2025/06/26 のログ
■篝 > 言われて手元の杯を見下ろし、まだ半分以上残っている安酒に黒で覆い隠した顔が映る。
「……なるほど、勉強になりました。
次からは、もう少し良い酒を飲めるよう、資金を調達します。
――間違っていても、勘違いだったと言えば通るのではないですか?」
子供らしい見た目にそぐわぬ洞察力に舌を巻き、圧倒されて素直に頷くしかなく。
仮に早とちりで間違っていたとしても、相手ならば笑って誤魔化せばそれで通る気もすると言う。
続く話には、また納得して頷き。
「既に撃退済みで。……貴方を相手にする時は、見た目に騙されぬよう気を付けようと肝に銘じます」
既にやられた者が噂を流しているなら、同じようなことを考えるバカもいないか。
仮にも同業者ならばやり合うことはそうそうないとは思うが、万が一を考えてそのような言葉を返した。
それはそれとして。
今現在進行形で口の中が大変な惨事になっている小柄は、ふるふると肩を震わせうつ向いたまま、左手に持った食べかけのポテトがカタカタと揺れる。
「ぬっ、く……うぅー……。ぐっ、ひりひり……いひゃい……」
何といううかつ。
隠した緋色に涙を溜めて、小声で痛みの実況を呟きつつ、親切に差し出された冷えたラガーに一度視線を向け。
迷うのは数秒。毒や罠の心配はおそらく無い。新しいラガーの代金は……多分、払える。
財布の中身を確認する余裕ももうなくて、ポテトを皿の隅っこに置き、震える手でジョッキを受け取った。
くーっと一口。
冷たいラガーにピリピリとしたが痺れたが、少しだけ痛みは引いた気がした。
「――ぷはっ。 あー……死ぬかと思った……。
もちつ、もったれつ……。んぅ……ラガー、値段は幾らでしたか?」
親切にされる理由を聞くまで待てずにラガーと言う助け舟に縋ってしまった後だけれど、相手の言う施しの理由には理解できる部分もあった。
ひと心地ついてから、財布を取り出し新しいラガーの代金を払おうとして。
■クチナシ > 「くは、っ!……ああ、それが良い。何なら酒に強くなるのも良い。
安酒でも数を飲んでいれば、それだけで近寄り難さ等が生まれる故な。
―――格好つけておいて、勘違いだった。は、文字通り格好悪いだろう?」
その洞察力は長く生きた長寿の存在故、培われたもの。
それに相手が納得した素振りを見せれば、少しだけ嬉しくなるというもの。
しかし、彼女の当然の疑問に対しては、ちょっとした見栄。
"カッコ悪いから。"という、何処か子供めいた理由は、何処かアンバランスさを抱かせたかも知れず。
「くはは。なんだ?――まるで自分と戦うことがあるかもしれない。みたいな物言いだな?
まぁ、生意気な獣人だと思われているところはあるが、な。」
やり合うことはそうそう無いとは思っていても、まさか自分を相手にする場合は。なんてもしもを告げられれば、笑みが溢れる。
自然とその視線は彼女の肢体へ。全身を覆う黒装束。さらしで圧迫されているせいで男女の区別は難しいが――。
どこかしなやかさを抱かせる身体つき。ふむ、と顎に手を添え――。
「もし、するとしたら。先ずは足を狙うか。」
もし、相手にする場合、何処から狙うかなど。物騒な言葉を零したところで―――。
差し入れのポテトを食べ、その熱によって舌先をやけどした少女が、プルプルと震えている。
此処までの憮然とした、性別を判別させない仕草から一転。
何処か可愛らしい。という印象を抱かせる様相にまばたきを一つ。
結果的に、飲み物を差し出してしまったわけだが、流石にすぐには応じない。
ちょっとした思考の後、差し出していたジョッキを彼女は受取、淹れたばかりの冷たいそれを口に含んだ。
ホップの苦み。そして、しゅわっとした炭酸。舌先がやけどしていなければ、喉越しの良い飲みやすさがあったとは想うが。
そんな様子をこちらも、しっかりと吐息を吐き掛け、適温にしたポテトをざくざくとかじりながら眺めており。
「……いやぁ、可愛い所を見せてもらったな。次からは、ちゃんと冷まさねば。
―――ん? いや、別に金は取るつもりはなかったが。
まぁ、気にするというのなら、これだけあれば十分だが……大丈夫か?
