2025/10/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にさんが現れました。
> 貧民地区のとある酒場。
表向きには、よくある少し寂れ佇まいの店だが、その正体はとある盗賊ギルドの入口の一つである。

盗賊ギルド「STRAY FOOL’S」――。
情報収集を主とする比較的には合法に近い扱いのギルドで、此処に居る黒尽くめの小柄も籍を置いている。
まだ片手で数える程度の仕事しか受けたことは無いが、店のそこいらで飲んだくれた振りをする同業者達の視線から、探り伺うようなものはもうほとんど感じない。
姉弟子のお陰が七割。師のお陰が二割。残りの一割が己の成果……と言う所だろうか。

足音を立てずに店の中を進み、カウンターの中にいるバーテンダーのもとへ歩み寄り、席には掛けずに言う。

「エールを一杯。……それから、コレを」

懐から取り出したのは折りたたまれた羊皮紙と、コインが一枚。
コレと言われた羊皮紙を認め、バーテンダーはカウンターに置かれたそれ等を手に取り、代わりにエールの注がれたグラスを小柄の目の前に置いた。

グラスの影に潜ませおかれたのは、十五枚に増えたコインと小さなメモ書き。
前者は今回の報酬。後者は、また新しい仕事の依頼がメモに書かれている。

> 数枚あるメモ書きに目を通しつつ、口元を覆う黒布をずらし、エールを一口。
前は一番安い酒をと頼んだら、とんでもない酒が出てきたが……今回はそんなことは無くて、美味くも不味くもない普通のエールの味に少し安堵した。

メモにはいくつかの仕事が書かれている。
ランクが上がれば、それなりに危険なものも増えるとは聞くが、主にはやはり情報収集である。

一つ目、いくつかの品の市場調査。王都や、その周辺を回って価格や品質を調査を依頼している。
あまり遠くに行く訳ではなさそうなので、受けても問題なさそうだ。

二つ目、とある貴族の屋敷の見取り図の作成。屋敷に忍び込んで、警備の様子や屋敷の内情まで探ると言うもの。
これは前回の仕事と同じなので、受けても良いか。前職から、そういう仕事は多くこなしていたし、勝手もよくわかっている。

三つ目は……。娼館への潜入調査依頼。
この街の娼館の何処かに探し人が捕まっているらしい。それを見つけ出し、あわよくば助けてほしい……。
……これはまた、少し毛色の変わった依頼である。盗賊ギルドではなく、冒険者ギルド、もしくは個人に頼んだ方が良いような気もするが。
助け出せずとも、対象の居所を情報として持ち帰るだけでも良いと書かれていたので、このギルドの仕事として納得は出来るが。

「んぅー……っく、む……ぷはっ。
 ん……、一つ目と、二つ目は受ける。三つ目は……」

コク、コク、と喉を鳴らしてエールを煽り、半分まで飲み干して。グラスをカウンターに置いてバーテンダーを見た。
三つ目は値段次第、と緋色が無言で向かい合うバーテンダーに圧を掛ける。

> バーテンダーが依頼料を勝手に変更することは……、まぁ出来ないだろう。
それほど上の立場なら別かもしれないが、そこまでしてこの依頼に執着しているわけでもない。
またエールを煽り、一気に腹に流し込み。

「……っう、ぐっ。
 三つ目は、今回は受けない。依頼の情報に、曖昧な点が多すぎる……。
 骨折り損で成果が出なければ無報酬……と、なるのは、頂けない」

メモ用紙の三枚目をコースターに、空になったグラスを置いて、残りの二枚と硬貨は懐へと収め、ずらした布を引き上げ顔を覆い隠す。
断る理由はいろいろとあったが、その主たる最もなところを上げてやると、バーテンダーは涼しい顔でグラスとコースターを回収していった。
どんな返事だろうとまったく動じない、喰えない奴だ。

「……また来る」

たぷんっと胃の中で波打つエールの気配を感じながら、小柄は踵を返し店を後にする。
賑わいとは縁遠い店の雰囲気から抜け出して、酔い覚ましの夜の散歩を楽しみながら宿までの帰路に着こう。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からさんが去りました。