2025/07/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城【イベント開催中】」に影時さんが現れました。
■影時 > ――偶にはこういう依頼もある。仕事もある。
迷宮を幽鬼の如く跋扈し、山野を獣の如く馳せるばかりが、冒険者のすべてではない。
出来ることを可能な限りこなすうちには、王城や貴族の屋敷を守る、巡回する等のことも入る。
そういった仕事が入る、受けられる者は時と場合による。その男の場合、偶々その場合に噛み合った。
伝手のある貴族からの指名依頼だ。登城と参列する宴席の警護、巡回。
用件自体は至極真っ当。依頼人からの書状も事前に用意され、誰何された際には示せば凡そは事も無しだが。
「……あンの毛玉ども、何処に行きやがったかねぇ」
そんなぼやきが夜の王城、宴会が繰り広げられる広間の外のテラスに漏れて、絶えぬ喧噪の声に紛れて消える。
とりあえずここでじっとしてろ、と。護衛者に宛がわれた控えに置いていた二匹の毛玉が、ふっと消えたのである。
身なりは整えているとはいえ、あからさまな異邦人と見える羽織袴は目立つ。
そこに珍しい動物連れでもあれば、より目立とう。適度に目を引かせるのは己を囮、何か意図している者への牽制等にもなる筈。
雇い主が抱える精鋭に警護を引き継ぎ、休憩という名の自由行動がてら控室に戻ったら、二匹の姿が無かった。
勘の鋭い二匹だ。面倒事の匂いを嗅ぎ取れば、ある意味飼い主よりも上手く隠れてみせる。そうでないなら――冒険、探検と洒落込んでいそうだ。
(何食わぬ顔で戻ってくるならまだ善し。面倒抱えてきたらー……あー。)
宴席内に竜の血を引くものでも居るのか。
偶に奇妙に震える腰の愛刀の柄を押しやりつつ、石造りのテラスの手摺に背を預ける。高所の夜風は昼間の暑さが嘘のように思える程に涼しい。
こういう時は、気をつけていても何かが起こるものだ。不意の面倒事は、さながら隙を突くようにして生じるものだから。
■影時 > 「しっかし、まァ、なんというか……と。あー、そこのお嬢ちゃん。一杯いただけるかね?」
――何と言うか。ヒトのような。ヒトでないような。そんな“氣”配がいくつか混じっているようなのは、気のせいか。
この辺りの有様は以前からそうだったような気もするが、昨今は比率が増している気がする。
現状関わっている、世話になっている雇い主の時点でそもそもヒトではない。
納得した上で雇われる分には、何ら気にするべき理由はない。報酬の支払いもよく、厚遇と思える扱いもあれば尚のこと。
だが、国の重鎮、意思決定にかかわる地位が集まる中に、只人とは少し何か違うような違和感を垣間見れば、どうだろうか。
大丈夫だろうかね――と、少しばかり、余所者なりに心配になるのも、止むを得ないことである。
気にしたからとどうなる、というものでもないが。
過ぎる思考を吐息で吐き捨て、テラスと広間の経路を通り過ぎる肌も露な女給仕を呼び止め、盆に乗ったグラスを貰う。
くいと呷る。よく冷やされた甘い発泡酒は喉を潤すには不足ないが、呑み応えの点ではどうにも物足りない。
「……――――失礼、落されましたよ?」
だが、小道具としては役に立つ。宴席の中に気配を薄めて埋没しながら見回り、がてら奇妙な動きが無いかを見張る。
何か酒杯に入れようとしたり、掠め取ろう等するような動きを、声をかけて掣肘するわけである。
そして、何か落とし物も見れば、それもまた外面を良くしながら同様に、落とし主らしい姿にそっと声を放つ。