2025/11/24 のログ
ご案内:「富裕地区 地下劇場」にアルジェントさんが現れました。
アルジェント > ───身分のある奴ってのは大変だよな、と思う反面。悪趣味だよな、とも思うのは、わざわざこんな場所で会合を催すあたりに。

門閥貴族の交流といったのが主目的なのだろうが、雇われにはあまりその内容はどうでもいい。

やんごとなき方々の身の安全を保障するために劇場主が雇い入れた傭兵の、その中の一人として。
普段のような装いではなく、劇場の従業員と同じお仕着せ姿。
獣相も晒してはいるが、腕に問題なければ別に種族は問わないとのことで、珍しく帽子も取り払っていた。

──逆に腕の立つミレーの方が都合がいい、とかで劇場専属の話がきたのは、丁重にお断り。

己はミレーではないし、こんなところで妙な首輪をつけられるのは回避したい所。

仄かな照明を、蒼い毛並みが軽く弾く。
席に着く貴族たちはドレスコードでもあるのかに多様な装束に仮面姿。
さざめく様な笑い声や、会話が耳をかすめるのに、時折狼の耳を震わせる。

壁際に立ち、不審な物音や、人の動き───そんなものに気を配る、護衛の仕事としては比較的やりやすい。
ここに特定の人物を守れ、だとか命の危険だとかが備わればそれなりに難易度は上がっていくのだが。

……今回はそこまで物騒なものじゃないのは、劇場なんて護り難い場所での仕事というのを差し引いても、ひりつく様な空気感もないことから察せられた。

狼的には時間まで何事もなく、ついでに規定どうりの報酬が支払われたらそれでいい。

アルジェント > 紡がれる音楽も、舞台で繰り広げられるダンスも、あまり琴線に触れるものではないのだが。
光を浴びて、伸びた影がゆらゆらと揺れる様は美しく感じる。

だからといって仕事を忘れるわけでもないし、行き交う給仕の艶姿に脂下がるような趣味もない。

金魚の尾のようにひらひらと広がる裾や、あるいは姿態を見せつけるようなぴたりとした衣装。
どちらも女性の美しさを示すそれではあるのだが。
同性を性の対象に捉えているわけでもないので綺麗だなあ、と茫洋とした感想以外は、歩き辛そうとかそういう実用的なほうに意識がまとまる。

───己が雌だからとそっち系の衣装を用意しようとした劇場主は吹っ飛ばしてよかった。

ともあれ────時折立つ位置を変える以外は、今のところ何事もない。
劇場主としても、実入りがいいので満足していることだろう。

アルジェント > スン、と鼻を鳴らす。甘ったるい香りは香水か、それとも何か別のものが焚かれているのか。
意識をそちらに向けると、酒もないのに酔ってしまいそうだな、と少し眉宇を顰めた。

鼻がいいのは特質だが。
地下で空気がこもりがちなのが余計にそう感じさせる。
こうした場で、気分を盛り上げるのにも使うだろうし、集った人間の嗜みとしてのそれもまた交じり合う。
それを否定するつもりはないけれど、鼻がむずむずするのは止められるものでもなかった。


囁き、密談、密事。

匂いから気をそらすように視線を向けた先では、特権階級の静かな……あれも闘争、という奴なんだろうか。
暗闘というべきかもしれないが。

彼等の扇の動き一つ、あるいは戯言めいた符牒一つで、どこかの誰かがいなくなるし、あるいはどこかの誰かが栄達する。

血生臭い訳じゃないが、生臭いもんだな、と金色の獣の眸で傍観しつつ。

「─────。」

あ、駄目だ、と思ったときには少々遅い。
くしゅ、と小さなくしゃみが弾けた。

ご案内:「富裕地区 地下劇場」にゴッドフリートさんが現れました。
ゴッドフリート >  
くしゅ、というささやかに弾けるくしゃみの音。
通常であれば粗相というのも憚られる程度の些細な失敗。
けれど、運が悪かった――というのに尽きるだろう。
たまたま近くのテーブルで密談をしていた貴族達がいたこと。
話が白熱していたこと、そして、そんな有象無象の話に退屈していた貴族がいたこと。

「――おいおい、躾けがなってねぇな。」

件の貴族――。
仕立ての良いタキシードにはち切れんばかりの肉体を収めた初老の男。
投げかける言葉は、到底“高貴なるもの”に相応しくない野次めいた響き。
それを他人を権力と財力で踏み躙ることに慣れ切った声が紡ぎ出して
そして、テーブルから離れれば、そのまま、女の傍へゆっくり近付いていく。

