2026/03/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」にナイトさんが現れました。
■ナイト > 彼が広間から去るのを遠目に見送り、独りきりになると退屈そうにワイングラスを回して眺めたり、チーズのツマミを頼んだりと時間を潰していた。
幸か不幸か、好奇の視線に晒されてはいたが話しかけて来る勇者は居らず、狂犬に自ら手を差し出して噛まれたがる馬鹿もいなかった。
それも十分と少しが過ぎるまでだ。
不意に声を掛けられ振り向けば、そこには三人の男がいた。
親玉らしい金髪長身の大男と、両隣は子分か。彼らは何がおかしいのかニヤついている。
そのいやらしい笑みだけで、ぶん殴るだけの理由になるが、今は心の中で待ったをかけるイマジナリー聖騎士に免じて、渋々拳を収める。
確か、事前に聞いていた中で一番気を付けるように言われていたのは子爵だったか。
妹を聖騎士の従士にと願い出たが振られてしまい、そこから拗れたとか。この男がそうなのだろう。
図体だけは立派だが、本人が居ないところでしか陰口も大口も叩けない小心者と見える。
少女はにこりと上品に微笑んだかと思うと、鼻で男たちを笑い飛ばす。
「――あら、貴方ご存じなくて?
ヴァルキリーの隣に立てるのは運命を捻じ伏せられる強者だけだって。
そうでなくては生き残れないもの。当然よね?」
ジョークにはジョークを。嫌味には、拳ではなく嫌味を。
そう教えられたとおりに、左手を腰に当て、顎を上げ、自信たっぷりの笑みを浮かべて周囲に響かぬ程度の声で告げる。
成り行きではあったが、自分はあの聖騎士に正面から挑み、認められてこの立場にいるのだと言外に告げるのだ。
「さぁ、貴方たちが怖くて怖くて仕方なーいヴァルキリー様が来る前に、とっととお帰りくださいな」
勿論、挑発することも忘れずに。ひらひらと手を振って、ご退場願おうとする。
■子爵 > 少女の内心に気付くことはなくとも、侮辱を聞き分ける程度の頭はあるようだ。
気色ばむ取り巻き二人は軽率にも右手を左腰へ向けようとするが、金髪男は鋭く制止した。
「やめろ、非武装の者に……。
なるほど、君の言う通りだ。彼が戦場に出ることはないだろうが、戦時下で彼の隣にいることを考えなかった私が軽率だったよ。
とはいえ、“ヴァルキリー”ともあろう者が十三師団の狂犬を従士にするとは。この目で見るまでは信じられなかったな」
ワイングラスを傾けた後、薬を飲んだ後のような表情を浮かべる。舌戦の心得もあるとは想定外だったか。
続いた言葉は悔し紛れの上、自分の判断が誤っていることを認めるかの発言だが、“味方殺し”の汚名を暗に言っている。
ただ負けるつもりはないらしい。相手も道連れ、せめて足元にあった泥くらいは被せてやろう、という心算か。
矛先は聖騎士ではなく、少女へと向けられる。小物は小物なりに、多少の意趣返しをしなければ気が済まないようだ。
「切っ先がどこに向かうかわからん奴は確かに怖いな、ならその前に片づけるとしよう。
貴族でもない者が従士になるなど……数々の誘いを断ってきたあの男にどうやって取り入った?
運命を捻じ伏せるというのは、たとえば腹を見せながら尻尾を振ることか? もらったソーセージとミルクは美味かったか?」
子爵はいたくプライドを傷つけられているのか、苦々し気な表情で少女を見下ろすと毒のある言葉を吐いた。
犬でよく知られているが、狼も腹を見せることは服従のサインだ。人の姿でそれをしたならば、男が――雄がどう動くかは想像できる。
躰を武器に取り入って従士の地位を得たのだろうと、子爵は少女を揶揄していた。
取り巻きの二人は下卑た視線を隠そうともせず、少女を舐めるような視線で見ている。
それと同時に――周囲の妙な動きに気付くだろう。争いの匂いを嗅ぎつけて無関係な者が立ち去り、男に遺恨を持つ者が集まって来た。
大広間ではあるものの、緩やかに囲まれている。試験官らしき人物達からの視線が通っているのは、幸か不幸か。
■ナイト > 「あらあら、お酒は苦手なようで。どうか無理はなさらず……。
ほかの目が気になるようでしたら、私がジュースを頼んで差し上げましょうか?
