2025/08/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にさんが現れました。
> 日暮れの貧民地区――。
色街が賑わい始める頃、一際寂れた酒場の戸を叩く者がいた。
軋む音を響かせ、夜を纏い顕れたその者は小柄ながら堂々と、足取りも迷いなく。
店内から注がれる人々の視線は鋭く、また値踏みするようにじっとりとした湿度を感じさせた。

ここは、盗賊ギルドの拠点の一つ。
表向きには酒場として通っているが、その正体は荒くれ者が屯する浅瀬と言ったところ。
深淵と言うには生温く、まれに擦れた冒険者も顔を出すこともあるとか。

ケープのフードを深く被った無貌の小柄は真っ直ぐに酒場のカウンターまで進み、一言。

「盗賊ギルドに登録したい。手続きを所望する」

抑揚のない、男とも女ともつかない奇妙な声で端的に目的を告げ、数枚の貨幣を積み上げた。
依頼人ではないとわかると視線をそらし話に戻る者が半分。
まだ新人を観察する者が半分。
カウンターの内側に立つバーテンダーは、無言のまま貨幣の枚数を確認し始める。

> 知人曰く、暗殺者ギルドに入るには二つの道がある。

一つ。盗賊ギルドに登録し、名を売ってスカウトを待つこと。
一つ。既に暗殺者ギルドに加入している者からの推薦を受けること。

これらの条件の内、小柄が選べるのは前者のみ。
暗殺者をして長くはあるが、生憎、子飼いだった為に知己はいない。
出会った者の大半は屠ってしまった故。
今は地道に成果を上げて信頼を勝ち取る外ない。
その一歩として、今宵はこの地へ足を運んだ次第――。

登録料の支払いが済めば、続いて貨幣と入れ違いに書類が一枚カウンターに置かれる。
其処には、名前と得意分野について書き込むよう指示がされていた。

「…………」

インクのついたペンを受け取り、暫し思案する。
流石に、名前をそのまま書くのも問題があるか……。
仮にも今は追われ潜んでいる身である。注意は必要だ。

数秒の沈黙の後、ペン先を紙に走らせ記す名は“火守(ほもり)”。
得意とするは、殺しと破壊工作全般。情報収集等。

ペンと共に書類を返せば、バーテンダーが尋ねる。

『お客さん、ご注文は?』

「……一番安い酒を」

淡々としたやり取りが続く。
閑散とした店内には、生温い夜の隙間風が吹いていた。