2025/11/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にアルジェントさんが現れました。
アルジェント > ───女の甲高い悲鳴。

帽子の生地を突き抜けて聞こえてくるそれに、うっそりと顔を上げた。
少しだけめんどくさそうな表情になるのは、慈善精神だとか、そういった正義感じみたものが女にはないからだ。

とはいえ、進行方向から聞こえてきてしまったのだからしょうがない。
自分の進む道を変えればいいだけなのは分かっているが、そのために自分の歩みを変えるのも面倒だった。

蜘蛛の巣の世に広がっている路地裏は、余計な道に足を踏み入れてしまえばより面倒を拾うこともある。
しょうがねえな、と、けれど特段急ぐこともない足取り。

路地裏の、まだ賑やかさのない通り。
飲食と、甘い香水の香りが鼻につくその場所で、腕をつかまれている女と、掴んでいる男。

耳が覗いていたら、きっとどんより下がっていただろう。
ありふれた光景ではあるが、好んで見たい光景というわけでもない。

愁嘆場っぽいなあと周囲を窺えば、面倒ごとはごめんとばかりに窓も扉もしまっていた。
ちょっと溜息しつつ、口論している男女の気を引くように足音を立てた。

帽子で隠していてもこの距離の声は響くなあ、とどうでもいいことを考えながら。

「もうすぐ宵の口ってぇのに、この界隈であんまり目立ってると野暮な野郎って評判ついちゃうんじゃねーの」

路地裏。貧民区でも、あるいはだからこそ華やかな場所。
腕をつかまれている女も、その装いは派手で扇情的な部類。

どう見たって痴情の縺れ。そんなのは狼どころか犬も食わない話。
己はその向こうの通りで一杯行きたい所だったんだが。それを邪魔するように往来でやり取りされているのだから、と肩を落とし。

第三者の声に少しは冷静……になってほしいところではある。

アルジェント > 瞬間は、面食らったように静かであってくれたのだけど。
そういうときは仲良く二人して『関係ないからすっこんでろ!』
のハモりに、目を細めた。

「へい。んじゃあ、そこ通してよ、兄さん、ねーさん」

とはいえそれで激高して両成敗するほど、短気でも、ついでに正義感も高くはない。
闖入者に両者が敵意だとしても此方にその意識を一つにまとめて向けてくれたことに肩を竦めて。
実は仲いいんじゃねーかな、と思いながら。つまりは貧乏くじ引いた感。

「私は耳がいい方だから。あんまり叫んでるとあることない事、酒場で話の種にしちゃうよ。……メシ、食いたいんだよね」

出来れば酒場が込む前に、と視線で彼らが塞ぐ道の向こう側を示せば、納得はしてくれる──と嬉しいなーなんて希望的観測。
おねーさんもそれは困るでしょ、と容姿がそれなりに整った女へと水を向ける。
男の方はどうだかは分からないが──、女の方は明らかにこのあたりに根差している匂いがしたから。

アルジェント > いっしょにいる男が情人か、あるいはただの客か、それは己には窺い知れることではないが。

そうした風聞が客引きに関わってくるところは女もちゃんとわかっていて、少し気勢が削がれた。
美人だし、客がこの男だけということもないだろう。

それに釣り込まれるように男の腕の力が緩んだのか、女が自身の腕を取り戻し、程よい距離感が生まれつつあるのを認めてから。

「暴力沙汰は───面倒だしな」

暗がりに目立つ金の目。
目深にかぶった帽子の影から覗かせて、肉食のその虹彩を細める。
何某か魔力を感じる存在であればそれにたじろいでくれればいいし、そうでなくとも……女が携えている二振りの大ぶりのダガーに気付けば、自分とは違う荒事を得意としている存在だと認識してくれれば余計な痛みは背負わせないで済むのかな、と他人事のように考えている。

アルジェント > 耳や尻尾が露であれば、ゆったりとした横揺れ。
若干うるささに耳は寝ている自覚はあるのだが。

そんな己に、理性を取り戻してくれたらしいのか、おさまりを見せつつある男女の間を割るように一歩足を踏み出し。

「んじゃ、酒の肴にされたくなきゃ、仲良くしててくれよ。
 そのほうが────平和ってやつなんだろ」

軽く口角を上げて、犬歯を覗かせた。
異形の相にそれを見たものがどう思うか、はまあ───人次第。
けれど己の立ち居振る舞いに、己が虐げられる存在(ミレー)なんて思う奴があまりないのは意外ではあった。

この男もその程度の分別はついた模様だ。
一歩退いてくれるなら、隙間がさらに開いた、ので。
じゃり、と足音を立ててすり抜けていった。

アルジェント > 犬も食わない痴話げんか現場を後にして。
さて己はどうしようかなあ、と気の向くまま。

鼻腔を刺激するおいしそうな匂いにつられて──。
いつもというわけではないがたびたび足を運ぶ酒場でもいいし。

或いは匂いをたどって新規開拓もいい。そんな気ままな夜。

「あー……一度あっちにも帰んねーとなぁ」

あっち──、己が本来所属している魔族の国。
とはいえ、現状雇い主もいないし、と気ままに人の世界で食い扶持を稼いで、のらりくらり。
それ自体はどちらでも変わりはしないのだ。

アルジェント > どちらにせよ、狼の影はゆっくりと路地裏へと消えていったのだった。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からアルジェントさんが去りました。