「お前、護衛だろ?
 お貴族様のお遊びはそんなに退屈かね?」

その巨躯と、声色からすれば恫喝にも聞こえるそれ。
けれど、実際はそれ程、怒っている訳ではない。
ただの退屈しのぎめいたものだ。
もっとも、それで絡まれる護衛と、こちらに向かって転げんばかりに近付いてくる責任者には理不尽な話だが。

アルジェント > ──しくった、という感情が一つ。

やんごとない方々は、護衛なぞ路傍の石のように扱っている。
そして自分たちもそのように振舞う。そのほうが都合がいいし、そうするべきだからだ。

気配を殺していたのが無駄になったのが己の小さな失敗。
そして不運だったのは、たまたまテーブルが近かったこと、か。

「あ?」

駆けられる声音は、貴族のそれというよりは、恫喝慣れした粗野なものに近い。
発した男に視線を改めて向けると、それなりに密度の高さをうかがい知れる体躯。
筋肉も贅肉も含めて、ではあるが。

それがゆっくりと立ち上がり、己に歩みを寄せるのに、いまだむずむずする鼻先を一つ擦って視線を上げた。

「────」

むけられた言葉に、相手の威容に、さほど臆することもない様子で視線を返す。
雌としては長身の体躯は、男の巨躯を大きく見上げるほどの身長差はないが、それでも男に比べたら身長は低い。
黒を基調とした男物のお仕着せ姿も相まって、そのシルエットはやや細身にも映るだろう。

おまけに蒼い毛並みから覗く獣の耳が、この国において一定の地位を占める存在に誤認もさせる。
この国に住まう以上そうさせている、という面もあるのだが、少なくともまっすぐ見返すような仕草は不敬と取られてもおかしくはなかった。


男から怒気は感じはしないが、とはいえ粗相はこちら。
咎める権利は相手に在り、問題の収拾を付けるために差配役がこちらに足を向けるのは当然ではある。

彼がこちらにたどり着くより早く、貴族の男が己に言葉を向けてしまったからあまり意味はなかったが。

「───仕事だし、退屈も何もねぇよ。」

教養のない言葉なのは明らかで、そして不遜だった。

ゴッドフリート >  
給仕の女達が彩る花ならば、まさに護衛は路傍の石。
その石ころが、耳障りな音を発するのならば蹴飛ばしてしまえばいい。
己が立ち上がるまでもない。
今まさに青い顔で此方に向かってくる差配役に目配せすれば終わり。
――そうならなくて、そうしなかったのは気紛れか。

「はッ、なかなか言うじゃねェか?
 たかが護衛役、しかも、ミレーの…いや、どうかな。」

あるいは、灰色の瞳を真っすぐ見返す金色に琴線を擽られたか。
男が嗤った。不遜な目つき、無礼な言葉にどこか愉しげに。
灰色の視線は逸らすことなく、己よりも低い位置にある金眼を見詰める。
その身体的な特徴は被差別民族のそれに近いが、即断はしない。

抱いた印象は、教育のなっていない野良犬。
否、野生の雌狼という方が近いか。故に見詰める眼差しが、僅かに細まる。
狡猾なそれではなく、もっとはっきりと獲物を狙うようなそれに近い。

「お前、名前は……?」

と、問いかけた刹那だった。
そこで漸く――最早完全に手遅れな状況に到着するのは差配役。

「なァ…儂らはこの劇場の差配に任せとけば安心だと思ってたんだがな。
 こんな詫びのひとつもできん、しかもミレーを雇うなんて…質が落ちたもんだな。」

視線の端に女を捕らえたまま、大袈裟に肩を竦めてみせる。
平身低頭、という言葉が相応しい憐れな差配役に向けた言葉が響く。
これも大仰な“演出”のひとつだとは察することができるだろうが。

アルジェント > 対峙するものの、男の視線は怒気に染まっているというよりは──
好奇心か。
とはいえ自身の権力は熟知しているし、此方を圧し潰すことを意に介すこともないだろう威圧感は感じる。

実際この場での力関係は圧倒的に相手に利のあるものだった。

「─────……、お前がきいたから答えただけだが?」

此方の種族を見定めるような眼差し。
ばれたら多少は───面倒だが。すでにそう珍しいこともない。
王国貴族ですら、魔族とコネクションを持ち、私財を肥やすものもいるのだから。
この場にいる面々がそうであるか、そうでないかは女の知るところではないのだが。

むけられる灰色の眼差し。
不遜な己の態度を面白がっている節すら感じられるが、その男の独白に近い言葉に返す言葉はなかった。
よりその双眸が細められ、こちらに向けられる。
新たな問いかけを遮るように響いた声に、視線をずらした。

