2025/10/27 のログ
ルーベル > その日は格別な出会いはなく。店の雰囲気と上等な酒精だけを楽しんで、その場を後にしていく…。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からルーベルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」に影時さんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にリスさんが現れました。
影時 > ――当初は、初めは、もっと小さく済ませるつもりだった。

だが、望めば望む程。増える増えて。大きく大きく。高く高く。なる。なった。
人の欲の在り方によく似ている。否、此れもまたそのものかもしれない。
欲するすべてを叶えようとするなら、その入れ物はどうしたって大きくなければならない。欲似たる器が要るのだ。

何の話かって? それは……――。

「…………こりゃまた凄い」

そんな間抜けな声が、王都富裕地区の端の方で晴れた秋空、雲間から除く陽の下で転げて落ちる。
富裕地区も色々ある。大きな屋敷があり、小さな邸宅があり。それらの住人を目当てにした商店も数あり。
富裕地区と平民地区に近い、近隣した場所であるならば、平民ながらも財を成した者達が居を構えることもあるという。
勿論、貴族の住まいもある。だが、歩けば時折堅く門閉ざされたものも少なくない。
手放し、売りに出されているのだ。或いは何か罪を追って、取り上げられた、というものもある。

……取り上げられた、という言葉を脳裏に浮かべながら、堅牢ながらも贅を尽くしたような秋空の下にそびえるものを見る。
大きな。今も拠点にしている平民地区の宿屋のそれよりも大きい、大変立派な煉瓦積みの外壁をした洋館である。

「……なーにを仕出かせば、こんなお屋敷取り上げられるようなコトになるんだかなぁ。……なぁ?」

鎖と錠前で閉鎖された観音開きの門の前に立ち、唖然とした顔つきで見上げる羽織袴の男が嘯き、肩上の二匹に問う。
男以上に事情も知らぬ、シマリスとモモンガも聞かれても困る。白い法被を着た二匹が困ったような素振りで顔をわしゃわしゃ。
問いの答えを欲するなら、此処に案内してくれた雇い主、女主人の方を見る他ない。
家を探しているという要件と共に、幾つかの条件を提示した。その解答は、どうやら平民地区に求めることはできなかったのだ。

リス > 欲しいと言う物は、大事な感覚である。
 欲望があるから、それに向かって頑張ることができるのだ。
 それに、必要だからこそ、欲しいという感覚を持つことができる。
 実際に必要か、欲しいから求めるのか、其処には乖離があるのだけども。
 欲しいという感情は、どちらにしろ、出来てしまう物である。

「そうですわね……。
 自分の収入が減っているにもかかわらず。
 貴族(とくべつ)だからと、計画もなく、目算もなく。
 自分の欲望の儘に、湯水のように金を使い。
 返せるから、大丈夫だから、と、金を無限に借り続けていたのですわ。」

 身を持ち崩す貴族には、良く在るタイプの話だ。
 さらに言えば、先祖代々からの貴族であり、生まれつきの貴族に良く在る話だ。
 自分は選ばれた存在だ、自分は普通では無い。自分の家は、何時までも安泰。
 その幻想から抜けられず、自分の支払い能力以上の金額を求めて、借りていく。
 借金には、利子があり、その利子を考えずにいた貴族。

「ただ単に。
 お金の大事さを知らずにいた、愚か者の末路、ですわね。」

 一言に纏めればこういう風になるものだ。
 それでいて、持て余していた、と言う訳では無い。
 土地も、家も、商品である。
 借金のかたに貴族から、その家を買い上げた後、綺麗に清掃していた。
 何か普通業な物事があっては困るから、と。
 盗賊職(忍者)の妹に、隠し扉や、隠し部屋など。
 @魔導士@の妹に、呪いや、邪悪な魔法などの有り無し。
 そういったものが、無いかどうかを調べてもらい、問題がなく。
 その上で売りに出そうとしていた所に、掛かる家庭教師からの依頼。

 渡りに船、という所だった。
 一癖や二癖以上しかない妹や娘達を一手に引き受けてくれる家庭教師のお願いだ。
 それなら奮発の一つするのは、人情……とか言う物なのだろう。
 そんなこんなで、案内したのが、此処である。