女は男と違って、酒以外を頼んでも大して気にする者もいないでしょうから」
苦い顔をする言い訳に酒を使うなら、それも使って倍にして返してやろうと言い返す。舌戦でも少女の攻撃性は変わらないらしい。
狂犬と言う不名誉な仇名も今では聞きなれたものであり、逆上して噛みつくほどでもない。
無論、小物に揶揄い半分で煽られるのは腹が立つし、このような場でなければ回し蹴りの一つでも叩き込むところだが。
少女は笑みを崩さず、むしろ楽し気にクスクスと笑っていた。
しかし、それも男が続けて吐いた苦し紛れの一矢によってピタリと止まってしまう。
男たちに向けた瞳はスッと細めればナイフのように鋭く、その奥には憤怒に荒れ狂う殺気が秘められ、周囲の気温が数度は下がったような錯覚を与えるだろう。
声を荒げそうになるのを一呼吸空けることでどうにか抑え込み、冷笑を男へと向ける。
「随分と想像だけでものを語るのね。貴方、剣よりも筆を握る方が才能を生かせるんじゃないかしら?
お生憎さま。私は自分が認めた者以外に仕えるつもりはないわ。その主にだって、尾を振ったことは一度もない。
信じられないなら、同じことを三つ首の蛇にも尋ねてみてはいかが?
――ああ、貴方がそんなくだらない想像をしてしまうのも、きっと未だに未練がおありだからでしょうね……。
残念だけれど、そろそろ諦めて認めては? ご自身の妹君が剣の腕でも、容姿でも、ヴァルキリーのお眼鏡に叶わなかったって」
全ては男のくだらない妄言、負け惜しみの遠吠えとして一蹴して肩を竦めて見せる。
それもこれも、彼とこの子爵の過去の因縁から来るものだろうと周りにもよく聞こえるように声を張り上げて。
男が少女を貶し揶揄うならば、それは同時に男自身と妹を貶すことに他ならず。
また、貴族でもない、人間ですらない狂犬にも妹が劣っていると認め、知らしめることにもなる。
加えて、少女としては不本意であるが、主の威を借りて、ヴァリエール伯爵家をも敵に回しかねないと言う事実を教えてやるのだった。
これでもまだ言い返してくるようなら、その時はどうしてやろうか……。
少し迷っている内心を振りまく殺気で誤魔化しながら、男と取り巻き、そして周囲に寄ってきた敵意ある視線を意識して軽く視線を巡らせる。
試験官の視線も……――残念ながら、あるか。
■子爵 > 「慣れようとはしているんだが、故郷の味に親しむのが長かったものでね。
こちらの方が美味いのだと、頭ではわかっているのだが。身体が覚えるには時間がかかる」
子爵の服と同じ色のワインは産地によって渋みが違う。白を飲みなれた者にとって、赤を飲めば表情に出るのもやむをえまい。
男ほどではないが、この子爵も減らず口を叩けるらしい。続けて放った言葉が少女の逆鱗を軽く撫でたかと微笑みを深くする。
取り巻きはチンピラめいて、少女の殺気に互いに顔をあわせ、不安げな視線を子爵へと向ける。
「長男ですらなかったら、そういう選択肢も選べたかもしれないね。想像だけで――そういうことにしておくか。
ヴァリエール家は実力本位、という話は耳にした。非常に柔軟な発想だ。実利を求める姿勢は流石と言うべきか。
感嘆はしているよ。私のような騎士風情には同じようにはできないし、しようとも思わないが」
その伯爵家の試験の真っ最中である、ということを子爵は知らない。
ただ、気に入らない相手が大事にしているものを傷つけてやろう、という恨み、僻み、嫉み。
少女が仕える主に対しては、畑違いだから深くは糾弾しないが、良い話は聞かないと伝えるに留める。
しかし、未練があると少女に図星を指されると子爵の表情が変わった。相変わらず微笑みを湛えたような表情だが、ぎり、と歯がなる音。
