2026/03/11 のログ
■ナイト > 「……っ、……今のは聞かなかったことにしてあげる」
ここで大声を出して夜会をぶち壊すほど少女も馬鹿ではない。
先日のこともあり、セクハラだと騒ぎ立てたくなる気持ちもあったが、ぐっと堪えてこの場を飲み込んだ。
無論、彼を見る少女の目は鋭く射殺さんばかりであったとか。
「出向中? ふーん、聖騎士団もそう言うことあるのね。昔世話になった相手だから今でもそう思ってるってことじゃない?
ふふっ、その考えは大いに納得だわ。強いことは良いことだもの」
彼は否定するが、そうは見えなかった。気軽に話せる親戚くらいに思われているのは、相当身近に感じられていると言うことなのだから。
ついいつもの癖でしてしまった仕草を注意されると、一瞬ぎょっとして、慌てて腕を解き後ろに回す。
普段の行いはやはり不意に出てしまうらしい。まだまだ真の淑女への道のりには遠いようだ。
お互い多くの視線が集中される中、普段の少女なら『文句でもあるわけ? 用があるならはっきり言いなさいよっ!』と詰め寄っているところだが、試験の最中はそうもいかない。
そろそろ視線にも慣れてきてしまって、辟易としてため息も漏れるが、ふと呟いた彼の一言だけは、そう悪い気はしなかった。
折角見つけた獲物に逃げられて残念がる少女だったが、完全に姿が見えなくなると諦めて男の下に戻って来る。
その姿は公園ではしゃいだ飼い犬が、子供相手に思いっきりじゃれついていたら親が慌てて止めに来た。そんな様子にも見えるだろう。
試験官が此れをどう評価するか少し不安でもあったが、行ってしまったものは仕方ない。
「……そ、そうね。気を取り直していきましょう。話下手? 私とヴァンが?」
彼の言葉を励ましと受け取り、部屋の隅へとついて行く。
道中、彼が言ったことにキョトンとした顔で聞き返す様子は、ちっとも自覚が無いようで。
彼の皮肉が効いたブラックジョークも、少女の多少苛烈で荒い言動も、少女にとっては話下手ではないらしい。
同じくグラスを受け取り、メニューの中から赤ワインに合いそうなクラッカーにローストビーフを乗せた肴を指さして。
夜会のマナーのおさらいや、彼が出向先でどんな仕事をしているのかなど、興味の向いたことを次々に尋ねながら楽しい時間を過ごしていた。
会釈だけで去って行く面々の中で、一人だけ彼に声を掛けて来る者が居た。
女男爵の所で見た老騎士だ。相手は彼にだけ用があるらしく、彼も断らず応じると言うことは、以前話に聞いていた厄介な二人の内どちらかの関係だと勘が働く。
「――? ええ、大丈夫よ。って言うか、その言い方凄く子ども扱いしてない?
一人で大丈夫だから、幾らでも席を外していただいて結構よ。行ってらっしゃい」
断りを入れる彼を快く……――少し見栄を張った返しをしつつ手を振り送り出す。
幾らでもとは言ったが、彼の事だ、話が住めばすぐに戻って来るだろう。それまで、自分は大人しくここで待っていれば良い。
多少トラブルがあったとしても、それくらい一人で乗り越えられると自分を信じてワイングラスを傾けた。
■ヴァン > 軽口が切欠で試験がおじゃんになることは避けられたようだ。
少女からの視線には気づかないふりをする。
思っていた通り、強い事は良い事という返事が返ってきた。
身近な親戚――というのは、言い得て妙だ。彼等に対して権限も責任もない。目上でありながら、怖れる必要はない。
気軽さがある一方、彼等が窮地に陥ったとして、彼等の上司と違って男は死ぬ気で助けたりはしないだろう。
戻って来た少女は少ししょんぼりとした様子にも見えたが、行動自体は悪いものではなかった。
無作法を働いた訳ではないし、主を蔑ろにした訳でもない。少女騎士一個人が知人を増やそうとすることは何ら問題ない。
話下手という言葉を補足するように、魔導通信で「人からの評価が極端ということだ」と呟いた。
他の参加者を見ながらマナーの補足をしたり、図書館での具体的な仕事を話したり……。
普段話さない話題は面白いものだ。意外な一面を知ることができる。
男は少女の言葉を聞くと頷いて、魔導通信で声を出しながら歩き出す。侯爵は大広間にはいないらしく、出入り口へと向かう。
十数mも離れればノイズが強く聞き取り辛くなり、男が広間を出る頃には何も聞こえない状態になった。
十数分経った頃だろうか。少女の前に三人の男が現れた。
真ん中の男は二十代半ばの金髪の男性で、身長は190cm近い。赤い装束に身を包んだ偉丈夫だ。
男が“子爵”と言っていた人物と特徴が一致している。子爵は少女を見下ろすようにして問いかける。
「――君が、“ヴァルキリー”の従士かい? 彼は大人しい女性を好む、と聞いていたが……」
取り巻きらしき二人の男達は、何がおかしいのか小さく笑う。
少女の悪名をこの三人は知っているようだ。
名乗らないのはそこまでの用件ではないのか、あるいは――少女に名乗る必要などない、という貴族の傲慢さか。
三人の無遠慮な視線に少女は覚えがあるだろう。戦場や軍で、女だからと舐めてかかる男達。
そんな男達の中でも、性欲を隠さない下劣な手合い。顔、胸元から腰を品定めするかのように眺めている。
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」からヴァンさんが去りました。
■ナイト > 【次回継続にて】
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」からナイトさんが去りました。