見たところ、あまり持ち手がないようにも思えるが……。」
と、示す金額は少なくとも、彼女が飲んでいた安酒の軽く数倍。
グラスではなく、大型のジョッキ。つまり、そこそこの量が注がれていたからこその値段。
赤貧の彼女が支払えるかは―――彼女の現状の状況次第。
■篝 > 「酒を多く飲むと、身体を壊します。手元も狂います。
近寄りがたいのは、此方から絡みにくくもなりましょう……。
より詳しくを知りたい時の枷になるなら、私はほどほどの金で飲む方が良いです。
……貴方だから、そのカッコ悪いも愛嬌で通るのではないですか?」
緩く首を振り、安酒飲みにはならないと答え。
どこか嬉しそうに見える相手。今度はその見た目通りの小さな見栄に一つ瞬きを落とし、かっこつけたい少年にとっては複雑な気分になりそうなことを淡々と抑揚のない声で返すのだった。
相手のような少年が、からからと笑って誤魔化せば、その愛嬌だけで周りは和みそうなものだと。
「無いと言い切れませんので。時と場合に寄るかと。
――足を狙う、その意図は?」
さらりと、否定とも工程ともとれる返答を。
足を狙うと言うならば、首を傾げてまた素直に問い返す。
小柄な黒装束の得体のしれぬ者である自覚はある。何をもってしてその見解に至ったか、今後の参考にすべく興味を抱いた。
口の中の痛みもだいぶ引いた頃、財布片手に値段を問えば思わず一度押し黙った。
重い口をなんとか開き、財布の中に入っている貨幣を一枚ずつ並べて行って。
「……可愛いは、余計。でも、助かったので……許します。
んー。うん……。んと……――
これで、足りる?」
言われた金額になるまで一枚ずつ積み重ね、どうにかその金額に達した時には、財布の中に残るのは一番小さなコインが三枚残るだけだった。
ぎりぎり払えるには払えたので、小柄はほっと息をつき。
「ポテトは……ご相伴にあずかったので、払えないけど。
……こっちのも、飲みますか? 安酒ですが」
残った三枚を大事に財布にしまい直し、食べかけだったポテトも十分冷えたので安心して齧る。
エールを驕り返しただけではまだ足りぬなら、今渡せるのはこれしかないと、上手くもない安酒を献上するまでだが……どうだろう?
■クチナシ > 「まったくもって。――実際、安い酒。良くない酒を飲み続け、身体を壊し、此処で転がる輩も少なからずいるからなぁ。
……こっちも同意見よ。それに、そもそもな話。
この身体には其処まで多量の酒は入らぬ故、な。
―――愛嬌で誤魔化したら、それこそ舐められてしまうからな。
この身を晒すならば、一挙一動。そういった様相を見せねばならぬよ。」
安酒飲みにならない。という彼女の言葉には同意見。
そして、彼女よりも一見、華奢な――その和装の奥の身を指でなぞる。
筋肉が確りと張り付き、小柄ながら瞬発力に特化した肉体は、言葉通り大食いや大酒飲みには程遠い。
そして、和むかも知れないが――それを見て絡む輩もいるだろうという、ちょっとした意見を。
「まぁ、確かに。……それこそ、互いに別々の依頼主の用心棒になったりなど、な。
――まず、見た所。お主の戦術は詠唱を行う術師か、自分と同じ……身軽な前衛だと仮定しよう。ああ、理由はある。
この酒場に飲みに来るなら、自衛の手段の一つは持っておくべきだが……見た所、お主の手には武器は見えない。
それはつまり、武器が必要のない戦い方か。――はたまた、暗器。隠しているかのどちらかだ。
―――そして、それならば先ずは足。前衛ならば、確実に動きを阻害出来。
術師ならば、不意打ちの一撃による詠唱の阻害に繋がる。……ただそれだけのことよ。」
つらつらと。続けた言葉に彼女は納得するだろうか。
彼女という存在を見て、自分が思い至った事を事細かく伝えれば――。
――――押し黙るその様子を見た。