 場所などは問題ないから、後は希望の間取りなどだけども。


 「貴族の家は基本的に部屋が多く広いので、後からの改造もしやすいものですから。」

 その改造に関しても、ドワーフの建築家などを呼びますからね、と。
 父親と娘程に身長差の違う男性を、見上げて、笑う。

影時 > こう見えて、否、こう見えなくとも物欲は――そこまで強くないとは思っている。
上を求めてしまえばきりがない。
例えば、真っ先に手が触れる武具はどれこれも容易く手に入らぬ出来だ。
一角の武人と名乗るのは烏滸がましい身だが、此れを使いこなせないと宣うのは恥の極みに等しい。

とはいえ、だ。

昨今のあれこれが武具如きでは解決できない、と云わんばかりに変化を迫らせる。必要を感じさせる。
立て篭もるべき今の住処の場所の脆弱さ、脆さ、リスキーさ。己が闘争に余計な他者を巻き込ませるべきではない。
それならば、いっそ。質を窮めればどうか。地勢を変えてみたらどうか。

「……あぁそういう手合いは、家庭教師を始める前に散々見た気がするなぁ……。
 俺の故郷の大名(ウォーロード)どもとて、そこまで酷くは無かったぞ。
 ……いや、酷かったか? 財政が火の車だったら、その皺寄せは下々に寄った例も……ああ、あった。あったなあ。
 
 それでもこう、あれか。あれだな。――ダメじゃねえかよ。」
 
身を持ち崩す貴族の例は、数ある。放蕩貴族以外にも、魔道や錬金術の研究にかまけて領地運営を怠った貴族。
切り崩す財貨を取り戻せる計画、蓄え直す目算も何もなく、間に合わせである筈の借金を繰り返して、破綻するのはどうだろうか。
愚かの極みである。領地運営であるなら下々の者にしわ寄せが行き、諍いの要因になることもあった。
だが、今回の例はきっとそれ以上だ。安寧を得る、安心を得るべき場所から放逐され、その後は――語るべくもない。

「――おお、怖い。
 いや、俺も一つ何か仕損じればそうならねぇとは云い難い。心すべき、だな」
 
おどけて肩を竦めれば、ぴょい、ぴょいと肩上の二匹の毛玉が跳ねる。
跳ねたうちのモモンガが、案内してくれた女主人の頭の上に飛び移り、こわーい、とばかりに尻尾と左右の前足を挙げてみせる。
お金の大事さは、こうして失う前ではなく、今こそよくよく噛み締めるべきだ。
稼げなければ、生活を保てない。稼げなければ、金のチカラにものを云わせるような交渉もまた、うまくいかない。
今こうして目の前にある“商品”を買うのだって、また然り。

「だろう、な。一応答えは出ているつもりだが、中も見ておきたい。可能かね?」

注文は多くなりそうだぞ?と。父娘程に見た目と背丈の違いがある相手を見遣りつつ、問おう。
門を固く閉ざす錠前を指さすのは、流石に斬って入れというものではあるまいと思うが故に。

リス > 自分の事を、ちゃんと把握していないというのは、怖いものだと思う。
 彼の持つ装備はすべて、そう、全て、一点物であり、逆を言えば価値のあるものだ。
 それを持つ時点で、物欲と言う物は満たされていると言って良いだろうと、リスは考える。
 これは、商人的な視点と、ドラゴンの感覚なので、世間一般的な物では無いので、口にはしないが。
 彼もまた、贅沢に、少しばかり心を捕らわれているのだ、と。

 必要を感じているからの、今回の依頼、家の紹介との事。
 聞けば、自分の妹も含めた、彼の弟子の育成のための家と、聞いている。
 それ以外は聞いていないというか、与り知らぬほうが良いところなのだろうと思う。

 大事なのは―――買いたい客に、気分良く買ってもらう。

 その為の情報はリスは求めるが、それ以上の情報は、聞かない事にする。
 まあ、流石に犯罪とかそういう方面の香りがするなら追及するが、彼の人柄も知っているし、大丈夫との信頼もある。

「東方の……って、よく聞く話だと。
 お金がないなら、隣の国を攻めて奪えばいいじゃないという蛮族思考だって聞いたことがありますわ?

