2025/07/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 王城 サロンホール」にベルナルドさんが現れました。
■ベルナルド > 王城内では、時として昼夜を問わず宴が開かれることもある。
そんな今は昼の宴。
美酒と美食の中で、貴族や王族、騎士や高名な者達が会合を開き、知己を得たりする場として使われている。
そんな場に、呪胎の家門の王子も招かれていた。
正直あまりこういう場は得意な方ではないのだが、兄弟内を考えれば、母を除けば自分がまだ適任でもある。
そういう意味で、時々駆り出されるのだが……
「……少し、外の空気でも吸ってくるか。」
一段落ついて人の流れが途切れたのをいいことに、こっそりとベランダへと出る。
熱気を感じるサロン内とは違って、ベランダはまだ風も通るし、今は見る限り人もいないので、一息つくにはよさそうだ。
己が家門を知る者は、いかに家門の噂、『見返りの祝福』を得ようと近づいてくるものが多い。
多いからこそ躱し方にも慣れていて、上手に躱していくものの、同じことの繰り返しを強いられるのは、流石に疲労が濃くなってくる。
故にちょっと避難、と言った所で。
ご案内:「王都マグメール 王城 サロンホール」に枢樹雨さんが現れました。
■枢樹雨 > 王都マグ・メールも、日照り続く真夏の様相。
夏の到来をひしひしと感じさせる外気温の高さ、そして降り注ぐ陽の光。
その中を、その宙を、涼しい顔で揺蕩う人ならざる者が一匹。
霊体故に外気温も陽光の熱も感じることなく、城壁内で最も巨大と言っても過言ではない建造物を目指すこと十数分。
久方ぶりに見下ろす王城は相も変わらず数多の気配を内包し、己を形成する人の子の闇もまた多く感じられる。
特異な能力者相手でもなければ視認叶わぬ霊体姿は此処に置いて殊更便利。
ゆったりと揺蕩う高度落としていくも、一般的な門兵、高所配置された見張りの兵に見つかるでもなく城の様々な場所を眺める妖怪。
しばし後、見つけたのは美しく整えられた中庭。それを望める広いベランダ。
そしてそのベランダへとちょうどやって来た人影ひとつ。
好奇心赴くままに其処へと近づいていく。
魔力的素養、もしくは霊感などが強ければ、妖怪の気配くらいは感じられるか。
貴方との距離は数メートル。
ベランダの内側、じわりと染みが広がるように視認可能な黒い靄が形作られ、数秒の後に異国の衣装纏う女が現れる。
白魚のような手を片方手摺りに置き、透け感のある上質な着物姿で貴方を見つめる仄暗い蒼の双眸。
長い前髪の隙間から覗くそれには、敵意も悪意も存在しない。
それこそ幼子のような単純な興味だけを乗せ、鬼角隠す白絹被った頭を少し傾け。
「こんなに暑いところで、何をしているの?…中は、気持ち悪い?」
実体となってみれば嫌でも感じる暑さ。
よほど屋根や壁に守られた場所の方が良いだろうと、ベランダへと続く背の高い窓をちらり見遣り。
そしてそこへ感じられる人の闇に双眸細め、淡々と抑揚のない声音で問いかけよう。
■ベルナルド > 外の空気を吸いながら、少しの休息としていれば、ふと感じる何かの気配。
魔力的素養はあるので、気配的なものは感じられるが、姿が見えなければ気のせいか、と思うのもいつものこと。
だが、今日は『いつものこと』ではなかったのだった。
ベランダの一画に現れる黒い靄と現れる異装の女。
そんな現れ方をしていれば、曲者!と声を上げるものの方が多かろう。
だが、女にとって幸か不幸か、目の前の男は呪胎の家門たる家の次子。
