2026/03/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」にさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」からさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城/大広間」にナイトさんが現れました。
ヴァン > 伯爵家に馬車で迎えにきた男の姿は、少女の予想と少し違ったかもしれない。
白い礼服。これは先日男の部屋で見たものと同じ、神殿騎士団のものだ。白い手袋もつけているが、そう不思議ではない。
大きく違うのは髪だ。礼服を着ている時の男は常に銀髪をオールバックにしていたが、その髪がかなり短い。
スパイキーオールバック、というのだろうか。ハリネズミのように短髪を後ろに流し、ツーブロックに刈り込んでいる。
従来はオールバックにすることで年相応の年齢に見えていたが、今の姿は少女と二、三しか歳が離れていないようにすら見える。

少女の反応を見てニッと唇の端を歪めて笑う様は、まるで悪童のようだ。
普段と異なる装いをして目立たないようにするなど、何かしら意図はあるのだろう。多分。

腰に帯剣していない。私服の時は腰と背中の間に短剣を装備していたようだが、何か重い物を身に着けている様子はない。
一方で右の手首。見たことのない黒い腕輪を肌に密着するように装備している。

しばらく馬車に揺られ、やがて王城へと辿り着く。少女に対する乗降時の振舞いはまるで淑女に対するようだった。
恭しく手をとった後、会場の大広間へと続く廊下をゆっくりと歩む。

「招待状を預かっておこう。受付に渡すのがスムーズだ」

すっと手を差し出す。それと同時に今日何度目となるか、少女の爪先から頭の天辺までを眺めた。

ナイト > 今宵は試験の時。それを知っている者は、珍しいもの見たさで少女の様子を覗きに行き、知らぬ者は少女のめかし込んだ姿に大層驚いていた。
何を隠そう今夜は初めての夜会。長い黒髪を結い上げ、星をちりばめた夜空色のドレスに身を包んだ少女は、いつもより幾分大人びた雰囲気を漂わせている。
馬子にも衣装。胸元が物足りないと言う者もいれば、これはこれでと頷く者もいたり。

また、屋敷へと迎えに来た馬車に乗っていた者を見て、兵士は最初訝し気だったが、その顔をようく見て驚き敬礼し、若いメイド達は黄色い悲鳴を上げてキャッキャとはしゃいでいたりもした。
そんな騒がしいヴァリエール家を出て、馬車に揺られること僅か。夜会の会場である王城へと到着する――。

少女は見慣れない男の顔――主に髪型のせい――を眺めながら、エスコートの手を取り下車する。
カツ、と石畳を叩くヒールの音を響かせて、堂々と胸を張り今宵の戦場を見上げ、ふんっと鼻を鳴らした。

「……ええ、お願いするわ。やっぱり中々慣れないわね、ヴァンのそれ。
 声を聞くまで本人かどうか自信が持てなかったもの。まぁ、似合ってはいるけど。まったく上手く化けたわね」

差し出された手を一瞥し、招待状を手渡しながら、改めて男の顔をじっくりと眺めてから感心したように言う。
いつもより一段と若く見えるその容姿で、余計な争いを避けられるならそれも一つの手だろう。
少女はドレスの下に仕込んだチョーカーを軽く指で押さえて確認し、静かに息を吐いて瞼を閉じる。
緊張を解き、瞼を開ければ少女らしい自信に満ちた強気な笑顔を浮かべた。

ヴァン > 白い靴が立てる硬い足音が廊下に響く。
男は普段速足だが、今日は少し落ち着いているように見える。

「久しぶりにこの服に袖を通すから、昔を懐かしんでつい、ね。現役の頃は外見に頓着しなかった。
君こそ、どこのお嬢様かと思ったよ。この夜会で悪い虫がつかないようにしっかりエスコートしないとな」

笑みを返しつつ振り返る。ゆっくりとした歩みが止まった。周囲を見遣り、不思議そうな表情を浮かべる。
眉を顰めたまま少女へと視線を向け、イヤリングから小さく声が響いた。すぐ間近にいるのに微かにノイズが混じる。

<……!! 魔導妨害(ジャミング)? こんな警戒までしているのか?
あー、転移の位置が少しずれたり、透視を防ぐ障壁のようなものだ。この分だと、部屋を隔てた通信は難しそうだ>

