2025/09/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城・夜会」にフェブラリアさんが現れました。
フェブラリア >  
ゆらゆらと水色の尾を揺らし、白きドレスを纏う少女もまた、この夜会に参加していた。
彼女は海運で名の知れたフェブルアーリア家の令嬢、フェブラリア。
幾人かの貴族には忌諱の視線を向けられながらも、少女は顔色一つ変えずに、ただ静かに佇んでいた。

「(必要な事とは言え、やはり少々退屈ですね)」

フェブラリアは内心そう思いつつも、感情を表に出すことは決してない。
貴族としてはこうした社交の場も仕事の一つ。

他愛のない会話や相応の政治的な話を交わしつつ、各地の情勢や情報を記憶する。
それらの中から自らの生業に使えそうな情報を選別する作業は、フェブラリアにとっては造作もない事だった。

ただ、それでも退屈な事には変わりない。
故にある程度の社交的な会話が終われば、彼女は見に徹することとしていた。

「おや……」

そんな折に視線を見やった先に居たのが、ホールの隅に佇む少女であった。

イヴリール >  
この場に佇んでいてもすべきことはなく、宴を楽しむ事もできない。
かといって、勝手に帰れば後で叱責されるかもしれない……。

ただただ、臆病な少女は壁の近く、なるべく目立たないようにと佇む他なかった。
しかし、そんな中…。

「……?」

ふと、視線を感じて顔をあげる。
向いた先には白い装いの、幼気な少女。
華奢な自分よりもより華奢に、幼く見える…。
夜会の参加者も色々、それでも目を引く尾や、その容貌につい視線を奪われて。

フェブラリア >  
どこかの貴族が引き連れて来た、王族に連なる少女。
最初にそう紹介されたのは、フェブラリアも覚えている。
しかし、その後の印象は殆どない。

「(…なるほど、箔をつける為の、ですか)」

今視線の先に居る少女の様子をからして、殆ど社交の場に関わっても居ない。
故に恐らく、最初の紹介以上に彼女の役割は無かったのだろう、と。
フェブラリアはそう結論付けて、一瞬の思案の後にゆっくりとその歩を少女の方へと向けて。

「御機嫌よう。お初にお目にかかりますわ、イヴリール様。
 よければ私と、少しお話しさせていただいても宜しいでしょうか?」

実に畏まったカーテシーと共に、彼女に語りかける。

イヴリール >  
「(…あ)」

視線が合ってしまった。
思わず視線を逸らしてしまう、けれど。
その竜尾の少女は恭しく歩み寄り、一礼と共に語りかけてくるのだった。

ここはダンスホールの壁の際。
彼女の前には自分以外他に誰もいない。
つまり、話しかけられているのは…自分である。

「ご…御機嫌よう……。
 あ、…私の名前、知って…」

最初の紹介の時にもいたのだろうけれど。
自分の名前を覚えている人などあまりいないだろうと思った故の、狼狽。そして…。

「お話ですか…!?
 あ、わ、私なんかと、話てもあまりおもしろく…は……。
 ぁ…な、名前……」

なんてお呼びすれば、と。
あわあわとふためく様子は、人と話すこと自体に慣れていないようにすら見える。

フェブラリア >  
社交や会話に慣れていないのが見て取れる。
それならば、と。フェブラリアはそんな彼女に微笑みかけて。

「フェブラリア=フェブルリア=フェブルアーリアと申します。
 フェブラリア、で構いませんわ」

柔らかな物腰、穏やかな口調。
それでいて何処か、見定めるような金の眼差し。

「丁度、暇をしていたところなのです。
 畏れ多いですが、如何か私の暇を共に潰していただけませんか?」

長い尾の揺れは収まり、静かにその場に制止する。

イヴリール >  
フェブルアーリア、という家の名に聞き覚えはあった。
社交界に詳しいわけではないけれど、こうして夜会に呼ばれることが時にあったため。
優しく笑いかけてくれる少女に、少しだけ心持ちが和らぐ。

「フェブラリア様、ですね…。
 その、話しかけていただけたのはとても嬉しいです…。
 でも、私でご期待に沿えることができるか、どうか…」

夜会の場、華麗にダンスを踊る男女もいれば、貴族や王族の接待として横につき酒を嗜む者もいる。
そして当然、一組、また一組と姿を消してゆく者たちも。

自分に、誰かの暇を潰す役割が務まるのか…。
不安に視線を落とせば、その目立つ竜尾が改めて目に入る。
長い尾、揺れの収まったそれに思わず見入るのは、普段見る機会のないものだから。
気にはなるけれど、問いかけて良いものなのかがわからず。、それを口に出せずにいた。