ワインを口にして、テーブルにグラスを置く間に周囲を確認する。部屋の隅で奏でられる楽器の調子が変わった。
あと少しでダンスの時間らしい。
「おやおや。君の美しさにつられて、多くの人が集まっているようだ。
どうだい? “我々”と、踊ってみないか? 聖騎士殿とも踊っているんだろう?」
にこり――否、にやりと笑う。どんな界隈でもあくどい手管は紋切り型だ。それだけ成功率が高いともいえる。
女の意向を無視して別室に連れ込み、後は数をたよりに“好きにする”。下種の典型パターン。周囲には十数人、十分すぎる数だ。
少女は抵抗し、暴力に訴えるだろうがそうなったらしめたもの。周囲の証言をもとに「ダンスに誘って断られた」と言えばいい。
誘いの断り方にもマナーがある。騎士になって一年程度、おそらくマナーなど修得していないだろう。
暴力を誘発し、教育係である騎士を貶める。うまく部屋に連れ込めたならばそれはそれ。痛みを恐れぬ捨て身の戦法。
悪行を他の参加者から隠すように周囲の男達が輪を狭めるように動く。丁寧さを装って、子爵の手が伸び――。
■ナイト > 貴族とは、皆が皆こうも言い逃れが上手いのか。剣より先に言い訳や体裁を守るためのマナーを習うのかもしれない。
そう思ったことは口にせず、男の言い訳を追求することは止めておくことにした。
逃げる獣を追い詰めすぎると何をしでかすか分かったものではないからだ。
窮鼠猫を噛む。思いもよらぬ反撃に合っては、互いに引き際を無くしてしまう。
そうわかってはいたのだが、少女の生意気な言葉は男の古傷を抉り、その引き際から一歩前進させることになる。
顔に出やすく煽りやすい男が、笑みの仮面で隠した裏で静かに怒るのを眺めながら、ふんっ、と少女は勝ち誇って鼻で笑う。
このまま尻尾を巻いて逃げるだろうと思いきや、男はグラスを置いて。
まだここに居座るのかと半ば呆れたが、広間に流れる音楽が色合いを変えるのに合わせるように、男たちの雰囲気も少し変わった。
上品に着飾り隠していた獣の本性を露わにした、と言うのが正しいか。
男は嫌な笑みを浮かべて少女を誘う。少しずつ、にじり寄るように囲いを狭める周囲の気配。周り全て敵であることは明白だった。
前に言われた聖騎士の冗談がなければ言葉通りに受け取っていたかもしれないが、誘いの裏にある意図は色ごとの経験が薄い少女でも流石に察する。
ここで跳ねのけてしまうのは、少女の怪力であれば簡単なことだろう。
相手は所詮人間。男の一人や二人、よほど腕が立つか守りの上手い者でなければ、投げ飛ばすも捻じ伏せるも一瞬だろう。
だが、それは同時に、少女が主の指定した試験に落ちた結果を意味する。
苛立ち紛れに大きく嘆息し、少女は手に持っていたグラスを回しながら、流し目で子爵を見た。
「こんなに沢山の殿方からダンスに誘って頂けるのは光栄だけど、ここで待つようにその聖騎士から言われているのよ。
勝手にいなくなったら何を言われるか分かったものじゃないわ。
せめて、ヴァン様が戻るまで待っていてもらえるかしら?」
少し考えて口にした言い訳は苦しいか。
これで素直に『じゃあ待とうか』などと答えるほど、彼らも馬鹿ではないだろう。
やれやれと片目を閉じて少女が次の言い訳を考えていると、先に舌戦を止めた子爵の手が此方へと伸びる。
それより早く、少女は手を上げ――
「あらあら、せっかちね。まだダンスの音楽は始まってないわよ?」
触れようとした子爵の手を先に取り、しっかりと握って離さず、その場に固定する。
一見、ダンスの誘いに応じて手を取ったようにも見える光景だが、魔狼に捕まった男だけはその異常な状態に気づくだろう。
腕を引こうと、押そうと、びくともしないのだ。まるで巨大な岩か魔獣を相手にしているようだと、そう感じるだろう。