男の矛先が一歩で遅れた差配役へと向けられ、それを咎める口ぶりは──
非常に手慣れた、自分の意を通すための一手。

差配役も男が本気で怒っているとは思っていないだろう。
それだけにそのやり取りは劇場のそれよりも芝居がかり、女は一歩陰に退いた。

───面倒なことになったなあ、と抱いたものを口にしない賢明さはあるものの。
照明が落とされた場所でなければ、その表情から容易にくみ取られていたかもしれない。


男と差配役の顛末にはさほど興味はそそられないのだが。
その芝居の結果で己の処遇が決まるのであればその場を退くわけにもいかなかった。

───分かりやすく、一発殴られて終わり、とかだと楽なんだがな、と思うものの───
それで終わらないのがこの界隈でもあるだろう。

ゴッドフリート >  
女から返って来るのは変わらぬ不遜な言葉。
「誇り高い」貴族サマなら、それだけで顔を真っ赤にして怒っても可笑しくない。
否、顔を顰めて、黙って向こうにやるように指示するか。
どちらにせよ、ルールを作る側に立っている人間達故の傲慢か。
無論、この初老の貴族も例外ではない。
ただ、飼い慣らされた狗ではなく、野生のしなやかな獣に興趣をそそられた。

あとは手慣れたものだ。
此方には勝負に出るための手札がいくつもある。
面倒で、下らない手続き――
詫びる差配役に対して、仮初の怒りをぶつけて
それから、甘い飴をぶら下げてやればいい。

一歩引いた女が視線を巡らせれば見えるだろう。
地下劇場に用意された宿泊施設に連れ込まれる肌も露わな給仕と
仮面をもってしても隠せない下卑た表情を浮かべた貴族達の姿が――。

――もっとも、それ程長く待たせる必要はない。
「よし、決まりだな。」という貴族の笑み孕んだ声がすぐに響くのだから。
その程度だ。差配役が守るのは劇場であり、この場であり、護衛ではないのだから。

「待たせて悪かったな?
 儂も大人げなかったし、お前さんも仕事を喪うのは困るだろう?」

“あとは、当事者同士の「話し合い」で決めても良いと仰る。”

下卑た笑みを隠しもしない貴族と
自分でも信じていない「話し合い」を提案する差配役。
給料は規定通り払われるし、交渉次第では上乗せもありえる――。
もしかしたら貴族に仕事を紹介してもらえる機械を得られるかも――。
ささやかな罪悪感を誤魔化すためか、言葉を重ねる彼を余所に。

「さ、話し合いの場に行こうか?」

そう、貴族は促してみせた――。
その言葉には到底似付かわしくない嗤笑を、仮面の下で浮かべて。

アルジェント > 「────」

男に怒りの色はない。
ならばこの𠮟責も罰も、それらすべてが彼にとっての演目のための演出にすぎないということだ。
面倒な奴に絡まれた、という認識は変わらない。

くだらないやり取りにやや、狼としての耳が横に伏せられる。
その耳が拾うのは眼前の彼等だけのやり取りだけではなく、その周囲の音も自然と拾う。

この場所の意味、それから用意されている『趣向』

仮面姿の貴族のさざめきの中に、今この場で泳ぐ給仕を品定めする声音もまた当然届く。
そうして品定めを終えた貴族の幾人かが、給仕を伴い護衛の守る扉の向こう側へと消えるのも。
揺れる光の影に浮き沈みする。

「─────………」

言外の段取りが終えたことを知らせるような声音。
おもねるような差配役の追従。

「話し合い、ね……」

とてもそんな雰囲気を感じないのだが、表面上はそういうことに収まったらしい。
肩を竦めるのをわずかな理性で押しとどめた。
これ以上何かを訴えたところで付け入る隙を与えるだけ。

仮面の下、浮かぶ笑みを見やり、一つ息をついた。

ごちゃごちゃうるさい差配役の言葉には聞いてるよ、とだけ返し。

「ご高配どうも」

叶うことなら、その言葉が言葉通りであることを祈るのは───
自分でも信じていない神に膝を折るのに似ているな、と思うのだった。

ゴッドフリート >  
結局のところ、やはり――
“運が悪かった。”
というところに尽きるのだろう。

仮面の下で、笑みを浮かべる貴族と、そしてそれに阿る差配役。
彼女の祈りが聞き届けられるかどうかは――。
話し合い、の結果いかんによるが。

神は平等だ。
けれど、神は平等に地上には興味がない――。
そんな言葉が浮かぶかも知れない。

ご案内:「富裕地区 地下劇場」からゴッドフリートさんが去りました。
ご案内:「富裕地区 地下劇場」からアルジェントさんが去りました。