2025/10/18 のログ
■ナイト > 笑いを堪えきれない、そんな様子も変わって攻守逆転。
噛みつくような勝気な少女の笑みにニヤリと笑って答えた彼だったが、無線から聞こえた話にキョトンと表情を変える。
無線の向こうの若い兵が何を言っているのか、まるでわからない。
そんな顔をして見せるので、少女はスンッと無表情になり、やがて眉間に皺を寄せ顰めっ面になった。
そして、更に話が飛んで妙な噂話まで出始めると、慌てた様子で否定を何度も口にした挙句、あからさまに視線は少女から逃げてしまった。
その一部始終を見終えて、少女はやれやれと肩を竦めて苦笑する。
「そうねぇ……。実技はまだしも、座学は結構大変だったわよ。
慣れてないってのもあるけど、私も一時本が嫌いになりそうだったもの」
結局、呼び方はそれになったわけだ。
そう内心で頷き、自分の教育指導の真面さを確かめようとする問いかけに、正直に返事をした。
実際、本を一冊読んでテストしてを毎週繰り返すのは、地味に辛い時もあったが、最初は意地で、途中からは習慣づいて最後まで乗り越えられた。
お陰様で、着実に知識はついたと断言できる。
「で、プレイボーイのヴァン様、今度は誰の話を盗み聞きするつもり?」
いそいそと親機を操作する隣で、意地悪く微笑み目を細めて問いかける。
後ろめたそうな、或いは狼狽える顔を一瞬でもしたなら、新しい話題が舞い込むまで、獰猛な狼はチェシャ猫のように彼を揶揄い見上げるだろう。
■ヴァン >
「文字を読める、本を読めるといっても方向性があるからな。小説はすらすら読めるけど魔術の理論書は無理とか、その逆とか。
ともあれ……本が嫌いにならなくてよかった。司書としては避けたいことだからね」
はっきりと答える姿からは、忖度している様子は伺えない。読書を習慣づけ、知識を得て。間違いなく成長をしている。
これからも伸びていくだろう。一度、神殿図書館に来てもらうのもよいかもしれない。
プレイボーイと評されて、少女につられるように意地悪い笑みを浮かべてみせる。
揶揄われて、何か反撃する手段を考えついた時の表情だ。
「そうだな……あの悪ガキ共の話を聞いてみるか」
悪ガキども、と男が評したのは、少女より4つ5つ上の兵士達だ。
真面目な者たちが多い中で、屋敷外で女を口説いたり博打をしたりと遊び慣れている二人。
伯爵への忠義心が優先しているのか、遊び好きが問題となるほどではない。
他の兵士達とは少し変わった観点での話が聞けるかもしれない。
男はつまみをいじって目的の子機に繋げる。やがて、軽そうな男達の声が流れてきた――。
■近衛兵たち >
「……仕事中と休みのギャップが大きいよな。すごい女の子らしい格好してるから驚いたよ。改善点、って話からはずれるか」
≪ギャップといえば、小説が好き、ってのは意外だった。北方生まれってもっとアクティブな事してるのかと≫
「女らしさをアピールすると周囲の反応も変わるかもな。お淑やかとか……ないものねだりか」
≪教官殿が言ってたの、お館様の警護についてだろ?礼儀作法や物腰は大事だろう≫
意外なことに、男達は真面目に考えていたようだ。年下の少女の方が己たちよりも実力があることを把握し、何が必要か話している。
■ナイト > 「ええ、お陰様で……っ! 理論書はともかく、読書は好きよ」
軽口を返し、互いに挑発し合って笑みを向け合う中で、先ほどとは違う複数の声を無線が拾う。
声はまだ若いが大人の男のもの。年の頃は少女と同年代で、やんちゃ盛りの悪ガキどもである。
最初に音を拾った瞬間、片眉を上げて耳を傾け、直ぐに声の主に辺りを付けた様子で浮かない様子だったが、意外や意外、真剣に話し合う連中の様子に少女は大きく目を見開いた。
「なっ、何よ……。普段は、そんなこと……」
いつもは顔を合わすなり喧嘩になるのに、真剣に話し合うなんて、意外と良い奴らなのかも!
