2025/08/13 のログ
影時 > 「そうそう、火守のが云うとおりだ。
 意味が分からなくとも、着とけ。……な? それが人世(じんせい)って奴だ」

人間の姿であっても、見た目通りではない。
見た目通りの弱さではなく、数メートルの竜を人間サイズに押し込め、同時に重量も弄っている。それがこの弟子である。
本来の目方、重量で己に乗っかられたら、ただの人間でない身であってもぺちゃんこ、だ。
商会という家の生まれであり、系譜としては聞き及んでいる限り、人と竜の混血の第一世代――半竜。
育て方が個性を作るが、それ以前の段階で野性が先走った。オーバーフローした、と言わんばかりに。

さて、繋ぎを作ってくれた弟子が一歩下がると、この後の交渉相手が変わる。
ポケットからご褒美がてら、小さな袋を取り出して投げよう。干し果物の入った袋だ。
干されてぎゅっと甘みが凝縮されたそれは保存食であり、自分と弟子、毛玉達向けのおやつ。

「加入の意向については、先に述べた通り。
 次にこちらの火守、私のもう一人の弟子が述べたことに関わります。
 
 伝え訊いた処によると、
 異邦風の黒装束、顔を布で覆い、此れ位の背丈のものを誘うか、探すか、と見える依頼が暗殺者ギルドに出ていたと。
 それの依頼元、並びに条件追加等も含む状況変化の有無を探りたい。
 
 ――成功報酬は、該当依頼の報酬額の五倍、進捗の速さ次第で該当依頼に要相談で加算。
 
 依頼報告はこの私、シャッテン・フェレライとの対面、立ち合いでのみ、とさせていただきたいのですが」
 
要件を掻い摘む。どかん、と置く革袋はつい先日、妹弟子を連れて潜った遺跡での発見物を売り払ったもの。
金に糸目をつけるべきとそうでないときがある。これくらいと、言葉に横目にフード姿を見ながら示してみようか。
世の中、金次第で動く。面倒事がそうそうに片着くなら、惜しげなく払う方がかえって安く済む。
悪質な依頼には逆依頼(カウンター)。裏取りも含め、盗賊ギルドを挟んで行う方が、下手に己が存在を露見させるより穏便だろう。

シードル >  腕を組み、ラファルから引き継ぐシードルは、彼女の姿が溶けて消えていくのを見やる。
 今回に関しては、ギルドと彼女の橋渡しであり、ラファル的にはそこまで遣るべきことがないからなのだろう。
 自分のやる事だけやって、放り投げてというスタンスに、軽くシードルはため息を。
 そして、最初の篝の質問に戻る。

「そうねぇ……暗殺ギルドに紹介自体は、できるけれど……。
 そこまでして、入りたいものなのかしら?」

 盗賊ギルド(STRAY FOOL’S)の在り方からして、暗殺ギルドとは、そこまで仲が良いとは言えない。
 しかし、必要に応じて、という事もあるから、紹介自体はできる。
 篝がそこまでして、暗殺ギルドに入りたいのか、という理由を、彼女の口から、説明を求める事にする。
 必要であるなら、殺しだってする、盗賊ギルドだから。
 暗殺ギルドは、それが中心になるし、盗賊ギルドよりももっと締め付けが厳しいところだ。
 望むから入れると言う訳にはいかないのもあるから。

「シャッテンさん、加入者は歓迎するわ。
 よろしくお願いしますね、貴方のような、実力者は、私たち弱小ギルドとしては、本当に喉から手が出ますから。
 ………ね?」

 にっこりと笑う、言葉の外にある言葉の意味。
 彼が何者なのか、と言うのは既に把握済みだというポーズでもある。
 そもそも、渡りになった彼の弟子が、それをすべて教えてくれているようなものでも在る。


 影時の依頼に関しては、ふぅん、と目を細めるシードル。
 篝の方をちらりと見て、そして、後ろに下がるラファルに視線を向けてから。
 最後に、水色の瞳を影時に戻すのだ。