ゆっくりと財布の中から取り出される貨幣を見やる。いちまい、にまい、さんまい。
「―――くは。気を悪くしたならすまぬな。
こういう時、素直に言葉にしてしまう故。―――ああ、足りるぞ?問題はない。」
差し出された貨幣を数えれば、少なくとも問題なく支払える。
彼女の厚意に甘え、その貨幣を自分の貨幣入れの袋に。
―――開いた瞬間、じゃらり。と重たい音がしたのは、この子狐がそこそこ冒険者としては実力を宿しているからか。
「安心するといい。流石にこのポテトを全部一人で喰らい尽くしたなら、金の一つやふたつせびるが……。
ひとつふたつでみみっちく支払いを求めるほど、小さい男ではないよ、自分は。
――お、良いのか? なら、一口いただこうか。」
ここでラガーの追加をしようと思ったが、彼女からの提案を受ければ、それに預かりたい。
美味でなくても、口の中に遺る熱としょっぱさを丁度洗い流したい気分。
なので、献上されたそれが注がれた器を手に取り、一口。
時間も経ってぬるくなっていそうだが、それでもポテトのお陰で実に美味く感じる。
「ん。……悪くはないな。もう少し濃い目の方が、自分は好みだが。
―――ああ、そうだ。」
ふと。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。自分は、クチナシだ。エデンに所属する冒険者だ。」
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にクチナシさんが現れました。
■篝 > 「この身体……。そうですか。私も、悩まず酒を選べるようになりたいものです」
相手の言葉に引っ掛かりのようなものを覚えたが、初対面で根掘り葉掘り聞きたがる子供でもないので、当たり障りのない言葉を返す。
少年のしなやかな手足から想像できる戦法を想像しながら、しかしその見た目に騙されてはならないと言う疑心も忘れずに。
「……やはり、難儀ですね。見栄を張らねば舐められる。どちらを向いても厄介ごとです」
笑っていた少年の顔を思い出せば、それはそれで人懐っこく周りには好かれるだろうが、それが違う意味で問題になるのだから大変だ。
実に難儀である。こういうスタンスに落ち着くまでにもいろいろあったのだろうと想像に難くなかった。
「さて、どうでしょうか……。暗器ではなく、酔拳の使い手かも。
――……ジョーク。良い目と勘をお持ちで。
まだまだ未熟な身故、そういう評価、意見は自身を見直す良い機会となります。
お答えいただき、感謝いたします」
話に耳を傾けていれば、言い当てられる部分も多く。
ストールの中に隠した耳がぴくぴくと僅かに動いた。
経験豊富な大人と話しているような錯覚を覚える姿に感心し、交えた冗談もほどほどに礼を返した。
貨幣を数えるのを笑われれば、キョトンと目を丸め。数え積み上げた貨幣を受け取ってもらえれば、此方も満足げに頷いた。
少年の財布は小柄のとは違い、随分と肥えているようだったが、それはそれ。
それ相応の働きをして少年が稼ぎ集めた宝である。人を羨むものではない。
「それは安心です。大丈夫、私は食い意地は張ってない、ので。
――ん。 あげる」
ポテトの料金は気にしなくて良いとわかれば、安心してもう一本。
ちょいとつまんで、何度も息を吹きかけながら、此方の杯を相手が取るなら遠慮は無用と頷き返し。
カジカジ、サクサクと、程よく温いポテトを齧って。
「――?
クチナシ……白い、花? キレイな名前。
私は篝。……今は、冒険者」
不意に思い出したように声を掛けられれば、食べかけのポテトを口に放り込み。
その名から思い浮かんだ花を思いながら、此方も手短に名を語る。
■クチナシ > 「うむ。おおぐらいの冒険者と違って、この身なりだろう?