 ―――ええ、どのみち、ダメ、ですわね。」

 彼の故郷の事は、彼ほどに知らない。
 ただ、領地の経営に関しては、行き当たりばったり、お金がないなら隣を攻めて奪い取る。
 そんな認識が強く在る。間違った知識も多分あるのだろうけれど。
 彼の国は、戦国と言われているような気がしてならなかった。
 正しいのかしら、と、確認するように、教師を見上げて小首をかしげる。

「大丈夫ですわ。
 ちゃんと、返しやすい設計なので。
 それに、皆さんで、という方法もありますから❤」

 そう、この家に住まうのは、彼一人では無い。
 家の長は彼でも、稼ぐことができる人は一人では無いのは大きい。
 いざとなれば、全員で返済すればいいのだ、と。
 それに、それに、最悪、妹のお小遣いを減らしますしね、と。

 後ろで、金髪幼女(ラファル)が文句言ってるが気にしない。

 頭の上のモモンガとリス。そっと手を伸ばして、よしよし、と撫でて見せる。
 ちなみに、リスは、スクナマルに一寸だけ、ひいきしてる。
 だって、リスだもの。

「不可能なんて、そんな詐欺みたいな売り方は致しませんわ❤
 どうぞご見分を。
 そして、注文があれば、引き渡しの時までに修正しておきますわ。」

 その注文にこたえるのが商売人ですから、と。
 にこやかに微笑みを返して見せて、そっとヒテンマル、スクナマルを肩に卸して、頬を擦り付ける。
 そして、ヒマワリの種を一つずつプレゼント。

影時 > 失えば同じものは手に入るまい。そのレベルの一品物が主な武器、商売道具である。
グレードが落ちた武器でも戦えはない。戦おうと思えば、一束幾らの安物でも戦えはする。
そう、戦えはする、だ。無手でも敵の首を刎ねられる身が刃を握るのは、無手より威力を叩き出せるからのこと。
武の器たる刃の質が己に追いつかない場合、全力を出さなければならない時は、使い捨てを前提としなければならない。
そんな自分が、身の丈に合った刃を揃えている時点で、武器の面での物欲は満たしている。

――欲に囚われるのは、どちらかと云えば真逆。

生活、嗜好的な面も大いに強い。今までと勝手は違うにしても、グレードを下げ難い生活に浸っていたのも大きい。
宿暮らしのアドバンテージを手放すにしても、蛇口を捻れば程無く温かい湯が出るような。
濡れタオルで身体を拭うでもなく、湯舟に肩まで浸かれるような。火を起こすでもなく鍋を沸かせる生活とか。

その上で、守り易く、なおかつ弟子達の利便性を図れる等々を盛り込んだら、平民地区の家では足りなくなった。
勿論攻められたら平民地区の住居、集合住宅などでは、色々と厄介が増える点もまたあったが。

「そこは否定はし難いんだが、銭の有難み、重要さというものを認識してた者が昔から居たわけではなくてなァ。
 
 ……このあたりで云うなら、麦だ。
 麦が価値の基準の第一、前提となり、貨幣が後に付いてきたって感じか。

 下々の者から来年撒く麦粒すら残さず取り立てなきゃならんようになるなら、そら。隣国から毟ろう、とかなるわけだ」
 
もうそこまで行くと駄目だがなー!と。乾いた笑顔で呵々と嗤わずにはいられない程でもある。
主食となる穀物の生産量、農場となる土地などを求めて、奪い合い、小競り合いなどが在ったわけで。
与えるべき土地が無くなるなら、何を与えればいいか。それを流布させるためのあれこれといった視座の持ち主が、天下に覇を唱え出した。
言い換えも混ぜた大雑把な説明だが、此れもまた蛮族的な、即物的な発想には確かに違いない。

