2025/11/16 のログ
アルクス > 「そういえばアレは仕入れたのいつだったっけか?」

薄っすら白くなった小盾を見上げて、半眼閉ざして唇が引きつる。
武具の手入れで世話になってる鍛冶屋が作ったものだが、記憶がかなり遠い。
半年前、いや1年前だったかと顎に手を添えて軽く首を傾げる。
物が悪いなんてことはなく、試しに手に取った時の感触はまさに逸品なのを覚えている。
グリップ部分は握りやすく指をかける溝のようなものが薄っすらと着いており、自然と安定した握り込みが出来る。
それだけでなく、わずかに外縁部に掘られた溝は突きを受けた際に引っ掛ける事も可能。
後はそこから軽く外に反らしてやれば、相手の剣は宙を舞うというわけだ。
斬撃に対しても表面の金属が大きくへこまず、中央の突起の傾斜も相成ってするりと受け流せる。
大したことではないかもしれないが、生き死にが掛かる時にこうした小さな作り込みが勝敗を左右する。
と、鍛冶師は言っていたが、個人的には重量のバランスが整っているところが気に入ったのだが。
そんな過去を見上げながら巡ったところで、視線はそのまま他の武具類へ。
どれもこれも、まぁまぁな白け具合である。

「手入れでもしてやるか」

棚から取り出すと、掌で軽く埃を払っていき、カウンターの向こうへと戻る。
どかっと腰を下ろすと、カウンターの下を漁り、小さな木箱と使い古した布を幾つか。
鏡を磨くように布で表面を磨き上げていくと、続けて裏側、グリップ部分と埃を拭い去っていく。
それでも大分輝きがぼやけて見えると、眉根を寄せながらランタンの明かりに翳し、右に左にと傾ける。
ふむと検め終えると、木箱から取り出したのは獣脂を固めた四角いブロック。
布で包んだそれで革の部分やグリップ部分をこすり、革に油分を補給していく。
塗り込んでは握り込みと繰り返し、革の軋みを確かめながら動きに柔らかを覚えればそこまで。
それを戻すと今度は瓶を取り出し、コルク栓を引き抜く。
あまりべとつかない特性の植物油を布へ垂らすと、再び磨き上げるように塗り拡げる。
次第に金属部分に光沢が戻り、錆止めも兼ねた油膜が形成されていけば卸し立ての頃の輝きが戻っていく。
最後は裏側にある木製部分にも同様に油を染み込ませれば完了だ。

「最近手入れサボってたからな、やべぇな」

視線を移せば、棚には並べられた刀剣、鎧等など……。
最早順番待ちに鎮座しているようにも思えて、乾いた笑い声をこぼしつつ盾をカウンターに置く。

アルクス > 「仕方ねぇ、やるか」
今宵は在庫と過ごすことになりそうだ……。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区の荒屋通り」からアルクスさんが去りました。