2025/10/02 のログ
ご案内:「王都富裕地区 ティーハウス」にベアトリスさんが現れました。
■ベアトリス > 富裕地区にある、飲食を売りにする店、というよりは──商談等にも使用出来得る個室を備えている喫茶室。
長時間の会合の合間に飲食を提供始めたのがそもそもの始まりともいえるだろうが───その発生事由について女が特に語るべきものはない。
支払うものに対しての信頼は置ける、ということを知っていればそれでいい。
その個室の一室、居心地のいい椅子に腰かけ、耳目を憚らずとも良いその場所で、甘く煮だしたミルクティーを味わうとともに目を通しているのは──、いまだ帰還できないでいる自領の資料。
───少なくとも数字の上では後見人である叔父も無体な運営をしていないことがわかる。
少なくとも表面上は、という注釈がつくのが頭が痛いところではあったが。
そも、自領の家令を通して手に入れたわけではない書類でもある。
カップを傾け。目を通し終えた書類を、畳む。
本来ならそのようなことをすべきではないが、これは此処を立ち去るときに処分するつもりのそれだから問題はない。
どう動くべきかを、分かってはいるのだが。
実行する実力がない、というのは何とも歯がゆいものだ。
外部の手を借りたところで、結果は同じ事。
少なくとも、破綻なく経営手腕を発揮している後見人を放逐する理由はない。
己にとって良い状況ではないが───、領民にとっては問題のない状況なのだ。
細く、深いため息をついて、いつもの仕事とはまた違ったことへ、思考を巡らせる。
そのために、こうして周囲から隔絶した場所を提供してくれるこの店は己にとってもありがたい。
──もっぱら密談だの密会だのに使われている面が強いのは承知のうえで、だが。
ご案内:「」にベアトリスさんが現れました。
ご案内:「王都富裕地区 ティーハウス」にベアトリスさんが現れました。
■ベアトリス > 緩く瞬く。
畳みかけていた書類を改めて畳めば一つ息をついた。
軽く眉間を指先で抑えると、椅子を引いて立ち上がる。
必要な情報はすでに頭の中だ。不要なものを───暖炉のそばへと歩み寄って小さく火熾しの魔術を紡ぐ。
あまり魔術の素養がなくともその程度は女一人でも可能だった。
ちり、と紙の焼けこげる匂いを嗅ぎ、修復不可能になる迄燃やしてから、ティーハウスの一室を後にするのだった。
ご案内:「王都富裕地区 ティーハウス」からベアトリスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ヴァリエール伯爵家邸宅」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 【お約束待機】
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ヴァリエール伯爵家邸宅」にナイトさんが現れました。
■ヴァン > ヴァリエール伯爵家の敷地内。銀髪をオールバックにした男は周囲を見渡すようにしながら歩いていた。
どうやら人を探しているようだ。とはいえ――この邸内で男がわざわざ声をかける相手は数えるほどしかいない。
まずは主たる伯爵。伯爵は探すまでもない。適当な誰かに声をかければ案内してくれる。
次に近衛隊長。これも近衛兵の詰め所を訪れればなんとかなる。
残るは――他の者に聞いても首を傾げられることが多い、黒髪の少女。
邸内を歩き回り、特徴的な後ろ姿を目にしたので声をかける。
場所は邸内か、屋外か――。
「ナイトさん、ここにいたか。ちょっと、話がある」
封筒らしきものを掲げる。呼び方がお嬢ちゃん呼びではなくなっている。
もしかしたら一時的なものかもしれないが。
■ナイト > ヴァリエール伯爵邸には、美しい薔薇の庭園がある。
春に、夏に、秋にと、それぞれ異なる色で庭を飾るそれらは、この邸宅の自慢の一つでもあった。
過ごしやすい時期にはテーブルとイスを並べて茶会が開かれたこともあったそうだが、当代の当主はあまり興味が無いようで。
滅多に此処へは足を踏み入れず、手入れをしても愛でられない薔薇たちは可哀そうなものだと庭師が嘆いていたのを何度も聞かされた。
晴れの日は決まって、午後の休憩は此処で過ごすことが多かった。