男は定期的に城へと赴くが、だいたいは訓練所がある区画か神殿騎士団が警備する場所にしか用がない。
大広間など無縁の所だが、下調べの不足が仇となったか。短時間でも席を外す時、連絡がとれないことに一抹の不安を覚える。
少女は男よりも感覚が鋭い。魔術的な変化以外にも何か違和感はないかと視線が問うている。

そんな束の間のやり取りを終えるとすぐに大広間前の受付へと到着した。
大広間の近くには大小いくつもの部屋が並んでいる。酒をゆったりと嗜む所、歓談に花を咲かせる所、少し“休憩”する所。
最後の用途に用いられそうな部屋が多いのは、この国の退廃を表しているようだ。

「試験だが、まずは夜会を楽しもう。わからないことがあったら遠慮なく聞いてくれ」

受付を済ませた後、少女へ告げる。男が軽く自分の首元に触れたのは、魔導通信を使うようにという助言か。
そして、大広間へと一歩を踏み出した。

ナイト > 男の靴音に重ねるようにして後に続く。ゆったりとした歩調は余裕が見える。否、見せているのか。

「頓着してなくてそれなの? ……元が良いってのもある意味問題だわ。
 ――ふふん、そうでしょ。もっと褒めてもいいのよ? ええ、それはもう丁重に扱いなさいっ」

振り返る男の顔には笑みが浮かぶ。少女もワンテンポ遅れて足を止め、近い距離でそれを見上げた。
現役の頃、などと振り返っているが、今でも十分現役に見えているので違和感が凄いのだが。
外見に気を配っていなかったと言いつつも、屋敷のメイド達の騒ぎようを思うとついつい半目になって、呆れたように溜息を吐き額に手を当てる。
が、褒められればすぐに機嫌を良くして、上機嫌に声を弾ませた。

程なくして、イヤリング型の受信機から声が響く。
ノイズ混じりの声は聞きにくくはあるが、何とか聞き取れた。真横にいてこれでは、彼の言う通り離れれば完全に途絶えてしまうだろう。
焦った様子の彼に比べ、此方は落ち着いた様子で問いかける視線に頷いて返し。

『警備用の結界かしら? 流石王城ね、しっかりしてる。了解。出来るだけ離れないように気を付けるわ。
 ――特段気になることはいけど……、警備の数はこれが普通なの? それとも、今日だけの配置かしら?』

無線を通じて男にだけ聞こえる程度の声量で、辺りを軽く見渡してから答える。
一見気になることは無い。が、王城に滅多に訪れぬ少女では違和感に気付かないことも多いか。
警備の兵は真面目そうな顔で入口に立ち、広間に出入りする者達の顔を一人一人確認して覚えているようだった。

そうして、受付前に来れば人数も増え、騎士服に身を包んだ男たちが軽く談笑を交わしながら部屋に入って行く後姿を見る。
受付の方は彼に任せ、多くの扉が並ぶ廊下を眺め、どう言う意図で使われるか想像しては、出来る限り健全な方へと想像を寄せておくことにする。
一つ良かったことと言えば、夜会が始まる前から部屋に籠る爛れた騎士はいないと言うことがわかったことくらいだ。

「楽しんで良いの? そっか……。ええ、わかったわ!」

少し意外そうな顔をしてキョトンと目を丸め、すぐにそれは嬉しそうな笑みに変わる。
彼の手元を見ては小さく頷いて、共に大広間へと進んで行く。
さて、中の様子はどんな感じか。

ヴァン > 少女の質問には軽く頷きながら思い返す。
若い頃は実用を重んじて髪は短くしていた。匂いで存在がばれるから、今のように整髪料はつけない。
当時はもっと埃っぽい日常だった。平時は清潔であるよう心掛けはしたが、着飾ろうとは思わなかった。

<警備は……どうかな。大広間ならこんなものか。魔族が侵入を試みたという噂もあるが……>

言い淀む。魔族は拘束されたと聞いたが、その目的や処遇などは伝わってこない。少なくとも、今日問題になることはないだろう。
楽しんでよいか、という質問には大きく頷いた。表情が硬い、動きがぎこちないといった採点を試験官がしないとも限らない。
緊張をほぐして、しかし乱暴な素が出ない程度に振舞うのがベストといえそうだ。