酒を飲みすぎては他のものが入らなくなる。バランス良く食べたいものよ。」
―――引っ掛かりの正体は本当に些細なこと。小さな身体だから、そんなに入らない。なんて何処にでもある理由。
身体を撫でたのも、面積の問題。それに気付けば少し肩透かしかもしれない。
「くはは。ま、慣れたものよ。
それに、いざという時は少し狡い手段も取れる。其の場合、自分だと気付かれなくなるから、奥の手ではあるがな。」
それは、狐である自分の正体を明かす事。
大柄、屈強な冒険者よりも巨大な狐。其の格好になれば、文字通り滑られることはないが――。
結局のところするかしないかは、自分の気分次第であり。
「そもそも、酔拳の使い手なら、酒は多く飲むだろうに。
―――だろうな。くはは、……何、長く生きてるが故の、単なる眼の良さよ。
後は、光等を利用した目潰し。相手に好き勝手にさせない。というのが第一だろうな。
……大したことは言っていないが。少しでも参考になったのなら何よりだよ。」
言葉に混ざる。"長く生きている。"という言葉。
それはある意味、彼女が抱いた経験豊富な大人と喋っているような錯覚。それが事実なのでは?と想う所もあるかもしれず。
小銭をしまい終えれば、腰帯から垂れる紐と結び直し、改めて彼女と向き直り――。
「自分としては、美味しそうに食べてくれる相手なら、いくらでも差し出したくなるが。
にしても、良い食べっぷりだ。見てて楽しくなるよ。――うむ、いただこう。」
まるで小動物。さくさく。かじかじ。
言葉を重ね続けたことで適温になったポテトをかじる様を眺めて、自然と笑みが溢れる。
勿論、此方も自分の分を食べることは忘れない。
もらったものが安酒だろうと、美味しそうに食べてくれる相手と、美味しいツマミがあれば、美味しく感じるのだから。
「―――む、知っているのか。
ああ、"梔子"。王都では分かりやすく此方の言葉で書いているが、お主の言う通り。あの花の名前と同じだよ。
―――篝。……成程。」
認識阻害のローブ越しにその顔を見やる。
ぼわりと、靄がかかったようにしか相手の事をうまく理解できない。が――しかし。
その靄の中で見える一つのものがある。それは、じっと此方を見つめる双眸。その色。
「篝火のように、明るい瞳の――主に似合う名前だな。」
連想したのは、焔の赤。自分の名前を綺麗。と告げてくれたのだ。
これぐらい言い返してもばちは当たらないだろう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にクチナシさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」にクチナシさんが現れました。
■篝 > 見た目通り、言葉通りの意味であるなら、なるほどと首肯し、内心ではそれもそうだと自分の早合点を叱った。
知り合いに見た目通りではない複数の姿を持つ娘がいた故、もしやと勘ぐってしまった。
ともかく、色々な意味で少し警戒も緩んだのは言うまでもない。
「狡い手段……。奥の手なら、隠しておくのは理解できます」
手練れと思わしき少年が奥の手と言うくらいだ。
そう言う緊急事態になることはそうそうないだろう。
奥の手を狡いと言うその真意は気になったが、それこそ秘密にすべきことなので納得だけを示した。
「酒が飲めない酔拳の使い手もいるかもしれない。……弱そう、だけど。