「火守ちゃんの暗殺ギルド加入は、その辺りも事情に入ってるのね。」

 重そうな革袋を眺めて、成程ねぇ、と軽く呟いて。 

> 後ろに下がると同時に気配を消した姉弟子。其れを横目で見つつ、再びギルドマスターへ視線を戻す。

やはり、と言うべきか。
師の目的は娘の元主に繋がるだろう、件の暗殺依頼の詳細を探るものだった。
元とは言え、主の情報を頑なに明かさない娘は、金を積んでまで情報を得ようとする師を複雑な心境で見るが、当然止められるはずもなく。
ただただ、口を重く閉ざすだけだった。

ギルドマスターの彼女が此方の質問に答えれば、顔を上げ期待する。
知人から聞いた話は本当だったと、喜んだのも束の間。
あまり良い反応ではない様子に、僅かに頭を傾け。

「……入りたい、です。
 暗殺者ギルド、後ろ暗い人間の集まる場所、とは理解しています。
 それでも、入りたい」

少しの間を置いて、深く頷きはっきりと自分の望みを告げる。
望んで入れる場所でなくとも、彼方に欲しいと思わせるだけの働きをすれば良い。
短い間だが師の元で学び、冒険者として、人として、正しく直そうとされても尚、娘は暗殺者(アサシン)への拘りを捨てられない。

代わって、師と彼女のやり取りを見る。
此方の方は問題なく取引は成立しそうだった。
――が、やはり。

二人の会話を遮るように、一歩、前に出て。
ケープの裾を強く握りしめながら、娘は口を開く。

「……私がギルドに入りたいのは、その事情とは別です。
 私は、アサシン。それ以外の生き方を知らないし、そうありたいと望んでいる。
 もしも、また働けるなら……戻れるなら……戻りたいとも思っています」

師の教え、心配り。多大な温情を受けても尚、変わらない信念。
それを恩師の前で告げる声は、無感情とはいかず、微かに震える。

影時 > 師匠面をしている身として、この盗賊ギルド幹部が云うことは大変尤もである。
この件を追うだけなら、暗殺者ギルドに関わるのは必須、マストではない。
拘るとすれば、一番弟子とは違う妹弟子自身の身上、志望的なものにこそあるだろう。
この点の意識の改善は、ラファルのまっ裸癖と同列にすると二人とも嫌な顔をするだろうが、易くはないと思われる。

故に、師としては目下の対処事項にこそ注力する。
ミレー族が表立ってうろつくのが面倒というのは代えがたいが、真綿でじわじわと締めに来られるのは面倒この上ない。
言いたいことは色々あり、思うこともある。気になることもある。
気になることだけを言えば、出てくるならば己の方に矛先が向けばいい。そう希望する場合、依頼元に赴けば良いのだろうか?
後ろ暗い政争、貴族間の暗闘に出張ってくる――聖騎士。華々しい印象が先立つ三文字というのは、諧謔に充ちている。

「耳が痛いこととは思うが、私は賛成しないよ火守の。
 ただ、もう少し世を知り、冒険を知り、遊びを知り――諸々が片付いてもなお、そう言うのなら、考慮してやらなくもない」
 
全く。片眼鏡をかけた顔の眉間を揉み解しつつ、大袈裟な仕草で溜息を零す。
殴ったり犯したり等で人格を改変できるなら、とも思うが、其れは下策の下策で、己が好みではない。
ギルド幹部に答える様を聞きつつ、まずはこの件が解決したなら、と。気休めにならない言質をしておこう。

「その様子だと、成る程。テュポンから私のことについては聞き及んでいられる様子。
 まァ……ああいや、一先ず今日の所はこの調子でさせてもらおう。壁に耳あり、障子になんとやら、だ。
 
 何分、可愛い弟子のひとりなのでね。
 それにこの件を突けば面白いものが出てくる、お出ましされるかもしれない、と思えば、金をかけてみたくなる。
 アイサツ料がてらと、此れは報酬の基本額含む先払いと。事足りるならこれでお願いしたいが、如何に?」
 