ざわ……っ。
扉が開かれた大広間へ二人が足を踏み入れると、矢のように敵意の視線が男に突き刺さる。想定通りの様相に唇の端を歪め、嗤った。
敵意と怖れ、同情と憧憬が綯交ぜになった場。気付いたのなら、反応せずにはいられない。短髪は偽装の効果は皆無だったようだ。
会場を睥睨し、近くの騎士で視線を止める。物理的な力が働いたかのように、男よりも頭一つは大きい騎士が顔を逸らし背を向ける。
周囲を飛び交う囁き声は少女の耳なら容易に拾えることだろう。

「あの格好、まさか“味方殺し”か?」「神殿騎士団の礼装、低い背で銀髪に三白眼……間違いない」「どの面下げてこの夜会に……」
「隣にいる女は……?」「確か十三師団で、去年あたり騎士になった……」「“ヴァリエールの狂犬”!? なぜ二人が?」
「おい、滅多な事を言うな。“亜竜殺し(ワイバーン・キラー)”らしい。証人が何人もいる。喉笛を食いちぎられるぞ」

ひそひそ声は大広間を広がり、壁にあたってはさざ波のように寄せては返す。男はゆっくりと広間の中央へと向かう。

<二時に男、四時に男女、九時に女……目だけ向けろ。参加者の試験官候補だ。
試験官が使用人なら近づいてくるかもしれない。用心を>

視線を油断なく周囲に向けて、男を見た参加者の中で特異な――落ち着いた反応をした人物をピックアップした。
男について何も知らなくても、周囲がざわつけば何事かと気になる筈だ。注意するよう少女に警告しておく。

「さて、どのあたりに行くか……まずは軽く何かつまむか、人の多い所で顔を売るか、あるいは静かに端に居座るか。どうする?」

ビュッフェ形式に近いが、自分でとるのではなく使用人に品名を伝えて盛り付けさせる、貴族絡みではよくあるタイプだ。
ワインなど、喉を潤すものならば広間を行きかう使用人に声をかければ手に入るだろう。
どこに向かってもなにがしかのアクシデントが起こりそうな予感がするが、行先は少女に委ねることにした。

ナイト > 男の返答を聞いて、なるほどと頷きだけを返す。王城ではこれが普通らしい。
それ以外は今の所気になることも無く、大広間へと向かうのだった。

足を踏み入れると同時に一斉に視線が突き刺さる。主に、前を行く男にだ。ざわついた原因はすぐに耳で拾うことが出来た。
彼はどうやら本当に嫌われているらしい。少女自身、初対面で噂に踊らされ、それはそれは酷い喧嘩腰の挨拶を見舞ったので何も言えないが、この中で実際に彼と話をしたことがある人間はそう多くは無いだろう。
大概の人間は偏見と噂だけで相手を見る。……実に耳が痛い話だ。
そのざわめきの中には少女自身を指すものもあったが、それにはむしろ気を良くして、彼らが噂する異名に恥じない振舞をせねばと胸を張るのだった。

男が他の騎士に背を向けられる中、少女はその反対側にいた若い騎士と目が合うと、ニッコリと愛想の良い笑みを浮かべる。

「御機嫌ようっ」

明るく声を弾ませ、小首を傾げて挨拶をすると、騎士は隣と顔を見合わせながらぎこちなく笑みを返すのだった。
その様子に少女は満足げに笑みを深め、掴みは上々と足取り軽く彼の後を追う。
途中、指示された方へ視線を巡らせ、上げられた数人の顔を確認する。どれも知らない顔だが、覚えるのに苦労しない数なので問題ない。

『了解』

一言だけ返事を返し、愛想良く笑みを浮かべたまま中央へと歩いて行く。
どう過ごすかと問う声には、少し考えてから返事をした。

「食事は……今日はあまり入りそうにないから、疲れる前に挨拶周りをしておきましょう。
 ヴァンと仲の良い騎士は今日は参加してるかしら?」

コルセットで締め上げられた脇腹にそっと手を当て、苦笑しながら肩を竦めた。
食事は食べれても本当に軽くだけ、飲み物を片手に壁の花になるのは挨拶が済んだ後で良いだろう。
まずは、一番厄介そうなところから片付けてしまおうと答え、人が集まって良そうな方へと視線を向ける。

ヴァン > 男は己に付き纏う悪評を公の場で殊更に否定はしない。
少女に対してもそういう話の流れでなければ話すことはなかっただろう。

探るような囁き声は次第に沈みゆき、大広間には歓談の声が戻って来た。
明確な敵対者でなければ気にすることはない。武人にありがちな豪放さを有する者が多いのだろう。
剣の切っ先のような鋭い視線が時折向けられるが、男は気にした風もない。否、正確にはある単語にだけ反応していた。