■ヴァン > 男はまだ、少女に教えていなかった。
貴族というものは所詮武力を礎とした集団に過ぎず、根源は“舐められたら殺す”であることを。
だから普通は他の貴族の領分を侵食しない。冗談で誤魔化せ、追及されたなら無粋と言い返せるレベルに留める。
だがそれは相手が王侯貴族の場合だ。それに満たない者に対して、己と同等に扱う者は基本的にはいない。
子爵は少女を軽く見ていた。多少言葉で脅し、心にいくつか傷をつけることで溜飲を下げる。
人からは惨めと笑われるかもしれないが、自身の中で切欠、責任は聖騎士へと向けられている。全てあいつが悪い、と。
予想外に少女の弁が立つこと、他にも『同志』がいたことで、子爵は容易く道を踏み外そうとしている。
『随分と束縛の強い聖騎士殿だ。多少の息抜きにも目を光らせるなんて。
そんなに時間はとらせないよ。せいぜい一曲――!?』
伸ばした手が、動かない。人伝の噂で聞いてはいても、少女の膂力は子爵の想定を遥かに超えるものだった。
隠しきれない動揺を察したか、取り巻きが少女を攻撃対象と認識する。少女は使えて片手片足。男達には剣のリーチがある。
しかし子爵は左手を後ろに向けて取り巻きを制した。チンピラにもチンピラの矜持がある。
子爵の様子が変だと周囲の男達がざわめく中、カツ、カツ、カツ……と、硬質な靴音が響いた。
「完璧だ、ナイト嬢。よくお留守番できてたな。
子爵……妹君は今ご活躍されている通り、文官を強く望まれていた。政治や家の道具にするには勿体ない人材だ。
ナイト嬢。その場にいない人物の悪口を言うな、決してだ。お里が知れる、と後ろ指を指されてもいいなら別だが」
皮肉が標準装備の低い声色。席を外していた聖騎士が戻って来た。右手で弄んでいるフォークについて、深く言及しない方がよさそうだ。
少女が子爵の右腕を固定していなければ、この男が串刺しにしていたことだろう。
男は騒動の渦中にいる二人に手短に告げる。子爵には年長者として窘めるように。少女には部下として厳しく手短に。
海を割った聖人の如く男は少女達に近づいて、周囲を見遣る。男の魔導通信では発信はできずとも、受信はできていたようだ。
何が起こったのか、周囲は何をしていたのか――男はおおよそを察しているようだった。
「<謹聴せよ>……『以下の三つの事項に関して貴公らの理解を求める。
第一に、ミス・ブラックフォードはヴァリエール伯爵を主とする正式な騎士であり、貴公らに害をなす存在ではない。
第二に、彼女は現在私の麾下にあり、これに関する全ての責任と権限はシルバーブレイド家が負っている。
最後に……ナイトは私の相棒だ。彼女に敵意を向けるものは私の敵対者と判断する』」
小さく呪言を呟いた後、低く、だがよく通る声で男は周囲を睥睨し、滔々と語った。
普段の素行と真っ向から矛盾するような言葉も、男の断言するような口ぶりの前には異議を唱え辛いだろう。少女自身も含めて。
首に巻かれた装飾は第二の事項が事実であることを示している。それがわからぬ者はこの場にはいない。
そして最後の言葉。暴力を稼業とする者達の前で、躊躇わずに言葉を紡ぐ。暴力を抑止するには暴力しかないのだ。
周囲に向ける男の目を、少女は二度見たことがある。一度目は街の外で、二度目は図書館の地下で。
感情を排したように装っている双眸。軽薄な言い方だが、ブチ切れている時の目だ。
このまま男を放っておいたなら、より単純かつ簡単な解決法――暴力で全て黙らせる――を選ぶことは間違いない。試験も台無しだ。
少女にとって予想外の問題か。この場から男を穏便に遠ざける機転が必要だ。
背後で流れる音楽は徐々に音量を増している。