2026/03/16 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」にナイトさんが現れました。
■ナイト > 酒が混じる席で、こう言ったトラブルは時々あるものだ。
流石に貴族の夜会でも起きるとは思わなかったが、いざとなれば実力行使で怪我しない程度に片付けようと思っていた。
ここで可憐なご令嬢であれば誰かが助けに入ったのかもしれない。が、残念なことにそんな王子さまは現れず。少女自身も、周囲に助けを求める気などなく、自分を囲む男達に負けるはずがないと高を括っていた。
言い方は悪いが、この下心しかない騎士達のことを完全に見下し雑魚扱いしていたが故に、周りが見えなくなるほどブチ切れるようなこともない。
まぁ、少女の代わりに完全にキレてしまっている聖騎士様がいるのだが。
胸中で「私が我慢したのに、なんでそっちがキレてるのよ!?」と叫び、頭を抱えたくなったのは言うまでもない。
しかし、そんなことを言える雰囲気でもなくて、いたって真面目に話を聞いた。
良く知らない子爵の妹のこと。従士にと薦める家と本人の中にあった希望のすれ違いがそもそもの原因だと言う話だった。
それを汲んだ聖騎士側から理を入れ、面子を潰されたと貴族側は根に持ち、粘着質な嫌がらせに至ったと。
その話が真実であるなら、確かに少女が売り言葉に買い言葉で言い返した発言は間違っていた。……あの場で窘められ、謝罪して本当に良かった。
いつまでも威嚇してきそうなフォークを視界の端に捉えつつ、早くこの場から暴力の化身を連れ出そうと、手を差し出しダンスに誘う。
雰囲気の変わった楽器の音も手伝って、彼の意識はこちらに釣られ、機嫌が戻ったかは分からないが、とりあえずあのひどく冷え切った目ではなくなって密かに安堵する。
少女が差し出した手に、彼は仰々しく屈み、恭しく口付け――触れてはいない。――をする。
まるで恋愛小説のワンシーンのような光景に、少女もまんざらでもなさそうな顔で微笑んだ。
だが、やはりこの男は一言余計である。
「失礼ね! あんなに練習したんだから、もう足を踏むほど下手じゃないわよ。私が踏むときはわざとだって覚えときなさい!」
睥睨したジト目で男を見下ろして、偉そうにそう言い切ると、ふんっ!と鼻を鳴らす。
彼のエスコートを受け、少女は共に広間の中央へと歩いて行くだろう。
足取りは重くもなく、軽くもなく。怒っている様子はないが、心なしか慎重であり、触れた手は冷たく緊張しているようす。
やがて会場内にはゆったりとしたワルツの音色が響き出す。
「ふぅ……――うん。
どうぞ、お相手よろしくお願いします。騎士様」
一つゆっくりと深呼吸をして、スカートの裾を軽く摘まみ上げ、マナー講師に何度も教え込まれたお辞儀する。
■ヴァン > もし男が聞かれたならば、男は一瞬口ごもるに違いなかった。
その後に「試験の邪魔をされたから」「俺の連れだと承知の上で難癖をつけてきたから」と答えることだろう。
おそらく試験官はこのトラブルは控えめに採点するだろうし、男に対してちょっかいをかける存在は打合せの時から予想できていた。
しかし、男はまったくの被害者という訳ではない。子爵の件も、しっかりと令嬢の希望を重んじ、支援していれば拗れはしなかった。
ある意味では、この不和は男自身が蒔いた種である、とも言えた。
弄んでいたフォークをテーブルの上に静かに置く。子爵が項垂れ、周囲も何も言わないのでとりあえずは良しとする。
減らず口を叩くのは、男の精神状態が通常に戻ったことを示すものでもあった。
激情に駆られていても冗談を言えるほど、この男は器用ではない。
「もちろん知ってるさ。だからこそ、他の紳士には任せられない……と、冗談はさておき。
二人きりで練習した時と違って周囲にも人がいるが、彼等の動きを予想できるナイト嬢ならぶつかることはないだろう。