それはもう、情報はラファルから行っていることだろう。諸々把握済み、という具合か。
仕方がないなと頬を掻きつつ、受け入れられる様子に一先ずほっとしよう。
本業の兼ね合いもあるが、冒険者ギルドで依頼を請ける時に面倒そうな時期はこちらに手伝いをするのも吝かではない。
あとは、現状の要求が受け入れられるか。もう一つ、雑嚢から革袋を取り出し、どすん。
手に持ったままの蒸留酒の瓶が邪魔になってきたので、入れ替わりに雑嚢に捻じ込みつつシードルの眼を見ようか。

シードル > 「それなら、ええ。
 暗殺ギルドに口を利いてあげましょう。
 貴女のような有能な子を此処から、送るのは癪ですけどね。
 で、どのような暗殺ギルドがお望みでしょうか?」

 暗殺と言っても、様々な方法がある。
 それこそ、チンピラのように鉄砲玉として使うようなギルド。
 構成員を大事に育て、大事に使いつぶすギルド。
 特定の相手の身を狙う暗殺ギルド。
 唯々、人を殺せばいいというような、ギルド。
 どこぞの貴族と契約し、その貴族の子飼いのような形のギルド。

 確認はしたが、篝の事を止めることは無い。
 なぜなら、盗賊ギルドは盗賊ギルドでしかない、闇に、深淵に堕ちるのも、全て自分の選択だ。
 そこに、シードルが何かを言うことは、何もない。

 後は、聞いたうえで、篝が、本人が決める事だ、と。

「では、シャッテンさんの依頼に関して報告いたしましょう。」

 金額を出されて、それを確認した。
 顧客が商品(情報)を求め、価格を提示した。
 その価格が適正であれば、盗賊ギルドは、依頼人に商品(情報)を支払う。
 単なる商売のやり取りでしかないのだ。

「あとで書類としてお渡ししますが。
 まず、一番最初に。ヴァリエール伯爵家は、篝さんを死亡扱いしておりますが。
 念のために裏切り者としても扱い、暗殺者を差し向けております。

 次に、篝さんは、このギルドに入った時点で私が情報を隠したので、まだ見つかっておりませんわ。

 三つ目……ヴァリエール伯爵家はやり過ぎております、彼の家を潰そうとしている(貴族)は、彼らをおびえる人達よりも多いですよ。
 四つ目……これは補足になりますが、今なら、逆に暗殺を仕掛けることも可能でしょうね。

 最後に……、貴女を狙う有る存在が、居ますわね。すみませんが、これは、未だ、調査が追い付いていない部分なので。
 おまけとして追加だけ、させていただきますわ。」

 依頼としては、受け取る所存だ。
 今現状判明している事、盗賊ギルドでわかるところは伝えておこう。
 しかし、だ。
 それ以上に暗殺ギルドで持っている情報、盗賊ギルドに流れてきていないものに関しては。
 今はまだ調査中。
 貰った金額に見合った仕事と言うなら、此処も調査対象。
 それを伝えるのだ。

> 師の反応は想像していた通りだった。
賛成しないことも、暗殺以外の人生、愉しみを知れと言うことも。
そして、譲歩する――そう、譲るふりをすることも。
全て理解したうえで、あえて言葉にしてこの場で宣言したのだ。
この意思、抱く願いは死をもってしても変わることがないと、思うが故に。

「…………」

大仰に溜息を吐く様から視線だけでなく、顔まで逸らし、俯いてしまえば緋色はフードに隠れ娘の様子は完全に隠れてしまう。
聞こえてはいるが、答える気が無いことは伝わるだろう。

そして、ギルドマスターから告げられた答えには、跳ねるように顔を上げて振り返り、術で視界から隠した尾がパタパタと揺れる。

「良いのですか? それは、とても嬉しいっ! マスター、感謝します。 
 盗賊ギルドの仕事も、ちゃんとする、ので……。
 う……? うと……、どの? 暗殺者ギルド、いっぱいある……?
 えっと、うー……。仕事が出来れば、それで良い。
 あ、でも、自分で依頼を選べるところが良いです」

喜び、また一歩彼女へ近づいて声を弾ませた。
しかし、想像していなかった暗殺者ギルドの数に困惑し、コテンと首を傾げる。
希望としては、師の手前、強制されるより自主性に任せた形のギルドが良いと考えるが、どうだろう?