人ならざる者に対しては色々な相手を目の当たりにしているが故、そういう者かと納得していた。
「ああ、確かにここは暑いな。だが、気は楽だ。
中は……気持ちが悪いとまではいわないが、少し気が滅入る、が正しいかな。」
向けられた問いに返した返事。女がどの距離で止まるにせよ、それをとがめることなどなく。
暫しその姿を確かめるように見やってから
「君は、中の様子に興味があるのかい?」
何となく気になって向けた問い。もしそうならば連れて入るのも悪くないとも考えた故。
少なくとも彼女を伴っての入室であれば、気が滅入る理由も格段に減るだろうから。
■枢樹雨 > それは妖怪にとって幸いだったのであろう。
貴方が声を荒げ人呼ばぬことは、好奇満たすための足掛かりとはなる。
しかし、貴方が声荒げぬ理由は無論知りはしない。
鬼角を隠すくらいには面倒事を厭う癖に、首擡げた好奇心に対して思考挟む余地はなく。
「緑と水の気配は、良いね。」
暑くとも、気は楽。
そんな答えに視線が向かうは、ベランダから見下ろせる整えられた中庭。
耳澄ませば聞こえる噴水の水音。風が吹けば靡く頭上の白絹と植え込みの葉がさざめく音。
これが貴方の心和ませるのかと、勝手に紐づけ呟いては、真っ直ぐに伸びた背を腰から少し折り曲げ、ベランダの真下を覗き込み。
「…私?……そうだね。人の子の欲は、触れて心地良いこともある。
中は随分と、澱んで見えるから。入ってみれば触れるは容易いかもしれない。」
貴方との距離は2メートルほど。
それ以上距離を縮めるでもなく、声届く程よい距離にて向けられた問いに顔を上げる。
ベランダの真下、庭師らしき男が歩く様だけが目端に一瞬残るも、今見つめるは貴方の翠。
ゆっくりと数度瞬きをした後、変わらぬ声音で答えるなら、次は此方の番と再度首を傾げ。
「でも、勝手に入って良いものなの?」
それは素朴な疑問。
人の子の集まりの形式など詳しく知らぬ妖怪は、当たり前に対話をしてくれること幸いと問いかけ。
■ベルナルド > 「王城の緑と水だからね。きちんと手入れがされているし、そういうものなのかもしれない。」
緑と水の気配について、向けられた言葉にそんな返事を返していれば、己の問いにも返ってくる返事。
「ふむ……そういうものなのか。
それならその手伝いをしてあげたい気もするが……そうだね。君1人で勝手に入るときっと大騒ぎになる。」
それはそれで面白そうだが、と冗句めかした短い笑いをこぼすけれど、ベランダの手すりに預けていた体重を己が足へと取り戻し、しっかと立ち上がる。
その後で、彼女までの2メートルの距離をゆっくりと詰めてから
「ちょっと、失礼。」
紳士がレディに向けるのと同じ言葉を貴女にむけてから、そっと貴女の腕を取り、己が腕と絡め合うように。
淑女をエスコートする姿勢を取ってから
「こうすれば君は、俺の客人の一人、という事になる。
それならば、誰も君に文句をつけることはできない。
流石に奇異の目を向ける者はいるかもしれないが、表だっては咎められることはない。
……これでも、いいかい?」
小さく首をかしげて向ける問い。
これを受け入れても入りたい、というのならそのまま会場へと入っていこう。
欲望と退廃溢れる、背徳の宴へ。
ただし、あくまでも貴女を愉しませるため。
だからこそ、余計な危害は与えさせないためのエスコートでもある。
■枢樹雨 > 「ああ、そうだね。毎日のように人が触れ、愛でている気配がある。
中は澱んでいるのに、此処から見える景色は随分と澄んで感じられるよ。」
