2026/03/15 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏」にアムリタさんが現れました。
アムリタ > 昼の陽ざしが傾いてくる頃合い、魔女は街の境目に立っていた。
目の前には、石畳の整った通りとは明らかに雰囲気の違う区画が広がっている。
崩れかけた煉瓦壁、傾いた木造の家屋、路地に溜まった雨水――貧民地区。

「……はぁ。」

溜息を洩らすと幸運が逃げる、とは良くいう物。
喩えそうだとしても、終ぞ口に出してしまうのはもう、癖でしかなかった。
手の内にはくしゃくしゃになった走り書きのメモ。
其処には朝方まで必死に書きあげていた術式の断片が残っている。
――しかし、肝心の本体とも云えるモノが無い。

「どうしてあのタイミングで風が吹くのよぉ……。」

昼に差し掛かる所で、空気の入れ替えにと店の窓を開けた瞬間、
完成したばかりのスクロールが突風に攫われて――。
慌てて追いかけた結果、平民地区と貧民地区の狭間まで来てしまった。
ローブの裾を正し、意を決して慎重に路地へ足を踏み入れる。
水を吸い上げてぬかるんだ地面の感触は、余り気分がいい物では無かった。

「……ここに飛んで行った筈だけど…。」

視線が、どうにも気になって仕方がない。
襤褸布を纏った子供、壁に凭れる男、隙間から此方を見詰める影。
……歩く度に揺れる魔女の帽子は、さぞ目立つのであろう。

アムリタ > 注がれる視線を振り払うように、軽く咳払いを一つ。

「……こほん。」

少しだけ声を張った。
雰囲気とは裏腹に思ったより静かな路地だからか、自分の声がやたら響いた気がする。
壁にもたれていた男が一瞥を向ける仕草。
子供たちはひそひそと何かを言い合いながら此方との距離を取っている。

―――魔女の帽子は、やはり目立つ。
少しだけ肩を竦め、歩みを進めた。
ぬかるんだ地面に靴が沈むたび、べしゃ、と小さな音がする。

「……この辺り、なんだけど――…」

呟きながら空を仰ぎ見る。
視線は、屋根の隙間、張り巡らされた洗濯紐、崩れかけた建物に引っ掛かる襤褸布。
もし引っ掛かっていたのなら、その辺りだろうか。

アムリタ > その時――ひらりと。視界の端で何かが揺れた。
思わず足を止め、其処によくよく視線を注げば。
古びた木箱が乱雑に積まれた路地のちょうど角の部分、
飛び出た釘の胴部分に見覚えのある羊皮紙が引っ掛かっていた。
スクロール用のしっかり目の素材だからか、破けず千切れずにいたのは僥倖だ。
折り目こそついているが、あの程度なら問題なく使える筈――。

「あ、あった、良かった……っ!」

すぐさま駆け寄り、詰まれた木箱の上をおっかなびっくり登ろうとして。
大分高い所にあるのか、一段昇った程度では幾ら手を伸ばしても届かない。
何度か爪先立ちで蹈鞴を踏みかかりそうになるも、あと一歩届かない。

積まれた木箱は不安定で体重をかけるたびにぎし、と嫌な音を立てる。
古びたものなのだろう、木の香りがそう予感させた。

しかし、次の瞬間――。
足元の木箱が人間の自重に耐え切れず、ガタンと大きな音を立てて傾く。
へこみと共に、盛大に木箱が崩れて嫌な音が響けば足場の支えが消えて無くなる感覚。
大分劣化していたのか板は真っ二つに割れ、乾いた音を立てて転がった。
態勢を崩した身体は、其の儘後ろへとなだれ込んで――。

どさりと、尻もちを付く形と化す。

アムリタ > 「――――~~~~……い、ったあ……ッ!」

お尻を擦りながら、眉根を潜めて。
ふと視線をあげれば、さっきまで釘に引っかかっていたスクロールが今度は宙を舞っていた。
木箱が崩れた衝撃で外れたのだろう。

「ちょ、ちょっと待って、待って……!!!」

風にそよぐ羊皮紙は、其の儘貧民地区の只中へと吸い込まれる様に消えていく。
魔女は其れを追いかける様に、深みへと入り込んでしまう。
スクロールを巡る経緯は、もう当人のみぞ知る事に――。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区/路地裏」からアムリタさんが去りました。