君の動きに俺が合わせるから、大船に乗った気でいてくれ」
自分以外に少女を怒らせないか、あるいは怒った少女を御せる者はいないだろう、と考えるのはさすがに自信過剰か。
周囲に動く障害物がある分、練習の時よりはハードルが高い。だが、周囲の状況を読み取れない娘ではない。
それより、試験官をはじめ多くの参加者の視線が集まる場だ。少女は緊張する性質ではないだろうと思いつつも言葉をかける。
過去に男が伝えた、ダンスを喩えた言葉を想起して、周囲に見られながら――などと、あらぬ妄想に繋がらないように。
一応、男の軽口は少女の緊張を解くことも考えられてはいたが、それで怒らせては意味がない。
「こちらこそ、お嬢様」
少女のカーテシーにあわせ、ボウ・アンド・スクレープで返す。
平民同様の暮らしを行い、ヴァリエール邸ではやや粗雑さが窺える男であったが、その所作はとても自然なものだった。
騎士であり、さまざまな顔を持つ男の一つとして、確かに貴族であった。
腰へ右手を回し、左手を。少女の右手へ。二人きりの時のように、伸ばされた手は柔らかく、丁寧に。
音楽にあわせてゆらゆらと、波に揺られる海月のように穏やかに踊り始める。
最初は緩やかに、ダンスフロアという海原に飛び出すのはもう少ししてからだ。
■ナイト > 「――……あっそ。大丈夫よ、向こうからわざとぶつかって来るようならわからないけれど、そんな荒っぽいダンスをする貴族はいないでしょ?
はいはい、頼りにしているわ。転びそうになったら助けてちょうだい」
この広い会場の中なら、少女を怒らせる者は何人かいるかもしないが、少女を御せる者は恐らく彼一人だろう。
武力的な意味合いで止められるものは探せばいるのだろうが、少女を宥めて抑えられるマタドールは他にいないからだ。
背中に目は無いけれど、音の反響で静物の位置を予測し、動く気配で他の参加者を避けるのも難しくない。
もし仮に、緊張をほぐす為にと揶揄い交じりにセクハラされていたなら、きっと少女は頬を赤く染めてダンスを放棄し、広場から出て行ってしまったかもしれない。
揶揄いつつもほど良く自重したのは彼の英断である。
少しぎこちなさの残る少女のお時宜に比べ、彼の方は自然だった。
生まれ、育ちの環境の差。口の悪さは別として、彼の立ち振る舞いには、貴族としての優雅さが指先までしっかりと沁みついていた。
――ゆっくりと曲が始まる。距離を取って立っていた他のペアが手を取り踊り出すのを横目で見ながら、少女も真剣な面持ちで右手を上げ、反対の手は彼の肩へと軽く添える。
彼の右手は腰を抱くと言うよりは、支えるような格好で少女の細い腰へ回されて。
互いに顔を見つめ合い、静かに音楽のリズムに合わせて体を揺らす。彼のペースに合わせ、互いの心臓の音を重ねるように、何度か基礎となるステップを繰り返し、調子を整えていく。
「…………行くわよ、1……、2……、3……っ!」
ずれなく互いの歩みが合わされば、少女は思い切って、音楽に合わせて大きく一歩踏み出し、海原へと舟をこぎ出す。
周りには聞こえないような小さな掛け声も、無線を通じて彼には十分聞こえているだろう。
ゆらり、ゆらり、広間には色とりどりの花が漂う。
赤、青、白、黄、女性の纏う華やかで艶やかなドレスが、揺れて、回ってと動けば花はますます美しく咲く。
煌びやかなシャンデリアの光がキラキラと輝き、物語の中でしか見たことのない景色の中に自分も加わっているというのは、とても新鮮な気分だった。
■ヴァン > 少女の言う通り、この場にいる者達はそれなりに夜会に慣れている者達だ。
片方がとんでもなくお転婆か、あるいは双方の注意不足でもなければ接触は考えられない。
いかに男か少女、あるいはその両方が気に食わないとしても、大広間の真ん中でぶつかってくる手合いは流石にいない。