それは良い庭師に恵まれたということか。
それとも中との対比で殊更澄んで感じられるのか。
測ることこと叶わぬも納得の様子で答えては、興味の矛先を城の中へと移していき。
「それは、嫌。」
長い前髪の隙間から覗く蒼が、そっと細められる。
人の子が決めた位の差など知りもしないからこそ、はっきり嫌なものは嫌と口にする。
騒ぎになった暁には貴方が入れと唆した…くらいは言ってやろうかと、そんな台詞が喉まで出かかるが、
縮められる距離、拒絶の余地ある仕草で誘われる腕に、言葉は留まって。
「………それは、随分と便利だね。
勿論、構わないよ。私に中の淀みをもっと教えて。」
それは思わぬ提案。
中で着飾るる女性のように、貴方の腕に腕絡める様を見遣っては、これだけで良いのかとばかりに丸めた双眸をぱちぱちと。
近づいた翠を僅かに見上げる姿勢。問いにひとつ頷けば、絡めた腕を軽く引いて中へと強請り。
■ベルナルド > このようなエスコートを厭う者もいるから向けた確認だが、どうやら彼女にはお気に召したようで。
便利と告げる言葉に小さく笑いこぼして
「ああ、確かに。これで騒ぎにならないならきっと君にはとても便利だ。」
その感想を肯定して。
そして強請られるがままに足を進める。
貴女の歩幅に合わせて歩むのもまた、王族子女の男子として当然に身に着いた所作故に、
歩く中での不具合は感じられないだろう。
今一度戻る宴のサロン。そこに足を踏み入れた二人に向けられる視線。
ようやく帰ってきたとベルナルドに向けられる視線と共に、その傍らにあり、ベルナルドのエスコートを受けている女。
貴女に向けられるのはこの場にいる女性たちからの嫉妬、羨望か。
無論、当人たちはそういう関係ではないことを知っているからこそ、その感情は笑止とも言えるのだが。
程なく近づいてくる給仕がトレイの上に2つずつ並んだ酒を差し出してくる。
「……どれか飲むかい?こっちから、赤ワイン、ロゼ、シャンパン、白ワイン。」
一瞬言葉が詰まったのは、貴女の名前を知らなかったから。
でも気を取り直して何か酒を飲むかと問いかける。
自分は白を手に取って、貴女がどれかを取るならばそれを待ち、その後でゆっくりとフロア内を歩いていく。
「どうかな?何か興味あるものはあった?」
向けた言葉は秘めやかに。
面倒避けになってくれている貴女の興味、見たいもの、感じたいことに近づくために、今日はエスコートに徹しようと。
■枢樹雨 > 白麻の襦袢、涼やかな絽の着物。それらに包まれた脚は淑女以上に歩幅狭く、貴方の常の歩幅と比べれば随分と遅れとる歩調だろう。
しかし傍ら離れることのない体躯。その意図よりも中への好奇に逸る妖怪。
貴方は先を歩くわけでもないのに、不思議とその腕に促されるよう、"外"と"中"との境を越える。
から、ころ、と、磨かれた硬質な床を鳴らす白木の下駄。
貴族の足元飾るヒールとは違った音色に誘われるよう、此方へと向かういくつもの視線。
それは貴方へと向かう策略政略策謀めいたものと、互いへ向かう好奇のそれ。
なにより欲望露わな女の念が突き刺さるなら、それを無意識に感じながらにゆっくりと瞬く。
無論ホール内の様々なものへと興味は湧くが、それ以上に貴方へと視線が向く。
傍らで堂々と歩く横顔を見遣ること数秒。そこへ給仕が飲み物差し出すなら、挙げられた酒の種類にパッと顔の向きが変わり。
「お酒、飲んで良いの?…では、これ。」
酒好きの妖怪。前髪から覗く蒼を僅かに輝かせ、トレイに並ぶいくつものグラスを、その中身を吟味する。