「そりゃ有難い。一人は躍起になりそうだが、頑張りすぎねェように釘を刺さんとなあ」

見積もりの段階で、即時一括払いは無理だと判断している。
資財をかなり叩いている状態でなくとも、即決は出来なかったろう。平民地区ではなくこの地の物件を求めるのはそういうこと。
共に住まう者、住まわせる者達には伝えるが、一人は何かと躍起になりかねない気がする。
……何かわーきゃーとか、言ってる声が聞こえなくもない。
そんな飼い主たちのあれこれとは素知らぬと、毛玉達は自由だ。相方に続いでシマリスも女主人の頭の上に飛び移る。
撫でられて、冬毛になりつつあるもこもこぶりが気持ちよさそうに身じろぐ。
……何か、足りなくない?とモモンガが、首を傾げるのは、きっと気のせいにしておこう。

「そうはするまい、と信用して頼んでる以上は、なぁ。そうされたら困る。
 んじゃまあ、失礼しまーす……と」

ヒマワリの種、略してヒマ種を貰えたら、二匹は「!」と尻尾を立てて喜ぶ。
それを見つつ、ではさっそく――と動き出す。荷物持ちがてら、預かったものを腰から外す。
幾つもの鍵が付いた鍵束だ。鍵ごとに付いた銘板を確かめ、門、玄関の鍵、と見立てたものを構え、事に掛かる。
門を戒める鎖と錠前を外し、門を開く。先導するように屋敷の玄関まで至れば、それも外して押し開こう。

――開く中は、明り取りの天窓から陽光が静かに差し込む。だが、広い。そう思わせる静寂が空間に満ちる。

リス > 「米、は知ってますわよ?影時先生が教えてくださったじゃないですか。
 それで作ったお酒、とかも持ってきてくださいましたし。
 主食なのでしょう?」

 少しばかりの、代替品を使っての説明、税のシステムは確かにどこも同じだと理解はしている。
 こちらの国では麦だが、かの国では米だという事は教えてもらっている。
 なので、あえて麦に直さなくても、大丈夫と伝えながらも。

「まあ、どのみち、どのみち、税を納める人さえ生きていけなくなるくらいに。
 搾取してしまったら、ダメよね……。」

 遠くを見てしまいます。
 商人としても税金とかは、結構大きな支出になることがあるので。
 判るのです、判るからこそ、ダメだよなぁ、という言葉、乾いた言葉が零れてしまって。
 乾いた笑いを零す先生と、商人がそこに居た。

「まあ、普通に……先生の給料面から払いきれるようにしてますし。
 抑々、元本のみの利息無し、ですから。」

 そう。
 雇っているのリスの方だから、彼が仕事をしているなら払いきれるし。
 仕事をしてもらっているから、利息は特別免除でもある。
 そも、彼が払えなくなるという事自体が、有っちゃいけない状況でもあるので。
 先程のあれは、冗談程度。
 若しくは、早く支払いを終えたいときの方策程度でしかない。

 (ラファル)には、此処に棲むなら、家賃くらい入れなさい、との姉の厳命。
 家族でも、親しくても、その辺りの礼儀ぐらいはとの事でもあった。
 お菓子くらいしか買わないのだろうし。

「さて。説明……は、必要ないと思いますが。
 何か説明が必要なら、ご質問を。」

 基本的に、彼が必要として注文して建てた邸宅だ。
 なので、見て回り、判らない所がない筈でもある。
 ただ、図面と実物では、印象が違う所もあるだろうから、と。
 そのために、リスは、影時の後ろをそっとついていく。

 ヒマ種は、一個で良かったのだろうか。
 喜んでカジカジしている二匹に視線を向けてみる。

影時 > 「おっと。そうだったな。
 だがそのうえでも置き換えて話す方が、分かり易いかと思ってな。
 
 ……然り。俺の故郷で主食となる穀物だ。それが人間の、そして経済の活力源でもある。
 故に其れを栽培できる土地は褒賞ともなり、土地の保証を安堵する代わりに武力を権力者に差し出す、とか。
 こんな処で話す話題じゃあないかもしらんが、其れがクニの基盤であり、ある種の破綻の下地だったんだろうなァ」
 
確かに昔教えたこともある。語ったこともある。
だが、その上でも置き換えて話す方が分り易い、受け入れやすいこともある。
主食となる穀物含め、生きるに必要なものを価値の基盤、物々交換の前提と始めた貨幣経済の前段階。
天変地異等で不作となっても腐らず、価値を保証される金属貨幣よりも切実な位に即物的でもあったのだろう。
だから穀物本位な有様は恐らく、今もまだ続いていることだろう――と、思いを馳せ、続く言葉に全くだ、と吐息する。
まさに、田を分けるからこその“たわけもの”、という罵倒の句が成り立つ。
そんな君主、領主が収める国は長くはもたないのは、目に見えている。