少女のステップにあわせ、二人はくるくると円を描きながら移動する。
広間のいたる所からやや感嘆にも似た声が漏れる。男には覚えがない声なので、おそらく少女と関りがあった者達だろう。
少女の顔へと視線を向ける。経験が浅いうちはダンスを楽しむ余裕もなく、気付いたら終わっていたということは珍しくはない。
少女はどうだろうか。仕える家での地位を高める試験の一環と割り切っているのだろうか。胸中を窺うのは野暮ではある。
少女の腰に触れる男の手がとん、と当たった。聞き慣れた音楽のタイミング。
握った手を放し、少女は回りながら互いの身体に触れていた手をとってポーズを決める場面だ。
失敗することはないだろうが、そんな予兆があれば男が動いてフォローすれば良い。
騎士服同士で踊る組もいるが、やはりドレスの持つ華には敵わない。少女は間違いなくその華の一つであった。
その美しさを引き立てる相方達。武に己の本分を置きつつ、この場の主役が誰か弁えている者達といえた。
男がその一人でいることは、少女にとっては意外だっただろうか。あるいは、できて当然と思うのか。
楽団が奏でる曲が変わりつつある。今まで奏でられた曲が遠くなり、微かに新たな曲が訪れ、近づいてくる。
少女をリードするように広間の中央から端へと移り行き、別の曲が奏でられた時には二人で動きを止めていた。
「……どうだった、初めてのダンスは?」
美少女といえる娘に、次のお誘いが来る可能性はなくはなかったが、少女の本性か男の背景、どちらも知らぬ者しか申し込まないだろう。
念の為周囲を一瞥してそのような相手がいないことを確認する。
■ナイト > くるくると回って夜空色の花を咲かせながら、流れゆく景色は騎士達が佇む夜会の広間。もう緊張して足を踏むような失敗はしない程度に余計な力は抜けていて。
とてもよく聞こえる少女の耳は、楽器の音以外も色々と拾ってしまっていた。
先ほどの騒動で垣根に加わっていた一人だろう。まだ文句を言い足らなくて、仲間に愚痴っている。
“あの味方殺しのキレようときたら、子爵の鎌かけも案外当たってたりしてな。”
”あともう一歩でお零れにあり付けたのに残念だった。あの娘も肉付きの悪さに目を瞑れば、あとは中々。気の強い女を無理矢理ってのも――……。”
叶わぬ妄想を酒に任せて吐いているようす。その声が彼に届いていないことを祈りながら、少しだけ大きく前に出て場所を移動する。
すると、先ほどの声とは別の声が上がった。くるり、くるり、ワルツのリズムに合わせながら回り、その声の主にチラリと目を向ける。
そこにあった見知った顔を見た途端、少女はぱちくりと目を丸め、うっかりステップを間違いそうになりながら、彼にフォローされて立て直す。
「――とと、ごめん。ありがとう」
軽くお礼を告げながら、今はダンスに集中して、この音色が終わるまでの短い時間に向き合う。
華やかな夜会の花となって、支えてくれる腕の中で咲き誇り、ポーズを決めれば試験官のチェックも問題なく通過できたことだろう。
曲が切り替わる。入れ替わるようにして、フロアの中心へと向かっていく参加者たちを見送りながら、尋ねる声に微笑み。
「少し緊張したけど、初陣としては上々だったんじゃない? 楽しかったわ」
煌びやかな舞台の上に立っていたような心地にまだ心が浮ついているのか、踊る人々を眩し気に目を細めて眺めながら言う。
夜会を楽しんでと告げた彼の言葉の通り、少女は剣会の酸いも甘いも経験した上で楽しかったと答えるのだった。
またお酒でも貰いに行こうか、などと言いかけた時だった。『おーい』と、遠くから二人の方へ歩み寄ってくる人物が二人。
少女はその顔を見ると、明らかに億劫そうな表情になり、聞こえないふりをしようとしたが『おい、ブラックフォード』と名指しされては流石に返事をせざる負えない。