そうして泡昇らせる華奢なグラスをひとつ、左の手で持ち上げれば、ロゼよりも澄んだ色味を覗き込み、そっと薄い唇へと運ぼう。
真っ直ぐと伸びた背に、裾乱さぬ歩み。華奢なグラス労わるような扱いに、口含む酒は少量。
まるで教育された淑女のような所作にて振る舞いながら、喉抜けるしゅわりとした刺激、鼻抜ける香りと酒精に双眸細め、「美味しい」と呟いて。
「ん、そうだね…。じゃあまず、君のこと、教えて。
淀みの中にあって、その中心ともなり得る君は、なぁに?」
…と、ホール内の様子とアルコールを楽しみ歩く中、向けられる問い。
思い出したように貴方へと視線戻した妖怪は、遠慮なく問いを返す。
己へと向かう女性たちの視線の意味。そして誰もが向ける、貴方への視線の意味を。
■ベルナルド > 姿も奇異ならば、その頭にある角もまた奇異。
そんな奇異の姿の女でありながらも、エスコートしているものが呪胎の次子であれば、文句をつけるのも難しい。
なぜなら、人との間に子を為せぬ呪いの家門ゆえに、人ならざるものと親しむのもまた家門存続のために必要だとこの場にいる者は知っているから。
「ああ、もちろん。
このパーティ会場にある食事も酒も、食べ放題だし飲み放題だよ。
このパーティは、そういう形式なんだ。」
だから、酒を飲んでも問題ない、と告げる言葉。
酒を取る手と流れる動き。その洗練されたようにも見える所作に目を細めた笑みで見やりつつも
美味しいの言葉に小さく笑いこぼして。
「それは良かった。俺にはあまり酒は分からないんだが、こういう場に出されるものだからきっと、いい酒なんだろうな。」
興味ないゆえに知らぬことは、知らぬとはっきり口にするも、
続く言葉に笑み深め、ああ、と頷けば、近くの立食テーブルまで歩いて足を止め、
求められる問いの答えを返していく。
「俺は、ベルナルド・カルネテル・ヴィティスコワニティ。
呪胎の家門と言われるカルネテル・ヴィティスコワニティ家の次子さ。
ウチの家は、人間と子を為すことが出来なくてね、人間意外と子を為して、家門を繋いでいる。
だから、俺の片親は人間ではない。
それだけなら、大変ですね、で終わるんだが、ウチの家の者と……まぁ、交わると、
ごくまれに運気を爆発的に上昇させるって言うのがあってね。
だから、それを欲しがる連中が、俺を狙ってくるわけだ。
あいにく、俺はされるのは好きじゃないんでね、男から言い寄られることはほとんどないが、
女にしてみれば都合が良いと見えるんだろう。
そういう誘いを断り続けるのが面倒くさくて、ベランダに逃げていた、という訳。」
周囲の女性には聞かれないが、貴女には聞こえる程度の声で告げる言葉。
ちょっとした物語にも似たお話だけれど、その言葉は真面目な色で。
故に、それもまた真実なのだろうと伝わるだろうか。
■枢樹雨 > 「食べ物も?なんとも太っ腹なことだね。さすが王の住まう城ということか。」
遠目に見ることは何度かあれど、その場に身を置くはこれが初めてのこと。
酒に次いで食事も好きにして良いと聞けば、驚かずにはいられない。
必要なくなった白絹は丁寧に畳んで懐へとしまわれ、青碧色の鬼角は豪奢なシャンデリアの明かりに艶めき。
「酒は好まない?美味しいのに、勿体ない。ワインはね、赤より白色が好き。」
こういった場には随分と慣れている様子でありながら、酒を分らぬと表現する貴方は素直なのだろう。
しかし好まないまでいってしまうならあまりに損をしているとばかりに、前髪の下でハの字描く眉。