こっそりと持ち込んだ茶と菓子をテーブルに並べ、密かに茶会擬きを楽しむのだ。
以前はそれに付き合ってくれる友人がいたが、今は――
「――! ……な、なぁーんだ。アンタか。
わざわざ探し回ってたの? 何よ、話って?」
不意に呼びかける声に驚き振り返る。
この屋敷で少女を呼び止める者なんて、片手で数える程度しかいない。
そして、そこに居た顔を認めると、この相手であれば茶会擬きを叱られることは無いと安心して、ホッと息をついて飲みかけのカップを傾ける。
■ヴァン > 見取り図から庭園が存在することを知ってはいたが、目にするのは初めてだ。
ほう、と感心したように呟く。黒髪の少女が庭園にいるのは予想しておらず首を傾げたが、休憩をとっている様子に納得した。
午後の少し遅い時間だが、黒髪の少女は真面目な性格をしている。さぼったりはしないだろう。
この屋敷を訪れた際に他の客とすれ違ったから、休憩時間をとるのが遅くなったのだろうか。
「休憩するにはいい場所だな。静かで過ごしやすい……。
あぁ。ちょっと伯爵と話し込んでね」
封蝋がされた手紙をテーブルに置いて、許可も取らずに隣の席へと腰掛ける。
三又の蛇の印は、この館の主のものだ。意外なことに、その封筒を少女へと差し出した。
周囲をもう一度見渡す。これから話す内容は内々に留めたい。おしゃべりなメイドが聞き耳を立てていないかを確認する。問題なし。
「伯爵が先日――我々が戦った日に、好ましからざる人物の訪問を受けた。
場所は敷地外で、君に責任は一切ない。諸々あったようだが、五体満足で戻ってきてるから問題もない。
ただ――ただ、護衛を連れていかなかったことについて彼を諫めたのだが、折り合いがつかなくてな。
お上品な場所の供をさせるには、この館には能力・性格・外見の問題で適任がいない、てのが彼の主張だ。
君はどれを満たしていないと思う?」
この男は比較的、感情が表に出る方といえた。抑えているものの、少々機嫌が悪そうに見える。
伯爵と話し込んだ、と言ってはいるが、口論に近いものだったのかもしれない。
■ナイト > 「そうそう、結構穴場なのよ。
兵士は庭には近づかないし、メイド達もメイド長に睨まれるからこんな場所じゃ休めないしね。
ふーん、相変わらず旦那様とは仲良しなことで。たまにはお二人も日光浴びながらお茶会でもなさったらよろしいのにー」
肩を竦めて理由を言い、続く言葉は片目を閉じて嫌味を小さじ一杯混ぜて返す。
テーブルに置かれた手紙に目をやりつつ、カップを受け皿に置き、勝手に腰掛けるのを咎めはせずに「ヴァンも飲む?」と、伏せてあった空のカップを手に取り尋ねた。
今日の茶葉はローズヒップ。独特の酸味がある鮮やかな色合いの紅茶だ。
彼が飲むと答えるならポットから注いでご馳走しよう。
置かれた手紙の刻印は当家のもの。主から彼へと贈られたものかと考えたが、何故か此方へと差し出され。
今から話すことに関係しているのだろうか? 首を傾げ、辺りを伺う仕草を見れば。
「……近くには誰もいないわよ。気配も音もないから安心なさい」
そう告げて話を促す。
そうして、彼から語られたことは驚きの連続であった。
まず、主が敵と出会ったらしいこと。
最も近くで盾となるべき騎士なのに、少女は主から一言もそんな報告を受けていなかった。
責は一切ないと言われても、全身の毛が逆立つような怒りの感覚は中々収まらず、言葉も直ぐには出てこないようだった。
否、つらつらと並べられた言葉に応えられなかったと言った方が正しい。
特に、最後の問いかけは少女にとって実に手厳しい指摘だった。
「ぐ、ぬぅ……ぬ。そ、そうね。私が満たしてない、のは……。
――ぬぁぁあっ! わかってるわよ! 性格、でしょっ!?」
機嫌が悪そうな彼の顔を見ながら、唸り、吠えそうになるのを我慢しようとも思ったが、結局我慢できずに、立ち上がってギャンギャンと吠えた。
この怒りが己の不甲斐なさに向けられたものであり、また主の迂闊さに対しての憤りでもあった。
きっと、相手も同じように友人を心配するがあまりに機嫌が悪いだろうことが伺えて、怒りの行き場が見つからない。
■ヴァン > 本来であれば来客をもてなすこともあるだろう場所。
現当主の性格ゆえ、穴場になっているのだろう。
「メイド達って……君はメイド長に睨まれないのか?