やってきたのは二人組の男で、片方は身長180cm前後、騎士にしては細身でオレンジ掛かった癖毛が特徴的な猫目。年齢は少女と同年代で、まだ若手の部類に入る。もう片方は片割れより少し背丈もあり体格も良い、黒髪で地味な見た目の控えめな青年。
猫目の男は、ズカズカと近づくと、少女を見下ろし眉間に皺を寄せた。少女が口を開くのを待っているようで、じぃーっと見つめるばかりで。
「あー……。ご機嫌よう、ネイガーウズ子爵家の……名前はシグルズだったかしら?」
『おお、やっと覚えたか。ったく、この俺がわざわざ挨拶に来てやったってのに、相変わらず可愛くない女だな。笑顔の一つでも見せたらどうだ』
別に頼んでない。偉そうな男の態度に少女は心底面倒くさそうな顔をしていた。
この男が以前酒場で少女が話していた、面倒くさい相手だろうことは彼なら聞かずともわかるだろう。
無論、男の方も彼の噂は聞き及んでいるようで、無駄に煽ったりはせず、様子を伺いながら軽く会釈をして挨拶をする。
『初めまして、図書館の聖騎士殿、お噂はかねがね。突然で悪いが、こちらの従士殿を少々お借りしてもよろしいだろうか?』
■ヴァン > 耳を澄ませていれば聞き取れたかもしれないが、男の最優先課題は少女を無事に合格させることだ。
それ以上優先させること――生命の危機であれば身体が勝手に動くが、そんな状況ではない。
とはいえ――全てが全て、事実と反する訳でもない。
少女が目を見開いて元に戻るまで、僅かながら間があった。常に少女の顔を視界に入れていたからよくわかる。
ステップの遅れは己の動きを変えることで恙なく終える。ありがとう、の声には微笑みながら頷いた。
「楽しめたんなら何よりだ。相手と協力しながら楽しむのが一番だ」
新たにフロアの中央に向かっていく男女たちへと、少女と同じように視線を向けながら返事をした。
この場所を訪れてから今までのことだとは思わずに、単にダンスに関してだと勘違いして。
挨拶をすませたり、ダンスをしたり、酒を堪能したり。他の楽しみのために別室へ移動する者達も出てきた頃合いだ。
宴も酣ではあるが、帰り支度を始めた方が良いかもしれない。帰りの馬車を待つ列ができるし、酔った手合いが絡んでこないとも限らない。
試験官が合否を判定するだけの十分な時間は過ごせただろうと、口にする前にあまり場に合わない声に一瞬眉を顰めた。
若い男が発した声だったことで納得する。こういう会合を同窓会のように感じてしまうのだろう。
旧交を温めるのは結構なことだが、そのやり方を周囲は――有体に言えば他の貴族も見ている。
少女の表情が変わったことで、どうやら無事戻るまでにもう一波乱ありそうだと男は察した。
赤毛は男より拳一つ、黒髪はもう少し高いか。男が記憶している長男の特徴とは一致しない。
友人というにはシグルズに対して一歩引いている。お目付け役だろうか? 試験官の可能性も、なくはない。
猫目から挨拶に鷹揚に頷いた後、かぶりをふった。
「どんな噂やら……若い者達の友情に口を挟むつもりはないが、ちょうどお暇しようと思っていたところでね。
今日は彼女の主に頼まれて、見聞を広めるために伴っているんだ。夜会は騎士の訓練とはまた別の神経を使うだろう。
いつも通り気丈に振舞っているが、初参加ということもあって少々疲れが出ているようだ。
淑女を無事に送り届けるのも騎士の務め、ってことで……」
波風が立たぬよう断りの文句を告げる。
男は伯爵から頼まれており、無理を通せば男だけでなく伯爵の不興を買うだろうこと。
夜会に関しては猫目の方が狼娘よりも経験が豊富であることを匂わせ、自尊心を擽る。
そして、少女の体調を理由にする。本人が否定したらおじゃんになるが、わざわざ流れに掉さす真似はしないだろう。
淑女の意向を軽んじるなど、武人にはあってはならぬことだ。――実際に淑女かどうかは置いておくとして、マナーとはそういうものだ。