2025/06/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ――カゴメに遭った。久し振りにズタボロだ。
 
 荒れた路上に打ち棄てられたように転がる女。全身殴る蹴るで袋叩きにされて衣服は一部裂けて顔は腫れ、髪も乱れボロ雑巾状態になっていた、が。着衣の乱れなどはほぼなく、乱暴の痕はみられなかった。

 この強姦大国に於いてその憂き目に遭ったことが未だないのはただ運が良いからとか、腕が立つから、という訳でもなく、単にそれを阻む技を習得していたからである。
 要は、事に及ぼうとしたい相手を不能にしてしまう。効果は一時的にではあるが、機能は使い物にならなくなり必然的に手出しができなくなる。
 しかし――、そうなったからといって無傷で済ませてくれないケースも多々あるもので。腹癒せにボコボコに殴って憂さを晴らすというパターンは、さほど珍しくない。
 特に数人いて退路が断たれるとTHE END. 
 死なないだけマシと云うしかない。

「―――……っ、ぅ……」

 都内でも街灯の数もまばらで、さらにそれが切れていても壊れていても放置されるような地域は、夜の深さも一層で、そこかしこに闇溜まりができていた。
 その暗がりの中。ヒーラーは薄汚れた路傍に傷だらけで放置され、苦し気に呻いて身体を折り。そこかしこを血で汚し、意識は朦朧。
 道端へ投棄されたゴミに混じって見上げた腫れた目にぼんやりと映る、建物に切り取られた夜空。
 まだ夏の星座に移り切っておらず、空の半分は春の星座が居残る6月の星空。

ご案内:「王都マグメール 貧民地区」にシルドさんが現れました。
シルド > 貧民地区の治安の悪さから仕事が終われば足早に退散しようとする男。
表通りでも治安が悪く裏通りなら猶更だ。
それでも裏通りを使うのはアルバイトという形で何度も王都の通りを往来していたため、頭より先に体が道順を覚えていたから。
中程度のリスクを長時間進むより高程度のリスクをショートカットする方が良い。
どのみちアクシデントに出くわせば一発アウトといってもいい民間人でしかないのだから。

「――って生臭っ!血っ!?何殺人事件!?」

ざっかざっかという走り寄ってくるような足音。アクシデントを好まないが、男にもまぁ、辛うじてちっぽけなやさしさくらいはある。
ホトケさんをこのままにしておくのも後味や夢見が宜しくない。
血なまぐさいが音はほとんど聞こえてこない。となれば決着はついた後。
最悪なのは殺人鬼がそこにいてホトケさんと一緒にいて死体をめでてるような場合だが、まぁその時は切り札の出番。

「…………って、ぉーぃ、生きてる?」

ゴミに混じっている血生臭さの元。彼女の方に歩み寄って来る男の姿。
割と正確に位置を特定して近寄ってくるあたりは冒険者や『そっちの』仕事への適正を伺わせたりもしている。
彼女が逃げたりしなければ目視できる場所、触れる位置まで近寄っていく事になる。

ティアフェル >  ……なにも、こんなズタボロにしなくっても……いいのに……

 ちらちらと瞬く星座を虚ろな双眸に映しながら、そんなことをぼやき気味に思う。
 腫れて熱を持つ顔。くらくらする頭。ぼー…と霞む視界。汚れて裂けた衣服。
 本当に、なにもここまで徹底的にぼこぼこにしてくれなくてもいいんじゃないか。
 こっちは見ず知らずの輩に襲われたくないんだから、そりゃ抵抗するわ。
 そう思うけど実際にズタズタのボロ雑巾に仕上がってしまったからには、もう精々ぼやくくらいしかない。

「………ん…?」

 そして、暗がりにひっそりと、棄てられたゴミに交じって転がるこちらへ向かう足音が聞こえ。
 星空からそちらへ顔を向ける。

 道端に転がる血みどろで薄汚れた女に気づいて、声をかけてくれる人も、いるのだな。
 そう思うと、なんだか無意識に腫れた顔に薄く微笑が浮かんだ。

「…はぁい……、生きてる、よー…?」

 逃げる気力もないし、その必要も感じなければ顔だけそちらへ向け、何とかひらりと片手を少し上げて見せ。
 暗がりで、へらりと力なく笑って見せ。

「ぇー…なに…? 助け、来てくれた、感じ…?」

 追い打ちなら……祟り殺したくなるが。そんな感じはしないので、好意的に出迎える構え。
 助け、だったらいいな、と甘く淡く期待して緩い口調で尋ねかけ。

シルド > 「あー、いや手上げなくて良いわ。
多少なら夜目効くからな。助けに来るほど善人でもねぇし。」

生きている様子だった。経過などはわからないが、少なくとも目の前の相手が生きているのは事実だし、目の前の相手が実は暴力の権化でしたとかではなさそうだ。
顔を向けられると可愛さが見え隠れする女性。こういう状況でなければ口説いて持ち去ったりとかそんなことも考える余裕があるんだろうが――。