彼とは書類を使って打合せをすることもあるからな。屋外は突風が怖い。――そうだな、いただこう」
告げ口をする者がいなければ問題ない、ということだろうか。
男二人でお茶会……あまりにも普段とかけ離れた姿を想像してくすりと笑った。注がれた紅茶をありがたく受け取り、口をつける。
己より遥かに聴覚が優れた少女からの言葉に安心して、それでも低い、相手に伝わる程度の声で話した。
紅茶を半分ほど飲み、ふぅと溜息をつく。この男も、気を鎮めようとしていた。
立ち上がった少女を目だけ動かして見上げる。
「そういうことだ。一つで済むなら良い方で、だいたいは二つ以上欠けてる。
近衛兵の多くはチームワークで真価を発揮する。単独では力不足だ。外見も――護衛対象より目立つのは、お上品な場では望ましくない。
その点、ナイトさんは力は十分、外見も黙っていれば美人さんだ」
少女が怒る原因はわかっている。その解消が一筋縄ではいかないことも。
差し出した手紙を開けるように手元でジェスチャーをする。
「屋敷内警護に専念するか、あるいは随伴もできるようにするか。君の意思次第だ。
前者を選ぶなら、外で護衛できる奴を俺が探す。同僚が増えるな。
後者を選ぶなら、他家で練習するのが一番だ。時々他家に出向いて、学習を兼ねつつ実務経験を積む。
やらかしてもなんとかカバーできそうな、男爵か騎士あたりがいい……そんな話をした。おおかたこの手紙の中身も同じだろう。
彼のコネで頼み込むこともできるだろうが、君自身の伝手で選んだ方が君にも彼にも、相手にも良いだろう」
再度、長い溜息。少女のことだ、おそらく後者を選ぶだろうとの推測。
どこか気軽な所に行って実地研修を積む――そのことも男の感情を逆撫でしているのかもしれない。
「とはいえ、十三師団絡みは避けた方が良いだろう。王国内のくせにティルヒアは文化が独特だ。
他の騎士団との合同訓練とかで仲良く……なった……人、とか……」
男の声は尻すぼみになっていく。仲良くできる騎士仲間がいるなら、そもそもこんな状況にはなっていない。
後者を選ぼうにも、道程が険しい。そんなように男には思えた。
■ナイト > 「睨まれるわよ? ま、私は他のメイドと違って、そんなの怖くもなんともないけど。
仕事ありきの茶会なんて無粋よ。まったく、なってないわね……」
否、メイド長に叱られても平気だし、もう諦められているというのが真相だ。
彼の想像したものが少女にも見えていたのか、呆れ交じりの苦笑を零して文句を言いながらも、紅茶を注ぐ動作は慣れた様子で実にメイドらしい。好きこそものの上手なれとはよく言ったものだ。
カップを彼の前に置き話に耳を傾ける。
喚いて立ち上げり、フーッ!フーッ!と息も荒く肩を揺らしていたが、飲みかけだったカップを手に取り、優雅さの欠片もない勢い良い飲みっぷりで煽り空にする。
喉の奥に沁みるくらいの酸味と香りで気分を落ち着け、それでようやく落ち着くことが出来た。機嫌は、相変わらず悪いままだが。
「……自覚があるんだから、私は良い方の中でもかなりマシな方ね。
お褒めに預かり光栄ですわ。なんて、品の良い言葉遣い少しなら良いけど、長く続けるとねぇ……。
口を開いたらじゃじゃ馬だってバレるって言いたいわけだ」
外見を褒められるのは嫌いではない。
むしろ、普段であれば調子に乗って「当然よ!」と仁王立ちで偉そうに言うところだが……。
そう言うのが駄目なのだと言われている気がして、大人しく席に座り直し、カップに残りの紅茶を注ぐ。
「屋敷での警護は勿論手を抜くつもりはないわ。
――……でも、守るべき主が勝手に出るから行ってらっしゃいませって、大人しく私が見送るように見える?