「贅沢は言わないから、あと5cmは欲しかったな……」

王国民としては平均に近いが、戦闘職にある者として男の背は低いと言えるだろう。
冒険者や兵士なら、その平均は180から185cmほどだろうか。別種族との混血などで2mを超す巨躯も時折見かける。
剣会の男達の中では短躯といえるが、醸し出す雰囲気はそんなことを一切感じさせない。

少女はしっかりと疑わしい人物を捉えたようだ。目星をつけただけでまずはよしとする。
続く声にはそうだな、と呟くと顎に手をあてて考える素振りをした。

「会えば話をする連中はいくらかいるが、彼等はこういう場で俺と一緒にいる所を見られるのを好まないかもしれない。
貴族間はしがらみとか色々あるからね。そういう遠慮をしなくてもよさそうなのは……と」

お、と呟くと歩き出す。その先には男と同じ白い礼服。三十手前と思しき金髪の男性は接近に気付くと向き直り、意外そうな顔をした。
少女と男を交互に見遣った後に口を開く。

『どういう風の吹き回しです、副長? こういう所は好まないもの、と思っていましたが。なぜヴァリエール家の騎士と?』
「耳が早いな。夜会がどんなものか案内しているのさ。お前さんは?」
『いつも通り、レディーとお近づきになれないかとね。副長がいると俺が霞むんで距離をとってくれませんか。
 若いモンに声をかける時は優しく頼みますよ。あぁ……何かあったら、すぐ声をかけてください』

軽口を叩き合いながら金髪の男はナイトにも礼をして立ち去っていく。男は孤立無援という訳でもないようだ。
金髪に釘を刺されたからか、他の神殿騎士団と思しき者達に視線を向けると彼等も気付いていたのか、ぴしりと礼をする。
苦笑しつつ、少女へと向き直った。

「君が挨拶する相手はいるかい? 前言っていた絡んでくるような奴とか……」

ナイト > 「あら、意外とそう言うのは気にするのね」

漏れ聞こえた意外な願い事は子供っぽく感じたか。少女は少しおかしそうに言う。
そんな数cmの差など些細な問題だと笑うのは簡単だが、当事者としては切実なところなのだろう。
何せ騎士だ。背の高さ、手足の長さは大いに戦況を左右する要因にもなりうる。そう言う面も含めて、ついつい思ってしまうのかもしれない。
少女としてはそれ以上背が高くなると見上げる時に首が痛くなりそうなので、今のままで良いと思うのだが。

こちらが問えば、また嫌われ者()の辛い所が見えて来る。
確かに、噂がある人物と公の場で懇意にしているのを見せれば、根も葉もない噂を立てられかねない。
下手に敵を作る事にもなると考えれば、迂闊に接触もしてこないか。

「――? 副長……」

不意に声を上げ、歩き出した彼が向かう先には、彼と揃いの白い礼服に身を包む男がいた。
どうやら部下の一人らしい。二人の会話に耳を傾けながら、目が合えば軽く会釈だけを返し口は挟まずに相手を見送る。
改めて会場内を見渡せば、彼らと同じ白い礼服姿の者が何人かいることに気付く。彼らも同じ聖騎士なのだろうか。
騎士団内でどう扱われているかは聞いたことがないが、少なくとも目の前の男からは慕われている様子が感じられた。
男が去って行くのを見送り、他の白い騎士達も彼に礼をする様子を眺めながら、納得したように頷いだ。

「ふーん。一匹オオカミと言えども、部下からは一応慕われてるのね。
 ん? 私? 私はまぁ、そこまで知り合いは多くないから……。
 見知った顔だからって下手に話しかけに行ったら逆に警戒されちゃいそうだし。トラブルは避けた方が良いでしょ?
 あー……アレは良いのよ。どうせ放っておいても自分から絡んで来るもの」

少女は挨拶する相手を問われると、何とも歯切れ悪く、目を逸らして腕組みをする。
ヴァリエール家での兵士からの扱いがああなのだ、他でも厄介者と思われているのは否めない。
それを自覚できる程度に、相当やんちゃをやらかしてきたのだろう。一時期籍を置いていた十三騎士団の元同僚にも自分から声を掛けに行くことは控えると言う。
来る者は拒まず、去る者は追わず。消極的だが、それが一番良いだろう。