「非常に有り難過ぎて頭が上がらねえなぁ。
 ――あれかね。地べたを舐める位に土下座キメた方が良い? やるならやるぞ」

ともあれ、だ。生活基盤を崩さないためにも支払い方法を詰める必要があった。
地盤固めを疎かにして家は建たない。早々直ぐに直ぐにまとまった金が入るわけでもないのだから。
故にお支払いは計画的にとなれば、分割で支払うということが早々に決まった。
この支払方法につきものの利息の概念がない、というのは、世の債務持ちからすれば血の涙が出そうなもの。
その有難みは、この男でもすぐさま笑えない冗句すら口走らずにはいられない程に。

「資料は粗方見たつもりだが、幾つか無茶と贅沢は頼むような様相だからなあ……。
 ……組み立て式の茶室、なんて奴を思い出して、書き出しておいたり、小さな工房とか設けてもらうつもりだが。
 
 特に前者は大丈夫かね? だいぶ無理と無茶頼んでいるつもりだが」
 
元はあるとはいえ、希望と要求を詰め込んで手を加える。
安全対策として敷く予定の術式の基盤は、昔の雇い主から引っ越しの前祝的に譲り受けている。
其れを手を加えて使うための依頼に加えて。様々な魔導機械類の導入以上に、趣味の盛り込みが一番無茶でもあろう。
精神修養的にも茶もキメたくなる。畳やら調度やら。
大々的には難しくとも昔伝え聞いた茶室の概念でも取り込めば、とも考えた。分解組み立てが可能な茶室。
それに類似した、近い物ならば、組み込み的な形で一室を改装できないか。

玄関のホールを抜け、階段を通り、居間から書斎に向かう途中の廊下の一室でふと足を止める。
使用人向けの個室なのだろう。此れを大変私的な私室のひとつとして、改修したいという酔狂な欲。

ヒマ種は沢山もらうと、この時期ついつい溜め込んでしまいかねない。
親分がとやかく言いそうだから、毛玉達はお気持ちだけ、と前足を上げて、お辞儀を一つ。

リス > 「ええ、確かに。
 価値と言う物は共通認識ですから、米よりは、麦の方が判りやすく思いますわね。
 一応商人を名乗る身なので、此方での、米の価値、向こうでの米の価値は、押さえてありますが。

 経済の学びとしてお聞きしておきますわ。
 他国の観念は、とても有意義ですから。」

 どのように見て、どのように考えているかというのは、物を売るのに大事だ。
 例えば、米が主食なのに、麦を持って行ったとして、麦が使えなければ売れないという事もあるのだし。
 国を知れば、人を知れば、そこに在る。「欲しい」が判るものだ。
 そして、欲しい物を欲しい所へ持っていく、それが商売なのである。

「影時先生?
 それは止めて欲しいわ。変な趣味に目覚めたなんて思われたくないし。」

 ちょっと本気で止めた。
 別に、そんなこと(五体投地)をしてほしくて、元本のみにしたのではない。
 元本のみ返済なんて、お金を貸す方からしていうなら、一切のうまみが無いのだ。
 普通に考えてしない事ではある、彼もわかっているからの言葉なのだろう。
 しかし、ちゃんと理由がある。

 リスの子供の大半(殆ど)は、彼に教えを乞うている。
 それも、正規の授業だけではなく、突発的な授業として、動くことも有る。
 その際その際に、ちゃんと計算はしているが、彼に子供たちの授業を、特に常識を教えてもらう価値と言う物は大きい。
 金銭だけでは無い価値を与えてくれることに対しての返済という点もある。
 それだけ、影時に対する、信用の価値が高いからこその、元本のみだった。 

「職人と言うのは、難しい注文にこそ、やりがいのあるものにこそ、燃えるもの、ですわ。
 特に、図面があって、難しいとかは、自分の技術上昇のため、とか全力以上に燃えてくださいますから。」