妖怪だって語れるほど酒を知っているわけでもないのだが、貴方の手にある白ワインを視線で示し、それを選んで正解だと言いたげに語ろう。
そうする間に貴方が食事並ぶテーブルまで促してくれるなら、見目にも華やかな料理の数々を、ひとつひとつ視線で追っていく。
給仕が気を利かせて盛り付け行ってくれると言えば、ひとまずそれに任せ貴方の話に耳を傾け。
「……随分と、愉快な話だね。私のような人ならざる者としか子が成せないと言うのに、
交われば稀に幸運授けられると言うこと?授かるのではなく、授ける。」
この場で語ると言うことは、この場に居る誰もが知っているような話なのだろう。
料理を吟味するよう、ひとつひとつの話を己の中へと沈めていけば、妖怪の頭が少し傾き、貴方の顔を覗き込む。
さらさらとこめかみの方へ流れた前髪。
先ほどまでよりも大きく覗いた仄暗い蒼の双眸が貴方を真っ直ぐに見つめ、隠さぬ好奇心を向けている。
シャンパンのグラスはテーブルへと置かれ、左手で給仕より受け取った料理乗る皿。
美しく盛り付けられたそれに視線落とすことなく、じぃ…と翠を見つめ。
「人の子、だよね?人と違う血が混ざっている気配すら、気が付いていなかった。
人の子が故の、血。施しの血筋だ。…なるほどそれで、こうも欲の淀みが此方に向かう。」
絡め合う腕に寄せた鼻先。スンと鼻を鳴らしその香り味わってみるも、人の子としか感じられなかった。
同時に感じられる貴方自身の香り。スッと鼻を抜けるような、どこか菊の花にもにた妖怪の清涼な香りも貴方の鼻腔擽るか。
そうして得心いった様子で頷けば、いまだ無くならない他者の視線を確認するよう、遠慮もなく周囲を眺め。
■ベルナルド > 「ああ。王の住まう城には、何でもあって、何にもない。
少なくとも、欲望を満たすべきものは何でもあるほうだ。
……あぁ、すまない。言葉が悪かった。
酒を飲むことは好きだよ。美味い不味い程度なら味も分かる。
だから、どの料理にどの酒を合わせればいいのかくらいまでは知っている。
でも、銘柄がどうとか、味だけで酒の名前を答えろとか、そう言うのには興味が無くてね。
だから、分からない、と言ったんだ。」
ちょっと誤解をさせてしまったようで、少し弁解めかして正しい理由を詳しく伝えた。
そして、己の語りを聞いての感想を耳にすれば、小さくこぼれる楽し気な笑い。
「ああ、愉快な話だろう?子供は作れなくても交わることはできる。
そして、交わればまれに幸運を授ける。……そう、授ける方。
俺たちには何もなく、受ける側にのみ与えられる。」
隠さぬ好奇心を向けられて、でもその瞳が、視線が悪くないとも思っていて。
「ああ、人間さ。片親は人間ではないけどね。
それでも生まれてくる子供は、人間になる。
人間ではない親の影響を多少は受けるけれど、種族的にはただの人間。」
変な話だろう?と楽しげに。
普通であれば、思い悩むものもいるだろう話を、どこか楽し気に紡ぎ笑ってみせるのだ。
つまりは、自分の中ではすべて一つに溶け合っているという事。
自分を香る様子の貴女を穏やかに見やり、同時に感じる菊の花の清涼な香りを好ましく感じて。
そのまま遠慮なく周囲を眺める貴女には、視線が重なれば逸らす数多の女性の姿を捉えるだろう。
下は14、5くらいから、上は50近くくらいまでの。
下は親の考えか、上は、その年でも欲しがる醜悪な欲望か。
■枢樹雨 > 「ううん、極端に受け止めてしまっただけ。嫌いじゃないのなら、勿体ないこともないね。
こういう人の子の集まりに参加することも多い…、貴族、というものなのだよね?