さて、大人二人のやり取りは続き、また更に革袋が追加される。
金にものを言わせるやり方だが、盗賊ギルドならばこれぞ正しい交渉術である。
所謂、人情、誇りで飯が食えるか、と言うやつだ。
無論、これも相手が取引相手として此方に興味や好感を抱いていることが前提となるが。

そうして開示される情報は間違いなく。
元主は己が生きていると確証していないことも、出された暗殺依頼のことも仕方ないと割り切り。
また、主に敵が多いことも事実。主がやりすぎている、危険であると聞けば、焦りも滲み。
暗殺を仕掛ける――その言葉を聞けば、不安そうに師へ視線を向ける。
できるなら、ヴァリエール家にも、師にも、争わずいて欲しいと言うのはわがままが過ぎるか。

影時 > 「――なに?」

え、もう、あるのか?情報。まさか――と、平時ならそんな顔も声も出ただろう。
胡乱な依頼が出回っているなら、冷静にその出元を突き止め、二重三重に確認する。確定させる。
暗殺者ギルドに挙がっているとされる依頼の報酬額故に、それを数倍にして漸く明らかなリアクションを見込めるのではないか。
そう考えた。金額の対比として行間を読むように想定できる事情通の感覚は、“何かある”“焦っている”等と。

だが、己は焦らない。
優れた指し手ではない自認だが、標的とされる弟子の動向に網を張っていれば、変な動きも出よう。
――と、思っていたのだが。この有様は“できる”使用人やら執事めいた扮装も、あんまり意味がなかったか。
片眼鏡が落っこちそうになる程の、ぽかんとした驚きぶりは、弟子たちからしたら珍しいかもしれない。

「……――ヴァリエール伯爵。相違ないか?」

書面化されるとは聞いたが、尋ねるのは二人。幹部と火守、もとい、篝。告げられた内容の正否を問う。
前者の反応は考えるまでもない。相違あるまい。後者は――無言を貫くなら、是と判断する。

「その喰いつきっぷりは、私もびっくりの喰いつきっぷりだね……全く。
 強制ではなく、選択の余地があり、出来たら世のため人のためとかあるなら、とは思うよ」
 
全くもう。あからさまな喜色ぶりに、酒の一杯でもキメたくなる心地をふと覚える。
択べる余地があるなら、せめて、とは思う。殺すために殺すモノならば、己が止めるしかない。
殺戮に耽溺するタチではない、本性ではないとは願いたい。
だが、殺すに意味、理由があるというのも、実に諧謔じみている。とはいえ、無駄な願いにはなるまい。
不安そうな眼差しを受け止めながら、苦笑を滲ませて思考を廻す。

「今得た内容を踏まえ、出元が間違いが無いなら、追加で手を打ちたい。
 今伺った内容は、このギルドから外に漏らさないように願いたい。
 そのうえで、当該の依頼に関する人の動きがもし生じるなら、監視の目を張りたいが、話が長くなりそうだな……。
 
 酒と食事を取り寄せて、詰めさせてもらえればいいかな?