「助けられるような力も持ってねぇしな!
単純に放置して置けるくらいの胆力も度胸もねぇの。血の匂いがするし、静かだったかんな。
死んでたらしかるべき所に運ぶし、生きてるなら――ちょい触るぞ?」

ゴミという不衛生な物に混ぜられているような状況がまずよろしくない。
ここから運ぶなら冒険者ギルドのヒーラーに依頼するか、平民地区の医療施設に運ぶかといった重傷具合に見える。
大出血してる場所がないかどうか、骨が折れてないかどうかくらいは素人でもわかる。
何時もならラッキーとばかりに色々な場所も触りたくなるような相手だが、状況が悪い。そういった行為の触り方よりも傷を探るような触り方。
大出血してる場所があればなくなく自分のシャツを脱いで近くの太い血管を縛るくらいはするつもり。

「なんかこういう場所に似つかわしくない服装に見えるんだが、お上りさんか何かか?だめだぞー、この街は脳みそチンコな男とか暴力ゴリラとか普通にいるからな。
問題が無いなら……あー、一番近いのが多分冒険者ギルドか。あそこに運んで、ヒーラー探す。
次に近いのが医療施設に運んで、になるな。ギルドに顔が効くならそっちに運ぶし、顔が効かない、金はあるなら医療施設。
どっちもないならオッサンの使っている安宿に運んで寝させるの3択。どれがいい?」

目の前の相手がヒーラーとは気づかない。服装もそうだし、ヒーラーなら自分で回復してるだろうな、という思い込みもある。
冒険者への理解度が高くはないのでとりあえず3択を提示。
まぁ、今日の稼ぎは吹っ飛ぶ事は半ば覚悟している。医療施設を希望して、実はお金持ってませんでしたパターンも少しだけ覚悟している。

……男にしては珍しく、心配という感情を浮かべて冗談を口にしながらも相手の返答を待っていた。

ティアフェル > 「……んじゃあ、足上げよ……って違うかぁ……あは。
 えぇ……助けじゃないのー…? じゃあ、何よ…とどめ刺しに来たなら……化けて出てやる…」

 化ける前に満身創痍ながら、最後の余力を使い切って一矢報いてやるが。
 一体何しに来たよ、この人。とわざわざ物珍しくて近づいてきたのかと不審そうな表情を浮かべていれば。

「……助ける力なんかよりも、助けようと思う気持ちが欲しい、わたしですけど、ね……
 えぇ……ほんと、あなたって何しに来たのよ…見棄てたらいいじゃん、道端に落ちてる小汚い女なんか……
 生きて、る、けど…ちょ、触る、って……」

 暴行できなかった腹いせに散々打ち据えられた後だから、びくっ!と、急に触ると伸ばして来た手に身を震わせて、反射的に身を守るように身体をくの字に曲げて頭を庇うように両手で抱え込んだが。
 助けに来たのではないと云っておきながら介抱するような手の動きに気付いて、頭を抱えた腕を緩め伺い見るように彼を見やって。
 また殴られるのかと思った、とどこか気まずそうに構えを解いては。

「……何がだめなのよ。そんな不埒野郎全員不能にしてやるし、なんなら暴力ゴリラはわたしですけども?
 そして、ヒーラーはここにいるわ。……まだ、魔力が戻らないけど……調子が戻ったら自分でなんとかする……
 部屋主のオニィサンは床で寝てもいいってゆうなら、選択肢その3。
 ……オッサンって自分で云ってたらフケ込まん? まだオニイサン、で通しときなよ? けっこーイケてますよ、そこのオニイ、サン?」

 なんて、軽口を叩ける程度には若干回復してきたらしい。
 相変わらず路傍にごみと一緒に転がった、実に汚らしい血みどろ女だったが、腫れた目でにへ、と緩い笑みを浮かべてのたまうのは、その心配そうな表情に気づいて。
 世の中案外捨てたもんでもないじゃん?とそんな風に思えたから。

シルド > 「足上げたら女捨てることになるからやめとけやめとけ。
助けられるなら助けるけどなぁ。
生憎とオッサン回復魔法とかそういうもん使えねぇからな。
だから出来るのはお嬢ちゃんが生きてるなら助けられる回復魔法か、回復処置が出来る場所に運ぶか、薬とかを買って自力で復活してもらうかなの。
――あー、殴ったり、エロいこととかしねぇから。」