君…、ベルナルド、も、…ワインは白色の方が好き?」
己の間違った受け取り方を丁寧に拾い上げ訂正してくれる貴方。
謝る必要はないと小さく首を横に振ってみせれば、時折聞く長い名の、一部分を拾い上げて貴方を呼ぼう。
それは爵位持たぬ身からすれば随分と失礼であるが、その仕組みに捉われぬ妖怪はただ素直に己と同じであるかの問いを添え。
「人ならざる者からすれば、有難い存在とも思うよ。
血の存続の為と、君達は自ら私たちのような者に関わってくれる。
忘れ去られれば存在すらできないような者からすれば、渡りに舟だ。
……ああでも、そのくらいの人外に興味はない?」
己の生まれた国でも人の子はそうだった。名を持つ家は血を絶やしてはならないと。
そうであるなら、貴方の家もまた血を絶やすわけにいかぬ身なのだろう。
己にとっては愉快な話も、当人からすれば随分な苦労を伴うか。
しかし貴方は笑って語るから、妖怪もまた思うままに言葉紡ぐ。
鼻の香り届けると共に鼻先寄せた仕草は、貴方に欲向ける者にも、其処に純粋な好意を上乗せする者にも、随分と反感を買ったらしい。
周囲へ巡らせた視線には怒りの感情すら拾い上げ、しかし真っ向から睨み合うような者はいない。
それは貴方と絡む腕の、そして貴方という存在のおかげなのだろう。
しみじみと肌で感じ乍らにその腕を外せば、フォークを手に取り皿へと盛られた料理を味わい。
「……多少。…本当に、聖人のような血だね。
君が男ぶりがよほどのものか、もしかすれば君が王なのかとも思っていたけれど、
それよりもよっぽど楽しい話を知ることができた。」
人が得ること叶わぬ力を子に授けられるわけでもない。
そこまで聞けば本当に施しの血としか思えず、目を見張るも仕方のないこと。
嫉妬と羨望の視線の意味。妖怪なりに考えてはみたが、それを大きく上回る収穫、そして美味しい食事に、声音はどこか機嫌良く。
「君は何か知りたいことはない?私で答えられることなら、礼に何でも答えるよ。」
■ベルナルド > 「ならば良かった。……そう、貴族……いや、別に隠すこともないか。
俺は、王族だよ。先王、カルネテルの血に連なるものだ。
だからと言って、本来それで俺の価値が高まるわけでもないんだが。
ああ、ワインは白がいいね。赤の渋みも悪くはないんだが、アッチは料理に合わせる酒だと思ってる。」
こういう場であれば、貴族と見るのは自然なことだ。
そして、貴族だと告げ終わること自体は簡単だった。
だが、なんとなく。そう告げることを良しとしなかったのは、先ほどの貴女の清涼な香りが背を押したのかもしれない。
拾い上げた名前に対して特に何の反応もないことから、正しく拾って名を呼べたのだろう。
同時に、それを不敬となじる者はいなかった。
少なくとも、貴女の目の前には。
「血の存続のために確かに必要だからね。
そういう意味では、人ならざる者を自分と等しく見れる人間は確かに多くない。
……あはは、そんな事はないさ。
人間だって、大きくひとくくりにしてしまえば興味は薄れる。
でも、個人で見るから興味が尽きない。
人ならざる者も同じだろう?
少なくとも、君に対しては興味をもった。
ならば、それがどのくらいの人外かなんてのは関係ない。
興味を持ったのは、人外としての強さではないからね。」
つい大きなレッテルを張った方が楽なのに、敢えて細かく相手を見ようとする姿。
だから、関係ないとこともなげに。
興味を得たからこそ、この場に連れてきた。
ならば、その存在がどうあるかなど関係はないと。
先程の仕草からすれば、少なくともあしらわれた連中よりは仲が良い、
つまり、恩恵にあずかれる者と見られたという事かもしれない。
まさか、先程べランで会ったばかりのものだなどと言っても誰も信じまい。
あのような行動を持っても受け入れる距離感ともみえてしまえばなおの事。
食事を始める様子を穏やかに見やれば
続く言葉に小さく笑う。
「血筋だけで言うならば、この場にいる誰よりも確かに、王には近いかもしれないね。
とはいえ、呪胎の家門ゆえに、王になることはないだろうけれど。
それにそもそも俺がそれを望んでいないし。
楽しめる話がdけいたのならそれは良かった。話した甲斐があったというものだね。」
調子軽く紡ぐ言葉。そうしていれば向けられる問い。
少し考える仕草を見せてから
「そうだなぁ……あぁ、とても大切なことを聞いてなかった。
これは聞いておかねばなるまいね。
……君の名前は?せっかくの知己だ、是非知っておきたくて、ね。」
途中まで普通の声でつむいだことば。
でも、最後の問いかけは貴女の耳元に唇寄せて囁くように紡がれて。
大したことない質問ながら、先程の貴女の所作を含めれば、今日は適う事はないと
周囲の女達の嫉妬と羨望の感情が落胆に変わっていく。
もちろん、諦めたわけでもない事は、貴女の鼻には届くかもしれない。
■枢樹雨 > 「……王族?王の血筋であって、人の血と子を成せないの?