ふむ。全て、先手を打つのが前提ですね。やはり、速さが大事……。
ん、勉強になりました。
……クチナシ、幾つなのですか?」
酒に弱い酔拳家を想像しても辛そうで弱そうで。
軽く頭を振ってその想像を消してから、聞いたことを頭の片隅に置きつつ、当然ながら気になったことを尋ね返した。
見た目相応の歳ではないと思うが、長くとはどれほどか。どの程度歳を重ねれば、相手のような観察眼が宿るのかと。
「うん、おいしい。さくさくで、中は柔らかい。しょっぱい」
言葉選びは残念だが、美味しいと言うのは正直な感想なのだろう。
機嫌良さそうに酒とポテトを口にする隣で、譲ってもらったエールを少しずつ飲みながら。
「一回だけ、見たことがある。山で良い匂いのする白い花がいっぱい咲いてました」
随分と昔のことで記憶は曖昧だけど、あの匂いはジャスミンに似ていたと思う。
山で見た白い花を思いだせば、少年の濃紫の髪に良く似合いそうだと。
不意に、此方を覗き込むように見据える双眸を真っ直ぐに見返し、掛けられた言葉には。
「……それは、嬉しい評価です。感謝」
緋色の瞳を僅かに細め、素直に礼を返した。
■クチナシ > だからこそ、彼女の前で安酒を飲み、ポテトを齧るペースは適度なもの。
こうやって油分と言葉をツマミに酒を飲んでいるだけでも、お腹は膨れ、これ以上の注文は必要ないな。と思ってしまうほどであり。
「ああ、まさに奥の手。この刀が通じなくなったらな。」
腰帯に潜らせた漆の鞘に納刀されたソレ。
色褪せた柄尻の金具を指でなぞりながら、言葉を紡ぐ。
此処で見せるのが如何にも、刀一本でやっている!みたいな風だが、
実際は呪術を応用した、狡い戦法なのはここだけの話。
彼女が戦いどうこうを言葉にした以上、敢えて言葉にするのも何だろうと考えて――少しだけそんな挙動を。
「それはただの功夫の達人ではないか? と、冷静に自分は想うわけだが。
……それこそ、小柄故に相手の気配外から、投擲。または潜んでの一撃という手もある。
先手の取り方にも人それぞれさ。速さに手段を選ぶ必要なんてない。
……ん? 自分か? ……あぁ、説明が抜けていたな。
自分はミレーではなく、妖狐。東の国の化け狐がこの身体を造っている。
歳は―――確か、500は超えていたかな。」
此処で自分の種族を告げれば、その年齢にも納得出来るだろうか。
ついでに、和装の内側。
体躯に巻いているサラシの隙間から、ふわりと髪の毛と同じ色の尻尾が揺れれば、その証明となるはず。
「―――ううむ。次はポテト以外にも美味しい料理を食べさせたくなる、ふわっとした食レポ……。」
そう、言葉選びは残念だが、美味しそうに食べているという事実がそこにある。
つい。"次。"なんてことを想像してしまう。きっと、美味しいものを食べたら、その度にいい反応をするだろうな。と、想像しての。
「ああ。自分もあの綺麗さと香りが好きでな。
名を付けられた時は、あの花が咲いていた。幾分、昔の話だが――きっと、母も同じことを考えて、この名を付けたのだろうな。」
彼女の感想は、自分が憶えている記憶と同じ。
自身の本当の名前を隠すため、親に名付けられたその名前。一瞬、その花に思いを馳せ――。
「くはは。なに、事実を言ったまでよ。
できれば、その靄のようなものじゃなく、鮮やかな本当の眼を見てみたいとは想うが――訳ありなのだろう?
