない。

乗り込んだ場所の中、ふかふかのクッションに沈みながら見送りを受け、向かうのは学院でも王城でもなく、富裕地区にあるとあるカフェ。
店の前で待つ侍従と落ち合った後は、娼館への礼金を御者への心付けと共に渡し、カフェの中へと消えて行く――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からセリニアスさんが去りました。