選択肢なんて、最初からあってないようなものじゃない。
ふーん……。学習と実務経験、ねぇ。他家っていっても……。私を御せる相手じゃなきゃ、カバーも何もないと思うけど。
その期間に腕が訛らないようにもしなきゃだし、強い騎士がいる屋敷じゃないと駄目ね。
……伝手ぇ?」
伝手と言われても、思い出せるのは合同訓練などで顔を合わせた騎士や、傭兵の顔ばかり。手紙をひらひらさせつつ。
その中でも仲良くなった相手と言われては、思い出した顔も×印がどんどん増えて行く始末だった。
どんどん頼りなく声が小さくなって行く彼も、少女の交友関係を思って何も言えなくなってしまうようで。
ジロリ、と眇めたサファイアが男の顔を見据える。
「――あ。いるじゃない。丁度良いのが、ココに」
ハッとして、少女が指さしたのは向かいの席に腰掛ける、聖騎士であり、貴族である男。
ニッコリと笑顔を向けて、「断るわけないわよね?」と言わんばかりの無言の圧が男に襲い掛かる。
■ヴァン > 男は対照的に、何度かに分けて静かに紅茶を口にする。
少女が怒りを露わにしたおかげで、かえって冷静になれたようだ。
エールを呷るような飲みっぷりに目を丸くしつつ、相手も落ち着いたようなのでほっとする。
「そうだな。性格がよくてそれなりに能力もある近衛兵が一人いるが、彼は……オーガかトロールのハーフかってぐらい大きいからな。
あえて男性の言葉遣いをする、というのもありかもしれないな」
名前が出てこない。男はそこまで重要視してこなかったのだろう。
少女の言葉遣いに問題があるとは、男はさほど思っていなかった。盾であり剣となる者は主とだけ話せば良い。
どちらかというと少女の生来の正義感の強さや喧嘩っぱやさが、主が制止するより先に顕れてしまう点を懸念していた。
じゃじゃ馬だとばれる、という点には沈黙をもって肯定する。
「君ならそう言うと思ったよ。
社交的な場での貴族の護衛は分家の若者など、貴族出身者が務めることが多いんだ。
そういった慣習を気にしない公爵といった貴族でも上の層や、逆に伝手がないから仕方なくっていう下位層もいる。
彼はどちらでもない――あえて言うなら後者だが、伯爵という立場でそれは避けたい。
男爵や騎士爵は面子なんてそこまでないから、若者を訓練するにはちょうどいいわけさ。
あー、カバーってのは、出向く先が不始末をなんとかする、ってだけじゃない。伯爵がとりなせる、って意味もある」
少女の視線が男から離れる。頼めそうな人物のあてがないか考えているのだろうな、と思い至る。
困った時に助けてくれそうな人物、とでも言い換えるべきか。
伯爵のツテでどこかに頼み込むべきか……と、テーブルに肘をついて右手の上に頬を載せる。
紅茶が空になったな、と気づいた頃に少女の声が聞こえたので、思わず顔をあげる。
「――なんだって?
俺は……騎士爵だな。うん、条件は満たしている。家を代表する場は伯爵と同じ待遇を受けるから別として、俺個人のものは問題ない。
で、君を制御できるか、か。ん……そこら辺のよりは出来るな。他には……うん。なるほどなるほど……」
男の頭の中でかちかちとパズルが組みあがっていく。
選定先に関する会話。伯爵が少女を呼びつけるのではなく、男に手紙を託した理由。
十秒くらい経って、地獄の底のような声で男は呟いた。それは少女の依頼に対する回答でもあった。
「……あの野郎、嵌めやがったな」
■ナイト > 「あー……、なんか居たわね。トニーだったか、ビリーたったか、そんな名前のが。
みんなMrビッグとか、兄貴とか、適当な名前で呼んでるからちゃんと聞いたこと無かったわ。
……男っぽい喋り方? 甲冑でも着こんでいれば、様にはなるかもね」
少女自身は例の近衛兵については記憶に薄いようで、名前すら曖昧な様子だった。
が、その性格の良さと頼りになる腕っぷしから、周りにはよく慕われていることは知っているらしい。
口調の話には、少し考えてから、それもありかもと笑う。女騎士ってそう言うイメージ、と付け加え。
「へぇ、そう言うものなの……。知らなかったわ。
貴族の息子って、偉そうにしてる口だけのやつが多いイメージだけど、そう言うのは本家筋ってやつなのかしら?