……"今は。"と言っていたからな。無理にとは言わないさ。」
今は。つまり、それまではなにかがあったのだろう。と、推測。
情報収集も。身を隠す認識阻害の術も。まだ、出会って数時間――急ぐものでもない。
■篝 > 「刀……そう、ですか」
言われてつられて腰の刀に目をやって、人の視線を散らすのに役立っていたなと。
ミレー族、獣人ならば、体一つ、刀一本でやっていると言うのは頷けなくもない。
が、ここ暫くで色々な目に合い、痛い目にも合っている小柄は疑り深くなっていた。
自分だって暗器は勿論、術を使う身である。
ならば、相手だってそれ一辺倒ではなく、手練れであるが故の技の多さを持つやも知れぬ。
緋色の目が徐々に重く、半目になったのは酒のせいだけでなないだろう。
「……確かに。クチナシは、賢いですね。
多分、そういうやり方が一番向いてる。けど、見つかってからだと……難しいことが多いです。
だから、もっと速く。先の先を取れるようになりたい。
――ごひゃっ……ごひゃく……? 妖……。り、理解? した……。
ライカンスロープ……人狼、と似てる?」
真面目に話していたところに、とんでもない冗談みたいなことを言われて目が冴えた。
パチリと大きく目を見開き、ストールの中で耳がピンと立つ。
戸惑い驚きすぎて理解できているのかいないのか、よくわからない返事をしてから、知人のことを思い出し、妖も魔に近しいものかと尋ねてみたり。
少年の髪と同じ、ふわふわの尻尾が覗けば「おぉ……」と、目を瞠る。
「ん。今度があるなら、その時は……私も、何か奢ります。山分けです」
それまでに、痩せ細った財布を太らせなければ。
そう思いながら、懐に手を当てて。
「……そうですか。貴方の母上は、良い趣味ですね」
懐かし気な横顔に、一つ首肯を返し。
「ん。訳は……ある。でも、いつも、こうだから……そのうち、慣れる?
配慮頂き、感謝する」
何かがあったことに違いはないが、姿を、素性を、全てを隠して生活するのは常なので。
そうそう顔を見せられることも無いのが現状。それこそ、よほど親しくならない限りは、だ。
■クチナシ > 「―――く、ふふ。ああ、刀だとも。
実際にどういったコトをするかは、手合わせの機会があれば、だな?」
無論、その彼女の緋色が重く、細められた動きを見れば――そう告げる。
片や、あくまでも相手の外見を見た上で推測しただけ。
片や、自分の得物はこれだと示しただけ。
此処で浮かべた表情は何処か意地悪めいた。――外見相応の笑顔であり。
「結局のところ、自分たちのような体格では――力強さ。という意味では他者に負けてしまうからな。
他の事も同様よ。相手が本領を発揮する前に、仕留め、倒す。
――うむ。実に良い言葉だ。研鑽を重ねれば、きっとお主はもっと疾くなるさ。
……――ああ、そうさな。人狼に近い。
と言っても、こっちは狐人。響きとしては随分と可愛らしくなってしまうがな?
それに、ほれ。獣としての意匠もこの辺りぐらいにしか出ないのは……化けるのが得意な種族だから故よ。」
無論、もっと長く生きた狐ならば、耳や尻尾まで隠した上で、完全に人間に擬態するが。
此方はまだその辺りは未熟な存在。―――だとしても、その年齢は相手を驚かせるには十分だった模様。
相手を驚かせた。という事実も、いたずら好きの狐としては満足の行く結果。楽しそうに微笑んだ。
尻尾に視線を感じれば――触るか?等と、座っている膝の上に1本を乗せて。
「くはは、楽しみにしているよ。
―――それに、もし、懐事情が心許ないなら、共に任務に当たる。というのはどうだ?
