2026/03/19 のログ
■ヴァン > 茶髪が己の負けを認められる男でよかったと思う。
粗相をするようではこの剣会で今後、事あるごとに話のネタにされてしまうだろう。
武を重んじる者達は往々にして酒の強さも競いたがる。引き際を見誤る者という烙印が押される前に決着がついたのは幸運だった。
勝負が決まる前、若者たちが飲んでいるものを男は見た。
ウィスキーはワインのように樽で用意されたものがあるからそれだろう。泡立つワインは一種類しかなかった気がする。
少女が口にするものは――濃い青色からしてブルーキュラソー、柑橘系の口当たりが強いものだろう。
菓子類など甘いものが好きだという印象が強かったので、少し意外だった。とはいえ、勝負中なのでその程度の印象だった。
「人にちょっかいをかける時は、その前に相手をよく観察することだ。
子爵とのやりとりを見ていたようだが――物事は落としどころや、とりなす人物の存在が大事だ。
それらがない場合、本意ではないが徹底的にやらざるを得ない。地獄の底まで追いかけ、ツケを払わせる」
茶髪がもし続けていたならば、彼は嘔吐、気絶などに至ったかもしれない。
負けを認める、落としどころとして提示されたから男はそれを呑んだ。相手が挑戦的なら男は更に酒を勧め、無理にでも飲ませたろう。
男の預かり知らぬ所で動いている出来事を知る茶髪と金髪はどんな心情で聞いただろうか。
「……久々に、一気に飲みすぎたな。元々の予定通り、我々はこれで失礼するとしよう。
ナイト、飲み終わったなら行こう。今ならまだ馬車もスムーズに出発できるだろう」
誰に話しかけるともなく呟いた後、シグルズとそのお目付け役に対して辞去する旨を告げる。
一杯だけ、という約束は守られている。男は好きに飲んだだけだ。
少女に対して声をかけるのは、長居するつもりはないという意思表示か。言外に早く飲干せと言っているあたり、デリカシーがない。
その間にウェイターにレシピを聞く。少女好みの味なら、次飲む時に酒を勧めるいい道標となるだろうという考え。
男の顔は全体的に赤みが増している他はいつも通りだ。
何事もなければ大広間を出て廊下を進み、男が手配した馬車に乗り込むことになるだろう。
■ナイト > 『はっはっは、それは恐ろしい。貴殿は噂に聞いた通りの男だな。……おお、すまん。ありがとう。
ああ、全くだ。今後は気を付けることにしよう。無論、彼らにも言い聞かせるとも。
――ふふっ、あの時の貴殿の目は昔と同じ色をしていたが、今は随分と違うのだな……』
茶髪の男は仲間に支えられながら、渡された水を一気に飲み干し酒気を和らげようとする。
呂律は多少なりましにはなってきたが、足元は未だ支えがなければ立ってはいられない様子で、カウンターに寄りかかりながら片付けられていくショットグラスを見送る。
ふと、最後に呟いた言葉は、昔を名残惜しむようであり、また今の彼を正しく認識を改めたともとれる。
引き際を間違えれば徹底的に打ちのめされる。男は、そんな失敗をするような年齢ではもう無い。
では、何故無理をして勝負を挑んだか。それは、色々な柵が関係している――。
名を呼ばれ、少女は少し酒が回っている様子の彼を見て、まだ半分以上残っていたグラスを一瞥する。
少女とて、試験結果が覆るようなことになってはたまらないので、会場に長居するつもりはない。
「はーい、承知したわ。これ飲んじゃうから、ちょっと待ってて。――んー……、ぷはっ。ご馳走様」
素直に返事をして、グラスを傾け喉を鳴らしながら一息に飲み込み、その酒の強さに少し胸が熱くなったがそれ以上の変化はなく。
にこりと微笑みウエイターへ空のグラスを返して立ち上がる。
その瞬間、若人二人を除く男たちがざわついた。あり得ないものを見たかのように、あんぐりと口を開け、少女の姿をまじまじと見つめる。
「あん? 何よ? 何かついてる?」
そう男たちを一睨みするが、彼らは開いた口を今度は固く閉ざし、首を横に振る。
隣に座っていた二人にも視線を向けるが、彼らも首を横に振り、いぶかし気に男たちの様子を見て首を傾げた。
「…………まぁ、良いわ。今日の夜会は中々楽しかったから、その無礼も見逃してあげる。
待たせたわね、行きましょう」
少女は暫くの無言を挟んだ後、ゆっくりと瞬き、小さく嘆息して彼らを睨みながら歩き出す。
かつ、かつ、かつ、としっかりとした足取りで彼の方へと向かい、シグルズとそのお目付け役には「また合同訓練でね」と軽く声をかけてその場を後にする。
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―――
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狂犬と聖騎士が大広間を去った後、彼ら二人は先輩たちのしでかしたことを知ることになる。
その話を聞いて頭を抱えそうになったが、またそれと同時に先輩たちと同様、茫然ともしてしまう。
男達は少女の酒に混ぜ物を加えるよう、密かにウエイターにチップを握らせ薬を手渡していた。
そのため、色の濃い、アルコールの強い酒を選び作ることとなった。彼がそのレシピを聞いたなら、巷のレディーキラーをベースにしつつ、高級感ある仕上がりにまとまるような内容になっているだろう。
しかし、きっと彼がその酒を作っても同じ味にはならない。
あれは象を一瞬で倒すような痺れ薬と、高濃度の媚薬を混ぜた特別製だったのだから。
そんな毒を一服盛られても、ケロリとした様子で立ち去る少女の姿に男たちは驚いていた。
そして改めて思うのだ。どんなに見た目は人間に見えても、あの小娘は魔族の国から来た化け物なのだと――。
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」からナイトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」からヴァンさんが去りました。