あ、やっちまったとばかりにバツが悪そうな顔で頭を下げる。
そりゃそうだ、見知らぬ男が勝手に体に障ろうとしてくる、まして刺し傷かはわからないが暴力を受けた直後なのだ。
むしろ、彼女の動きの方が自然でデリカシーも相手への気遣いも足りてない自分の方が褒められた動きではない。
ただ、体をくの字に曲げたり腕を動かせたりするなら後は足だけが怖い。
背負えば大丈夫かと思う。ここまで会話が出来るなら意識もはっきりしているだろうし、喋りながら血を吐く様な事もない。
少しだけ安心をしたようにため息を。

「同じ部屋にいる事自体、今の反応からだとやめた方が良いだろ。
オッサンは下の酒場とかでのんびり酒でも飲んでる。
――さらっと怖ぇ事聞こえたけど、まぁ手当たり次第に通行人ぶっ飛ばすような人間ではなさそうだしな。
へぇへぇ、オニイサンといってくれるのはお嬢さんくらいなもんだよ。
ちと、痛かったら言えよ。」

回復が若干進んだならいい。背負って部屋に運び、宿屋の台所を借りれば多少はマシな飯を作れるだろう。少なくともこの場所に捨ておくよりはよっぽど回復は早いだろう、多分。
汚らわしく血みどろだろうと、可愛さはある。緩い笑みを浮かべる相手に背中を向けてしゃがみこんだ。
乗れ、とばかりに。汚れる?別に気にならない。ちっぽけな英雄願望が満たされて、かわいー女の子が助かるなら良いじゃんの精神。

「いちおー部屋には鍵ついてるし、ゆっくり休める筈だ。
安宿だから入浴施設はないが、水くらいは出るから部屋に運んでからタオルとかで体を拭くくらいはしときな。
魔法とかはよくわからんから、自力回復出来るようになったらそうすりゃいい。」

ティアフェル > 「全力で両足挙げて、女かなぐり棄ててやろーかな。
 ……倒れてる半死半生の女の生命活動をどーにかしてやろ、ってのはね?
『助ける』ってことよ? オニイサン?
 あなたはあなたに出来る範囲で、自分の不利益にならない程度には助けてやろうと思った、んだとわたしは思うな。
 ………そうみたいね、ごめん……さっきのは悪かった」

 頭を下げる所作に、むしろこっちの方が据わりが悪そうに首を振り。逆に謝罪する。
 彼が殴ったりしてくるつもりがなかったのは、もうちょっと察せても良かっただろう、と咄嗟の防御体勢をとってしまった自分の動きが気まずくて。
 さっきは誤解した、今は別に怖くないと付け加え。
 見た目顔が腫れるくらいボコボコにはされたが……なんせ冒険者でもある。相応にタフだし急所を庇うくらいはできた。
 致命傷というほどの深手ではないが…襲ってくる輩を片っ端から不能にしてやったので魔力は枯渇中。

「やー…? そりゃ何するか云わないで触るって云われたらビクついたけど、別にもう大丈夫だよ。
 紳士的なのはようっく分かったし、無理矢理どうこうしてやろうって連中と違うのも分かるもん。
 そーね……その通行人が痴漢だったらぶっ飛ばさしていただきますが? 目に入った人に闇雲に殴り掛かっていくほど、頭のおかしい犯罪者ではないかな。
 ……いや、やってることイケメンだよ?
 かっこよくって優しいオニイサンって云わなきゃなあ、これはぁ」

 なんてお道化るくらいには刻々と快方には向かっている…というか、ご親切を受けたのが嬉しくて気力が戻ってきている、という方が大きいか。
 こんな腫れぼったい顔、見苦しいに違いないし、さっきの強姦魔も不能が回復してたって再度襲おうって気にはなれない有様だろうが。
 この人はそれでもお嬢さん扱いしてくれるようだ、これがいい男ってやつか、と背中を向ける仕草にしみじみ感じながら。
 通りすがりの親切には全力で乗っておくガワのこちらは、よいしょ…と大儀そうに身を起こせばまずエプロンスタイルの白衣を外して裏返しにして着用し直した。
 少しは汚れが直で彼の衣服に着くのを防げるかと思って。
 それから、よっこいしょ…とその背中に身を預けるように背負われる姿勢になり、首に後ろから体勢が安定するよう手を回すと。
 おばあちゃんの小芝居。年寄くさい口調で、

「すまないねェ、お若いの……
 世話になるよぅ。
 ………っふふ、やっさし! ありがと。じゃありがたーく甘えよ」

 そして恩義は忘れぬ……ここまで気を回してもらったなら、後でぜひ謝礼をと考えるが、今は先に回復するのが恩に対する報いだろうと考え。