2025/12/01 のログ
■影時 > 全く以てその通りである。返す言葉もない。その指摘は大変御尤もである。
とはいえ、とはいえ、だ。毛玉達に着せている服自体が見た目もそうだが、特殊な誂えである。
ショーウィンドウ通りのふりふりな品物を誂えられるに加え、魔術を篭められるお針子にして付与魔術師。
賢い毛玉でも、不意に空から襲ってくる猛禽やら獰猛な獣やらは如何ともし難い。守りが必要だ。
「ああ。こいつらの服は、一種の護符のようなもんでな?
一度や二度の不意如きで焼き切れるようなものじゃないが、そうならんよう適宜見てもらってンのさ。
ははは云うなぁ。……じゃぁ、今度引き連れて思いっきり飾ってもらわなきゃならねぇなぁ。
ぁぁそうそう。前に篝にやった上着もここで手直し等してもらったもんだぞ」
服自体のクリーニングも修繕もやってくれるが、ともすれば消耗品になりかねない効果は適宜診てもらうにこしたことはない。
“災難への護り”という広域な定義だ。賢くとも明らかに飼い主よりも弱く、無力な生き物が街中を闊歩するには必要だ。
加えて、稀に遺跡などで見つかる、入手した服飾の修復、調整も頼むことがある。弟子に与えたのもその一つ。
「……相変わらずよなァ。分かったよ。また、そのうちな」
さて、そう宣うからには仕方がない。
命令だと強いるのは簡単だが、気乗りせぬことをごり押すのは粋ではない。バッド酔狂である。
苦笑と共に肩を竦めつつ、取り敢えず通りを眺めながら家路となるルートを歩いてみることにしよう。
弟子の右手側にふらりと静かな足取りで位置してみれば、ぴょいと肩上の毛玉の片割れが跳ぶ。
シマリスの方が跳ぶのは、勿論小柄な弟子の肩の上。帽子の上に陣取らないのは、それがまずいことを心得ているが故に。
「……――良かろう。昨今の動き、働きも含めて、な。俺もいくつか聞いておきたいこともある」
身長差以上に、歩みながら眺め遣る弟子の貌が見えない。
ン、と考え、進路を勘案する。寄り道は最小限の方がきっと良さそうだ。語気に滲むものを氣に敏い身としては見逃せない。
■篝 > 「護符……? 守りの術。ただのお洒落や見分けの為だけでは無いのですね。
ん……。飾るのは……ぅー……。ぁ。ラファルも一緒に応じるのであれば、承諾します。
――やはり、そうでしたか。
では、この服もまた調整が必要になった際は、この店に依頼します」
負けじと返され飾る云々と言われると、なんと返したものか。
上手く逃れる方法を悩んでは、先日出くわした姉弟子の姉――師の雇い主の言葉を思い出し、これなら早々実現するまいと無理な条件を提示するのだった。
野生に生きる幼女が服を着るに至るまでの苦労話を知った上でこう言うのだから、娘も随分強かに躱す方法を学んだものだ。
「……ん。そのうち」
帰路を歩めば、娘の影法師の隣にもう一つ、一回り大きな影が並ぶ。
そこからひょいっと身軽に飛び移るシマリスの影が見え、同時に肩に小さな毛玉が飛び乗る衝撃が続く。
ちらりと見やれば、新品のポンチョに身を包む姿が間近にあり、愛くるしい瞳に見つめられては褒めずにはいられない。
相棒のモモンガに聞こえぬように、声を潜めて「とても似合う」と囁いて。
冬毛になっただろうふわふわ、モコモコの毛並みを人差し指で軽く撫でて擽りつつ。
「聞きたいこと……は、答えられるものであれば、お答えします。
……先生、今日の夕食は何にいたしますか? ……今日も冷えるので、温かいものが良いのではないかと……進言します」
場合によっては答えられ無いものもあるかもしれないが、極力隠し事はせずに話せるように努めようと心中に刻み。
僅かに残ったままの迷いからは眼を逸らし、目先の楽しみ――晩御飯の話へと話題を強引に逸らしては、本当に途中から食欲に釣られて忘れてしまう有様で。
■影時 > 「おうとも。元々は見分けのため、でもあったンだがね。こいつら首輪のつけようが無ぇしよう。
って…………無理難題の極みを持ってきたなァ、お前。