 ……――なんにせよ、出元にアイサツをしに行くきっかけは、生じたようだ」

動向を、次の手を考える。依頼の裏取りが出来たが、出元の取り下げには至っていない。
盗賊ギルド側から働きかけるのは、お門違いめいていて、良い動きではない。それはあからさまに感づかれる。
では、その依頼の進捗、変化に対して網を張る。監視をする。その傍らで出元へ仕掛ける。
そんな流れの対処を考えよう。取り敢えず、もう少し出費が増えそうなのが痛いが、仕方がない。

その分は、色々と仕事をして稼がせてもらおう。
話が長くなるなら、ラファルも呼んで食事と酒でもやりながら、話してみようか。

シードル > 「暗殺ギルドに、仕事を選べる場所なんて、無いわ?
 だって、そうでしょう?人を殺すなんて事をするようなギルドが。
 駒である暗殺者の意向を聞くなんて、無いでしょう。」

 篝の言葉に、視線を困ったように篝に向ける。
 非合法のギルド(暗殺ギルド)の構成員に、選択肢など貰えるはずも、ない。殺せ→殺すしかないのだ。
 拒否したり仕事を選べば、その場で粛清対象。
 自分で仕事を選びたいと言うなら、ギルドではなく個人でしかない。
 個人でと言うのは、後ろ盾がないというのはそれこそ、危険と言うよりも。
 唯々、一個の放置された殺人鬼でしかない。
 とりあえず、困ったように師匠である影時に視線を向けて、大丈夫なの、洗脳されてない?と問いかける。
 

「あら、お弟子さんの情報収集能力をお疑いで?」

 こちら(盗賊ギルド)に対する、師匠の質問に対しては、これ以上ない返答。
 彼の弟子が、そもそも所属しているのだと。
 それに、暗殺ギルドが動き始めているなら、情報として出てくる。
 表に出なくても、裏なら大騒ぎレベルで、動くものだ。

「そうですね……STRAY FOOL’S(我々のみ)と言うなら、判りました、と伝えましょう。
 追加報酬次第で。

 ただ、シャッテン様も、冷静におなりになってくださいましな。

 盗賊ギルドが、この国に一体幾つかるのかを。

 自分の所の構成員を黙らせるのは問題ない。
 しかし、他のギルドに関しては、別だ。
 暗殺ギルドだけではなく、盗賊ギルドだって幾つもあるし、その上で、様々な性質がある。
 すべてを黙らせることができるのか?普通に無理だし。
 STRAY FOOL’Sができることが、他のギルドで出来ないと言い切れるはずもない。
 詰まる処、すべてのギルドを潰し、唯一になって初めて、それができるようになる、と。

 婉曲な言い方になったが、物理的に無理、と言うのが返答だ。

「さて、質問や、依頼などは、これで終わりでしょうか?」

 そろそろ、ギルドマスターが起きてくるので、戻らないと、と。
 シードルは、二人を見やる。 

> 流石、情報特化の盗賊ギルド。
国の機密も集めれば、貴族のイザコザ、街のちょっとしたトラブルまでも、情報とあらばここに集まっているのではないかとも思える仕事の速さ。
そこのギルドマスターなれば、これこの通り。
これまた珍しい、ポカンと口を開ける師の間抜けな面を拝めば、彼女の方が一枚上手であったと納得せざるを得ない。

此方へ向けられる問いかけに、娘は視線を合わせずうつ向いたまま。それが肯定の意味となる。
猫缶でも見せつけられたように、現金に喜びマスターに懐く猫は、師のぼやきを聞いてその喜色を表面上は隠すが、術が薄れ現れた尾の揺れまでは隠せない。

「先生……、ごめんなさい。
 世のため、人のための暗殺……? そんなの、あるのでしょうか……。

 ――う? 依頼は選べない、ですか……。
 んー、うー……。えっと、か、考えます……どこにするか、考える……」

世直しの為の暗殺が無いように、依頼を選り好み出来る暗殺者ギルドもない。
そう言われてしまえば、しょんぼりと尾が萎れて垂れ下がる。

出元、元主のもとへ挨拶へ向かう、そう告げる師の言葉もやはり不安で。
食事の提案がされる隣で頭を抱えて、うー、うーと唸り首を捻っていた。
しかし、その悩みも一瞬で吹き飛んでしまうような彼女の言葉に勢いよく顔を上げ