フェブラリア >  
少女の視線が何処を見ているのか、その程度は肌でわかる。
尤も竜令嬢にとってはそれもまた慣れた事。
己が竜の血を引くことを明瞭に示す部位、それが人目を惹く事はよく知っている。

「いえいえ、共に話していただけるだけでも十分ですわ」

故にそれを咎めはせず、ただ目の前の少女との会話に興じる。
無論、その間にも時に視線を一瞥して、周囲の貴族たちの様子は伺う。
何せ、目の前の少女は仮にも王族。
お飾りの王増に過ぎないとしても、やっかみを掛けぬ者が居ないとも限らない。

「……それに、興味は持っていただけているようですから?」

そしてそうした視線が無いのを確かめれば、くすりと妖美にフェブラリアは笑う。
口元に手を当てて、その視線を追わせる様に、その尾を小さく左右に振って。

イヴリール >  
「そう、ですか? でも、あまり面白い話などは…」

あにせ、生まれてこのかた王城の外に出た経験など殆どない。
数度程、出たことはあるが殆ど馬車の中だった。
そんな自分と話していて楽しいのかと考えれば……。

「………」

そんな自分に比べて、淑やかに振る舞いつつも堂々としてる眼の前の少女。
見ようによっては自分よりも幼く見えようというのに…。
そんな内にも視線をとられていることに言及されれば、はっとして。

「す、すいません…その、王城では余り、そのような尾を持つ人を見かけないもので…」

嫌がっている様子はないものの、笑みを向け尾を誇示するように振られれば少しだけ罰が悪い。

フェブラリア >  
予想通り、その視線は尾を追った。
その様を見てくすくすと、フェブラリアは笑う。

「構いませんよ、物珍しいものであると自覚しているものですから」

咎める事ではないとそう伝え。
揺れる尾はゆらりと器用に正面に、少女の目の前で留まった。

「ですので、貴女様が良いのであれば…触っていただいても構いませんよ?
 ……もちろん、少々この場では粗相になるます故」

此処を抜け出さねばなりませんが、と。
小さく少女の耳にしか届かぬ声量にてフェブラリアは告げた。

イヴリール >  
──ここから?

お飾りとして招かれ、早々に役割は終わり。
もう帰ってよいという言葉を待つだけの人形。
そんな姫に小さく告げられた言葉は、この場から抜け出したい少女の心を揺らす。

ぎゅ、と胸元で少しだけ握られる小さな手は僅かに震えて。

勝手に部屋に帰ったら怒られる…けれど。
宴席の貴族の申し出でちょっと席を外すくらいなら…。

この場にいたくない。
そんな少女にとってみれば、それは助け舟にも等しい言葉で。
彼女の尻尾…種への興味も、偽りでなくその小さな胸の奥にある。

「す…少し、だけなら…‥?」

いいのかな、と。
おずおずとした様子で、同じく彼女にしか聞こえないだろうか細く、小さな声を返していた。

フェブラリア >  
お飾りの、権威付けの為だけに連れられた少女。
件の貴族も夜会の最中の様子に興味は向けていないらしい。
今、少しだけ抜け出しても、気にする者は居ないだろう。

その事を確信した上で、竜令嬢は細めた瞳を少女に向ける。

「なら決まりですね♪」

両手をぽんっと、重ねて叩くような仕草を見せて。
金色の眼が興味の視線に切り替わる。

「どうぞこちらに」

その手を重ね、引いていく。
逢引の為の個室が何処にあるかはフェブラリアも熟知している。

さて、折角連れ出せるのならば味見くらいはしてもいいだろうと。
退屈であった夜会の中で、竜は暇潰しの算段を始めていた。

イヴリール >  
「す、少しだけですからね」

どこか奔放さを感じる少女に心配そうな声と顔色をしながらも、その手を引っ込めるようなことはしなかった。
重ねられ、引かれて…周りの誰もが自分たちには注視しないまま、少女は夜会の場から姿を消すことになる。

何処へ行くのだろう。
そう最もな疑問を抱いたまま、小さな竜尾の少女に手を引かれ。
少しだけいけないことをしている感覚にはしたなくも胸を高鳴らせながら。

自らの手を引く彼女の暇潰しが如何なるものか。
それは、辿り着いた部屋の中で、否応なく知ることとなるのだった。

ご案内:「王都マグメール 王城・夜会」からイヴリールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城・夜会」からフェブラリアさんが去りました。