……"今は"冒険者なら。冒険者同士が頼り合い、少し報酬の良い仕事に挑むのも悪くはないだろう?」
更に、提案を重ねつつ。
ソレは彼女という存在にちょっとした興味を抱いたからこそ。
自分の家族への褒め言葉には、「そうだろう?」等と、笑みを浮かべる仕草が続き……。
「成程。因果関係は逆であったか。いつもそれなら、それで良い。
―――それに。しっかりと主のことは憶えた。
朧気でも、言葉を交わして楽しい冒険者の友が出来た。ということは、忘れぬよ。」
■篝 > 「……承知しました。その時は、貴方の言う、奥の手とやらが見られるよう、最善を尽くしましょう」
揶揄い交じりの悪戯な子供の顔を向けられ、むきになるつもりはないと自分に言い聞かせながら。
淡々と、けれどどこか挑戦的な物言いであった。
「見た目通りならば、そうです。体格の差は、努力だけでは埋まりません。
ん。研鑽……がんばる。
人狼も、化けるのが上手いのは、人と変わらなく見える。
でも、狐人……の、方が可愛らしい響き、と言うのもわかります。
うん。上手だと思います。耳と、尻尾だけなら……。本当の姿は、狐の方?」
耳と尻尾だけなら、ミレー族と変わらない。
それはそれで、この国では大変な目に合う元なのだが、今は其れは置いといて。
今の姿が化けたものなら、本来は狐そのものなのかと疑問符が浮かぶ。
愉快気に笑う少年の尾と耳を見て、触るかと聞かれれば、こくこくと何度か頷き、膝の上に乗せられた一本を見下ろす。
「おぉ……ふわふわぁー……。良い毛並み。家が建つくらい」
立派なもふもふの尾を毛に沿って撫でつつ感嘆の声を漏らす。
例え方は物騒この上ないが、それほどに良い毛並みと言いたいらしい。
「……んー。わかりました。適材適所はありましょうが、懐を潤す良い依頼があれば。
同じくらいの体格ならば、学べることもあると思うので」
少年の提案には少し迷い、今世話になっている者の顔を思い浮かべた。
が、小遣い稼ぎは進んでやれと言われていたのを思い出し、頷き了承の意を示す。
何より、他の手練れの動きを間近で見るのも、一つの修練であると考えて。
和やかに家族のことを思う少年の顔を眺めながら。
「友……ですか。ん、私も、貴方のことは覚えました。クチナシ」
パチリと目を瞬かせ、また一本冷えてきたポテトを齧る。
エールの酒気に消されぬように、人懐っこい狐人の少年のことを記憶の一ページにしたためて、今宵の情報収集はここまでと決め込み、後はのんびり酒とポテトを頂こう。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」から篝さんが去りました。
■クチナシ > 「ああ、楽しみにしているとも。お主が積み重ねてきた研鑽を、この眼で見るのをな。」
長く生きてきた存在故の、様々な手段。
少なくとも、最善を尽くす。と語る彼女がどれだけ自分を燃え滾らせるか。
挑戦的な言葉に、返す言葉も楽しげに。
「とはいえ、結果的に……耳と尻尾だけは隠せぬ故、ミレーと勘違いされる。というところもあるのだが。
……まぁ、それは仕方なきこと。故に、其処をからかうものには少しばかり痛い目を見てもらっている。
……ああ、そうだとも。それもまたひとつの、奥の手だな。
人間とは違う存在。四足歩行。戦う相手としたら、厄介だろう?」
置いておいた話題がぽろりと引っ張り出される図があるが、それはそれ、これはこれ。
そして、彼女が看破した本来の姿が、先程まで告げていた奥の手の一つだと語る。
それまで刀を扱っていた存在が、いきなり獣になる。その事実や、戦法の変化――それは実に厄介なはず。
―――と、談話を楽しみながら揺らした尻尾。
呪術によって、汚れることも毛並みの乱れもないふわふわとした尻尾は、撫でる指先になめらかな質感を伝え。
「くははっ。そうだろう? ――獣人だからな。
このあたりの身だしなみは基本中の基本よ。」
彼女の言葉に鼻高々。やはり自分の事を褒められるのは嬉しいらしい。
「快諾、感謝するよ。
ああ。普段は自分は単独だが。もし、良い依頼があれば見繕っておく。
それこそ、お主の得物がなにかはわからないが……少なくとも、自分の行動で学べるものがあるというのなら。
……うむ、少し張り切らなければな。」
自身の提案。一瞬、考える素振りを見せる相手。
まだ出会って数時間の男からの誘いなら、悩むのも当然だろうと思っていたが――。
返ってきた言葉が了承であれば、少しだけ張り切ってしまうのは男の性。
……相手の性別は分かっていない。が、時折見せる可愛らしい仕草から、なんとなく異性だろうな。と思っているため。
「―――ああ。お互いにな。さて、ポテトと酒がなくなるまで、もう少し、語り合おうじゃないか。」
手元にある安酒。それが入ったグラスを揺らし、楽しげに。
そうして、芋と酒で彩られた夜は、もう暫く続いていく。
ご案内:「王都マグメール 貧民地区2」からクチナシさんが去りました。