「う? マスター……? シードルが、マスターじゃない? う? んー?」

今度は弟子も一緒にポカンと、猫が猫パンチを喰らったような顔をして、首を傾げるのだった。
謎めく盗賊ギルドの真実は、まだまだ闇の中である。

影時 > 「いや? 私の弟子、だからね。稀に仕損じるとしても基本的には疑うまでもない」

弟子だから皆可愛い、ではない。
目を掛けるものはその血ゆえか、悉くが突き抜けている、あるいは逸出しているもの。
今、此処に連れてきている妹弟子もまた例外ではない。殺し、失うには惜しい。故にこそ生かし弟子とした。
その結果として、色々と変な動き、流れが生じているのは――どう読むべきだろう。
気に掛かる処だ。貴族の暗闘に動員する、非合法的(イリーガル)な人材が生きているからの機密保持?
それにしては動きが遅い。脱走者、離反者は如何なる手を使ってでも、速やかに対処しなければならない。

――半信半疑。確認がてら、としての動き。

今知り得る時点で読み解くならば、そう考える。判断しよう。

「はは、正論正論。まっこと正論だ。
 例えば表に出さずに汚職に手を染め、国の血脈たる税、至宝たる財を貪る者が居るなら、それを排するのは世のため、となるだろうね。
 後々にも関わることだ。……火守は焦らず、急がず、よくよく考えるようにな」
 
世の中、そんな上手く出来ていない。
暗殺者ギルドに挙がる依頼の類で、そんなセイギのマインドに満ちたものなぞ、在ったら奇跡だろう。
殺したいから殺すが先立つ。逆に殺されるから身の守りを固めるため、腕利きを方々に募るという事もあり得る。
故に、気が逸るなら、頭を冷やすように。釘を刺すように篝に告げる。
ギルド幹部から問いかけられるコトバも、まっことに尤も過ぎる。洗脳の線を疑って然るべきだろう。

「いや全く。ああ、――もちろん冷静だとも。どだい全ての口を封じるなんて無理なことだ。
 故に可能な範囲で考えてるよ。
 この場で聞いたことが、此処に居る者以外に漏れなければ良い。漏れたなら、其れは追われてしかるべきだ」
 
追加の支払いは惜しげない。此れで足りるか?と。虎の子として用意しておいたうちの、三つ目の革袋を置く。
置きつつ、告げる先の幹部を見る目は冷たく、鋭く。
詰まりは他言無用。他言無用である筈の事項を万一にでも、第三者が知り得るなら、其れは斬られても仕方があるまい。
このギルド外のものであれば、敵、と見做しても間違いないだろう。
色々と考えるものが、溢れかえってきたころか。うーうーと唸り、考える有様に頃合いかな……とも思いながら。

「マスターとは最初から名乗ったり、テュポンも言及していないだろう?
 ああ、取り敢えず聞きたい、頼みたい内容としては、一通りだと思う。
 最後にお手数だが、袋の中身を確かめてくれると有難い。問題なければ、其れで参入の挨拶代と依頼費とさせていただきたい」
 
此れで一通り、だろう。知恵熱も出てきそうな篝と、ラファルを連れて食事でもしたい処だ。
支払いの内容等、問題なければ酒場の方に戻ろう。後は別途、書類を改め受け取れば帰途に就く頃合いか――。

シードル > 「火守さんが望むような暗殺をしたいなら。
 寧ろ、シャッテンさんの元に居たほうが良いのではないでしょうか?
 後は、私たちのようなギルド。別に正義ではありませんがね。」

 そもそも、むやみやたらに人殺しはしない。
 情報を集めて、殺すべき人物であれば殺すし、暗殺者を差し向ける。
 世のため人のためと言うなら、アサシンギルドよりも、情報を集めて調べてな分、此方の方が、彼女の望みには近いだろう。