…色々と愉快な事柄が錯綜しすぎてなんだかわからなくなってきたよ。
まあでも、私の予測は少しだけ正解していたんだね。君の中の王の血を、しっかり嗅ぎつけていた。」
貴方の言葉に目を丸くするのは何度目か。
思えば読み漁った書物の中に、カルネテルの文字を見た覚えがあった気もする。
ただそれ以上に、王族であるからこそ余計に特異と感じる血筋。
淡々と抑揚のない声音は変わらないが、興味寄せた事柄故に随分と饒舌に言葉紡ぐ妖怪。
『甘く濃厚な菓子や香辛料の効いたお肉には赤色も美味しい』なんて、食も好む様子で貴方の言葉に同意示し。
「それは、そうだね。お金が好きな者もいれば、色を好む者もいるし、力がすべての者もいる。
それに物語に惹かれる者も、知識求める者もいる。魂の香りで判別したり、ただ語らいたい者もいるね。
私は君が暑い外に出てくるから、興味を持ったよ。」
貴方に言われてみれば、それもそう。人ならざるからこそ、興味の対象はじつに様々。
人の子も同じくそうなのだと言われれば、繊細な味付けの料理をよく咀嚼し飲み込んだ後、頷き答えよう。
愉快な血筋にある人の子。それ以前に、ベルナルドと名を持つ人の子。
翠の瞳見つめ乍らに認識を少し改めれば、自然と己の何かを差し出そうと思考が動く。
どこかもったいぶるような貴方の思案の間。
大切なこととはなんだろう。こちらに疑問が浮かぶと共に顔が寄せられれば、視線はそれを追いかけ片方の耳元へ流れ。
「……忘れていた。―――私は、枢(くるる)。遠い国の文字で、このように書く。」
鼓膜へと注がれる問いかけ。耳たぶに触れる吐息。
数秒の沈黙の後に言葉にしたことがすべてで、貴方の話に夢中であったことを改めて認識する。
そうして手にあるフォークと皿をテーブルに置けば、貴方の左の手を引き寄せ、叶うならその掌に左の指で"枢"という文字を書く。
当然指先で書いたそれは掌に感触だけを残し、叶ったなら落胆の気配も増すことだろう。
■ベルナルド > 「そう、王族。情報が小出しなのでびっくりさせ続けになってしまっているかな?
元々この国には王族家も沢山あってね。実際に王たらんとする家もあれば、
王族ながら、次代の王に仕えることを望む家もある。
そして、王族家にも色々あるのさ。ウチのような奇矯な所も、ね。
ああ、そうだね。だから隠しても意味がないか、ともおもったんだ。」
先程の王ではないかと思ったという言葉もまた、背を押した1つ。
気付かれているなら隠しても仕方がないと。
赤ワインに合わせる食事については、笑って同意。
どうやら舌の傾向は似通っているらしい。
「その通り。だからこそ、さ。
あはは、それは違いない。この暑い中、わざわざ外に出るのだから。
何があったと興味を持つのも仕方がない。」
人であることと人ではないことなど、その実大した差でもないのかもしれない。
そんな言葉を紡ぎつつ、悪戯めいた所作での問いと、まっすぐに、誠実な答えだからこそ、
より落胆を呼ぶ貴女の所作。
「くるる、か。良い響きだね。
……ふむ、不思議な文字だ。だが、文字と認識できないからこそ逆に覚えやすいって言うのもあるんだな。」
掌にかかれた文字を、空中でなぞってみる。
文字とわからないからこそ、記号として認識して、記号として認識したからこそ、自然と宙に描いて見せた。
強い落胆により、今日はもうおとなしくなるだろう、という判断。さて、そうなれば……
「枢、これからどうする?なんなら、俺と君の関係を勘違いして牙と抜かれた猛獣たちにもう少し近づいてみるかい?