「どうせなら、知らない相手に挨拶に行くほうが良いわね。
 悪い噂も払拭できるかもしれないし。

 ――こんばんは、御機嫌よう。
 お初にお目にかかります。ヴァリエール家の騎士、ナイト・ブラックフォードと申します」

溜息を吐くのは止めて、気持ちを切り替え手近に居た見知らぬ若い黒服の騎士へと声を掛けに行く。
彼らは何処の所属か問えば、とある男爵家に仕えているそうで、見習いを卒業し、先輩について初めて夜会へ訪れたと言う。
彼と少女の噂も知らないようで、警戒心無く笑顔を返してくれていたのだが……。

途中で髭を蓄えた老騎士が血相を変えて飛び込んで、若い騎士を背に隠しながら青ざめた顔で引きつった笑みを浮かべる。

『失礼しますお嬢さん、申し訳ないのですがコイツに急ぎの用がありまして。申し訳ない!』

「え? あ、ちょっ―― ……行っちゃた。残念ね」

そうして、老騎士は大慌てで若い騎士の腕を引き、大広間の隅へと連れていかれるのだった。
少女はせっかく見つけた獲物が奪われ、心底残念そうに肩を落とす。

ヴァン > おかしそうに笑う少女に対し、やや憮然とした表情で返す。

「同程度の能力なら体格が勝負を決める。この身長でいいことは――女の子にキスがしやすいぐらいか」

言ってから失言に気付く。いつものようにぎゃんぎゃんと吠え出したら大きな失点になりかねない。
とはいえとりなすように動くのも逆効果か。この場では大人しくしていてくれるよう内心願った。


「……正確には副長ではないんだがな。俺は騎士団長直属で出向中、彼は王城警護隊の一員で、隊長は別にいる。
まぁ……武力、強さを好む人間はどこにでもいる、ってことさ」

慕われてるなど、そこまで大層なものではないと否定する。彼等にとっては気軽に話せる親戚の叔父さん程度の存在だと。
続く言葉を聞きながら、腕組みをやめるように魔導通信で注意する。騎士服ならまだしも、ドレスには合わない姿勢だ。
男は己への視線には特に敏感であったが、よく観察すれば少女にもちらちらと視線が向けられていることに気付く。
まるで腫れ物に触るような――似た者同士だな、俺達は、と呟いた。

少女が初対面の相手に挨拶に行くのを後ろから眺めつつ、目星をつけていた試験官候補を視界の端に留める。
何かを書き留める、話をするといった様子は見られない。気のせいだったか――と視線を戻すと、若い騎士の後ろ姿が見えた。
どうやら危険人物と関わり合いになる寸前をお目付け役が救出したようだ。気にするな、と少女に告げる。

「この広間をゆっくり歩いてみよう。 誰かから声がかかるかもしれないし、試験官の仕込みが来るかもしれない。
なに、俺も君も話下手だってことをアンリはよく知っている。少なくともその点で減点をくらうことはなかろうよ」

そう言うと部屋の隅の方へと移動を始め、ゆったりとしたペースで室内を歩んでいく。
給仕からワイングラスを受け取り、メニューに気になるものがないか少女に問いかけたり、知己と思しき存在と会釈だけ交わしたり。
時々テーブルの近くに立ち止まってはワインを嗜みつつ、初の夜会であろう少女から質問を受け付けたり。
比較的穏やかな時間を数十分過ごせていたが、その平穏は女男爵の村で知り合った老騎士の来訪によって破られた。

「開拓伯、ご挨拶が遅れ申し訳ない。狩猟会では世話になりました」
『あぁ、ヴァン。挨拶はいい。少し顔を貸してくれんか。――“侯爵”が話をしたいそうだ』

男は露骨に嫌な顔をした後、少女を一瞥した。
伯爵家と敵対する者だ。ナイトを伴って向かったならば挨拶は避けられず、120%トラブルになる。
呼び出しを断って心証が悪化する程度ならば良い。相手が男を探しにきたら同じことになる。
単身で向かい、とっとと切り上げて戻ってくるのがよさそうだが、その間この少女はトラブルを呼び込まずにいられるだろうか?
嘆息の後、少女へと語り掛ける。

「ちょっと席を外すことになるが、その間いい子にしていられるかい?」