2025/09/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」にクローネさんが現れました。
クローネ >  
王都の富裕地区。
石畳の道をゆっくりと馬車が征く。
その幌の中にて。

「(あー。しくった)」

貴族サマの護衛だけでこの報酬?なんて割高。
思わず飛びついたギルドの仕事だったのだが。

不機嫌そうに頬付けをつく女に雇い主から声がかかれば

「あ…おかまいなくぅ~♡ この後ギルドに呼ばれてますんでぇ~♡」

邸宅でお茶でもどうか、という貴族からの誘いであったが。

「(はっ、落ち目の豚のくせに話しかけて来るなっての)」

美形でやり手でちん◯でかそうな若いお貴族サマだったら靡いてやっても良かったが。
肥え太った豚に声をかけられようが、遠慮しますオーラが増すばかりであった。

契約内容は邸宅までの護衛、である故に到着までは我慢我慢。

クローネ >  
大体仕事の内容も新米冒険者でも務まるような危険度の低い内容。
確かに額面こそ良かったがそれ以上に退屈が勝ってしまった。
しかもその間ずーっと好色な貴族様の下卑た視線に晒されるわけである。

「(受けたがってた新米連中に譲ってやれば良かったわ)」

同じ仕事に興味を示していた若い少年少女ペアの冒険者などもいたのだが。
こちらが先に手をつけていた話だったため、諦めてもらったというわけである。

でも純朴そうなあいつらが受けてたら、この後お茶まで相手にさせられて、
きっとお茶に仕込まれた悪い薬で女の方が大変なことになって、
そんでもって男の目の前で女が以下略なことにされて一生忘れられたない仕事の思い出になっていたに違いない。
多分、きっと。
この国の太った貴族ってそんなんばっかだもの。

そんな偏見の塊のような思考をしているうちに馬車も到着し……。

クローネ >  
邸宅までの護衛任務を無事完了。
手渡されたゴルドは、円滑に仕事をしてもらったということで三割増。
また是非お願いしますと他意のない笑顔で豚のように肥えた貴族の男は邸宅へと戻っていった、

「……あれ。ただのいい客だった?」

人は見た目によらないものである。
──ともあれ。

「ま、いっか。儲けた~。
 少しくらい富裕地区で遊んで帰っても余裕でおつりが来るじゃん♡」

平民地区などとは道を歩く男の顔ぶれもまた違って見える。
そんな帰路についた女はどこか店に寄って帰るのもいいかなと思いつつ、すれ違う男に色目を流す。
無論この尻軽でありつつも性格の悪い女のこと、その視線は値踏みするような色も含まれているけれど。

クローネ >  
富裕地区のメインストリート。
王城へと繋がる道でもあるゆえ、この国でも光の側面をもったはなやかな姿である。
それはそれでいいのだが、道を歩く面々を見てもいまいち女の趣味にはそぐわない。

一步、路地を渡りその裏へと入ってみる。
建物と建物の間になり、昼間でも少々薄暗い。
夕方に差し掛かる時間となった今はよりそんな雰囲気を感じさせる。
清廉潔白な男も遊びがいがあるが、物足りない。
とはいえここは富裕地区、やはり平民地区に比べていくらか治安も良い。

「普段そこまで来ないけど、こんなに違うもん?」

人通りは少なくなったとはいえ、露骨な荒くれ者や物乞いの姿も見られない。
やっぱり刺激を求める気質の自分には平民地区のほうが合ってるかなと思いつつ歩いていると…。

「っと…?!」

何かに突き飛ばされるようにして前のめりになり──背後を睨みつけながら、振り返る。

クローネ >  
背後にあった姿は──実に純朴を絵に描いたような、貴族出身のお嬢様剣士…といった佇まいの少女であった。

誰コイツ?
と怪訝な視線を向ければ、少女は大声で喚き始める。
その内容で、ああ…と、クローネは漸く思い出した。
宝石のように蒼い大きな瞳にいっぱいに涙をためて、金糸を流したようなブロンドの長髪を激しく揺らしながら。

「──わざわざこんな路地裏にまで着いてきて、恨み言?」

勘弁してよね、と面倒くさそうな態度を取るクローネに少女は増々の激昂を見せる。
そう、確かこの少女は──。

ちゃんと思い出した女はくすりと唇の形を笑みに歪める。

「そんなに怒るコト~? アンタの男がアタシにコナかけて来たから相手してやったんじゃん♡
 そのせいで不和が生まれてパーティー解散?そんなこと言われてもアタシ悪くなくな~い?」

激昂する少女を宥めることもせず、女はへらへらと嘲笑を浮かべながら言葉を続ける──。

クローネ >  
そう、目の前の少女と恋仲にある男を先日の仕事の折につまみ食いしたのだ。
もちろん、そういった関係性を知った上で、色を仕掛けて。
こうなるかな~、と思ってはいたけど、やっぱりこうなったか。

「まぁ十分も保たないつまんない男だったけどねぇ~?
 今後はちゃんとアンタの毛も生え揃ってないカラダで咥えこんで離さないようしてあげたら?」

少女の自尊心を玩び傷つけるような軽口。
さてどうなるかなと嘲笑を絶やさない女に、少女はぐっと堪えるようにして手を握り締めていた。
路地裏といえど富裕地区の街中、刃傷沙汰を起こせばどうなるかは理解っているのだろう。
理解った上でも、その怒りを吐き出さずにはいられなかったということらしい。

「──で、まだ何か用あんの?
 浮気性の彼、放っておいたらまた他の女に取られちゃうんじゃない?」

終始少女を小馬鹿にするような女の態度。
耐えかねたのか、涙目の少女はそのまま背を向け走り去ってしまった。
『いずれ罰が当たりますよ』なんて言葉を最後に残して。

「また仕事で一緒になったらよろしくねー♡」

走り去る少女の背には悪びれずそんな言葉を投げかけておいた。

クローネ >  
「別れたのかな~。でも別れたなら多分正解よね、あんな男」

考えようによってはいいことをしたのかもしれない。

思わぬエンカウントで退屈も紛れ、気付けば陽も傾いて。
表通りのお洒落なお店もいいけど、少し裏に引っ込んだ趣のある酒場もいいなと。
ちょっと心躍るイベントの起こった路地裏を歩き、店を探す。
さすがは王都の富裕層が集まるエリア、少し歩けばいくらでも店がある。

「お持ち帰り出来るようなイイ男が転がってますように~」

胡乱なことを呟きつつ、目についた酒場へと女は入ってゆくのだった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区2」からクローネさんが去りました。