戸惑い頬を徐々に赤く染めていた少女だったが、最後の方は、「んん?」と首を傾げる。
本人が居ないからこそ出る素直な意見である。けして、褒めてばかりではない。
お淑やかさの欠如。無いものねだりとまで言わしめられ、礼儀作法が無いと言わんばかりの言葉に、ショックを受けてピシッと石のように固まる。
「な、何よぉ~……っ! ヴァン、私って十分お淑やかでしょ!?
お辞儀だって上手になったし、食事マナーだって、これでも一から全部覚えたのよ?」
ギシギシと軋んで顔を上げた少女は、触れられる距離にいる男の胸倉を両手で握ろうと手を伸ばし、触れたならわなわなと震えて涙目で小声で訴えグラグラと揺する。
北の魔物の国を出て単身王国に渡り、それはそれは苦労をした記憶が湧き上がってきて、我慢ならなかったようだ。
■ヴァン > 少女にとって、男達の言葉は意外なものだったようだ。喧嘩するほど……という格言があるが、仲は良くなさそうだ。
本人がいない所での正直な感想は、本人に聞かせると調子に乗るから思ってても言わない、ということだろうか。
最初は嬉しそうにしていた少女だったが、
「……彼等が言っている通り、伯爵の護衛をするにはまだ足りない、ということじゃないか?
庶民と貴族の礼儀作法は違うものだ。どちらが良い、ではなくてね」
胸倉を掴まれ、ぐらぐらと揺すられる。
丁寧に言葉を選ぶのは、薄氷の上を歩むがごとく。選択肢を誤ったならば氷水の中に真っ逆さまだ。
礼儀作法について、何度かこの屋敷を訪れて会話していても気になる点はなかった。だが、貴族相手の社交の場では別だ。
男はまだその姿を見たことがないから、騎士が集まるような比較的カジュアルな場で確認した方がよさそうだ。
お淑やかさについては――今少女が両手で掴んでいるものが全てを物語っていると思ったが、口にはしない。視線を向けただけだ。
わかっている、とでも言いたげに少女の頭に手を伸ばし、ぽんぽんと撫でた。
「とにかく、研修をするにあたり学ぶことははっきりしたかな。
喧嘩っ早さ……感情を抑えること。貴族向けのマナーや振る舞い。……ん?」
ナイトにかける言葉を考えるために聞き逃していたが、男達がまだ喋っている。
■近衛兵たち > 男達の声は続く――。
「教官殿はさぁ、やっぱヤッてんのかな? 来るたびに夜、貴賓室に呼びつけてるだろ。試験とか言ってたけど」
≪メイド連中から聞いた話だと試験ってのはマジらしい。ナイトのあの性格だとそういう空気にならないんじゃないか?≫
「あー……とはいえ、教官殿は相当スキモノだって聞いたぜ。気の強い女を手練手管で堕とす、みたいな……」
≪ハハハ……官能小説かよ。そういや教官殿は今日泊まりだっけか。今頃そんな事になって……≫
「≪ないな≫」
兵士二人の声が重なり、笑いあう。盗み聞きをしている人間がいることを除けば、どこにでもある下世話な雑談。
ほぼ密着状態の男がよからぬことを考えるには十分といえた。
■ナイト > 掴みかかり揺らすだけで堪えるのも、少女としてはかなり我慢している方だが、大目に見ても到底お淑やかな淑女には遠く及ばない。
軽く頭に手を乗せ慰めの言葉を掛ける彼を見上げ、頬を膨らませて。
「~~~っ、わかってるわよ……っ。むぅー……っ!」
返された正論はごもっとも。わかってるけど、それを素直に受け止められる程大人では無い少女は、膨れっ面で唸り声を上げるのだった。
騎士でも冒険者でも態度を変えず、公平にと言えば聞こえは良いが、物おじせず素で接してしまう。