商会に頼む手もありはしたが、服なら事のついでに頼み易くてなぁ。
ああ、そうしてくれ。そうそう破れるものじゃないが、その分修繕も骨が折れよう。あ。今度、いつぞやの指輪も頼むか」
シマリスは兎も角、モモンガなんて生き物は街中で見かけるものではない。
とは言え、野生であるかどうか、誰が飼い主であるかどうか等を考えるなら、何らかの目印は必要であった。
体躯、生態として首輪、足輪の付けようのなさに対する苦肉の策として至ったのが、服であった。
体形に合わせたミニサイズの服に加えて、しかも脱げづらいという付加効果を狙うとなると、それこそ魔術に頼るほかなかった。
気付けば長い付き合いになっているのは、何の因果か。それとも縁か。だが、お陰で弟子の守りにも寄与しているのは僥倖か。
加えて洒落っ気でも、と思えば、何処でそのタネを拾ったのか。文字通りの無理難題の極みに、思いっきり唸る。
仕事の時はまだ装束は着るにしても、平時の格好で辛うじて――というレベル。全く、是非も無い。
「ま、その手の例を眺めるにゃあ困るまい。気になったら言ってくれや」
特段の課題にはしないが、何分年頃の娘だ。ミレー族という問題は差し引いても、お洒落はどれだけしても困るまい。
仕事という題目は抜きに自発的に、至るまでは……気長に構えるとしよう。
そう思いながら、連れの肩に飛び移る子分の片割れを見る。
ぺたーんと飼い主の頭に貼りつく相方とは違い、アクティブに「どうでやんすか?」と肩上でくるっと回って、つぶらな眼で弟子を見つめる。
囁きに嬉しげに尻尾をはためかせ、お礼にとばかりにお腹の白いふかふかもこもこを撫でさせてご満悦顏。
「なーに、ギルドでな。幾つか聞き及んだことがあるから、そっからだな。
……ふむ、そうだなあ。パンはあるが小麦少な目でちと硬めだったな。
白身魚と野菜を煮て、香辛料に南洋産の赤い果実を加えて味付けてみた、みたいな汁物でやってみるか。美味いらしいぞ」
まずはやはり昨今の冒険の働きでも触りがてら始めるか。
方策、流れを考えながら、同時に昨今聞いたレシピに合わせた冷蔵庫含む食材の備蓄を脳裏に浮かべる。
赤い果実とも野菜ともつかない丸いものは、酸味がちだが滋味で栄養価も良いらしい。
寒くなる時期なら、しっかりと整えておきたい。麺も合うらしいが、小麦を混ぜたライ麦パンも先に片してしまおう。
口に合ってくれると良いが、と思い、願いつつ二人と二匹の姿が、街の風景に流れゆく――。
■篝 > 無理難題であると皆が思ってしまうくらい、姉弟子の矯正は頭を抱えることなのだなぁ、と改めて思いながらも否定も訂正もしなかった。
人に着せ替え人形にされるのは同僚との買い物で懲りたのだ。
年頃らしいお洒落への興味は相変わらず希薄で、風呂嫌いの猫の如く警戒してしまうのも致し方あるまい。
「壊れる前に布も術も繕ってもらう、こと……承知しました。
ぅ? ああ、指輪。そうですね、使うならこれからの季節が覿面です。お願いします。
……店を見に行くのも、その時で」
首肯と声で返事をしつつ、視線は肩の上で見せびらかす様にくるっと回るモッフモフに向けられていた。
人懐っこく自慢してくる愛嬌の良さに思わず目を細め、差し出されるふわもこお腹を指先で堪能させていただくと、それはもう思考の触り心地だったとか。
「……ギルド……冒険者の方でしょうか……。はぁ、まぁ……承知いたしました。
――ん、魚と野菜の……スープ? 赤い果実……ですか。 美味しそう……。楽しみ、ですっ」
そこからの道中は不安も忘れ、晩御飯に思いを馳せて出来上がりを楽しみにしてせっせと手伝うつもりで。
待ちきれない思いから歩みは急いて早くなって行くのだった。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」から篝さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」から影時さんが去りました。