 彼女が自分で考えて選ぶというなら、それで良いのだろう、と。

「最初から、テュポンも言ってたでしょう、私は幹部ですが、マスターではありませんよ。
 そもそも、マスターは、男性、です。」

 マスタークラスの技術は持っているが、マスターは別だと告げる。
 シードルはどこをどう見ても、女性だ、男性に見えますか?少しばかり目を半眼にして失礼ですよと伝えた。

「そもそも、火守の周りは騒がしすぎです。
 その辺りは、貴族の傲慢もまた、在ったのでしょうけれど。」

 影時の思考を先に読んだかの返答だが、唯々、これは集まった情報を精査し、そこから導き出した結論でしかない。
 それに、大前提として。
 この国の貴族達は大体腐敗していて、多かれ少なかれ罪を重ねているし。
 それの為に、こういう所(盗賊ギルドや暗殺ギルド)が、はびこるのだから。

 シードルから言わせれば、一番の盗賊って、勇者の称号を得て、公的に家の中を漁って物を持ってく彼らだろう。
 国で認められているので、誰も文句の言えない一団だ、と。

 「承りました。
 この場にいる、4名という事で良いですね?」

 今、此処にいるのは。
 シードル、シャッテン、火守、飽きて寝ているテュポンの4人。
 幹部の部屋だからこそ、盗聴などに対してもしっかりと対策の取られている部屋だ。
 ここから漏れるなら、この4人。
 若しくは、別ルートで、たどり着いた存在、だと思われる。
 ただ、ギルドの威信にかけて、依頼には応えた。

「改めて、シャッテン、火守。
 STRAY FOOL’Sへ、ようこそ。
 細かい約定などは、後程。」

 まだ、調べるべきことは沢山ある、依頼は終わっていない。
 それもあるので、シードルは、三人を返し、情報収集へと、戻るのだろう――――。

> 「……戦場での英雄、圧政に立ち向かう英雄。
 理由を付けて真実か眼を逸らし、何事も正当化する。人間の厄介な習性です。
 やっていることは、どれも殺人なのは変わりない」

所詮、暗殺は殺人。どれだけ正しさで飾ろうとも、その根本は変わらない。
彼女が言ったように、殺人と暗殺の違いは、その意思が他者のものであるか、否か。
ただ殺すことを愉しむなら、それは暗殺者ではなく殺人鬼だ。
大義名分さえあれば殺しにも目を瞑る、そう取れる師の言にフードの下の耳をペタリと伏せ、尾を一振り。

「むぅーん……」

暗殺者ギルドよりも、師の下、或いは盗賊ギルドの方が。
そう言う彼女の声にも耳を伏せたまま、困り果てた様子で首を傾ぐ。
師の下にいれば、暗殺者ではなく、冒険者として矯正されていく未来が見えるし。
なら、盗賊ギルドの方が……いやしかし、と。
続く指摘に首を傾げるが、言われてみれば確かに、と姉弟子の言葉を思い出し。

「幹部、マスターではない……。
 勘違いした。マスターは男。理解しました。

 う。……申し訳、ありません。シードルは綺麗な女性です、そこは間違いない」

半目になる水色の瞳には、素直に謝罪し、頭を下げる。
そして、騒がしすぎる等々、渦中のほぼ中心にいながらも、そこまで問題とも思っていなかった呑気な猫は、キョトンとした顔で師と彼女を交互に見て、最後に姉弟子へと振り返る。
すやすや、いつの間にやら飽きて眠ってしまった姉弟子は自由だった。
難しい話も片付いたと見れば、妹弟子は姉弟子の方へと歩み寄り、眠る顔を見下ろしつつ。
挨拶を交わすシードルへ視線を向け、一礼を返した。

まだまだ問題は山積みである。
仕事へと戻る彼女を見送り、本日の話し合いはこれにて幕引きとなる――。

ご案内:「貧民地区/盗賊ギルド」からシードルさんが去りました。
ご案内:「貧民地区/盗賊ギルド」からさんが去りました。
ご案内:「貧民地区/盗賊ギルド」から影時さんが去りました。