そう言う態度は、一部の変わり者の頑固者には受け入れられることもあるが、大概は反感を買う。
幾つもの騎士団や兵団の訓練に交じって顔が知られているが故に、『腕は断つが礼儀知らず』と悪い意味で目立って覚えられていることもあるかもしれない。
伯爵が知らない所で、三又の蛇は躾もされていない狂犬を飼っていると噂されているだろう。
「う゛ぅ……、わかったわよ。絶対、屋敷の奴ら見返してやるんだから……っ」
悔しそうにそう呟き、少女は耳に嵌めていた丸い端子を返そうとして、ふと、まだ聞こえていた声に耳を傾ける。
下世話な話題に、噂はちゃんと訂正されていると安心したのも束の間、男の良からぬ噂に驚きバッと顔を上げた。
「……っ」
官能小説……。その言葉が聞こえると、みるみる顔を真っ赤に染め上げ、慌てて手を離し距離を取ろうと後ずさる。
■ヴァン > 「まずは、研修先の貴族の胸倉を掴まないでこらえる練習からだな……」
頬を膨らませる少女の姿にふふ、と笑いがこぼれた。こういう所は年頃の娘なのだと思わせる。
歳の割には少し幼いと思うこともあるが――そこは種族の違いだろう、それに僅かな差だ。
男は変わり者の中でも最たるものと言えよう。
最初に手合わせをした際に近衛隊長が青い顔をしていたのが目に浮かぶ。あの反応が普通なのだ。
そういう点では礼儀作法を教えるには不適当なのだが、友人から頼まれた以上は完遂せねばなるまい。
「うん、その意気だ。伯爵を驚かせてやろう」
続いていた悪ガキの雑談は男の悪戯心を刺激する。会話の流れを予測して、男は手を打っていた。
少女が男の胸倉を掴んでいる間、その腕の下で腰に手を伸ばしていた。
顔を真っ赤にした相手が手を離し後ずさろうとしても、男の手に阻まれる。
場所は細い通路だ、男の腕がなくても十分に距離をとるのは難しい。
少し首を傾けて、顔を寄せて――少女の唇を奪った。舌先が軽く唇を舐める、触れ合うだけのもの。
少女の目を見つめる男の双眸は色がわからない。
「一か月ほど前に言ったことを覚えているかい? 拘束されている方がいい、って可能性があると。試してみようか」
そう言うや否や、男の顔が再び近づき――。
■ナイト > 軽口も叩けば、喧嘩も売る。生意気で強気な少女だが、反省すべき点は自覚があるようで。
頬を膨らませたまま、呆れずに笑っている物好きの顔をチラリと盗み見ては、気性荒く、感情の起伏が激しすぎる自分を少し恥ずかしく思った。
「ええ、勿論よ。旦那様に、あとさっきの馬鹿どもに思い知らせてやるわ!
私が如何にお淑やかで礼儀正しい淑女であるかをねっ―― ぇ?」
強気に言い切り、そのまま自然な流れで離れる算段だったが、後ろに下がろうにも腰を捕まえられていることにようやく気付き、疑問符を上げた。
「……ちょっ、ちょっと、ヴァン? ん、」
焦る少女をよそに、強引に顔を寄せ唇を重ねる男を、青いサファイアの瞳が大きく見開き映す。
温かく柔らかな感触、唇が濡れた気配に、頬の朱色は耳まで広がる。
単純な力勝負ならまだ勝機はある。
だが、悪戯に告げる低い男の声に少女は動けなくなり、眉を下げ、狼狽えた顔で見上げるしかなく。
拒むと言う選択肢は既に頭から消えてしまい、雰囲気に流されてしまう。
《そういや教官殿は今日泊まりだっけか。今頃そんな事になって……――》
現実は小説より奇なり。誰も知らない夜がそこに記される――。
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