 影時の懸念に関しては、にこやかに返答をして見せた。
 そう、職人肌で頑固な人たちは、そういう、無茶な物こそ燃えて行う。
 他の誰かにできたこと、自分にできないはずはねぇ、俺のほうが良いもの作れる、と。
 良い刺激、イイ起爆剤になりますね、とにっこりして見せて。

「……うそ。この子たち、ラファルよりも分別があるわ……!」

 そして、ヒマ種を遠慮する毛玉たち。
 自分の妹よりも分別のある行動に、むしろ驚きを隠せなかった。
 自分の妹は、可愛らしい子の毛玉たち以下だったことが証明されてしまった。

 ラファルは、貰うだけもらうし、食べるだけ食い尽くすので。 

影時 > 「相場、という奴だな。……それに加えて、なンだが、あれだ。
 気候、気象の記録と分析が出来る人材も同時に押さえておくことをお勧めする。
 既に手ぇ打っているなら、竜対して蛇の道を語るにも似た余計なお世話だろうが。
 
 麦もそうだが、何より米は夏の嵐や長雨に影響をもろに喰らったりするからなあ……。
 星を見るように先を見通せる人材が居るなら、不作の前にも幾つか手も打てるだろうよ」
 
世の中需要と供給だ。麦を喰う土地があり、麦を喰わないが他の作物を主食とする土地がある。
その土地で余るものが、何らかの理由で他所の土地で需要があるならば、そこに商機が生まれる。
嗜好品も含め、農作物は投機、投資の題材となるが、その際に影響をもたらす要因の最たるが天候である。

これを商人に語るのも、とは思わなくもない。
港湾都市に本拠を構える商会である以上、海運にも天候を読む、予報を立てることは重要事でもある。

それでも、と思うのは矢張り、夏の長雨、暴風雨にもろに影響を受ける米の悩ましさであった。

「ははは、冗談だ冗談。とは言え、大っぴらに言い難い位ぃに有難い話過ぎる」

つくづくお金は大事である。必要に迫られて、とはいえ、己が要求を満たしてくれる厚遇には感謝もしきれない。
その分仕事で返したい処もあるが、投機的に迷宮に潜って稼げそうなものを拾うことも欠かせない。
基本的には計画的に。だが、冒険も忘れたくない。可能ならば実地演習的に教え子との冒険もしっかり楽しみたい。
此れほどの厚遇に如何にして報いれば、内心の満足が至るかどうか。
最終的にはいずれ、そのうち宿を出なければならなかったとはいえ、思う処は尽きない。

「それでも、だーいぶ無理難題はしてると思うがね。
 職人殿らの張り合いになると良いが、畳も一部の資材やらは……取り寄せかねえ。
 とは言え、この国らしく工夫された仕上げ、仕立てってのは、気にならないと云うと嘘になる」
 
石と煉瓦の造りと土と木材、紙の造りと。土地が違えば、建物を作る造りも大きく、色々と違ってくる。
蓄えた知識の開陳と、昔見知って気になったあれやこれやを作らせようというのは全く無茶振りかもしれない。
その分お高くなるかもしれないにしても、なに。身体に気をつけながら働くだけのことだ。
その上で、職人たちにも得るものがあるならば、ウィンウィンであろう。

「……あー、宿に帰ったらその分、たっぷりほっぺに詰め込むんだがね。
 こいつら、冬が近づいてくると、色々食い物溜め込みたくなるのが止められなくてなー……」
 
ここでは遠慮するが、その分、というものである。お外ではおすまししたい年頃?かもしれない。
何分、本能というものがある。秋冬を迎えると、食べ物を蓄える本能ばかりは止め難い。
日々餌を与えていても、我慢しきれないと分かれば、止めないことにした。寧ろ悪影響になりかねないと。

えへん、と胸を張った二匹が内実を述べれば、云わないでー!とばかりに、尻尾や足を上げて抗議の構え。
それを横目にしつつ、増改築予定の内部を隅々まで見て回ろう。
気になる所があれば都度述べ、覚え書きにもしたため、その上で可能な範囲で実現の可能性を高めていく。

――現状の理想、小さくも己が城を実現させるために。