分家の方が真面って現実でも間々ある事なのかもしれないわね。事実は小説より奇なりって言うし。
……うーん、適任者がいないってのは、問題がありそうね。
旦那様の戦場は社交界と政……。今回は無事だったからよかったけど、次もそうとは限らない。
とりなせるって、私はいきなり噛みついたりしないわよ? ちゃんと訓練とか、手合わせとか、建前をつけてからやるわ。
それなら旦那様に文句が行くこともないでしょ?」
きっと、相手方にそんな粗相をしでかせば、その時は不始末どころの騒ぎではなくなっている。
謝礼金で解決すればまだ良いが、敵対関係にもなりかねない。
少女は呑気にカップを傾けつつ得意げに鼻を鳴らす。
「ふふん、ヴァンに頼めば何も問題ないようね。これで問題解決だわ! ん、美味しい~。
――? どうしたの? お腹でも痛いの?」
弾かれたように顔を上げ、何やら考え込む様子の彼を横目に、少女は上機嫌に笑って。
皿に並べられたアイスボックスクッキーを一枚摘まんで口に放り込む。
口の中の酸っぱさが甘くて少しほろ苦いココアの味で中和され、なんとも良い心地だ。
そして、何か納得したらしい彼は低く地を震わせるような声で独り言を呟く。びくりと肩を揺らして、少女は伺うように体を屈めて下から覗き込むように見上げ声を掛ける。
■ヴァン > あくまで一般的な話だが、と前置きして。
「長男は爵位を相続するから、親やそれに近しい人々から教育を受ける。その教育が失敗すると君が言う、偉そうな口だけ男になる。
次男は長男に何かあった時のための予備として育てられる。
長男を武力で助ける騎士になることが多い。で、その騎士の修行としてよそに預けられて、厳しく育てられる。
三男以下はまぁ自由だな。修道院に行ったり冒険者になったり……」
続く言葉には目を細める。
「昼間から貴族を殺ろうっていう連中は流石にいない。なるべく夜の会合に出るな、と念押ししておいた。
ナイトさんの場合は護衛の礼儀作法と、感情を制御する力の習得が必要だろう。
主が眼前でどんなことをされようが、命令がなければ耐える。そういった力だ」
勢いよく紅茶を飲むとかな、と釘をさすことも忘れない。
伯爵が懸念していることの一つに、少女が暴走して他家と敵対関係になるリスクがある。
敵を作ること自体が問題なのではない。一度に対処できぬほど、多くの敵を作ることが問題なのだ。
「…………いや、大丈夫だ。
やれやれ……まずは呼び方からか。ナイトさん、『ヴァン様』って、言えるかい?
俺は気にしないが、公的な場では適切な言葉遣いが必要になる。
そういえば、『ナイトさんは俺をアンタ呼びすることもある』って言ったら、あいつの表情が消えてたな。
問題ない、そのことで叱責するな、とも言ったから大丈夫だと思うが……」
呑気そうにお茶とお菓子を堪能する目の前の少女に、大丈夫だろうかという視線を送る。
社交的な場へ赴く際に連れるならば、連絡手段を始め色々と準備が必要になりそうだ。
今後も目の前の少女に色々と教えようと思ってはいたが、こんな形になるとは考えていなかった。
「さて……一応、研修先が俺でいいのか、君の旦那様に確認してきてくれ。その手紙を持ってな。
俺はちょっとこの屋敷でいくつかやることができた。夕食後、貴賓室に来てほしい。
鎧のような、音が出る金属製品は外しておいてくれ」
紅茶の礼を告げつつ、すっと立ち上がる。
思いついたことは劇薬ではあるが、うまく取り扱えば少女の成長に寄与するだろう。
善は急げとばかりに邸宅に視線を向ける。時間が過ぎ、陽が落ちた頃に二人は会うことになるだろうが、それはまた別の話――。