今日の君が相手ならもうおとなしいだろうから。
もちろん、何かあるなら、俺が守ろう。」
悪戯めいた所作と言葉で向ける問い。
食事と会話と酒を楽しんでも良し。
淀みを知りたいと言っていたから、その淀みの主たちに敢えて近づいて見ても良し。
淀みの主たちも知らぬ中ではない故に、声をかけること自体は容易い。
そして、面倒くさいことは今日はもうないだろう。
なぜなら、連中視点であれだけ親しそうにしていた枢が傍らにいるのだから。
もちろん、それ以外でも。
今日は本当に助かったから、どのような頼みもかなえる心算。
それは、貴女が人ならざるものだからこそ。
そして、求めるものが自分にとっては容易いものだと感じているからこそ。
この後、どのように動くにせよ、きっとまだまだ、刻限が来て別れを告げるまで、
2人ともが楽しめるであろうことは続いていったに違いなかった事だろう。
それを知るのはまた、二人だけの秘密。
■枢樹雨 > 「驚きを貰えることは嬉しいけれど、得たものをゆっくりと味わう時間も欲しくはあるね。
図書館の書物から得た現実味のない話が、今になって少しずつ身に染みている感覚もある。
ひとまずはベルナルドが好むワインは白色と、それはしっかり覚えたよ。」
この国の王族貴族取り巻く状況。
表面上だけであれば書物からいくらでも得られたが、当人から語られるそれによりもたらされた実感は大きなもの。
とはいえかみ砕くにはまだまだ妖怪の知識も足らず、何とも悩ましいところだと小さく唸る。
しかし明確に得たものもあると、人によれば小さくもある情報を当たり前に語り、笑う貴方の表情を見つめ。
「こうして近づいて、言葉交えてみて、わかったよ。
君は淀みの中にある流れる水だから。淀み眺めて気が滅入るのも仕方がない。
逃げ先が夏の陽光降り注ぐ場であったことは如何せん不幸だけれども。」
始まりの好奇は満たされ、そして新たなる好奇へと繋がる。
珍しく己を示す名の形までも伝えたのは、それが故か。
離した貴方の手が、指が、己の名を空中に描くなら、あっていると教えよう。
そうして改めてシャンパンを味わい、控えめに盛られた取り皿の料理を味わって。
「ん?…ああ、なるほど。それで向けられる欲の気配が変わったのか。
それなら少し、聞いてみたい。君の幸運を授かろうとする者の声を。
私は人の子を怒らせることも多いから、よろしく頼むね。」
関係を勘違い。その一言で現状を確と把握すれば、妖怪の悪戯心が擽られるというもの。
空となった皿とグラス、そしてカトラリーをテーブルに残し、改めて貴方の腕に己のそれを絡めよう。
貴族、ましてや王族の会話などわかりもしないが、貴方が守ると言ってくれるのなら大丈夫なはず。
この少しの時間でそう感じられたから、淀みに足先浸すことを望んで。
そうしてその後、欲望渦巻く人の子の表面上の会話とやらを楽しんだ妖怪は、満足気に貴方の傍らより去っていっただろう。
今日の幸運以上のものを授かれるだろうかと、そんな戯れの言葉と共に、貴方だけが見ている場で黒い靄と共に、真夏の夢のように妖怪は消えて――…。
ご案内:「王都マグメール 王城 サロンホール」からベルナルドさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 王城 サロンホール」から枢樹雨さんが去りました。